サンジが取っ手を握るより早く、その扉がバンと乱暴に開けられた。 外からの物凄い歓声が耳に届くと同時に、淡い光が礼拝堂内に差し込む。 その光に目が眩んだ。 逆光のせいか、誰が来たのか最初はわからなくて。 扉の閉まる音がして、元の光量に戻っても中々目が慣れなくて。 漸くその明るさに慣れて目を凝らせば、そこに立っていたのはゾロとウソップだった。 ゾロはいつもの白シャツに腹巻、ニッカポッカって格好じゃなくて。 黒のタキシードなんて、見慣れないゾロの正装姿だった。 その格好に一瞬驚いたのか動きを止めたサンジがその脇をすり抜けようとしたけれど、ゾロの方が早かった。 サンジの腕をグイッと掴み、強引に祭壇前へと引き摺って行く。 「おいっ!!手ぇ離せっ!!!オレは行くんだよ!」 怒号を上げて、サンジが重い蹴りを放っても、ゾロは顔を顰めただけで腕を掴んだ手を緩める事無く突き進む。 そして祭壇に着いて、その腕を唐突に離して言った。 「オレと一緒にいてくれ、コック。」 「っ!!!別れるって何回言ったらわかるんだ、てめぇはっ!!!」 「てめぇがYESって言うまでだ。」 サンジの大声を、ゾロの落ち着き払った優しい声が覆う。 目を見開くサンジに、ゾロが淡々と言葉を続ける。 「もし、てめぇが望むなら嫁も探す。ソイツと結婚してガキも作る。」 「おう、そうしてくれ。」 「だがな、オレはその女をてめぇだと思って抱くぞ。てめぇじゃなきゃオレは勃たねぇからな。てめぇの名前呼んで、てめぇ想像 |
して、てめぇを抱くみてぇに。んで、生まれた子供はてめぇとの子供だと思って育てんだ。」 「……な、何言ってんだ、てめぇ?!そんなん許されるワケねぇだろっ!!」 「てめぇ以外、オレは絶対考えられねぇ。有り得ねぇんだよ。」 「バカ言ってんじゃねぇよっ!!てめぇはオレなんかじゃなくて、レディと、ロビンちゃんと一緒にいる方が幸せになれんだ |
よっ!!」 「そんな事無ぇ。てめぇはオレじゃなくても幸せになれるだろうが、オレはてめぇが居なきゃ幸せにゃなれねぇ。」 「っ?!!!」 「コック、サムシングフォーって知ってるか?」 唐突に言われた台詞に驚いて、サンジが言葉を失う。 そんなサンジに構う事無く、ゾロはタキシードの内ポケットに手を突っ込んで小さな紙袋を取り出した。 それをサンジの前で開ける。 「……何だ、それ?」 「ロビンに聞いた。ノースじゃ当たり前らしいな。何でも、4つの何かってのを身に付けると幸せになれるんだっつってた。 |
新しいもの、古いもの、借りたもの、青いもの。本来なら嫁側がするんだが、オレもてめぇも嫁じゃねぇし。だからよ、
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2人とも用意した。」 呆然とするサンジの前で、ゾロが紙袋の中をガサガサと無造作に弄る。 「まず、古いもの。」 そう言って、ゾロが紙袋から取り出したのは少しくすんだ金の指輪。 それに目をやって、サンジがえ?と見入る。 「これって……クソジジィの?」 「そうだ。これはオレが頼んでてめぇの養父ゼフからてめぇにって送って貰ったモンだ。オレのはこれ、師匠から送って貰った |
