ゾロと初めて会った後、自分の店の前を通るゾロを偶然見た。 思わず、窓にへばり付いて見送ったサンジだった。 そんなサンジを見てか、常連客の1人が最寄の駅から通学してる大学生だと教えてくれた。 毎日大体同じ時間に通学するゾロを見ることを、どれほど楽しみにしていた事か。 そんなゾロが最初、バイトとして喫茶店に訪れた時は、本当に驚いた。 嘘だと思って、一瞬声を掛けるのを忘れた位だ。 何とか平静を保って、それでも一緒に仕事したいと痛切に思った。 実際に話をしてみても、いいヤツであることは直ぐにわかった。 正直で、実直で、ちょっと客商売には不向きなところもあるが、それは生真面目さがカバーして・・・。 サンジのゾロへの想いは日を追うごとに深くなってく。 でもゾロの態度は、今までのバイトの子達とは違う一線を引いたもののように感じた。 どこか自分に対し、遠慮しているかのように。 だから、少しでも近付きたくて普段ならしないスキンシップもした。 抱き付いてみたりもした。 日曜日にデートに誘ったり、ウチに泊めたりまでしたのだ。 それでも、ゾロの態度は変わらない。 だから、サンジは賭けに出た。 サンジの語ったゾロとの出会い。 あれは、ゾロにカマを掛けたのだ。 自分を覚えていないだろうか? 少しでも、自分に興味を持ってくれていないだろうかと。 だが、結果は散々だった。 ゾロの好みは、当然自分では有り得なくて。 しかも、好きな人がいると言う。 その後、余所余所しくなったゾロの態度に、自分の気持ちがばれたのではないかと危惧を抱いた。 だから、もうあんまり苦しいから、傍に居るのは止めようと。 何とか理由をつけて、ゾロをクビにしようと思っていたのだ。 |
抱き合いながら耳元で囁かれるサンジの気持ちを、ゾロは信じられない想いで聞いていた。 サンジの涙が、ゾロの肩を湿らせなければ サンジの声が、震えていなければ (信じらんねぇ・・・・・・でも、これは・・・!) からかわれていない事を実感する。 腕の中にいる愛しい人が、自分を好きだと全身で訴えてくる。 抱く腕に力を込めれば、頬を摺り寄せてくれる。 「・・・・・・マスター、ホントに?」 「サンジだ、ゾロ。ホントに、てめぇに惚れてる。」 甘い声で、愛を囁いてくれる。 嬉しくて・・・嬉しくて・・・。 ゾロの視界が歪んでいく。 ズッと洟を啜ると、サンジが顔を覗き込んできて優しく笑う。 「・・・バカ、てめぇが泣くな。」 そう言ってサンジがゾロの頬を両手で挟んで、目尻の涙を指で拭ってくれた。 その笑顔にポーッと見惚れていたゾロだったが、ハッとあることを思い出した。 前に泊まりに行った時、サンジが話していたサンジが恋に堕ちた相手。 自分にそんな覚えは無かったはず。 「あの、聞いてもいいですか?」 「何だよ?」 「その・・・・・・・・・マスター、好きな人って?」 「??だから、てめぇ・・・。」 「オレ、以前マスターが言ってた、品のいいおばあさんなんて助けた覚えないですけど。」 「?間違いなく、てめぇだよ。駅前の売店の静江さん、助けたのお前だろ?」 「静江さん?静江・・・しず・・・・・・、あ〜〜〜っ!!しぃ婆か!!!」 真冬でも、土砂降りでもつっかけ引っ掛けて出歩く70歳代のお婆ちゃん。 品がいいどころか、どちらかといえばずうずうしい部類のお婆ちゃんだ。 毎朝、その売店で牛乳とパンを買って朝食を済ますゾロとは顔見知りだ。 あの日も、どっかのレストランへ酒を届けに行った折、ちょうど目に入ったのだ。 横断歩道の真ん中で泥濘に足取られてすっ転んだしぃ婆。 慌てて助けてやったら、やれ荷物を取って来いだの、つっかけ片方落としただの散々こき使われ、近くのレストランまで送らされた後、結局 ウチまで送ってやったのだ。 持ってたビールケースも投げた反動で半分は割れてしまい、残り半分もびしょ濡れで酒屋の主人に散々怒られた。 正直、いい思い出ではない。 勿論、隣で自分を見ていたサンジに気付く暇など到底なく。 あれを、どう美化したらあんな話になるのか・・・。 しかも、老婦人って・・・・・・どう考えてもクソ婆の類じゃねぇか!! ゾロがガボーンと口を開けて放心していると、サンジがその頬を撫でて言った。 「てめぇが口ではぶつぶつ言いながらも、全部引き受けてやってて。それ見て思った。いいヤツなんだなって。」 「・・・・・・・・・マスター。」 「てめぇが好きだ、ゾロ。」 「オレもです、マスター・・・・・・サンジ。」 名前をゾロが呼んだ途端弾けるように浮かんだサンジの笑顔が、物凄く綺麗で、幸せそうで。 そうさせているのが自分だと思うと、たまらなく嬉しくなって。 気付いたら、その口にキスをしていた。 