サンジが見張り番の夜、男部屋と女部屋の仕切りを取っ払って話し合った。 ビビにお願いして、サンジとゾロの結婚式が出来る場所を手配してもらう事。 海軍が一番手薄になるだろう時間帯と潜入場所を教えてもらう事。 ビビとの連絡は今まで通り、オレとドクトリーヌの手紙を利用する事。 ルフィは全然2人の事を知らなかったらしく目を白黒させていたが、最近のサンジの様子に納得がいったのだろう。 2つ返事で引き受けてくれた。 ウソップは苦笑しながら、ロビンはニッコリ笑って頷いてくれた。 でも………。 肝心のゾロは気乗りしないらしく、ひと言こう言って男部屋を出て行ってしまった。 「アイツがその気になるとは思えねぇな。」 そのゾロを見送って、クルー全員が顔を見合わせる。 誰も口を開かない重い空気の中、ロビンが口を開いた。 「剣士さんも、寂しそうね。」 「え?」 「だって、そうじゃない。きっと誰よりも先にその事に思い至って、きっと何度もコックさんに言ったんだと思うわ。」 「……………。」 言われてみて愕然とする。 そりゃあ、そうだろう。 誰が見てもゾロがサンジに惚れてる事は、惚れ込んでる事は明らかなんだ。 普段喧嘩ばかりしていても、クルーの前で2人きりでいるのを見た事が無くても。 ゾロの視線はいつもサンジを追っている。 サンジが話せば、極力黙ってその声を聞いている。 食後ラウンジで片付けをするサンジを最後までその場に居て待っているのもゾロだ。 買出しに付き合ったり、船番を2人でやったり。 気付かない方がどうかしている。 まあ、それでオレが2人を恋人同士だと言い切れるのは、きっとオレの嗅覚が人より発達しているからだろうけど。 そんな2人なんだ。 ゾロだって、サンジの気持ちに気付かない筈が無い。 結婚とか子供とか気にするサンジを手放したくなくて、自分と一緒に居て欲しくて。 何度も何度もサンジに言った筈だ。 「結婚しよう。」と。 そして、サンジがそれを拒絶する事も、悲しい事にわかってしまう。 サンジはそういうヤツだから。 自分の気持ちを抑え込んで、相手の幸せを願うヤツだから。 例えそれが、ゾロを更に悲しませるのだとしても。 「じゃあ、じゃあ、どうすればいいんだ?オレ、オレ、サンジにもゾロにも幸せになって欲しいんだ。このまま別れた方がいいって |
言うのか、ロビン?」 「あら、そんな事言ってないわ。やりましょう、結婚式。ただ、それにはまず剣士さんにその気になって貰わなくちゃね。」 「どうしたらいいのかしら、ロビン?」 「そうね、そっちは私に任せて。航海士さんと船医さん、狙撃手さんは王女さまとのコンタクトと準備をお願いするわ。」 「アラバスタ潜入作戦はオレがなんとかしよう!」 「私はとにかくアラバスタに早く着けるように進路を考えるわ。」 「オレは結婚式の料理考え……ふごっ!痛ぇなぁ、ナミ。」 「あんたは、サンジくんの気持ち引き上げ役よ!ご飯の事だけ考えさせればいいの!」 「うしっ!んなら得意だ!!」 「じゃあ、オレが式の進行とかビビとの連絡とかやるよ。何とかして、2人を幸せにしてあげようよ。」 「「「「OK、頑張ろう!!」」」」 全員の手を乗せて、互いの気持ちを1つにする。 ただただ、ゾロとサンジの幸せの為に。 大事なクルーの幸せの為に。 見張り台と多分後甲板に居るだろう、離れた2人を思い浮かべる。 もう一度2人を笑顔にする為に、クルー一丸となって頑張るんだ。 それからのオレたちはと言えば……。 ナミはログポースと海図との睨めっこをしながら、風と波を我が物として最短航路を選んでいった。 ルフィは暇さえあればサンジに引っ付いていて、アレ喰いたいコレ喰いたいと我侭三昧で。 ウソップは次の島で布とか木材とかを購入して、あーでもないこーでもないと女部屋で唸って。 オレはビビと超特急カモメ便で連絡を取りながら、時間が余ればウソップの手伝いをした。 ロビンは文献を漁りながらも、時折ゾロを話をしているようだった。 中々ゾロはその気にはならなかったらしいけれど。 そのゾロとロビンの2人の会話をサンジが遠くから見ているのに気付いた。 