蒼天の下  <参>




そして6日後、各自が集めた情報を手に再びゾロの屋敷に集結する。


「エネルは4年前にある花魁を身請けしている。」
まず、エースが口火を切る。
「2年位、ある花魁に入れあげていてな。頻繁にその見世に通い詰めていたって話だ。だが、それ程収入があるわけでもない。
相手はその見世の一番人気を争う花魁でな。1夜相手を願うだけでもかなりの金を積まなきゃならなかったらしい。ただでさえ
それまでにもかなりの借財を重ねていたにも拘わらず、その4年前に見受けの金を工面したって話だ。どこから、そんな金が出て
きたのかって当時色街でかなりの噂だったってよ。」

「オレは札差の間での噂話を入手した。」
と切り出したのはコーザだ。
「4年前の黄金屋の1件、一家揃っての自害ってことになってる。つまり、あの界隈ではサンジは死んだ事になってんだ。主人の
気が触れたってのが表立っての理由になってるが、裏ではエネルが何か仕組んだって実しやかに囁かれてる。そこら中で借金
重ねてたエネルが、4年前の1件が起きて1ヵ月後くらいに結構な額を返してきたって話だ。まぁ、今ではまた借金が嵩んでる
らしいがな。」

「んじゃ、次はオレだ。」
ウソップが得意気に話し始める。
「町名主連中に聞いてきた。エネルの屋敷は4年前大幅な改修をしたらしい。表立っては壊れた箇所の修繕ってことになってる
がな。そんで、本当はいけねぇんだが、屋敷の見取り図見せてもらった。オレ様にかかればこの位朝飯前さ。大体、あの時の
火事だってよぉ・・・あたたたたっ、痛ぇな、ゾロっ!余計な話はいい?あ、そっか・・・で、オレが見取り図の写し作ってみた。
ここだ、ここ。4方を壁に囲まれた半畳間があるんだ。ここに何か、例えば無くなった札差の証文が隠してあんじゃねぇかって
オレは踏んでる。」

「当時のエネルだが・・・。」
シュライヤが次に口を開いた。
「調べてみたんだが、エネルは吟味方同心だ。直属は与力ガンフォール、現北町奉行だ。この後、ガンフォールも何故かすぐに
勘定奉行として八州に出向させられている。確かにガンフォールの家は代々奉行職を継いじゃいるが異例の早さだ。しかも、
エネルはそれの遥か上を行く早さで出世してる。奉行所内ではエネルを引き上げたのはガンフォールって話だ。何か裏がある
のかもしれねぇ。」

「そのガンフォールだけどよ。」
話を引き継いだのは、ルフィだ。
「どうも、黄金屋の一件で捕縛されたパガヤってヤツと面識があったらしいんだ。パガヤはガンフォールの屋敷に食器の修理とか
で度々訪れてたってそこの女中が話してくれた。結構人の良さそうな親父さんだったから、捕まったって聞いたときはかなり驚い
たって。で、その捕まる前日くらいにガンフォールに呼ばれていたらしい事もわかった。女中が裏口でこそこそ話をしている2人を
見ている。何か取引していたのかもしれねぇ。」

「私は牢屋奉行に話を聞いてきた。」
そう言葉を発したのは、ミホークだ。
「パガヤは非常に礼儀正しいヤツだったらしい。牢内では大人しく刑を待っていたというし、他の牢屋同心、下男にも聞いてみたが、
全く申し開きする事もなく淡々としていたとか。どう見ても空き巣を働くような男には見えないという評判だったらしい。結審も早くて、
たった1日牢に入っていただけの男だったそうだ。刑はどうかというと空き巣だから罪も軽い。入墨の上、重敲で釈放だったそうだ。」

「御仕置裁許帳は調べてきた。」
ゾロが話す。
「罪人はパガヤ。刑は先程の父の言った通り入墨の上重敲だ。だが、この事件、担当はガンフォール、実際取り調べたのは
吟味方同心だったエネルだ。自白が証拠で結審されている。だが、肝心の札差の証文は見つかっていない。何故、パガヤが
黄金屋に空き巣に入ったかという動機も曖昧なままだ。しかも初犯だ。空き巣は現行犯じゃなきゃ捕縛できない。それが何故、
自白したのか?それまでの空き巣に関する事件を調べたが、今回のような犯罪は殆どないと言っていい。捏造じゃないかと
疑ってもおかしくない。」

「だが、エネルが犯人という確かな証拠はないな。」
シャンクスが皆の調査結果を聞いて、意見を言う。
「借金がある。その理由もある。取調べは本人がしてるし、捏造も隠匿も可能だ。隠し部屋らしきものがあって、上司の弱みを
握ってそうな気配もある。その上司と空き巣も何か繋がりがありそうだ。だが、あくまでも可能性だ。札差の証文も見つかってない。
サンジの親から借用書を奪い取ったという痕跡はないし、借用台帳の行方もわからない・・・そうだろう?相手は旗本、迂闊には
手を出せねぇ。何か完全にこれが証拠だとヤツに突きつけなければ、自白も取れねぇし火付盗賊改も動かせねぇぞ。」