エースとシャンクスにキャンセルと謝罪をしたいとサンジが言うので、待ち合わせの喫茶店に2人で行った。 彼らは、サンジと並んで入ってきたゾロを見て、ニヤニヤ笑いながらこう言ったのだ。 「もう、くっついちゃったの?」 「やっぱり、ナミちゃんだね。1人勝ちじゃん。」 呆然とするゾロたちに、エースとシャンクスが笑いながら話してくれた。 お互いの気持ちがわかってないのはお互いだけで、傍から見たらまるわかりだったと。 自分の事を誤解しているだろう事もお見通しだったナミは、面白がりながらもサンジのためにと動いた。 できるだけ、ゾロが行動に出るように、と。 サンジは絶対自分からは動かないから、と。 勿論、常連客に『年内にくっつくかどうか』なんぞという賭けを持ちかけ、1人年内と賭けたのはナミだと。 ニコニコ笑いながら、今日はお2人でごゆっくりとからかうエースとシャンクスを見てゾロは思った。 でも、解せない。 あそこでエースとシャンクスがサンジを誘わなければ、ゾロも行動に出なかったのだ。 火に油を注ぐようなものだ。 賭けに負けるかもしれないのに・・・・・・どうして? その疑問をゾロが2人にぶつけると、2人は目を丸くした後、ニカッと笑った。 「だってよぉ、あんなサンちゃん見てらんねぇじゃん?」 「そうそう、この世の終わりって感じだったぜぇ。」 茶化す2人に、うるせぇと恥ずかしげに蹴りを繰り出すサンジを何とか抑えながらも、ゾロは思った。 (こりゃ、泣かしたりした日にゃ客が皆で殴り込みに来そうだな。・・・・・・ま、そんなことぁ、しねぇけどよ。) 翌日のクリスマス常連さんのみパーティーは、ゾロとサンジのお披露目パーティーに摩り替わっていた。 全てはナミの計算通りと言わざるを得ない。 現に、ナミの彼氏(ルフィという名前らしい)が出張というのも当然ウソで。 サンジにゾロとのクリスマスをプレゼントしたかったというのが本音のようだ。 なんで、そこまでしてくれるのかと聞いたところ、帰ってきたのは意外な返事。 「だって、ルフィと食事に行くと物凄くお金かかるんだもん。サンジくんに貸し作っとけば、毎日ただでご馳走してくれそうじゃない?」 「・・・・・・・・・。」 ゾロは呆れるだけだったが、彼氏、サンジを初め常連さん達は非常に納得した様子だった。 皆から祝福の声を浴びて、正直ゾロは閉口したが・・・。 恥ずかしそうにしながらも、ゾロの傍から離れないサンジを見るにつけ、ゾロは幸せを噛み締めるのだった。 そして、3年後。 ゾロは晴れて社会人としての1歩を歩き始めた。 サンジとの同棲生活も順調だ。 しかし、サンジの方はというと・・・・・・そうでもないらしい。 駅前通りにある小さな喫茶店『ブルーヘブン』。 若いマスターが経営するその喫茶店は、立地条件に恵まれ、また値段の割りに旨いとの評判だ。 しかも、そのマスター、近年めっきり艶っぽくなったと巷の評判は鰻登りだ。 バイトもしばらくは同じ人間が勤めていたらしく、安定していた。 客層は若い女の子から、中年のおじ様たちまで幅広い人気を誇り傍から見れば何の問題もない様に思われたが。 そう、たった1つだけ困った問題点があった。 ここ最近、またしても男のバイトが居着かないというのだ。 その理由は・・・。 「だ〜っ、ゾロ、何回言やぁ気が済むんだよ!!」 「何で、バイトがいるんだ?オレが帰ってから手伝うっつってんじゃねぇか!」 「昼間にいなきゃ、配達されるモノ整理出来ねぇだろが!」 「心配なんだよ、オレぁ!!」 「・・・・・・・・・!!(顔、真っ赤)だ、だからっ!オレにはゾロしかいねぇっつってんだろ!!」 「・・・・・・・・・!!(一緒に真っ赤)お、おう。わかってっけどよぉ・・・。」 照れるゾロの首に、サンジがその少しピンク色に染まった白い腕を巻きつけて、ゆっくりと唇を重ねていく。 受け入れるゾロも、当然満更ではなく、自分からそのサンジの唇に自分のそれを近付ける。 舌の絡み合う音がピチャッと響く、その場は『ブルーヘブン』店内。 しかも営業時間中なのだ。 見せ付けられる痴話喧嘩と、濃厚なラブシーンと、そしてなによりマスターのお相手の悋気の激しさ。 毎日見慣れている客達は、ほらまた始まったと囃し立ててはいるものの、一緒に仕事をする学生バイトにはちょっと刺激が強すぎるようで。 なかなかバイトが居着かないのも無理は無い。 END |
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入るバイト入るバイトに持てまくるサンジと、そんなサンジに一目惚れしたゾロv
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