知らぬが仏  4




サンジがゾロの領土で過ごすようになって1週間。
コウアンの世話で、ウソップと3人その離れで生活をした。
朝食後、必ずくれはが訪れて、サンジの様子を見ながら薬湯と丸薬を渡していく。
昼食後、必ずゾロが訪れてサンジの顔を見てからコウアンと話をしていく。
時に漢学、時に兵法、時に道教、時に真剣を使っての立会いと、ゾロはコウアンを先生として師範として教えを請うているようだ。
それを陰ながら見ていて、サンジは感心する。

既に一国の領主なのだ。
もうちょっと驕ったところがあってもいいはずなのに。
コウアンに対しては姿勢を低くして、常に相手の言葉を真剣に聞いている。
それだけでなく、迎えに来る部下にもざっくばらんに話し掛けている。
自分の祖父とて、そう威張っていたとは思えないが。
それを自分と同じ歳で身に付けている事に感心してしまうのだ。

しかも、だ。
ここへ来て5日目だった。
コウアンの自室で、ゾロがコウアンとこの辺りの地形を学んでいた時。
ゾロの背後の部屋から覗いていたサンジに気付いたのか、こう言ったのだ。
「一緒に習うか?」と。
自分に背を向けたまま。
手ですっと左側を示して。

どうして他人に自分の内情を知られても気にしないのか?
どうして小姓の自分にそうまで優しくしてくれるのか?

もしかしたら自分に手を出す気などないのかもしれない。
そもそもコウアンの話では、色事よりも自国の事に夢中なゾロ。
サンジを傀儡(かいらい)として、鴨生の国を手に入れたいだけなのかもしれない。

恩を売られているだけなのかもしれないな。

そう思い始めていたのだが………。




その日はあっけなくやってきた。

今まで午前中には一切顔を見せなかったゾロが、朝食を終えて直ぐに顔を出して、ウソップとコウアンが居るにもかかわらずこう
言ったのだ。

「おい、昼飯食ったら躯清めて、床延べとけ。」
「っ!!って………あの……。」
「ヤんぞ。」

ひと言はっきりと言い切って。
気が動転して箸をポロッと落としたサンジに、飯はちゃんと食っとけよとそう言って笑って。
コウアンに朝の挨拶をして去るゾロにサンジは何も言えずに、慌てて箸を拾い手拭いで拭うと、閉められた障子をただ見つめる事
しか出来なかった。




(何か、居た堪れねぇ………。)

昼間、まだ陽も高いうちから敷かれた寝床の前で、サンジは障子を正面に正座していた。
膝の上で持て余し気味に両手を組んだり外したりして。
ただひたすら、目の前の開かない障子を見ていた。


ゾロが去って直ぐに、恒例となったくれはの診察を受けて。
その後、ウソップと2人、午前中に部屋を綺麗に片付けて、臥床の支度をした。
湯を沸かして、それで一度身体を拭いて。
気を落ち着かせるために本でもと思い、コウアンから本を何冊か借りて目を通したものの、全く頭の中には入らずに。
ただ時間だけが刻々と過ぎていった。
気も漫ろな状態で昼食を摂り、もう一度身を清めて。
今、こうして寝所に1人座り、ゾロが来るのを待っていた。

どうも調子が狂う。

だって、今まではそれこそ敷かれっ放しの褥の上で。
いつ訪れるかわからない、陵辱者の気配に怯え。
来たなら来たで、いつ終わるとも知れない恥辱の行為を押し付けられて。
去っていく姿を、鈍い痛みと吐き気と身体中を覆う気だるさの中、安堵しながら見送って。

流されるままだった日々。

だから、こんなのは初めてで戸惑う。

抱かれる為に、臥床を整え。
抱かれる為に、身体を清め。
抱かれる為に、寝所で来る筈のその相手を待って。

まるで、それを望んで待っているかのように。

そこまで考えて、サンジは自分の思考に驚いて首を横に振る。

望んでいる等有り得ない。
唯自分は自分の国を取り戻す為の手段として行動しているだけなのだ。
そう、それだけだというのに。

不思議と厭うていない自分に気付く。
寧ろ興味が先に立つ。
あの、色事に興味がないとコウアンに言わしめたゾロが、自分相手にどうするのか。
そして、それに対して、自分はどうなってしまうのか。

ゾロに抱かれたら………。

あの天守閣を下りた時の、自分の腰に廻された腕を思い出す。
力強くて、暖かくて、何故か安心できて。
そう思い返して、ババババッと全身が真っ赤に染まる。

(何なんだ?この訳のわからん感情はっ!)