シャンクスの言う通りだと、その場にいた全員が黙り込む。
「書類が見つからなきゃダメか・・・。」
ルフィがそう言った時だった。

そこまでただ黙って聞いていたサンジが、ハッと思い出したかのように呟いた。

「・・・・・・刺青。」

「入墨って、罪人のか?」
ゾロが聞くと、サンジは首を横に振る。
「オレを犯したヤツ、そいつの胸に刺青があった。物凄い悪意を感じさせるような雷神の刺青・・・。」
「雷神・・・だと?!」
周りを取り囲む役人たちの顔色が変わる。
確かな証拠、あるとしたら札差の証文・借用書そして・・・・・・刺青。
証文と借用書は燃やされていたとしても、刺青を消すのは難しい。
それに彫り師を探せば、もし仮に消されていてもあったことを証明付ける事が出来る。
何より、そうはいないだろう雷神の刺青。

「これは、エースの仕事だな。」
「おう、任せとけ!」
「書類は引き続きルフィが当たれ。」
「おう、何が何でも捜してやる!」
エースとルフィが立ち上がる。
それを見たサンジが徐に2人の手を引いた。

「なんだ?サンジ。」
「お礼だ。とっとけ。」
そう言うなりルフィとエースの肩を抱き、その頬に口付ける。
真っ赤になって固まるルフィと、奇声を上げて喜ぶエースと、オレもオレもとサンジに詰め寄る他の5人。

皆がサンジから頬に唇を当ててもらって大喜びしている。
それを唖然と見つめるゾロがいた。




「お前もいるか?」

皆が浮き浮きしながらその場を後にして、ゾロとサンジの2人きりになった室内。
サンジがそんなゾロに茶化すように聞いてきた。
「・・・・・・オレは、別に・・・。」
「接吻より身体繋ぐ方がいいか?」
吐息混じりに耳元で囁かれ、バッと真っ赤になったゾロを見てサンジが笑う。
揶揄されたと気付き、てめぇと怒鳴ろうとしたゾロの唇をサンジのそれが塞いだ。

「??!!!」
「・・・・・・ん・・・、お前、オレとしたくねぇのかよ?」

唇が離され、少ししょ気た風に聞いてくるサンジにゾロは慌てる。
「それはっ・・・・・・その・・・。」
「まぁ、最初てめぇはオレのこと知らなかった訳だし。あいつらみたいにはしゃがねぇのもわかるけどよ。一度は寝た仲だぜ。
・・・・・・オレには興味ねぇのかよ。」
「そうじゃ・・・なくて・・・・・・その、遊びなんだろうが。」
「あん?」
「てめぇにとってオレは遊び相手なんだろうが。」
「・・・・・・・・・。」
「オレは遊びなんて慣れてねぇから、多分すぐ本気になっちまう。したら、てめぇ迷惑だろ?」
「・・・・・・・・・。」
絶句しているサンジに、ゾロが苦笑する。
苦笑して、サンジに部屋を出るように言った。
「仕事はちゃんとやる。元はオレが言い出した事だ。だが、褒美はいらねぇ。自分の身体、もっと大事にしろ。」
ゾロはそう言うと、サンジの背中を押して外へ出る。
サンジが何か言いたそうにしていたが、玄関で皆が呼ぶ声がして。
ゾロは、サンジを見ないで廊下を歩いて行く。

次の会合は3日後。
証拠を確実に掴んで、一気にカタをつけるのだ。




***




「お声を掛けて頂き、恐悦至極に存じます。」
「そう畏まらずともよい。もそっと近う寄れ。」
「………はい。」


下げていた顔を起こし、サンジは自分に下卑た視線を送る男を見つめ返す。
場所は船宿。
目の前には、ある意味自分を縛り続けてきた男。

皆との会合の翌日。
エネルがサンジの芝居小屋に現れた。
興行を終え、挨拶に行くと誘われたのだ。
「私では不満か?」と。
とんでもないと首を振り、この船宿で待ち合わせとし、一旦別れた。
お付きの幇間にゾロ宛ての言付けを頼んで、1人約束した船宿へ向かった。
4年前の決着を付ける為に。




「何か食べるか?」
「いえ………。」
「ならば、酒は?」
「………頂きます。」
これからすることを考えてれば、酔ってなければやれないだろうと、渡された杯を受け取り、注がれた酒をくっと煽る。
そして返杯しようと手を徳利に伸ばしたが。
その腕を掴まれて引き寄せられる。
「その線の細さ、艶っぽい動き、堪らぬの。そうやって男を骨抜きにしてきたのか?」
「………自分ではわかりませぬが。ただ一つ言えますのは、こうして貴方さまにお相手して頂く、今までの男たちはその為の
踏み台だったかと。」
サンジの言葉に、エネルが嬉しそうに笑う。
笑いながら、サンジの襟元に手を差し入れる。
「………っ…!」
「この身体、たっぷり堪能させて貰うぞ。」
身体中に鳥肌が立っのを感じながらも、サンジは妖艶に微笑んで瞳を閉じた。




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