(……とは言ったのものの、どうしろっつんだよっ!!) 目の前で胡坐を掻いて酒を呷る男を睨みつけながら、褥の上で呆然とするサンジが居た。 地下牢から出され、外で待機していた部下達にやれ死刑か追放かと詰め寄られたゾロは、今にもサンジを再度捕縛しようと |
近寄る男たちを制しつつ軽い口調で言ったのだ。 「ああ、コイツな。大丈夫、身内じゃねぇよ。あの件の小姓だ。んで、今日からオレの小姓にすっから。」 一瞬の沈黙と、怒涛のような抗議の声が上がる。 「件の小姓って、アレですか?!」 「お館さま、なら、コイツが何と呼ばれているかわかっておいでですよね!」 「2人の勇将を滅亡させた疫病神、『生気を吸い取る淫鬼』なんですよ!」 「小姓なんぞにしてお傍に置かれたら、どうなることやら……。」 「どうか、お考え直し下さいませ!」 サンジはそれこそ、唖然としてゾロの背後でその言葉を聞いた。 えらい言われようだ、と。 自分だって好き好んで男に脚を開いたわけじゃない。 そもそも本来なら嫡子としてとっくに殺される事など覚悟していたところへ、死よりも辛い責め苦を背負わされたのだ。 したくてしている訳では勿論無いし、寧ろ何としてでもお断りしたいくらいだというのに。 ムカついてひと言返してやろうと口を開いた時だった。 ゾロが、またのんびりとそれに対して返事をしたのは。 「コイツが居たくらいでダメになんなら、オレがそれだけの男ってことだろ。第一、小姓にしたからって手を出したくなるかどうか |
わからねぇし。」 そう言って振り返り、ニヤッと意味有り気な笑みを漏らしてサンジを見てくる。 お前なんぞに溺れるものかと、その目がその顔がサンジに語りかけているような気がして、サンジはギッと睨み返す。 「とにかく連れてくぞ。なんか着替えるもん用意してやれ。あと水と手拭い、持って来い。」 ゾロはそれだけ言い捨てると、サンジを伴ってスタスタと館へ向かう。 後から足音と文句が襲ってくるのにも全然構わずに。 結局、屋内に入り、奥の間に入る直前まで部下達が代わる代わる説得しに来て。 それこそうんざりして室内へと入ったのだ。 最後には家老だろうか、世話役だろうか、初老の男がゾロを懇々と諭しに来た。 それでもプイッと顔を横に背けて、ゾロが言った言葉は、 「誰が何と言おうと、オレは考えを改める気はねぇぞ。それに、一旦こうと決めたらそれを曲げてまでお前の意見を聞いた事など |
なかったろうが。」 で。 呆れた口調で、しっしっと手を振り追い払うように仕草をするゾロに溜息を吐いて、その男もゾロの前から辞していった。 そんなゾロの強硬な態度に、部下どもも流石に諦めたのだろうか。 しばらくして、真新しい寝間着と手拭いの入った水桶が届けられて。 その序に褥が準備され、部下たちが下がる。 それを見届けて、ゾロが席を外して。 その間に、サンジは身を清めて着替えたのだった。 で、今。 先程寝間着を着て酒の入った瓶を片手に現れたゾロが、サンジの目の前にどかっと座り、直接瓶に口をつけて酒を呷り始めた。 とりあえず、褥の上で正座して固くなっていたサンジはやりようがない。 ただじっとゾロの動きを見つめているしか出来なかった。 「……いつになったら始めるんだ?」 それこそ、今自分が聞きたかった質問をされ、サンジが目を見開く。 からかっているのかと思いきや、ゾロの表情は興味深そうな顔をしてはいるものの真剣そのもので。 だから、思わずサンジも素直に答えた。 「何言ってんだ?てめぇが始めるんだろが!」 「ああ?てめぇが小姓なんだから、てめぇが奉仕すんじゃねぇのか?」 「バッ……!!するわけねぇだろっ!!」 「?………てめぇ、今までんとこで何してたんだ?」 「???どういう意味だよ?」 どうにもわからなくて問い返せば、ゾロ曰くサンジが色々してくるもんだと思っていたらしい。 それこそ唖然として口も利けないサンジに、ゾロが言葉を続ける。 「幾ら最初は無理矢理とは言え、約半年も男のモン受け入れてきたんだろが。女でも自分で跨ってくるぜ、そういう立場ならな。」 「立場って………オレはただ寝っ転がってただけだよ。相手が勝手に興奮するっつーか、圧し掛かってくるってーか……… |
何つーこと言わせるんだ、てめぇはっ!!!」 「へええ。………脱いだら凄いんですってか。」 「は?」 「ま、しゃーねぇ。奉仕はまたな。その場で脱いでみろよ。」 「!!!冗談じゃ――――」 「いいんだぜ、オレは。今すぐ賭けは無しってことにしても。そうなりゃ当然、てめぇの行き先は決まってるわな。」 「…………。」 言葉に詰まる。 ただでさえ、女の居ない戦場だ。 しかも、明日の生死は保障できない世界。 異常な興奮状態と内に抱えた鬱屈した思いを晴らすのに、男の尻を使って擬似性交をするのは最も適しているのだろう。 そういう趣味を持っている者と、そうでなくても滾る血を抑えられない者とを併せたら、その数は半端じゃない。 背中を嫌な汗が流れる。 