着物からリメイクした蝶ネクタイとカマーバンドとかってモン。」 その指輪を呆然とするサンジの手に乗せる。 そして、ゾロがもう一度紙袋に手を突っ込む。 「それから、新しいもの。てめぇスーツ仕立て直したんだろ?それと、コレ。」 今度紙袋から出してきたのは、先程出した指輪とサイズは違うもののデザインは全く同じの指輪。 「ここ着いて直ぐ、てめぇの指輪と同じモン作ってくれって注文しといた。これ取りに行ってここ来んの遅くなっちまった。」 「…………。」 「次は、借りたもの。これはルフィに借りた。」 ゾロが指で示した首筋には、オレにも見覚えがある。 サンジがルフィとナミに上げたお揃いのネックレス。 「てめぇは、ナミに借りてくれ。いいな、ナミ。」 ナミが頷くのを確認して、ゾロがサンジに向き直る。 「で、青いもの。」 ゾロがサンジに近寄る。 隠されているサンジの左目を、ゾロが指先で除ける。 「この目をオレにくれ。てめぇにはオレのを。」 「……でも、てめぇの目は…。」 「そうだな、青くは無ぇ。だがな、てめぇの夢を、オールブルーを見てるオレの目をやる。」 「!!!」 もうこれ以上開く事はないだろうと思われるくらい、目を見開いてサンジがゾロを見つめる。 そんなサンジにゾロが柔らかく笑い掛ける。 今まで見た事の無いゾロの笑顔に、サンジだけでなくその場にいた誰もが驚いて。 「これで最後だ。コック、今まで言った事無ぇがこれだけは言っときてぇ。この先、例え何があっても誰と遭っても絶対変わら |
ない。」 「………何が、だ?」 「オレにとって、唯一絶対何にも代える事の出来ないものはコック、てめぇだ。」 「…………ゾ、ロ?」 「てめぇだけをずっとずっと、例えここで別れても想ってる。愛してる。他のヤツなんかいらねぇ。ガキも女も、てめぇ以外なら |
いらねぇ。」 「……………。」 「他のクルーの前で、船長の前で、誓う。船長に、船長の連れに、他のクルーに、てめぇに、そしてオレ自身に。」 「……………。」 「幸せには出来ねぇかもしれねぇ。また泣かせるかもしれねぇ。気苦労ばっか掛けるだろう。それでも、それでもだ。」 指輪を握ったまま立ち尽くして動かないサンジに、ゾロがゆっくりと近付いてその身体を抱き締める。 愛しげに優しく包み込むように。 そして、目を瞑って気持ちを込めるように言葉を吐き出した。 「オレの傍にいてくれ、サンジ。結婚しよう。」 「…………ゾロっ……!!」 ポロッとサンジの目から1粒の涙が零れ落ちて。 それが床に染みを作るよりも早く、サンジの身体が崩れ落ちる。 その瞬間、物凄い歓声が外から聞こえてきて。 ビビの演説が終わった事を知らせているのだろう。 もうすぐコーザが、ビビがパレードに出発する。 ゾロの、サンジの行動を感情を呆然と見守る事しか出来なかったオレはただナミを見る事しか出来なくて。 そのナミがルフィに笑い掛けて、ルフィがそれに答えながらウソップに親指を上げて笑う。 ウソップは涙をボロボロ流しながらへへっと微笑んで、オレの頭をぽんと撫でてくれた。 もうこれで多分大丈夫だろうとホッとしながら。 だから、ゾロがオレを呼ぶ声に気付くのが遅れた。 「………ッパー、チョッパー!!」 「あ?ああっ?!!何っ?!!」 「コックが……コックは大丈夫なのか?」 「ええっ?!えっと、えっと、ちょっと待ってね。………んと、大丈夫。脈拍レベルも正常だし、呼吸も落ち着いてる。多分……。」 「多分、何だ?!!」 「うん、気が抜けたっていうか、やっと緊張が解けたんだと思う。」 「緊張、だと?」 「だって、ずっと大好きなゾロの傍に居られなかったんだよ。ずっと我慢してたんだと思う。その証拠に、ほら。」 オレが指で示した先をゾロが見て、安心したように微笑む。 サンジの手が、気を失っているはずのサンジの両手が掴んでいたから。 右手で貰った指輪を。 左手でゾロの襟を。 しっかりと、もう離さないと、離れないとでも言うように。 「とにかく上に行きましょ。時計塔の一番上。」 「おう、そうだな。ビビ見てぇ。」 「そだな。ビビきっとオレたちが居ると思って待ってるぞ。」 「ルフィはナミ抱えていけ。コックはオレが連れてく。」 「当然だ!