寂しそうに、でもどこかホッとしたように見ているのを全員が気付いていた。 だからといって、この結婚式の事をサンジに言うわけにはいかない。 絶対強硬に反対するだろうから。 ロビンはゾロを、他のクルーはサンジをただ見守る事しか出来なかった。 そんな中、ルフィのひと言がゾロの気持ちを変えさせた。 サンジが見張り明けで、男部屋に1人仮眠をしにいった朝食後の事だった。 ルフィがふと思い出したかのように言ったのだ。 「あ、そうだ。サンジな、アラバスタでビビの結婚見届けたら船降りたいって言ってきたぞ。」 「「「「ええええっ?!!」」」」 クルー全員が驚きの声を上げて、ルフィを、そしてゾロを見る。 普段感情を余り顔に出さないゾロが、顔面蒼白になって固まっていて。 その視線がゆっくりとルフィに向けられる。 「本当、なのか?」 「ああ。勿論OKはしてないぞ。理由言わねぇしよ。」 「…………船長、助かる。ロビン、来てくれ。」 ゾロがその気になった瞬間だった。 それから、ゾロとロビンは暇さえあれば倉庫に籠もって話し合いをしていた。 ゾロ本人も、他のクルーもサンジにそれを気取られないように気を付けてはいたのだが。 聡いサンジの事だ………そして、何よりゾロの事だから。 徐々に、徐々にではあるが、サンジがやつれていく。 頬骨が痩けてきてるみたいだし、顔色も悪くなっているようだ。 本人は気付かせないようにしているけれど、医者のオレにはわかった。 表情も冴えないし、肌の血色も艶も落ちている。 サンジを見ていられない。 ゾロは直ぐに、皆も追々それに気付いて。 早く、早く着いてくれとそれだけを願って。 誰もが気付くと船の舳先に行って、航路の行く先を睨み付ける日々が続いた。 アラバスタには、予定より早くビビの結婚式の前々日に着いた。 ナミの並外れた航海術の賜物だ。 アラバスタの港はどこもかしこもこれ以上には無いという混雑振りで。 海軍・商船・他国の王族専用船・観光旅客船等雑多な船でごった返している。 とはいっても総額2億を越える賞金首の乗る海賊船がそのまま入港出来る筈が無い事は想像に難くない。 だから、1つ前の島で船を商船に見えるようにカモフラージュした。 ルフィの麦藁帽子は、見た目そう見えないように表面を布で覆って。 ゾロの刀は男部屋の衣装ケースに仕舞い込んだ。 ロビンはビビ宛に謝罪とお祝いの言葉を書いた手紙をナミに託して、船番を買って出た。 賞金首として顔を覚えられている3人だが、船に残るロビンは別としてルフィとゾロのトレードマークを隠すのも当然だろう。 そして、着いたと同時にオレとナミとルフィの3人がサンジを連れ出す。 とにかく食事をさせようと、睡眠を取らせようとそれだけを考えて。 ゾロとサンジの式までの1週間強、サンジの体調を元に戻す為に。 オレとナミが一緒なら、サンジも気を使う筈だ。 ルフィが居れば、その前でどこかへ行く事もないだろう。 そう、2人の式はビビのパレード当日と決めていた。 アルバーナ中の国民だけでなく、国中からも国外からも人が集まるだろうし、漸く見られるビビの花嫁姿を見逃すものかと |
大勢の人が詰め掛けるだろうから。 その最終日までゾロとは別行動だ。 サンジの気持ちを落ち着かせたいから。 偶々ゾロはウソップと行きたい所があると、オレたちを見送った後どこかへ行くと言っていた。 式当日まで人で溢れているアルバーナを4人で楽しむ。 サンジも少し気が晴れているような感じだ。 時折遠くを見るのだけは止められなかったけど。 その中で、ロビンに言われた通り、サンジに衣装を新調させた。 サンジは最初いつもの黒スーツでビビの結婚式に参列するつもりだったらしいのだが。 白のスーツが正式であることを寄航する前日にサンジに言ったらしい。 紳士服屋に寄って、ナミが見立てて。 仕立て上がるパレード当日の朝その衣装を取りに行って。 ビビが指定してきた場所へと急ぐ。 ビビからの手紙では、式はアラバスタで最もポピュラーなアラバスタ式に則って行われるのだとか。 本来なら嫁入り婚なのだが、新婦が王族で、降嫁では無く婿取りであるため、コーザが宮殿へと入る通い婚形式になるのだと |
