「で、結局、そのまま何も無しってワケ?」 呆れた顔で見てくるシャンクスとエースに何も言えず、サンジはシュガーポットに砂糖を補充していた。 また、週明けの月曜日。 目の前にはティータイム後閑散とした店内でコーヒーを嗜む、いつもの2人。 昨日の事を聞かれ、溜め息ながらに話した内容。 あの後、落ち込んだサンジがゾロにちょっかいなど出せるはずも無く。 2人で映画を並んで見て。 近くの喫茶で食事して。 調子が悪いからと言い訳して。 帰って来てしまったのだ・・・・・・心配するゾロを残して。 「だって、手振り解かれたんだぜ!」 そう激昂するサンジに、首を傾げる年長者2人。 「でもよ、サンちゃん。普通、なんとも思ってねぇ同姓にさ。なぁ、シャンクス。」 「そうそう、幾ら急いでても手なんか取らないぜ。」 「・・・・・・・・・でも、ゾロは優しいから。」 サンジがそう言うと、2人して首をフルフルと横に振る。 「アイツが優しいのは、サンちゃん限定だって。」 「オレが相手だったら、1人で走ってっちまうぞ。」 「・・・・・・・・・。」 そう言われてみればそうかもしれないけど。 なんだか釈然としない。 自分が困った顔してたんならともかく。 「だってオレ、思わず笑っちまったもん。」 サンジのその一言に、シャンクスとエースは「は?」と固まって、そしてギャハハハハハと笑い始めた。 「サンちゃん、可愛い〜〜〜〜〜っ!!」 「嬉しかったんだねぇvv」 ムッとするサンジにお構い無しに笑い転げる2人。 そこへ、ガランガランと入り口のベルが鳴る。 顔をそちらに移せば・・・・・・噂の主、ゾロ。 一瞬強張った顔をして、そしてぎこちない笑みを浮かべたゾロ。 「・・・・・・はよ、ゾロ。どした?」 「いえ、おはようございます。」 硬い挨拶を返され、カウンター越しにサンジが渡したエプロンを受け取り、外へ出て行く。 店の外の掃除の為だ。 何かいつにも増して会話が少なくて仏頂面のゾロに、サンジが落ち込む。 流石に笑っていた2人も、サンジの様子に黙り込む。 沈黙が流れた。 その日一日、非常に気まずかったけれど。 翌日の昼、バイトに顔を出したゾロはいつもの笑顔をサンジに向けてくれて。 普段通りの1週間が過ぎていった。 そして、また週末がやってきた。 今度はデートじゃなく、サンジのマンションに来るようゾロを誘った。 シャンクスとエース曰く、 『恥ずかしがってるかもしれない。』 とのこと。 あの見てくれからすると、結構硬派で彼女もいなかったんじゃないか、と。 そうなると、お付き合いの仕方も知らないんじゃないか、と。 外で、イチャイチャするのなんかとんでもないと思っているんじゃないか、と。 そう言うのだ。 彼女がいなかったはどうかと思うが。 意外とモテる自分を知らず、ずっと彼女など作らなかったのかもしれない。 ならば、やはり2人きりになれる空間で。 そう思うサンジだったが。 「マスターのマンション・・・ですか?」 そう言うなり、答えに窮するゾロ。 閉店前に出したコーヒーカップを持ったまま固まるゾロに、サンジは悲しくなる。 何故、そんなに考えなくちゃいけないのか? 何故、そんなに困った顔をしているのか? 何故、恋人の部屋に来るのが厭なのか? そして、ゾロの返してきた答え。 「すいません。オレ、明日用事があって・・・。」 決定的だった。 その後の1週間は、本当に最悪で。 サンジの顔を見ても笑わないゾロ。 そんなゾロに更に笑わなくなったサンジ。 2人の異様な雰囲気に、シャンクスもエースも他の常連客も何かあったかと声を掛けるのも憚られるようで。 実に気まずい空気が店内に充満していた。 そして、週末。 このまま誘わなかったら、終わっちゃうのかな? ゾロから誘ってはくれないのかな? そう思って土曜日の開店から閉店までゾロの一挙手一投足を見守るサンジだったが。 ゾロから話しかけられることは無く。 当然、日曜日の約束など出来なくて。 月曜日の朝の仕込みをしながら、いつものようにコーヒーを出してやろうとして。 サンジの動きが止まる。 コーヒーカップを持った手にポツンと雫が落ちて跳ねた。 (え?・・・・・・何?) サンジがビックリして自分の手を見て。 そして、目の前で固まっているゾロに視線を送った。 そこには、目を見開いて驚く心配そうなゾロの顔。 「・・・・・・どうしたんですか、マスター?」 「え?オレ?どうしたって・・・・・・。」 「何で、泣いてるんですか?」 そう言われて、サンジが自分の目元に手をやれば、指を伝う雫に気付く。 「あ・・・あれ?おかしいな。目にゴミでも入ったのかな?」 そう言いながらゴシゴシと乱暴に目元を拭うが、後から後から零れ落ちてくる。 自分では止められない。 もう、心が限界なのだ。 「オレ・・・・・・。」 サンジが口を開く。 それを、ただ心配そうに見詰めるゾロ。 「オレ、泣く気なんか無かった。無かったけど・・・もう、ダメだ。」 ゾロは優しいから、泣いちゃダメだ。 そう思っても、やっぱり辛くて。 