まだ式してねぇけど、ゾロとサンジはもう立派な夫婦なんだからな。にししし。」 そう言って、向かった先は時計塔の一番上。 時計盤を少し外して真下を見れば、物凄い人だかりで。 見晴らしのいいここからは、遠くから近付いてきているビビとコーザの姿がしっかりと視界に入る。 ルフィはナミを抱えて。 ゾロはサンジを横抱きにして。 オレとウソップが後に続く。 オレは、ゾロの横に移動して話し掛ける。 「結婚式、結局出来なかったね。」 「ん?いいさ、オレたちらしいだろ。それにコイツが傍にいてくれるんなら、それでいい。」 「そうだけど………。」 「ありがとな、チョッパー。お前が言い出さなかったら、コックを失うところだった。」 ゾロの顔が久し振りに穏やかだったから。 以前の、サンジと一緒に居た時みたいに優しげだったから。 オレは嬉しくって泣きそうになる。 サンジのゾロの肩を掴んだ手をそのままに抱き抱えるゾロが幸せそうだったから。 ナミもウソップもゾロもオレも、そんなサンジに気を取られて、忘れていた。 自分達の船長がとんでもないヤツだって事。 隠れて、折角ここまで来たって言うのに。 折角ビビも皆もばれないように気を遣ってたって言うのに。 大声で、下の群衆なんかに負けないくらいの大声で、怒鳴っちゃったんだ。 「ビビ〜〜〜〜〜〜っ!!!オレだ〜〜〜〜〜〜〜っ!!来たぞおおおおおおおっ!!!」 「バ……っ!!!何考えてんのよっ、ルフィっ!!!」 物凄い数の視線が、時計台に集まる。 こちらを指差して、海軍の動きが慌しくなって。 そんな中、パレード中のビビが大きく手を振る。 オレたちに向かって、笑顔で、とても嬉しそうに。 だから、全員で大きく手を振り返して。 「撤収よっ!!!」 ナミの台詞を合図に、大慌てで時計台を降りようとした時だった。 ゾロの腕の中のサンジがいつの間にか目を覚ましていて、こう言ったんだ。 「待って、ナミさん。」 「サンジ、大丈夫か?」 「ああ、もう平気だ。オレとゾロがおとりになる。ルフィ、てめぇは他の4人を連れて船へ戻れ。」 「サンジ……。」 「サンジくん。」 「ナミさんに無茶させるワケにはいかねぇだろ、船長。」 「にしししし、そうだな。」 「でも、どうすんだ?かなりの兵力だぞ。」 ウソップが心配そうに声を掛ける。 それに対してサンジが以前のように不適に笑う。 その笑顔をゾロに向けて、下ろしてくれるようにポンポンと肩を優しく叩いた。 だが、ゾロはその腕からサンジを下ろす事無く、サンジの顔を覗き込んだ。 「大丈夫か、コック?」 「大丈夫だ。………ゾロ。」 「何だ?」 「まだ、返事してねぇぞ。」 「返事って……?」 「式は船でしようぜ。ここから船までの道程がオレとてめぇのバージンロードだ。」 「?!!!コック、てめぇ………。」 「てめぇみてぇな甘ったれにはオレが必要だって事だよ。」 サンジはそう言うと、ポケ〜ッとしたゾロに軽くキスするとその腕から飛び降りて、時計盤の隙間から下に向かって手を振る。 手を振って、一旦後を振り返り、ゾロをチラッと見て。 持っていた指輪を左手薬指に嵌めて、ニヤッと笑ったんだ。 「行くぜ、ダーリン。」 その言葉を口に出すと同時にウィンク1つ残し、そこから姿を消した。 ギョッとしたゾロが縁に駆け寄って。 「おいっ、コックっ!!!」 時計盤と建物の隙間から飛び降りたサンジを追って、ゾロも飛び降りる。 それを見送ってから、ルフィと一緒に建物の裏側へと廻る。 表側の大混乱の状況を音でのみ把握しながら、ルフィの天性の勘とナミのコントロールで無事船に辿り着いて。 船を出した瞬間に、海軍の船が水平線上へと姿を現した。 それから逃れるように、港を後にして。 途中ブーケを手にしたサンジとゾロを拾って。 