蒼天の下  <弐>




オレの家は蔵前で黄金屋っていう札差やってた。
良心的な金貸しだって、結構評判もよかったらしい。

4年前だ。
あれは、オレがいつもより遅く習い事から帰った日だった。
偶々、その日が掃除当番だったからだ。
「ただいま。」と玄関先で声をかけたが、誰も出てこなかった。
いつもなら、母と勝手場の小夜が出迎えてくれるのに。
大抵、そういう時は客が来ている時なので、客間へと向かった。
案の定、声が聞こえてきて、「ああ、よかった」と安堵したのを覚えている。

「父上、母上、ただいま。」
と部屋の中へ声を掛けた。
その時だった。
バッと障子が開くと、全然見たこともない黒い紋付のがたいのいい男がオレの手を取り、部屋の中へ引き擦り込んだ。
部屋の中では、父と母がオレを呆然と見ていて。
「ほう。ここにこんな可愛らしい倅がいたとはな。」
そう言った先程オレの手を引いた男と、その他に4人。
父と母を取り囲むように座っていて。
何が起こっているのかわからなかったが、悪いことが起きているのだということは流石のオレにも想像がついた。

「まあ、ちょうど余興も欲しいと思っていたところだ。中々首を縦に振って頂けないとなれば致し方ない。」
オレの腕を掴んだまま、その男がそう言って。

いきなりオレを押し倒すと、着物の裾を捲りあげた。
「・・・・・・・!!!」
恐怖の余り声も出ないオレと、やめてと絶叫する父母。
下穿きを剥ぎ取られ、下半身を露にされて。
その頃はまだ女と契った事もない初心なオレだったから、何をされるのか検討もつかず。
肛門に指を捻じ込まれて、酷い痛みに悲鳴をあげた。

「まだ、女ともしたことのない穢れなき肢体。この場で汚してみせようぞ。」
指を入れたまま、その男が他の4人の男たちに声を掛ける。
1人は父母を拘束するため、動かなかったが。
他の3人はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながらオレに近付いてきて・・・・・・。


父母の眼前で、4人がかりで犯された。
泣いても泣いても、それは永遠に続くかと思うくらいに。
指よりも太くて硬いものを無理やり突っ込まれて。
切れて血塗れになっているだろう肛門を、何度も何度も貫かれ。
中で弾けた感覚を覚えて抜かれたと思ったら、別のが入れられて。
もう意識もはっきりとはせず、ただ中で蠢く肉塊が自分が生きていることを知らしめて。

やつらが一枚の紙切れを片手にその部屋を出て行って。
その後に残されたのは・・・・・・。

呆然と畳みに寝転がって、涙をポロポロ零すオレと。
オレの頭を抱き抱いて半狂乱で泣き叫ぶ母と。
ガックリと肩を落として、忍び泣く父と。

その泣き声だけが部屋に響いていた。




オレは、おっとり刀で駆けつけた小夜に背負われて養生所へ連れて行かれた。
小夜は、男の別の仲間に台所に拘束されていたらしい。
開放されて、母の声を聞きつけて飛んで来てくれた。
自身も怖い目にあっただろうに、オレの傍で、オレには何も聞かないで、ただ面倒見てくれた。

10日くらいたって。
何とか身体の傷も癒えて、立てるようになった頃、一度様子を見に行くとウチに帰った小夜が血相変えてオレのところへ来て。


父が母を道連れに自害したと告げた。


その時だ。
オレの髪の色がこんな金色になったのは。

残されたのは、母が大事にしていた銀細工の簪と、オレ。
札差だったオレの家の証文も没収されて、無一文で放り出されちまった。
そんなオレを小夜が預けたのが、芝居小屋バラティエ座だ。
小夜の遠い親戚だそうで。
しばらくは、裏方の仕事とかさせてもらってたんだが。

黒い紋付見ると止まらねぇんだ、打ち殺したい衝動が。
だが、お役人さま全てが悪いんじゃねぇ。
悪いのは、オレを犯し、父母を死に追いやり、家を取り上げたあいつだ。
だから、あいつを探すためにオレは身体を投げ出した。
まだ12のガキに手を出す好きモンだ。
その内、食いついてくるだろうと。


あの笑い声、絶対間違えようがねぇ。
あいつの首取って、オレが地獄へ落ちれば父母も報われるってもんだ。








ゾロは、サンジの話を黙って聞いた。
酷い話だ。
髪の色が抜け落ちるほどの恐怖と悔恨。
きっと大切に育てられたのだろうが、今の表情からは微塵も感じさせない。
おそらくエネルは気付いていないだろう。
それほどに、サンジの容貌は変わっているだろうから。

「で、どうするんだ?」
「・・・捕縛しねぇのか?」
「ま、話聞けば被害者はお前だ。だがな、殺しを容認したんじゃねぇぞ。」
「・・・・・・・・・。」
表情を固くしてゾロの次の行動を見据えるサンジに、ゾロは1つ提案をする。