ゾロの気持ちがわからなくて、その本当の気持ちを聞く事が怖くて。 自分から別れを切り出さなくちゃいけないのかと、胸が痛くて。 それでも、このままじゃ持たないから・・・。 「ゾロ・・・てめぇ、オレと別れたいんだろ?」 「はっ?!!何言ってんですか?」 「だって、そうだろ?!オレと何かしたいとか思わねぇんだろ?ただ、年上の兄貴の代わり位にしか思ってねぇんだろ?」 「違います!!オレは―――」 「ならっ!!!何でオレに手ぇ出してこねぇんだっ!!!」 「・・・・・・・・・。」 ゾロが更に目を見開いてサンジを見る。 サンジはそんなゾロに、ポロポロ涙を零しながら切々と訴えた。 「普通恋人同士なら、手ぇ繋ぎてぇとか人前でもキスしてぇとか抱いてみてぇとか思うんじゃねぇのか?でも、てめぇはそんなんじゃ なくて、 |
ただオレの傍に居て相手がしたいだけなんだよ。オレはそんなんなら、いらねぇ。耐えらんねぇ。好きなてめぇ見てて、何もしないな
んて。」 「・・・・・・・・・。」 「こんなん年上のオレから言ったら、てめぇ無理するかと思ったから言わなかった。でも、もうダメだ。オレ、限界だ。わか―――」 ガタンと椅子の倒れる音がして、目の前にゾロの腹部が見えるなぁと思ったら。 「別れようぜ。」と言おうとした唇が熱いもので塞がれた。 顎を掴まれ、顔を上に向けられ、後頭部を鷲掴みにされて。 視線の先には、ゾロの閉じた瞼。 これが、ゾロとのキスだと気付いて、サンジはゾロの肩を押し返して離れようとするがビクともしない。 開いた口から舌が入ってきて、サンジの中を荒々しく舐め回される。 初めてのディープキスに、その意味も解らぬまま、サンジはまた新たな涙を零す。 最後の最後でこんな・・・・・・情熱的なキスくれやがって。 唇が離れて、自分を見つめるゾロの表情は物凄く官能的で。 サンジは砕けそうな腰を、カウンターを持つ両手で支えた。 ゾロは、カウンターに片膝立てて、サンジの肩を掴んで言った。 「何言ってんだ、あんたはっ!オレが別れたいワケねぇだろっ!!」 「でも・・・・・・。」 「そりゃ確かに手は出さなかった。出しちまったら、オレは・・・・・・。」 そう言って、サンジの肩を離して。 ゾロは倒れた椅子を戻して座り、握り拳をカウンターにダンと叩きつける。 「・・・・・・ゾロ?」 「オレは、こんなに自分が人に執着するなんて知らなかった。あんたが好きで好きで仕様がねぇ。傍に居れば、抱き締めたいしキス したいし |
それ以上の事もしたい。でも、それだけじゃなくて・・・。オレはあんたが他の人と話してりゃムカつくし、あんたを誰かが触ったりした
日にゃ
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ソイツをぶん殴りたくなる。」 「・・・・・・・・・・。」 「店のマスターだ。誰もがあんたに好意を持ってる。あんたも客にはそれ相応の思いもあるだろ。そんなあんたの仕事の邪魔したく ねぇんだ。 |
抱いちまったら、絶対感情が出ちまう。ちょっとした事で、客に突っかかっちまうかもしれねぇ。それじゃ、ダメだろうが!」 「ゾロ、てめぇ・・・・・・。」 「だから、もうちっと気持ちが、あんたに対する気持ちが落ち着くまで手ぇ出さねぇって・・・・・・そう決めてたんだ。」 拳を震わせて、その上に額を乗せて、ゾロが搾り出すように口にした台詞を聞いて。 全て全て自分の為にゾロが我慢していてくれたのだと知って。 サンジはカウンターの中から外へ出ると、ゾロの後に立ち、そしてその身体を後ろから抱き締めた。 「マスターっ?!!」 「名前・・・呼んでくれないのも、その為か?」 「・・・・・・名前なんか呼んじまったら、オレ・・・我慢できねぇ。」 愛しくて愛しくてどうにかなりそうだ。 こんなにも好きでいてくれて。 こんなにも自分を想ってくれていて。 例えそれが見当違いの優しさだとしても、サンジは最高に嬉しかった。 「抱いてくれよ、ゾロ。」 「マスターっ!!!」 「いいんだ。もっと感情見せてくれよ。もっとヤキモチ妬いてくれよ。じゃなきゃ、オレ、不安になっちまう。てめぇに好かれてるって証 拠が、 |
確かな証拠が欲しいんだよ。」 ギュッと力を込めてゾロを抱き締める。 自分の気持ちが肌越しに伝わるように。 ありったけの想いを込めて、ゾロの心に届くように。 ゾロがサンジの腕を外して振り返る。 その目は、もう迷いなどなく。 ただ真っ直ぐにサンジの瞳を射抜く、情熱的な視線で。 「・・・・・・サンジ。」 そう言って頬に乗せられた手の上に、サンジは手を重ねて頬を摺り寄せる。 そして、ニッコリ笑ってやった。 ふわっとゾロの顔が綻ぶ。 自分が好きだと告白した後の、ゾロの嬉しそうな笑顔。 それが近付いてきて。 甘くて深くて情欲の篭った長いキスをくれた。 「抱いていいか?」 ゾクッとするような低い声で囁かれた言葉に、サンジはコクリと頷いた。 |
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