羨ましそうに何度も振り返りながら、暗闇に消えて行くルフィたちを見送る。 サンジはニッコリ笑って手を振りながら。 ゾロは仏頂面で頭を掻きながら。 船宿から、サンジの芝居小屋へと場所を移動した。 サンジが誰を選ぶのか。 それが気になって、でも誰も口にする事が出来なくて。 ただ、サンジの後についていった。 ゾロは、サンジが自分を選ぶ事はないだろうと思い自分の屋敷へ帰ろうとしたのだが、ルフィに引き止められた。 「誰をサンジが選ぶのか、お前には見届ける義務がある。」と。 確かに今回の件、言い出したのはゾロだ。 褒美の事はサンジが言ったにしても、最初から最後までちゃんと見てやるのが義務かとも思い、仕方なくついていくことにした |
のだ。 (選んだ相手を恨んじまいそうだがな・・・。) 大方、片付けも済んでガランとした芝居小屋に皆を通す。 そこで待っていたゼフと一言二言やり取りをすると、ゼフが席を外した。 「オレたち、明日ここ出てくことになった。」 「何で?」 ルフィの問いに、サンジがふっと笑いながら答える。 「そもそも旅の一座だ。江戸に長居したのはオレの我侭だったからな。これ以上ここに用は無ぇし。」 「・・・・・・そっか。」 皆が落胆の溜息を零す。 当代切っての人気役者がいなくなる。 折角知り合いになれたのにと皆が項垂れる。 「まあ、そんなに寂しがってくれるな。その内、気が向いたらよ。また来るさ。結構稼がせてもらったし。・・・んで、褒美の件 |
だけどよ。」 「そうだ、それがあった。」 「誰だ?誰にすんだ?彫り師捜したオレだよな!」 「オレだろ!結構大変だったんだぞ、小夜探すの!」 「何言ってんだ!隠し部屋の証拠、オレさまだから適当な理由つけて忍び込めたんだぜ!」 「札差相手に情報掴むのがどれだけ大変か、てめぇら知らねぇだろ!怖ぇヤツ等がうようよ居るんだぜ!」 「奉行所内の噂話を聞きつけるのとて、大変なのだぞ。後で恨みを買ったり、いらぬ噂も立つのだからな。」 「忙しいスモーカーに繋ぎを取ったのはオレだ。オレが一番頑張った!」 わーわーとサンジをほったらかして言い合う面々に、目が点になるゾロ。 確かに自分は書類を捲っただけだし、サンジが危ない所を最初に駆けつけたとはいえ、サンジの幇間から連絡が偶々ゾロに |
来ただけの事。 なにより・・・。 (これ以上関わると・・・・・・オレがダメだ。) そう思って、俯いていた時だった。 急にしーんと静まり返ったかと思うと、皆の視線を感じてゾロが顔を上げる。 目の前にサンジが居て、その人差し指がゾロに向けられていたのだ。 そのサンジが、口を開いた。 「こいつに決めた。」 皆の姿が見えなくなってから、ゾロが隣に立つサンジを見て言った。 「何でオレだよ?」 「ん?まあな。」 「まあなじゃわかんねぇ。」 サンジがゾロを選んだ事で、皆がサンジに詰め寄ってその理由を問い質している間、ゾロはただただ呆然とその場に立っている |
だけで。 何となく納得いかないまでも、仕方ないといった諦め顔で皆が去っていって。 結局理由も分からないまま、今に至るのであった。 そんなゾロにサンジがニヤッと笑って、ポンとゾロの背を叩くと踵を返して言った。 「行こうぜ。」 「………どこへ?」 「どこって………しねぇの?」 「………身体大事にしろっつっただろうが。そもそもオレはもう貰っちまったし。」 「あれは、てめぇが仇か確かめただけだ。」 「そうかもしれねぇが、もう自分の身体使ってアイツの為に無理すんな。」 ゾロがそう言うと、サンジがゾロから顔を見えないようにして小さい声で呟いた。 「だからさ、てめぇを選んだんだ。」 「??」 「今まで寝た男たちとは、情とかそんなん無くて。ただ、エネルを探すためにしただけだ。勿論てめぇとも。でもよ、てめぇ言って |
くれただろ。『本気になるかもしれねぇ。』って。なら、少しはオレに気があるってことだろ?折角そんなん無しにして身体繋げる
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んなら、オレに少しでも情をくれるヤツとしてぇ。」 「・・・・・・・・・。」 「てめぇがわかってくれてて嬉しかった。親が死んだ後のオレの気持ちをよ。あん時決めたんだ。抱かれるならてめぇがいい |
って。」 「・・・・・・サンジ。」 ゾロがサンジの傍により、その顎を掴んで自分へと向ける。 その顔は、最初自分を誘った時の妖艶なモノとは違い、少し恥じらいを含んだモノで。 それがまた堪らなくゾロの情欲を引き出してくれて。 その場で、ゾロはサンジに口付けた。 「……何か…違うな。」 先程の船宿へ戻り、開いていた部屋を借りた。 布団の上で膝を付き合わせてゾロがサンジの肩に手を置き、今にも抱き寄せようとした時、サンジがポツリとそう呟いた。 「何がだ?」 「ん?いや……こう、何て言うか。アイツ探す為の手段だったんだよ、身体繋ぐの。だから身体は慣れてんだ。ただ、気持ちが |
