「……あっ……んふっ、うん……」 「思った以上の身体よの。一度だけでは物足りぬな。」 砲身を沈められ、ゆっくりと内壁を抉るように動かされて、サンジは慣れた快感に身を捩る。 何度も色んな男に身体を開いてきた自分だ。 気持ちは冷めていても、身体は勝手に反応していく。 「ああっ……もう、エネルさまっ……」 「んん?もう限界か?早くはないか?」 「あっ……やっ…早く、お情…けをっ!」 喘ぎながら目の前の裸身を隅々まで余す所無く見つめる。 だが、あると思っていた刺青が見当たらない。 笑い声は間違いなく、あの時聞いたものなのに。 自分の勘違いだったかと口惜しく思いながらも、貫かれた身体が達して白濁を吐き出すと同時にキュッと後孔を締める。 その刺激でエネルにも限界が来たのか、サンジの中にググッと深く腰を打ちつけるとはっと満足気に息を吐く。 果てた後の余韻に浸り、朦朧とした意識の中で視界に入ってきたものにサンジの目が釘付けになる。 まだ自分の中に己を埋め込んでいる男の広い胸、そこに見た。 凶々しいまでの雷神の刺青を。 「……エネルさま、これ…これは…?」 「うん?あぁ、これか。有名な彫り師にいれて貰った。こうして交わった最期に浮かび上がるようにな。」 「……………。」 サンジはゆっくり後退りながら、自分の中からエネルのを出し、脱いだ着物へと動いた。 そこにある母の形見、銀細工の簪を手にする為に。 そんなサンジを訝しく思ったのか、エネルが脱げかけていた着物を羽織り直して言った。 「この刺青に見覚えでもあるのか?」 「………てめぇには覚えがねぇのか?」 簪を取り出し、震える声でサンジがそう言うと、エネルが眉間に皺を寄せてサンジをじっと見る。 そして視線を簪に移して、あぁと納得したように声を上げた。 「あの札差の倅か。余りに面差しが違うので気付かなかった。」 「父と母の恨み、晴らしてやる!!!」 サンジが簪片手に飛びかかったが、軽く交わされその手を捻り上げられる。 「……っ!!」 「その細腕で何が出来る?まぁ、心意気は買ってやるぞ。わざわざここまで赴いたのだ。また、皆で可愛がってやろう。」 そう言うなり、エネルが大声を上げた。 「オーム、シュラ、ゲダツ、サトリ、来いっ!!!」 その声がすると同時に襖が開き、4人の男が姿を現す。 4年前、代わる代わるに自分を犯した男たちだ。 ガタガタと身体が震え出す。 サンジの脳裏に、あの時の光景が蘇る。 恐怖で身体が動かない。 部屋の中に入ってきた男たちを、ただ震えながら見ていることしか出来ない。 エネルが掴んでいたサンジの手をグイッと引き、4人の前に放り投げる。 衝撃で一瞬閉じた目が開いた時、視界に入った男たちに身体が竦む。 自分に伸びてくる幾つもの手。 あの時も、そうだった。 抵抗できずに震えるだけの自分を、こいつらが・・・・・・。 (怖い、怖い、怖い………!!!) 後退りながらも、背中に襖が当たる感触を感じて。 もう逃げられないとサンジが恐怖の余り目を瞑った時、ふわっと背中の感触が無くなり、浮いたかと思ったら後から抱き寄せ |
られる。 覚えのある感触。 それも今さっきではない。 それでも、つい最近の・・・。 サンジが目を開いて後ろを振り返ると、そこにあったのは――― 萌黄色の優しい目。 「大丈夫か?サンジ。」 「・・・・・・ゾロ・・・。」 自分の身体をゾロの着ていたであろう黒い紋付で包まれている。 ゾロの後ろを見れば、そこは隣部屋で。 「てめぇの幇間から話は聞いた。もうすぐ、皆来る筈だ。」 その言葉に、張り詰めていたサンジの心が解き放たれる。 涙がポロポロと頬を伝い落ちて行く。 「何故、年番方与力の御子息殿がここに?」 エネルの厭味の籠もった問い掛けに、サンジがビクッと肩を震わせたが、ゾロがサンジをグッと抱き締めて言い放った。 「もう直にわかる。お前の最後だ、エネル。」 「私にそのような口を効いていいのか?所詮、奉行所内の書き物しか出来ない能無しがっ!不届きっ!!」 エネルがそう言うなり、サンジに近付こうとしていた4人の男たちがゾロに向かって敵意の籠もった視線を投げてくる。 ゾロがその視線を真っ向から受け止め、睨み返す。 その時だった。 バタバタと誰かが廊下を走る音がして、襖がガタッと開けられた。 「申し上げます!」 「何事だ、騒々しい。今取り込み中―――」 「如何なる取り込み中ですかな、エネルさま。」 襖を開けた人物がギョッとして振り返ったその先に、野太い声と共に入ってきた着流しに黒い紋付き。 「スモーカー……何故ここに火付盗賊改が・・・。」 「黄金屋の札差の証文は、あんたの屋敷の隠し部屋で見つかった。まさか借用書まで後生大事に取って置かれては、申し開き |
