買い物後、2人でランチを取り、場所を変えてコーヒーを飲みながら考え事に耽るゾロだったが。 「おい・・・・・・おいっ、ゾロ!!!」 大声で呼ばれてハッと顔を上げると、サンジが心配そうに自分を見ていた。 「どうした?疲れたか?」 「あ、あぁ、いや。ちょっと、ボーっとしちまっただけで。いつもこの時間は昼寝してっから。」 適当に誤魔化すと、サンジは折角のお昼寝タイムに悪ぃなと謝ってきた。 ぶんぶんと首を横に振るゾロ。 それに安心したかのようにサンジが笑う。 「なら、いいんだけどよ。」 その笑顔に後押しされて、ゾロは勇気を振り絞った。 「・・・・・・あの、マスター。ちょっと聞いてもいいですか?」 ゾロは、サンジの顔色を伺うように話す。 そんなゾロの態度に、笑っていた顔を急に引き締めてサンジが構える。 そして、コクンと頷くサンジを確認して、ゾロが口を開いた。 「何で・・・その・・・オレンジに変えるんです?」 その台詞にサンジが、えっと拍子抜けしたかのように答える。 そして、なあんだ、んなことかと言い、少し冷めたコーヒーに口を付けた。 「この色はよ、オレの好きな人のイメージっつうかさ。そんなんだからだよ。」 「・・・・・・マスターの好きな人って・・・?」 「う〜ん、てめぇに言うのもなぁ。・・・・・・ただ、太陽の日差しみてぇな暖かさを感じさせるんだよ。うん。」 「・・・・・・そうですか。」 サンジが嬉しそうに話すのを見ていられなくて、ゾロは下を向いてコーヒーを飲む。 太陽みたいなサンジの好きな人。 どんなヤツなんだろうと考えていると、サンジが言った。 「あ、でも、今使ってるやつもそのまま使うぜ。大事なゾロの色だもんな!」 「えっ?!!」 サンジの台詞にビックリして、俯いていた顔を上げるとサンジが照れたように笑っている。 それを見て、ゾロも顔が火照っていく。 「お前が来てくれて、ホント助かってる。ありがとな、ゾロ。」 「・・・・・・いえ。」 もう、それだけしか言えなかった。 自分はサンジにとって、バイトとして大事なのだ。 サンジは、ゾロではない誰かを好きで好きで、ずっと想っているのだ。 (それでも・・・・・・それでも、いい。) ゾロはそう思う。 兎に角、傍に居て、話をして、頼ってくれればそれでいい。 自分に言い聞かせるように、何度も何度も心の中でそう呟いた。 その後、サンジはゾロに帰っていいと言ったのだが、1人で店内の模様替えをする事を想定して自分も手伝うとゾロは言った。 鬱陶しがられるかと思いきや、 「・・・・・・そっか、悪ぃな。」 と嬉しそうに笑いかけてくれるサンジ。 (こりゃ、マジで対象外だな・・・。) とちょっとがっかりしながらも、サンジの後に付いて喫茶店に向かう。 そして、今にも扉を開けようとした時、 「サンジく〜ん。今日は休みじゃないのぉ?」 と道の反対側から女の声がした。 振り向いた目に飛び込んできたのは、目にも鮮やかなオレンジの髪。 (あの女が、あの女が・・・・・・マスターの・・・?) ゾロが固まっているのを横に、サンジがハイテンションで答える。 「んナミすわ〜ん!!君こそ、どしたの〜?」 ぶんぶんと手を振るサンジの横で、ゾロが呆然としていると、ナミといわれた女がチラッとゾロを見た。 そして、妙に納得気な顔をして頷き、言った。 「可愛いの連れてるじゃない、サンジくん。彼氏?」 「−−−−っ?!!」 更にゾロが固まると、サンジはニカッと笑って冗談交じりの台詞を口にした。 「え〜、そう見える?オレの可愛いバイトくんだよ〜v」 「−−−−っ?!!」 ああ、もうどうにでもしてくれと投げ遣りになるゾロ。 見るからに嬉しそうなサンジの態度に、この女がサンジの彼女なんだろうとゾロは思う。 目の前で彼女といちゃつかれるのは御免と、適当に理由を言って帰ろうとしたその時だった。 「ナミさ〜ん、今日はクソゴムはいないの〜?」 「今からデートよvサンジくんの店の前で待ち合わせなの。」 (デート?デートっつったか、今?・・・・・・んじゃ、彼氏持ちか?) ゾロが混乱している間に、ナミは道を渡ってサンジの隣に立つ。 そして、サンジが「コーヒーでもいかが?」と誘うと、ナミはう〜んと困った顔をした。 「サンジくんの店、休みだからここで待ち合わせしたのよ。だって、他のとこにすると食べ物に釣られて動けなくなっちゃうんだもん。」 「なら、クソゴムがすぐ腹一杯になるように先に何か用意するよ。ゾロ、手伝ってくれよ。」 ナミをエスコートして店のドアを開けながら、ゾロを振り返る。 その態度は、いつも女相手にする態度とは少し違ってて。 相手を持ち上げながらも他人行儀な態度を取るサンジが、ナミ相手だと親密さが加わっているように感じるのは気のせいか? そう思いながら、ドアを支えるサンジに代わりドアに手を伸ばした。 オレンジ色の意味ははっきりと解らぬまま、師走の月は慌しく過ぎていく。 