「4年前の事件だ。調べてやる。んで、証拠を押さえりゃエネルを裁くことができるだろう。」
「あの時だって、散々調べてもらったさ!だが、揉み消された。お仲間の犯罪にゃ目を瞑るのがお役人さまなんだろうが!!」
「いいか、よく聞け。仮にもエネルは次期北町奉行になろうって男だ。当時も役人だったんだろう?どうやったかは知らねぇが、
揉み消しを図ったことは事実だろう。単独、もしくはその仲間とだ。やり方もどこをどう細工すればいいのか、身内の事だ。
簡単に出来ただろう。一方、当時奉行所内にお前に手を貸すヤツはいなかった、違うか?!」
「・・・・・・・・・。」
「だが、今回はオレがいる。」

「オレたちもな!!!」
障子の向こうで声がして、ビクッと2人がそちらを向くと、ガラッと障子が開けられて。

黒い紋付が7人、内2人は袴を穿いていた。

「聞いてたぜ、ゾロ。それと、サンジ。助太刀するぜ。」
黒髪の元気そうな男がニカッと笑って、中へと入ってきた。
それに続いて、他の6人も。
「こんな間近で見たの、初めてだぜ。」
「ああ、スッピンでも美形だなぁ。」
「サンジだ、サンジだ、すげぇなぁ。」
「手も滑々だ。やっぱ、人気役者は違うよなぁ。」
それぞれが、それぞれに感想を言いながらもサンジの傍に座り込んで離れない。
1人ぽつんと輪の外に投げ出されたゾロは、面白くない。

「何で、てめぇらがここにいんだよ?!しかも、盗み聞きか!役人の風上にもおけねぇな!」
「何言ってんだ。ウソップがサンジとお前が連れ立って屋敷に向かったのを見たって教えてくれたんだ。ゾロこそ、ずるいじゃ
ねぇか!サンジを1人締めしようってったってそうはいかねぇぞ!」
黒髪の元気そうな男がそう言って、サンジに向かってニカッと笑う。

「オレはルフィ。ゾロと同じ北町奉行で定町廻り同心やってる。宜しくな!」
サンジがその態度に圧倒されて、こくこくと頷くと、他の6人も我先にと自己紹介を始める。
「オレはエースだ。このルフィの兄で隠密廻り同心、色町の御番所詰めだ。」
「オレがコーザ。札差監督の猿屋町会所見廻り同心だ。」
「オレはシュライヤ。両組姓名掛同心(奉行所の名簿係り)やってる。」
「オレはウソップだ。町火消人足改同心だ。江戸府内のことなら任しとけ。」
「オレがシャンクス。目付だ。相手が旗本・御家人ならオレが必要だろう。」
「先ほども会ったな。ゾロの父でミホーク。年番方与力だ。奉行所全般の事なら大抵わかる。」

その7人がサンジの手を握って力強く言う。
「今の話が本当なら、絶対エネルを許しちゃおけねぇ。皆で力合わせてエネルをやっつけようぜ!」

「・・・・・・でも、オレ・・・オレが、ヤツを・・・。」
「おう、ゾロの言う通り殺しはダメだけど、後はサンジに任せるさ。それでいいだろ?」
「・・・オレ、何にもお礼できねぇし・・・」
「これはオレたち役人の仕事だ。それに不手際があったってことだろう?サンジが気にすることねぇよ。だろ、ゾロ。」
「まぁ、そりゃそうだが・・・。」
輪の真ん中のサンジと、輪の外のゾロが2人して躊躇しているとエースがニカッと笑って言った。

「礼ならさ、オレ欲しいものあるんだけど。」
その言葉に他の6人もピンと来たのか、うんうんと頷いてサンジを見つめた。
「え?何?オレにできることなら・・・。」
サンジが周囲の7人に目をくるっと向けると、7人が声を揃えた。

「サンジとやりたい!!!」

一瞬沈黙が流れたと思ったら。
オレがオレがと7人でぎゃーぎゃーともめ始める。
それをまたしても呆然と見ていたゾロとサンジだったが、サンジの一言で皆の顔が引き締まる。

「そんなんでよけりゃ別にいいけど。でも、1人な。オレが、こいつが一番頑張ってくれたと思うヤツにオレをやるってのはどうだ?」

バチバチバチッとその場に火花が散ったような気がしたのは、ゾロだけではない筈だ。
そして、その視線がゾロに集中した。
「・・・・・・何だ?」
嫉妬の籠もった視線に尻込みしながらも、疑問を口にすれば
「ゾロはサンジとしたのか?」
とルフィが聞いてくる。
他の6人もうんうんと頷きながら、ゾロの返事を待っている。
「え?・・・・・・いや、オレは・・・。」
「こいつとはしてねぇぞ。」
ゾロが答える前に、サンジがそう返した。
皆の目がサンジに向く。
勿論、ゾロの目も。
サンジは軽くゾロに目配せしながらも、他の面子に説明する。
「こいつに付いてきたのは勿論そのためだけど、年聞いたら若かったからよ。話してただけだ。」
その言葉に皆のゾロに向ける視線が気の毒そうに変わる。
それから、作戦会議が始まった。
シャンクスを中心に、誰が何を聞き込みに行くのか。
当然ゾロは、例繰方とあって取調べの様子を記録した御仕置裁許帳を調べるとのこと。
直ぐにその輪から外される。
そこへサンジがやってくる。
「・・・何でオレとやってねぇって。」
疑問を素直に口にするゾロに、サンジがニヤッと笑う。
そして、上目遣いにゾロを見て、こう言った。


「もう一回してぇなと思ったから、っつったら驚くか?」


そのしどけなさに、下半身が反応しそうになったゾロであった。




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