Hey!Master!  7




周囲の視線に構うことなく、ラキはゾロに向かって歩いてきた。
そして、ゾロの顔を睨みつけると、コートを近くの椅子に掛けた。
「ゾロ、あんた、明日来ないって本当かい?」
ゾロの質問には答えずに問い質す口調は、詰問調で。
思わず、ゾロは遠慮がちになってしまう。

何しろ相手が相手だから・・・。

「あ〜、仕事があっから・・・・・・。」
「仕事ってなんだい?大体、クリスマスにはウチに来るって決まってたじゃないか?」
「ちゃんと、話はあ・・・・・・。」
「何で、あたしに直接言わないんだい?それとも彼女でも出来たってそう言うのかい?」
「いや、その・・・・・・。」
ゾロが口籠もっていると、ラキの後ろから声がした。


「ゾロ、明日別にいいぞ、無理しなくても。」


サンジだ。
ラキがサンジを振り返る。
ゾロもサンジを見る。

そして、目を見張った。

今まで見たことも無いような、それは何か含んでいるかのような作られた笑顔で・・・。
「レディ、すいません。オレがゾロに無理言って明日ちょっと頼んだんですけど、用事があるなら・・・。てめぇもちゃんと言えよ、ゾロ。」
「・・・・・・マスター。」
サンジの表情の意味が読み取れず、ゾロはただそう呼ぶしかなかった。
ラキはそんなサンジの顔を見て、ふうんと斜に構えて呟くと、ゾロに向かって言った。
「どうすんだい?ホントに仕事みたいだけど、あっちはいいって言ってくれてるみたいだよ?」
「・・・・・・夜、電話します。」
「わかった。これからは、ちゃんとあたしに言うんだよ。じゃあ、夜にね。」
ラキはそう言うとコートを手に取り、お邪魔しましたと言って店を出て行った。

店内に静けさが戻る。


ゾロがフウッと溜め息を付いて、トレイを元の場所に戻そうとしたその時、サンジが口を開いた。

「エース、シャンクス。オレ、今日付き合うよ。」

ゾロが、バッと顔を上げてサンジを見る。
目に入ったサンジの顔は先程と同じ、作られた笑顔で。
その笑顔とは対照的に、エースとシャンクスの顔がパァッと輝く。
「ようし、そうこなくっちゃ。」
「サンちゃんが来るなら、いいとこ探さなきゃな。」
「今から探すのか?サンちゃんとこ行った方がよくねぇ?」
「それもそうか。いい?サンちゃん。」
「・・・・・・いいよ。」
浮かれまくった2人の口調に、感情の篭らないサンジの声が重なる。

ゾロは、その会話をどこか遠くで聞いている気がした。

サンジが、今宵誰かと過ごす。
サンジが言っていた、恋人達の特別なクリスマスイブの日に。
それは、ゾロが思っていたサンジの想い人ナミとではなく
いつも、断りを入れていたエースとシャンクスで・・・。

(マスター、何で・・・何で・・・?)
目線をサンジに向けても、サンジはゾロを見ない。
ラキが来るまでは、あれ程自分を見てくれて、話し掛けようとしてくれたサンジが・・・。
何が・・・・・・いけなかった?

ゾロは、その答えが出ないまま、その日一日を悶々と悩んで過ごした。




閉店作業を終了して、サンジもゾロもエプロンを外す。
無言でコートを羽織り、店内の照明を落とした。
いつもなら、ここでお疲れ様と優しく笑ってくれるサンジが、今日は自分を見ない。
視線を逸らしたまま、「じゃあ、行くわ」と言って、店を出ようとする。

その手首を、ゾロは無意識に掴んだ。

「?!・・・・・何?」
振り向くサンジの目は、やはり下を向いていて。
ゾロは、そんなサンジに怒りを覚える。

何故、自分の本当に好きな人以外と、大事な夜を過ごそうとする?
自身が言ったんじゃないか、そういうものだと。

「何故、あいつらと過ごすんです?」
ゾロは率直に聞いた。
はぐらかされないように、暗い店内でその表情の変化を見逃さないようにその目を下から覗き込んで。
サンジは、そんなゾロの視線から尚も逃れようと横を向いて答える。
「てめぇには、関係ない。」
サンジの冷たい突き放すような台詞に、ゾロがたじろぐ。
その一瞬を、サンジが見逃すはずも無く、ゾロの手を振り解いてドアを内側へ開けようとする。
ゾロは、慌てて駆け寄りその開きかけたドアを殴るように閉じた。
ガランガランとベルが騒がしく鳴り、ガシャンとドアのガラスが悲鳴を上げる。
「何しやがる!!」
「関係ないかもしれませんが、行かせませんっ!」
「何でだ?!」
「何でナミってヤツじゃなくてエースとシャンクスなんですか?」
「?!!どうして、ここでナミさんが出てくんだ?!」
「好きな人と過ごすのがクリスマスだって、そう言ったのはマスターじゃないですか?!」
「あぁ、そうだ。だから、てめぇは昼間のレディと過ごせばいいじゃねぇか!!」
「オレの事なんか、どうでもいいでしょう!今はマスターの――――」
「オレの事こそ、関係ねぇだろ、てめぇには!どうせ、オレは1人モンだ。彼女がいるてめぇにはわからねぇよ!」
そのサンジの言葉にゾロがキレた。
サンジの身体に手を伸ばし、慌てて逃げようとするその身体を後ろから抱き締めた。
「ゾロっ!!離しやがれ!!!」
ゾロは、もがくサンジを抱く腕に更に力を込める。