あの後、ナミの待ち合わせの相手が現れ、散々サンジの手料理を食べて帰っていった。 腹6分目だとか言いながら。 食べ続けるその彼氏を見つめるナミは、物凄く楽しそうで。 恋愛に疎い自分から見ても、ナミが彼氏に惚れているのは歴然だった。 そして、時折サンジが彼女に向ける羨望の眼差しも。 (彼女が好きなんだとしたら・・・・・・報われねぇな、マスター。) 彼女達が帰っていく時の、サンジの寂しそうな顔にゾロの心は痛んだ。 目の前で幸せそうにされるのも辛いが、叶わぬ想いに胸を痛めるのを見るのも辛い。 ゾロは、サンジの好きな人に関して聞くことが出来なくなってしまった。 オレンジの意図も・・・。 結局、その後片付けに追われ、模様替えも済ましたら結構いい時間になってしまって、サンジに夕食を振舞ってもらった。 その時は、もういつものサンジだったことにゾロはホッとしたのだった。 日曜日に一度でも付き合ったのがサンジにとっていい口実になったのか。 あれから、やれクリスマスディナーの検討だ、テーブルセットの変更だとよくお誘いが掛かる。 平日の日中、2人きりになる時間だけでは到底足りない。 土曜日などは、客の食事時間がずれてくる為、空き時間など取れない。 ゾロも極力、講義の合間を縫ってサンジの元へ駆けつけた。 当然日曜日も朝から晩まで付き合ったりしたのだが。 やはり、限界はある。 そして・・・・・・。 「なぁ、ゾロ。今度の週末、ウチに泊まりに来ねぇ?」 ついに、魅力的だが理性を試されるお誘いがサンジの口から飛び出した。 お泊りとなれば、当然風呂上りの姿なんぞ拝めちゃったりするのだ。 んでもって、無防備な寝顔なんぞ見てしまった時には・・・・・・・。。 果たして、気持ちを打ち明けずに一晩越せるのだろうか? 態度に出ないだろうか、いやいや行動に移しちゃったりしないだろうか? 不安に駆られながらも頷くゾロの姿があった。 クリスマスまで残すところあと2週間。 土曜日の営業時間を終え、掃除と月曜日の下準備をして店を閉めた。 そして、イルミネーションに着飾られた街並みを、サンジと2人並んで歩く。 ついに約束の週末が来てしまった。 毎日毎日、サンジの顔を見る度に、自分に笑い掛ける度に言い聞かせてきた。 (自分に気がある訳じゃねぇ。ただのマスターとバイト、マスターとバイト、それだけだ。) そんなことばかり考えているせいだろうか。 自分では自覚が無いものの、思い詰めた様な表情になっているようで。 気が付くと、息がかかるほど近くに心配そうなサンジの顔があったした。 ビビッて仰け反ったりすると、サンジが聞くのだ。 「どうした?ここ連日無理聞いてもらっちまってるからな。疲れてねぇか?」と。 いや大丈夫っすと返しながらも、まともに顔なんか見られたもんじゃない。 そっぽ向いてしまったり、客が呼んでもいないのに水のお代わりを持っていったりしてしまった。 そんな平素と違うゾロの態度を、何となく感じているのだろう。 サンジのスキンシップは、少し形を潜めた。 それに対し、寂しいながらもホッとするゾロがいる。 気を使わせて申し訳ないとは思うけれど。 なんとか理性を保とうとゾロは必死になって頑張った・・・・・・周囲の視線も目に入らない程に。 週末のお泊りは、ゾロにとって試練の時なのだ。 サンジの住むマンションは、ちょうどゾロのアパートと駅を挟んで反対側に在った。 通された部屋は2LDKの、1人で住むには少し広めの暖かな感じのする部屋で。 サンジのイメージに合うアイボリーで統一された内装に、木製の家具が置いてあった。 ゾロは、荷物をリビングのソファ脇に置くと、室内の暖房器具に火を入れるサンジに声を掛ける。 「今から、どうすんですか?」 「とりあえず、風呂沸かしてくるから、てめぇ先入れよ。寒いだろ?」 「え?いえ、オレは別に後でも。マスター、先にどうぞ。」 「オレは、てめぇが風呂入ってる間に試食してもらう料理準備しとくから。」 サンジはそう言うと、ゾロの返事も聞かずにキッチンにあるバスルームのボタンを押す。 そして、冷蔵庫から昨日までに下拵えしておいたのだろう材料を取り出すと、鼻歌交じりに調理を開始する。 ゾロが所在無くウロウロしていると、サンジはそんなゾロの様子にクスクス笑いながらソファを指差した。 「風呂のアラーム鳴るまで、そこに座ってろ。茶くらいなら、直ぐ出してやる。」 「・・・・・・はい。」 大人しく言うことを聞くゾロに、サンジがいつもの笑顔を向ける。 ゾロはソファに座って、荷物の中からスウェットを取り出し風呂の準備をする。 なにかしていないと、サンジに視線が集中してしまいそうで。 アラームが鳴るまでの少しの間が、ゾロにとっては決して短くはなかった。 |
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