火照った頬を少しでも冷やそうと、両手で頬を挟んだ時。

そんなサンジの前で、ガラリと障子が開いた。

中へ入ろうとしたゾロと、真っ赤な顔をしたサンジの目が合う。
鋭いゾロの視線に今まで考えていた事を見透かされそうで、サンジは咄嗟に目を逸らしたのだが。
その視界に入ろうとするかのように、ゾロがスタスタと近付いてサンジの前にしゃがみ込む。
首を傾げてサンジの顔を面白そうに覗き込み、ニヤッとゾロが笑った。

「どうした?待ちくたびれたか?」
「ばっ!!!誰が待つかっ!!」
「にしちゃ、愛い反応だな。………大分艶が出てきたみてぇだ。白い肌が、こうふんわりと朱に染まんのもいいもんだな。」
「…………っ!!」

頬に当てたままだったサンジの両手が優しい手付きで外されて、ゾロの手がその頬をすっと撫でる。

それに対して、ビクッと肩が震えてしまって。
それでも目だけは逸らさずに、自分を見つめる男へと視線を投げる。
その相手の目がすっと細められて。

「覚悟、出来たか?」
「…………おう。」
「じゃあ――――」

ゾロが立ち上がり、褥の上へ移動したかと思うと、そこで胡坐を掻く。
そして、大腿をポンポンと叩いて言った。

「着ているモン脱いで、オレに背中向けてここへ座れ。」

その低い声にゾクッとする。
心臓がバクバクと音を立てて、身体中の温度が沸騰するような、そんな酩酊感。
ただ、嫌悪だけを感じていた以前とは違う自分に戸惑いながら、サンジは着物の帯を解く。
落とした帯をそのままに、着物の袷を開いて。
ゾロの前で、またしても下着一枚の格好になる。
最初の時はなんとも、そうなんとも思わなかったのに。
今は異様にその視線が気になる。

視線の色が、あの時とは異なるから。
その中にあるものがなんなのかはわからなかったが。

「……これも、取るのか?」
「ん?いや、いい。来い。」

手を差し出され、少し動揺しながらもその手を取る。
ゆっくりと近付いて、ゾロの目の前まで来ると、くるっと身体を反転させて背中を向けた。
もうどうとでもなれと、サンジはゾロの太股の上に尻を落とす。

背後のゾロの視線を痛い程感じながら。

手で褥をギュッと握り締め、顔はやや俯き加減で。
そんなサンジの背中にゾロの掌が当てられる。

「ふ〜ん、綺麗なもんだな。」
「………とっととしやがれ。」
「まぁ、そう急くな。時間はたっぷりあるじゃねぇか。」

ゾロはそう言うと、その掌でサンジの背中を撫で始める。
その動きは実に緩慢で、返ってその感触を如実に感じてしまう。

「な、なぁ。」

背筋を辿る熱い掌に意識を集中しないように、サンジはゾロに声を掛ける。
そうでもしなければ、気恥ずかしさでどうにかなりそうだったから。

「ん?…………何だ?」

どこか気も漫な返事にどうしたのかと、その後口にされたゾロの呟きに耳を傾ければ、白いなぁとか思った通り肌目が細かい
なぁとかブツブツ言っていて。
少しは自分の躯が気に入ってもらえたのかと安堵した。
とにかくゾロをその気にさせなければ、駄目なんだから。
ただ、それだけの為なのに何故か気になることがあって。
サンジは思い切って、それを口にした。

「あのよ、誰に聞いてきたんだ?」
「ん?何を?」
「だ、だから、その……聞いとくっつってだろ?や、やり方を、よ。」
「あぁ、それの事か。…………何だ、悋気か?可愛いとこあんじゃねぇか。」
「ばっ!!!そんなんじゃっ…………あっ!」

ゾロの手が背中から胸に回され、片方の乳首を押し潰されて、思わず声が上がってしまい。
慌てて口を手で塞いでみたが、後ろから肩越しに覗き込まれ、へぇと感嘆の呟きを寄越されて。

ブワッと全身の温度が上がる。

その反応に気をよくしたのか、2つの突起を摘まれて。
必死で声を抑えようと口を塞ぐ両手に力を籠める。
それでも震えてしまう躯は止められずに。
サンジがゾロの動きに翻弄されそうになった時、ゾロが話し掛けてきた。