今言わなければ、絶対に後悔する。
本当は打ち明けないで止めようと思っていたけれど。
そうすれば、止めた後も顔を出して、今度は客としてサンジと会えるかもしれないと考えたけれど。
でも、もう限界だ。
例え、嫌われても。
例え、二度と会ってくれなくても。

絶対に、絶対に・・・・・・行かせちゃ、なんねぇ!!

ゾロはそう決意して、心のままに必死に言葉を紡ぐ。
「彼女なんかいねぇ!オレが好きなのはマスターだけだ!!オレは、マスターが好きだから。初めて会った時からずっと好きだから。 でも、マスターが好きなのはナミってヤツなんだろ?エースやシャンクスじゃねぇだろ?だったら、行っちゃダメだ!!ぜってぇ、ダメ だ。オレが行かせねぇ!」
ゾロがそう言うと、それまで何とかゾロから逃れようとしていたサンジの動きが止まる。
そんなサンジをゾロは抱き締め続ける。
目の前のドアの外を、車のヘッドライトの明かりが何度も瞬いては消えていった。
その体勢のまま、時は過ぎていく。
しばらくして、サンジが自分の前に廻されたゾロの腕に手を乗せた。
その動作でサンジが逃げないことを悟ったゾロが腕の力を緩めると、サンジはその腕を外してゆっくり振り向いた。
動揺したような、何か伺うようなそんな表情で。
「・・・・・・じゃあ、昼間のレディは何なんだよ?」
「あれは、オレの兄貴の嫁さんです!」
「っ??!じゃあ、不倫か?!それとも、横恋慕か?!」
「なんで、そうなんですか?オレの好きなのはマスターだって言ってるじゃないですか!」
「ウソだっ!!!どうみても、この間てめぇが言ってたまさに好みのタイプじゃねぇか!」
「あれこそ、マスターに警戒されないためのウソです!!」
驚いた表情のサンジの手を引き、その身体を抱き寄せた。
抱き寄せて、頭を抱え込んで、顔を見られないようにして、そしてゾロは言葉を続ける。
「オレは、これまでここでバイトしたことのあるヤツに聞いた。マスターにはずっと想い続けてる人がいるって。その人以外は目もくれ ないって。そんなマスター見てられなくて辞めてったヤツと、告って雰囲気悪くなって辞めたヤツがいるってそう言ってた。だから、オ レは決めたんだ。マスターの傍に居たいから、絶対自分の気持ち伝えないと。だけど、だけど、マスターが他のヤツ思ってるの見て るの耐えらんなくなってた。だから、もうここ止めようって。好きな人と・・・マスターとクリスマス過ごして何も言わずに終わりにしよう って。後任せるヤツも探した。でも、マスターが自分の気持ちに嘘ついて他のヤツんとこ行くの見てらんねぇ。だから、オレ・・・・・・オ レ・・・・・・。」
もう、言葉も見つからなくて、何と言ったらサンジが行くのを止めてくれるか解らなくて。
ただ、ただ、サンジを動けないようにきつく抱き締める。
その時だった。

サンジの腕が、ゾロの背に廻されたのは。

その感触に気付いて、ゾロが抱き締める力を少し弱めてサンジの顔を見ると・・・。
真っ赤な顔で、目に涙を浮かべていた。
「え?・・・・・・あの、マスター・・・?」
「ホントか?今、てめぇが言ったの・・・。」
小さな声で、囁くように言うサンジの顔はいつにもまして綺麗で。
ゾロは思わずゴクッと喉を鳴らして、口に溜まった唾液を飲み込む。
「ホント、です。・・・・・・オレ・・・マスターが、好きです。」
意を決してゾロがそう告げると、サンジの両目から涙がポロポロと零れた。
ゾロが慌てて、ポケットからハンカチを取り出そうとすると、その手をサンジがやんわりと押さえた。
「いい。これは・・・・・・これは、拭わなくていい。」
そう言って、今度はサンジが抱き付いてきた。
そして、ゾロの肩口に顔を埋めて言った。


「・・・・・・ずっと、てめぇが好きだった。」




8へ  6へ




TOP  SS<パラレル>