いう。 王宮からの迎えと一緒に宮殿にコーザが迎え入れられてから1週間、宮殿内では各国の要人を招いての披露宴が行われ、 |
宮殿前広場は国民に解放されお祭り騒ぎになるのだとか。 その混乱に乗じてアルバーナに入ってくれば、見つかる事はないだろうと。 式場は、時計塔下に反乱終了後造られた礼拝堂を使って欲しいとの事。 そこならば宿泊施設もあるし、最後の儀式である水汲みを兼ねたユバへのパレードも見る事ができる。 神聖なる反乱終結宣言をしたという事で、国民は立ち入ってこないし、海軍も入ってこないだろうから好都合だとも。 自分達の演説の最中は、海軍の警備も国民の関心も自分に向かう為、時計塔周辺は手薄になるはずだと。 オレたちはそこに寝泊りさせてもらった。 本来なら迷子癖のあるゾロにそこに居てもらうのが一番だったのだけれど。 とにかくサンジをここに来させなければ意味が無かったから。 そして、皆で準備をしてビビの演説を待つ。 電々虫でのマイクテストが始まった。 約束の時間は午前10時、演説はコーザとビビ合わせて30分。 外のざわめきも大きくなって、ビビとコーザへの呼びかけが聞こえてきた。 あと40分もない。 でも、ただオレたちはゾロが来るのを待つしかなかった。 ただ10分待っても20分待ってもゾロは来なかった。 5分とかからず落ち合えると言っていたのに。 ウソップがついてるし、こんな目立つ時計塔だ。 アルバーナに居るのならば、迷子も考えられない。 それなのに、時間だけが刻々と過ぎていって。 流石にサンジも何か可笑しいと気付いたようだ。 「何で、こんなとこで待ち合わせなんだ?」とかって聞いてきて。 答えられないオレに代わって、ナミが言う。 「何でって決まってるじゃない。結婚式するのよ!」 「ナミっ?!!!」 「え?ナミさんの?………?違うの?」 首を振るナミに、サンジの顔が曇る。 そんなサンジに畳み掛けるようにナミが言った……半分涙声で。 「だって、サンジくん、船降りるつもりなんでしょ!」 「………ルフィ、てめぇ、しゃべったのか?」 「たりめーだ。クルーが船降りるのに他のヤツに知らせねぇのはダメだろ。」 「そうよ!何でよ?!!何で降りなくちゃなんないの?!!私のせいなの?!!」 「………うん、ナミさんがルフィの子供産むなんてさ、オレ耐えらんねぇし。」 「茶化さないでよっ!!ゾロでしょっ、サンジくんの好きなの!!」 「!!!」 驚いて2の句の継げないサンジに更にナミが言い募る。 「私に子供出来て、ビビが結婚して……。だからサンジくんがゾロの未来の妻子の為に別れるって気持ち解る。解るよ、私 |
だってコイツの為に子供下ろそうとまでしたもん。でも、違う!!結婚とか子供とかゾロにはどうでもいいのよ!サンジくんが
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傍にいなきゃダメなのよ!」 「…………ナミさん。でもね、やっぱダメだよ。海賊王の遺伝子が次代に引き継ぐべきものなのと同様にさ、アイツの、世界一の |
大剣豪の遺伝子も確実に次世代に伝えるべきだよ。」 「…………でもっ!!」 「それにさ、アイツにはナミさんみたいな……ロビンちゃんみたいな素敵な強い女性が傍にいるべきだよ。オレみたいに隣に立つ |
んじゃなくて、張り合うんじゃなくて、後ろで見守ってくれるようなさ。いつでもアイツを待っててあげられるような女性がさ。」 「…………でも…。」 「ありがと、ナミさん。……ルフィもチョッパーも知ってんの?やべぇな。コレ、皆で企んでたの?」 「………サンジっ!!」 「気持ちだけ貰っとくな。オレ行くわ。ルフィ、悪ぃ。船長命令でもオレ、麦藁海賊団にゃ居られねぇや。じゃあな。」 「サンジっ!」 「サンジっ!!」 「サンジくんっ!!」 カツカツと靴音を鳴らして、止めるオレたちを振り返らずに、サンジが教会の扉に手を伸ばした。 |
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