オレたちはアラバスタを後にしたのだった。 朝も早くから物凄い轟音と言い争う声が聞こえて目を覚ます。 男部屋から顔を覗かせたら、昨日船上で結婚式をした筈のサンジとゾロが喧嘩の真っ最中で。 ラウンジの扉の前で、それを楽しそうに見つめるナミの元へと急いだ。 戦火に巻き込まれないように慎重に。 「どうしたんだ?」 「ん?なんか久し振りに2人の喧嘩見て嬉しくなっちゃった。」 「そっか、最近見てなかったもんな。」 そう言って、2人の大喧嘩っぷりを堪能する。 ゾロなんか3本抜刀して、サンジは両脚を加減無く振り回して。 時折口に出る言葉が、またよくわからなかったけれども。 『何でオレだよ?!!』 『オレだとおかしいだろが!!』 『そんなんオレだって一緒だろ!!』 さっぱりワケが解らなくてナミを見れば、これこれと一枚の紙切れをオレに差し出してきた。 畳まれたその紙切れは、昨日サンジがビビから貰ったブーケに挟まれてたっていう手紙の便箋と同じで。 きょとんとしながらナミを見上げれば、ナミが可笑しそうにクスクスと笑った。 「私達全員宛の手紙以外に、ゾロとサンジくん2人宛の手紙と小瓶があったの、覚えてる?」 「うん。後で読むとか言って、ゾロが腹巻に仕舞ってたの見た。」 「そうそう、それ。どうも朝読んだみたいね。で、アレ。」 「喧嘩?どんな内容なんだよ?」 「ん?……ドクターとしての見解も聞きたいから、それ読んでみて。私は先輩として読ませてもらったから。」 「はぁ?……いいのかな?」 「大丈夫よ。私が後でゾロに言っておくから。」 ナミがオレにウィンクして、でもって読め読めと煩いから便箋を開く。 短い手紙を読み進んでいって、その内容に吃驚した。 「どう?」 「う〜ん、一度成分見てみないとなんとも。」 「そ。じゃ、見てあげてよ。どうせ、サンジくんが飲むんだからさ。」 「何で?」 「ゾロに痛い思いさせらんないでしょ、サンジくん。」 「………そうだな。」 改めて、喧嘩してる2人を見れば、物凄く楽しそうで。 サンジの足腰が少し覚束無いように見えたけど。 それを知ってか、ゾロが微妙に手加減してるようにも見えた。 どちらにしろ、いつも通りの2人に、その指で煌く指輪に思わず顔が綻ぶ。 「じゃ、行きましょ、チョッパー。私がココア入れてあげる。」 「ありがと、ナミ。」 邪魔しないように静かにラウンジの中へと入る。 追々他のクルーも起きてくるだろう。 そいつらにもこの手紙は見せておかなくちゃ。 船長の許可もいるだろうし、ウソップの技術が必要だろうし、ロビンの見解も聞きたいから。 そのビビからの手紙の内容はこうだ。 『Mr.ブシドー、サンジさん、結婚おめでとう。 一緒に式が出来たなら、こんなに嬉しい事はないです。 さて、その事でちょっとご報告があります。 実は今アラバスタでは、子供が出来ない夫婦の間に子供を作るっていう薬が出回ってます。 かなり効き目があるみたいです。 で、お2人にもどうかなって思いまして、この手紙と共に送ります。 ちなみに、男同士でも出来たと言う報告もあります。 同じ歳の子供が出来たら嬉しいです。 では、また会える日を楽しみにしています。 お2人の永遠の幸せを祈っています。 アラバスタ王国 第一皇女ネフェルタリ・ビビ』 END |
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リク遵守v
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ゾロの必死のプロポーズとサンジの返事vv
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