「どんなんが好みだよ?」
「………どんな…ん…って。」
「まぁ、一口に衆道っつっても色々あんだな。ただ自分の欲を吐き出す為に相手構わず突っ込むヤツもいりゃ、相手が泣いて
欲しがるまで焦らすヤツもいたぜ。」
「実地……か…ょっ。」
「正確には見学のみ、な。男相手でも結構弄るとこあんだな。あぁ、拘束して無理矢理ってのもあったぜ。」

その言葉に自然と躯が強張る。
口を押さえていた両手がガクガクと震える。

クリークもクロコダイルも最初はそうだったから。
暴れられないように手枷足枷もしくは縄で拘束されて。
抵抗する度に腹を殴られたし、背中を蹴られた。
反論する度に頬を張られたし、頭を踏み付けられた。
あの時の言いようもない恐怖は、幾ら当の本人が自分の目の前で斬って棄てられた今でも昨日の事のように脳裏を横切って
忘れられない。
忌まわしい記憶に身を竦めたサンジの首筋に暖かいものが触れる。

「どうした?」

ゾロの台詞とともに吐息が直接首に当たって、それがゾロの唇だと気付く。
乳首を弄っていた手が知らない内に腹に回され、優しく抱き締められていた。
その暖かさに、その感触に安心感を覚えてしまい、そんな自分に戸惑う。
こんな風に思うべきじゃないのに。
ゆっくりと啄ばまれる項に、擽ったさとは別の、躯の奥を優しく触られるような心地好さに酔ってしまいそうだった。

だから敢えて声を掛けた。
この心地好さはもしかしたら今だけのモノかもしれないから。

「………拘束……すんのか?」
「いや、その気は無ぇから安心しろ。オレの性分には合わねぇ。」
「じゃ………じゃあ……。」
「戦もそうだが、手の内に入ったら力ずくじゃダメだろ。甘いモンちらつかさねぇと、歯向かわれるのがオチだ。」

そう言いながら、ゾロの掌が下着越しにサンジの萎えた中心に当てられる。
ヒュッと息を飲んで目を閉じるサンジのそれを、ゆっくりと上下に撫でながらゾロが言う。

「本来なら、てめぇがオレをその気にさせんだからてめぇが動くべきだが、多分そんなてめぇじゃ一生かかっても無理だからな。
オレがてめぇをヨくしてやるよ。その代わり、てめぇは躯の反応するままをオレに見せろ。ヨがってオレを誘え。オレが突っ込み
たくなる位感じてんのを見せろ。」
「ん………ふっ………んんぅ……。」

ゾロの言葉に動きに煽られて芯を持ったサンジの淫茎が、解放を求めて涙を溢し始める。
その汁が下着とその上に置かれたゾロの掌を濡らしたが、サンジに気付く余裕は無い。
ただ、声を殺すのに精一杯で。

「声、押し殺さねぇで出せ。」
「……んふっ……んんんっ……っ!!!」

手で口を塞ぎながら首を横に振るサンジの下着の中にゾロの手が突っ込まれて、刺激の強さにサンジが背を撓らせる。
両目からポロリと溢れ落ちる雫が首筋まで伝い、それをゾロの舌に掬うように舐め上げられて。

「イイのか?」

ヒクヒクと無意識に揺れる腰を言い当てられて、又してもサンジは首を横に振る。
ヤバイ気持ちを自覚しながら。
それを否定しないと、自分を保てないから。
だが、そんなサンジにゾロが更に追い討ちを掛ける。
下半身を苛む片手はそのままに、もう片方の手でサンジの口に当てられた手を退ける。
顔をゾロの方へと向けられて。
サンジは手の下で、声を殺す為に下唇を噛んでいたのだが。
血の滲んだサンジの唇にゾロが顔を寄せる。

「折角怪我も躯の調子もよくなったのに、また傷作ってんじゃねぇよ。」

そう言ってふっと笑うとサンジの唇を舌でペロッと舐められた。
そして――――

「声出したくねぇなら、こうしててやる。」

そう言ったゾロの唇が閉じられていたサンジの口を塞いだ。
後頭部を大きな手で掴まれたまま舌で唇を割られ、それを口内にねじ込まれて。
ほぼ同時にサンジの陰茎を握っていたゾロの手が、淫隈に上下に動き始める。
サンジの嬌声は全てゾロに吸い込まれて。
舌と手で巧みに高められて。
最期達する瞬間、サンジは認めたくない自分の気持ちを確信せざるを得なかった。




(躯だけじゃねぇ。気持ちまでコイツにに捕われちまったみてぇだ………!!)


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