その日は、一日落ち着かなかった。 仕事に行っても殆ど何も手につかず、シェフから何度も名を呼ばれ、最後は少し休めと早めに帰されてしまった。 いつもより早めの電車に乗って帰路につく。 幾分空いている電車に揺られて、窓の外の景色をボーっと見ながら考える。 あの時から。 1人になったあの時から、1人で居るのが怖くて、寂しくて、どうしようもなくて。 それで毎日相手を物色する毎日を送って。 それで満足していたはずなのに。 たった一言だ。 たった一言、「一緒に」と言われただけで、こんなにも怖くなるものなのか。 男の名はロロノア・ゾロと言った。 年はサンジと同じ23歳。 サンジを連れて行ったアパートでの一人暮らし。 定職には就かず、日雇いの仕事をほぼ毎日こなす。 若さと体力を買われて、最近では朝早くから並ばなくても仕事に呼ばれるようになったとか。 それでも、朝5時にはアパートを出るとかで、サンジに鍵を渡すと、 「先帰って待ってろ。」 と言って、ぼろい靴を履いて出て行った。 サンジを置いて。 相手の部屋に置いていかれたことなど初めての経験で。 どうしていいか戸惑いながらも、布団を畳み、散らかっていたティッシュの山を片付けて出てきた。 アパートを後にした時は、実感がわかなかったのだ。 自分に帰る場所ができたことなど。 一緒にいてもいいのだろうか、こんな自分と。 一緒にいてくれるのだろうか、こんな自分と。 ただ寂しくて、それで全然知らない男と寝てしまうような自分だ。 それを今まで恥ずかしいと思ったことなど無いと言うのに。 今回も、たまたま2日同じ家に男に頼るだけだと思えばいいのに。 ゾロのあの目が、それをサンジに許さない。 あんなに純粋で、真面目で、優しいゾロに。 一夜、たった一夜寝ただけで、ゾロの性格が垣間見えたのだ。 優しい愛撫と、熱の篭ったキスと、労わるようなSEX。 あまりの優しさに、涙が零れそうになった程だ。 今までの男たちとは全然違う、自分を大切にしてくれたSEX。 それをもう一度望んでもいいのだろうか? サンジは、仕事をしながらずっとゾロのことを考えていた。 考えて、考えて、考えて・・・・・・。 結論の出ないまま、サンジは電車に揺られていた。 シャツのポケットに入れたゾロの部屋のカギが、サンジを追い込んでいた。 結局、サンジはゾロのアパートに一旦寄って、カギを隣の住人に託した。 やはり期待してはいけない、と。 自分の帰る場所をここにしてはいけない、と。 そう思ったからだ。 それに、ゾロの気紛れかもしれない。 ゾロが帰った時、自分がアパートにいたら驚くかもしれない。 なんでいるんだ、と。 そんな事になるくらいなら、初めから無かったことにすればいい。 もう、諦めるのも慣れっこだ。 ヘッと自嘲気味に笑いながら、また駅前電話BOX脇に立つ。 誰か拾ってくれるだろう・・・・・・こんな惨めな自分を。 その時、携帯のメール着信音が鳴って。 見れば、昨日の出張男らしく、 『帰ってきたから、今日ウチにおいで。』 と、画面に出る。 そして、クラクションの音に気付き顔を上げると、そこについ先日の車があった。 男がドアを開けて出てくる。 サンジは勿体つけて、その場で待つ。 その男が近寄ってきて、今にもサンジの腕を掴もうとしたその時。 「先約だ。」 その声にハッと振り向く。 今朝まで聞いていた声だ。 期待しちゃいけないと、それでも心の奥底でもう一度聞きたいと思っていた声だ。 「・・・・・・ゾロ。」 「先帰って待ってろっつった筈だ。」 ムッとした顔で自分を見つめるゾロにサンジの表情が歪む。 誰だと訝しげな表情を浮かべる出張男を背に、サンジはゾロに抱き付いた。 *** 「行ってくる。」 「おう。」 こんな会話も普通になった。 サンジがゾロの元で暮らし始めて2ヶ月が過ぎようとしていた。 あの日、無言でサンジの腕を取り、アパートへ帰るなり抱きすくめられて。 「・・・・・・なんでだ?」 搾り出すように言われた台詞に、胸が一杯になってしまって。 何も言わずに、ゾロに口付けた。 すぐにゾロの手がサンジの頭を掴んで、深く深くキスをされて。 玄関先で服も殆ど脱がずに、ボトムだけ下ろして突っ込まれて。 求められる幸せに酔いしれながら、ゾロの名を何度も呼んだ。 「どこにも・・・いくなっ!」 最後、イく瞬間に耳元でそう呟かれて、思わず泣いた。 