サンジは覚悟を決め、無言で立ち上がり、今着たばかりの寝間着の帯を解き始めた。 それを、目を逸らすことなく見つめながら酒を飲むゾロの、その冷めた視線を感じつつ。 バサッと音を立てて左右に開いた着物の襟を持ち、その手を一気に離す。 するっと下に落ちた寝間着。 下穿きのみとなったサンジの身体を、ゆっくりとゾロが見上げてくる。 飲んでいた酒瓶を置いて。 今まで自分を言い様に扱ってきたクリークやクロコダイルとは違い、下卑た視線でなく、ただ興味深げにじっくりと舐め回すように。 沈黙に耐え切れず、逃げ出したくなる気持ちを抑えて。 サンジはじっとゾロを見つめていた。 「ふうん。まぁ、いいんじゃねぇ?」 「………何がだよ。」 「肌理も細かそうだし、色白で乳輪もほんのり桜色ってか。ヘタな女よりはそそるかもな。」 「それはそれはどうも!!……で、どうすんだ?!!」 「あ?ま、今日は止めだな。」 「?!!何でだよっ!!」 「………てめぇ、自分の身体ちゃんと拝んだ事あんのか?」 そう言われて、目線を自分の胸に落としてみる。 そりゃ確かに女みたいに胸は豊かじゃないし、線は細いかもしれないがごつごつしてて。 どうみても男の身体だ。 だからって……。 「最初っから、オレは男だってわかってたんだろが!」 「そうじゃなくて!オレが言いたいのは2つ!」 サンジの言葉に対して急に立ち上がったかと思ったら、ビシッと人差し指と中指を立ててゾロがサンジに向かって言う。 その気迫に押されてたじろぐと、ゾロが言葉を続けた。 「1つ、他の男が付けた痕のある身体なんぞ抱く気にならねぇ。」 「!!」 「2つ、そんなギスギスの身体じゃ骨が刺さる。肌なんかガサガサじゃねぇか。」 「………え?」 言われてみて気付く。 確かに身体の彼方此方に朱い鬱血がある。 そして、痩せ細ってあばら骨が浮き出ているし、腰骨も浮いて見える。 肌の肌理も崩れがちなところも。 囚われの身になり、ヤツらの相手をするようになってから、食事などする気も失せていて。 ただ生きるためだけに口に何とか運んだモノも、事後吐いたりしていた事を思い出す。 それならば……。 「どうしろっつんだよっ!!」 逆ギレ気味に怒鳴れば、ゾロがニカッと笑ってサンジに口を開いた。 「まともにメシを喰え。お肌が艶々になるように薬師にも頼んでおく。それも飲め。そうすりゃ、その痕も早く消えるだろ。」 「んなこと言って逃げる気じゃねぇだろな。」 「どうせ抱くならすべすべで、まぁ贅沢言やあ餅肌で、触り心地がいい方が楽しいだろが。10日後に成果を見せろ。」 「すべすべって…………10日、だな?」 「武士に二言は無ぇ。」 そう言うと、足元に置いていた酒を取りグッと呷る。 何気にそれをじっと見ていたら、不意に顎を掴まれ唇を当てられる。 余りに突然の事で、気が動転して口をあ?と開けると、そこからゾロが口に含んでいた酒が流し込まれる。 ゲホッと咳き込みながらも、喉を伝い落ちていく液体。 食道を通り抜けて、空きっ腹に生暖かい酒がじんわりと効いていく。 全身がポカポカと温かくなって、頭も朦朧として、ほけ〜っと離れていく唇を目で追った。 そして、ゾロと目が合って。 「全身薄墨桜みてぇだな。」 ニカッと笑って言われた言葉に、更に身体中がぼんと赤くなる。 何か言い返してやろうにも、酒のせいで思い付かない。 「全く、唇もボロボロじゃねぇか。吸い付き甲斐の無い。目の下にも隈出来てんぞ、とっとと寝ろ。」 口をパクパクさせて動かないサンジにそう言って、サンジの喉へと垂れた酒を掌で拭う。 そして屈んで、落ちていた寝間着を拾い肩に掛けてくれて。 部屋を出て行こうとするゾロに、サンジは驚いて声を掛ける。 「ど、どこ行くんだ?」 「あ?他のとこ行って寝んだよ。その気もねぇのに男同士で寝てもつまんねぇだろ。………なんだ、一緒に寝てぇのか?」 「んなわけあるかっ!!」 「はっはははは。しっかり寝ろ。夜更かしはお肌に悪いんだとよ。精々早く綺麗になるこったな。」 「くそっ!!!」 サンジが下に転がっていた帯を拾って投げ付けるより早く障子が閉められ、笑い声が段々と遠くなる。 中に残されたのは、怒り納まらぬ全身桃色に染まった男が1人。 サンジは内心憤懣やる方無かったが、酒のせいか急激に眠気が襲ってきたのも事実。 よく考えれば、クロコダイルの城が攻められてから3日、まともに寝ていないことに気付く。 まぁ、クリークの所に居た時もクロコダイルの時も昼夜構わず手を出され続けたから、1人でゆっくり寝た事など皆無で。 しかも踏ん付けていた布団が、それこそ極上の絹の肌触りだったから、その寝心地を想像して更に眠りへの欲求が高まる。 とにかく寝て喰ってお肌艶々にならにゃ始まらないとその下に潜り込む。 疲れと興奮から冷めた反動で、サンジは直ぐに寝息を立て始めてしまった。 |
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