できねぇな。」 スモーカーの後で、2枚の紙切れをひらひらさせた埃塗れのウソップがニカッと笑う。 その紙切れを覗き込んで、 「確かに証文と借用書、書式も間違いない。」 とコーザが断言する。 また、ルフィがある帳面を片手にその書面と見比べる。 「これは、黄金屋の女中してた小夜って子から借りてきた、借用台帳だ。確かにここにこの借用書の内容が書いてある。勿論、 |
返済されていない事もな。」 「ガンフォールからも話を聞いた。」 こう口を開いたのは、シュライヤだ。 「昔、ある1人の罪人をその情状を酌量して、刑を軽くしてやったのを貴様に脅されたそうだな。黄金屋の1件、隠匿してくれれば |
出世も思いのまま、と。事実、貴様は金に物を言わせ、出世街道まっしぐらだったってワケだ。」 「罪人ってのが、パガヤの娘コニスだ。惚れた男の屋敷に忍び込んで何でもいいから1つ男のものを貰って帰ろうとしたところを |
家人にみつかった。前々からパガヤと知り合いだったガンフォールが見逃してやったのは、確かに罪かもしれんがここまで利用
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する事もないだろうに。」 ミホークが悲しげに呟く。 「だが、流石にちとオイタが過ぎたな。サンジが覚えていたてめぇの刺青、彫り師探して聞いてきた。いれたのは5年前だってな。 |
他の彫り師にゃできねぇ浮かび上がる雷神とか。間違いないんだろ、サンジ?」 そのエースの問いに、着物を着直したサンジがコクッと頷く。 「では、証拠は揃ったな。どう申し開きなさるおつもりですか、エネル殿?」 シャンクスがエネルの目の前に立って、悔しそうに睨みつけてくるその目を睨み返す。 スモーカーが手下の者にエネル並びに配下の4人を捕縛するように言う。 その時、サンジが動いた。 銀細工の簪を手に、エネルに飛び掛ろうとする。 もう少しで、その切っ先がエネルの首に刺されようとして。 ルフィがサンジを背中から羽交い絞めにして、それを阻止した。 「離しやがれっ!!オレがっ、オレがコイツを!!」 「そんなんしたらお前、掴まって死罪だぞ!こいつは間違いなく斬罪だ。お前が手を下すまでもねぇ!」 「こんなヤツの為に、お前が手を汚す必要なんて無ぇんだ!!」 「そうだぞ、サンジ。親御さんだってお前が自分達の為に罪を犯すなんて、悲しくて見てらんないぞ。」 思い止まらせようとルフィたちがサンジに声を掛けるが、その彼らを睨みつけてサンジが叫んだ。 「もう、とっくに汚れてんだ!男の吐き出した精液でな。今更血で汚れようが、罪で穢れようがそんなんどうでもいい!コイツさえ、 |
コイツさえこの手で殺れればっ!!」 「・・・・・・サンジ。」 誰もそれ以上サンジに掛ける言葉が見つからない。 漸く目の前に力なく立ち尽くす仇相手に、止めをさす絶好の機会で。 その為だけに身体を投げ出してきたサンジを、どうしたら思い直させる事ができるかなんて。 その沈黙の中、声を発した者がいた。 「親は喜ぶかもしれねぇな。」 皆の視線がその声の主に集まる―――サンジの直ぐ後にいたゾロに。 「怨んでも怨み切れねぇヤツを息子が殺したとなりゃ拍手喝采かもしれねぇな。」 「ゾロっ!!!」 淡々と話すゾロに、ルフィの非難の声が飛ぶ。 そのルフィにチラッと視線を送ってから、ゾロはサンジを見る。 「だがな、てめぇは知ってる筈だ。残された者の悔しさを、悲しさを。てめぇをこんな目に合わせたエネルに図らずも荷担した |
現北町奉行ガンフォール、パガヤ・コニス親子はまあいいとしても、てめぇの面倒を見てくれた小夜って女と、芝居小屋座長ゼフ
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はどう思うだろうな。悔やんでも悔やんでも悔やみきれねぇだろうな。泣き崩れるかもしれねぇ。この先、死んだてめぇを思って
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寂しい思いして暮らしてくんだろう。そんなんでいいのか、てめぇは。世話になったヤツ等にそんな思いさせてもいいのかよ!」 「・・・・・・・・・。」 ゾロの言葉にサンジが目を見開いたかと思うと、その目からボロボロと涙が零れ落ちてくる。 銀の簪がガシャンと音を立てて、床に落ちた。 顔を両手で押さえて声を上げて泣くサンジをルフィが宥めるように抱き締める。 エースが頭を撫でる。 ウソップが「やっと終わったんだ。」と声を掛ける。 コーザが、シュライヤがサンジの肩を叩く。 ミホークとシャンクスが目を合わせて頷き合う。 スモーカー率いる火付盗賊改の役人たちがエネルたちを捕縛ししょっ引いていくのを、ホッとしながらゾロは見送った。 |
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