泣いて、首に縋り付いてイった。 その後、涙を指の腹で優しく拭ってくれた。 風呂に一緒に入って、そこでもまた抱いてくれて。 逆上せそうになったサンジを抱きかかえて布団まで運んでくれて。 真っ裸のまま、抱き合って眠った。 その温もりを求めていいのだ、と。 漸く実感できたのは、1週間くらいたった頃だろうか。 翌日にはサンジが教えた職場まで迎えに来てくれた。 その翌日にはスペアキーを作ってくれた。 その翌日には、歯ブラシとか必需品を買い揃えてくれた。 サンジの枕も買ってくれた。 サンジの部屋まで来て、着替えを運ぶのを手伝ってくれた。 一緒に暮らそうとしてくれている事を、ゾロが目に見える形にしてくれたのだ。 必ず、朝5時に出て、夕方5時には戻るゾロ。 一方サンジは朝8時から夜8時までの仕事だ。 だから、朝サンジがゾロを見送り、帰りはゾロがサンジの職場まで迎えに来た。 嬉しかった。 自分が送り出す人がいる。 自分を迎えに来てくれる人がいる。 少し前には当たり前だったことが自分に欠けてしまって、しかも今それを与えてくれる人がいる。 サンジにとって、毎日が本当に充実していた。 *** 久し振りの休日を取ることにした。 1人で暮らすようになって以来、めったに休みなど取った事がないサンジだったが、ゾロが珍しくどこかに行こうと声を掛けてくれて。 勤め先のオーナーシェフに願い出たところ、驚きと労りと喜びを持ってサンジの休暇願いをOKしてくれた。 そういう友人が漸く出来たのかと嬉しそうに言ってもくれた。 照れ臭くて、そんなんじゃないですよと言ってはみたものの、きっと顔に出ていたのだろう。 「まあ、そういう事にしておいてやるから、明日は一日楽しんで来い。」 オーナーシェフは迎えに来たゾロにサンジを引き渡してそう言ってくれた。 2人並んで家に帰って、風呂に入って、布団にもつれ込んで・・・。 どれくらい経ったろうか。 情事の余韻に浸りながら、サンジがタバコに手を伸ばす。 その身体をグイッと布団に引きずり戻して、ゾロが背中にキスを落とす。 「・・・アホ、明日どっこも行かねぇ気か?」 クスクス笑いながら、振り向いてゾロの頭を胸に抱き締める。 そのサンジの背中をギュッと抱き寄せて、サンジの鎖骨をペロッと舐めてくるからサンジが擽ったそうに身を捩る。 「んなことねぇけど、折角明日朝早く起きねぇでいいんだ。もう少し、堪能させろ。」 「そりゃいいけど、あんまりきついのは無しな。正直もう腰もキてるし・・・。」 「前向きに努力する。」 そう言ったゾロがサンジの後頭部を鷲掴むと、舌でサンジの口を深く抉る。 すぐに冷めた熱が戻ってくる。 背中に手を廻し、ギュッとしがみ付けば更に強く抱き返してくる。 サンジの身体のそこかしこに付けられた鬱血の跡をゾロが丁寧に辿っていく。 もう何度も中出しされたサンジのそこからは、サンジが喘いで腹に力が入る度にトロトロとゾロの欲の証が垂れていく。 それが浮いたサンジの尻をつーっと流れ落ちる様は、ゾロの野生に火を点けて・・・。 「・・・・・・・・・っ!!」 何の前触れもなくグッと突き込まれたゾロの雄を、サンジの襞がクプクプと音を立てて飲み込んでいく。 「あっ・・・あああっ・・・ゾ、・・・やああっ!」 「てめぇのココはいいな。何べんしても飽き足らねぇ。」 「うんんっ・・・・・・んふっ・・・も、イイっ!ああ、・・・堪ん・・・ねぇっ!!」 「おい、明日くらい朝飯遅くてもいいだろっ!」 「ばっ、か・・・朝喰わねぇ・・・のは、ダメ・・・やっ・・・あっ、そこ・・・・・・すげぇ・・・!」 「てめぇをもっと喰いてぇんだよ。」 「ちっ・・・たぁ・・・・・・加減って・・・ああん・・・覚え・・・ろ・・・・・・うぅんっ・・・。」 「できねぇよ。まだまだ足りねぇっ!」 膝を顔の横まで押し上げられて、尻が浮くような格好で上から刺し貫かれる体勢で。 それこそ、遠慮なくズクズクと抜き差しされるゾロの雄がサンジの前立腺を刺激する。 ゾロの肩に爪を立ててしがみ付いて、首を仰け反らせてサンジはイッた。 続いて、ゾロの欲汁がサンジの中に吐き出される。 それを感じて、サンジが身体を震わせて。 とろんとした目でキスを強請れば、ゾロが優しく唇を合わせてくれる。 ただ、幸せで、幸せで。 その幸せが、今宵一夜で終了するとは予想もしていなかった。 |
|
|