さ。」 「……気持ち?」 「あぁ。これ自体をしたくてすんのは初めてで。何かこっ恥ずかしいってぇか……照れるな。」 少し頬を染めて、ふわっと微笑むサンジにゾロの鼓動が更に高鳴る。 肩を少し強く掴んで、引き寄せて、抱き締めて。 ゾロがサンジの肩に顔を埋めて、感情と共に吐き出した。 「馬鹿が・・・・・・これ以上煽んな。」 ゾロの言葉を聞いて、フッと小さな笑い声を洩らして。 サンジが腕をゾロの背中に回して言う。 「・・・・・・ゾロ、抱いてくれよ。」 「クソッ・・・・・・!」 毒づくと同時に、ゾロがサンジの唇を自分のそれで塞ぐ。 舌を差し入れて絡めれば、それに応えてくれて。 着物の襟足から手を忍び込ませて肌を弄れば、声を上げてくれて。 身体中に所有の証を刻み付ければ、身を捩って善がってくれて。 サンジ自身を咥え込めば、髪をわし掴んで喘いでくれて。 後孔に自身を突き入れれば、背中に引っかき傷を残してくれて。 どれも、前にした時と同じなのに。 ただ、態度が違うだけで。 誘うように妖艶に自分から仕掛けてくるのではなく、ゾロの動きを待ってくれて。 娼婦みたいに余裕で欲を煽ろうとするのではなく、羞恥で身体中を薄桃色に染めて恥らってくれて。 その仕草に表情に、ゾロの気持ちが固まっていく。 もうどうしようもないくらい、目の前の男が愛しくて仕方ない。 この気持ちが、例え叶えられなくても。 このままずっと傍にいられなくても。 サンジが自分を愛してくれなくても。 きっと、ずっと、自分はこの男を忘れられないだろうな、と。 ゾロはサンジに情欲を打ちつけながら、そう思った。 「行くのか?」 翌朝、腕の中の温もりが無いのに気付いて目を覚ませば、着衣を整えて髪を結い上げているサンジが視界に入り、ゾロはその |
背中に問い掛けた。 振り向くサンジの顔は、昨夜と変わらずゾロの欲を引きずり出す艶やかなもので。 ゾロは身体を起こすと、まだ色香の残るその身体を後ろから抱き締める。 「………寝てる間に出てこうと思ったんだがな。」 苦笑するサンジにゾロが再度問う。 「これからどうすんだ?」 「ん?そうだな、………とりあえず先行ったクソジジィ追っかけるかな。」 「………もう、会えねぇのか?」 項に唇を寄せながらそう聞けば、くすぐったそうに肩を竦めてクスッと笑った。 「何だ、寂しいのか?」 「当たり前だ。」 ゾロが即答すると、笑いを引っ込めてゾロに凭れかかってくる。 「んなこと言うな。行けなくなっちまう。」 「行かなきゃいい。」 ゾロが抱き締める腕に力を込めると、サンジがその腕に手を重ねて振り向く。 唇が、重なる。 少ししてサンジがゾロの頬を軽く抓り、ゾロが不承不承唇を離す。 そんなゾロにサンジは口の端を上げて諭すように言う。 「てめぇは初めて男抱いた刺激におかしくなってるだけだ。さっさと嫁さん貰ってミホークの旦那安心させてやれ。」 「………てめぇは?また身体売んのか?」 「ん〜、もうそんな必要ねぇが、寂しくなったらやるかもな。」 サンジの返事を聞いて、ゾロがサンジの身体を離して立ち上がる。 そして急いで着物に腕を通すゾロに、サンジが茶化すように聞いた。 「自分だけのモンじゃなきゃ、もういらねぇか?」 ゾロはそんなサンジにチラッと視線を送ると、サンジが思ってもみなかった言葉を口にした。 「てめぇが寂しくならねぇように、オレも行く。」 「………はぁ?!」 呆然とするサンジにゾロがニカッと笑った。 「惚れた弱みだ。てめぇが嫌だっつってもとことんつきまとってやる。絶対ぇ、オレじゃなきゃイけねぇようにな。」 橋で一刻待てと言いおいて背を向けるゾロをサンジが呼び止めた。 「来んなっつっても行くぞ。」 「そんなんじゃねぇ。てめぇには言わないどこうと思ってたんだけど教えてやる。」 ゾロの肩に手を回し、サンジが耳元でそっと囁いた。 「往来で、接吻なんざしたのはてめぇが初めてだ。最初っからてめぇは別格だってんだ、このクソゾロ。」 今度はゾロが呆然とする番で。 そんなゾロの頬に触れるだけの口付けをして、サンジがスタスタと歩いていく。 「おい!」 「半刻しか待たねぇ。とっととしやがれ。」 「一刻だ!!」 そう言ってゾロがサンジを追い抜いて、全速力で走っていく。 それを見送るサンジの顔が、心底嬉しそうな表情だったのを見ることなく。 父に殴られた頬を押さえつつ、待ち合わせの橋の袂に向かえば。 風に靡く金髪が目に入る。 こちらに気付きニッと笑うと、欄干に凭れていた身体を起こし背を向けて歩き出す。 それを見失うまいと走って、追いかけて。 花のお江戸の、この澄み渡った青い空の下。 2人の旅は、今始まる。 END |
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最初の出会いの接吻と最後一緒に旅立つ場面v
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