笑顔の行方  3




ゾロは昼寝の為、船尾でラウンジ側の壁にもたれて座り込んでいた。
あの『ほっぺちゅ』の後どうにも居たたまれなくて、ラウンジからここまで逃げてきてしまった。
――――アイツぁどう思ったかなぁ。傷つけちまった・・・・・・か?
後に残されたサンジを思う。
こんなにも自分は誰かを気に掛けたことがあっただろうか?
――――でも、これが『好き』なのか?・・・・・・分かんねぇ。
ゾロは考えた。
考えて考えて考えて考えて・・・・・・・・・。
結局、結論は出ないまま、眠りについていた。


――――こりゃ、夢だな。
ゾロはそう思った。
誰かの身体を後から抱き締めている。
背は自分と変わらないのか、足の間に腰を下ろしているのに自分の顎をその肩に乗せても全然ムリが無い。
サラサラと頬にかかる金髪。
――――金髪?
抱き締めている身体は、自分よりは細いか?
だが、細すぎるワケじゃない。
抱き心地はいいが、女の様に柔らかくは無い。
――――男?
気になって、ちょっと身体をずらし顔を見ようとすると、相手もこちらに顔を向けた。
青い蒼い瞳。
クルッと巻いた眉。
整った顔立ち。
――――コック、か?
相手が咥えていた煙草を外し、ゾロへと向けた表情は穏やかで柔らかい。
ふんわり微笑んだサンジの顔。
そして、徐に閉じられる瞼。
薄く開けられた唇から覗く熟れた舌。
――――ソソるじゃねぇか。
ゾロはフッと笑った後、己の唇を寄せていく。


唇が・・・・・・・・・触れ合う。


一瞬離してもう一度、今度は深く重ね合わせる。
柔らかくて、熱い。
――――豪く感触がリアルだなぁ。
夢とはいえ、サンジとキスしているのに不思議と違和感はない。
むしろ、心臓はバクバクして興奮している。
開いた唇から舌を差し入れれば、サンジも応え舌を絡めてくる。
――――ヤニ臭ぇ。でも、甘ぇな。
その時、ゾロの頭の中で何か引っ掛かった。
――――?甘ぇ?味覚まであんのかよ。
ふと、目なんぞ開けてみた。
ゾロのその目の前には・・・・・・。


伏せられた瞼と、・・・・・・そこを縁取る金色の睫毛。


パチパチと瞬きする。
見間違いでも、寝惚けているのでもなく。
――――あ?・・・・・・・・・夢、じゃ、ねぇのか?
唇を離し、前髪で隠されていない右目がゆっくりと開かれていくのを見つめる。
自分を見つめ返す、青くて・・・・・・潤んだ瞳。
――――んなっ?!やっぱ・・・・・・本物、か?
キスに酔っているかの様な顔をして、サンジがホウッと息を吐き、


蕩ける様に笑った。


顔が火照るのが分かった。
「ゾロ。」
名前を呼ばれてゾクッとする。
目が逸らせない。
サンジが身体の向きを変え、腕を首に廻してくる。
「・・・・・・もっかい、しよーぜ。」
もう一度、瞼が閉じられ唇が近付いてくる。


ゾロは吸い寄せられる様に、それを重ねた。


――――ヤベェな。
サンジに告られて、しかも翌日にはキスまでしちまって。
自分の気持ちに確信がもてないまま1週間。
サンジの態度は相変わらずで。
クルーの前では今まで通り、ふてくされたチンピラみたいな態度なのに。
2人きりの時は、それはもう他のヤツらには見せた事の無いような扇情的なツラをする。
んでもって、日中は擦れ違い様に掠めるようにキス。
寝ているゾロの頬に手をのせて、唇に舐めるようにキス。
夜は晩酌時にキッチンで、ある時は見張り台で、貪るように舌を絡めてキス。
暇と状況が整えば、サンジが必ず仕掛けてくる。
ゾロは、もはや抵抗も無く受け入れてしまっている。
しかも、勃っちゃったりしている。
それもこれも、サンジがその時見せる欲を含んだ笑顔のせいで。
――――やっぱ、ヤベェだろ。
サンジはゾロが好きだから、キスするのは当然だ。
では、自分はどうなのか?
嫌いかと問われれば、嫌いじゃねぇと即答できる。
では、好きかと問われたら・・・・・・。
――――わからねぇ。
今まで、恋愛なんぞしたことがない。
それだけは分かる。
だが、これが恋愛なのか?
――――誰かに聞いてみてぇが・・・・・・。
ナミやロビンには聞けない。
馬鹿にされるのがオチだし、女好きと自他共に認めるサンジにも悪いだろう。
ルフィやチョッパーはお子様だからわからなそうだ。
――――ウソップしかいねぇか。
確か故郷に恋人(ウソップ曰く)を残してきたとか。
性欲云々はわからないだろうが、恋心かどうかはわかるだろう。
――――今夜はウソップが見張りだったな。うしっ。
ゾロはハンモックから静かに下りると、男部屋の梯子を登り始めた。


2日後の午後、島に着いた。
ログが溜まるのに3日かかると言う。
そして、ゾロは今、歓楽街にいる。


ウソップに相談したところ、豪く驚かれた。
世の中の女、見る目ねぇんだなと言われた。
しかし、アッチの経験が無ぇわけじゃねぇと言うと、そりゃ人としてどうよと呆れられた。
その後延々と、そりゃもう延々とウソップの麗しの恋人(あくまでウソップ曰く)への気持ちを聞かされた。
半分は寝ていたが・・・・・・。
そして、漸く本題に入った頃には空が白み始めていた。
「でな、ゾロ。」
とウソップが切り出した。


オレはゾロみてぇに女買ったことぁねぇ。
ていうか、んな気にもならねぇ。
だって、カヤじゃねぇんだぜ。
カヤみてぇに美人で、可愛くて、華奢で、かと思うと強くてよぉ
(中略)
な女の子、いねぇだろ?
幾ら中味も外見もそっくりだとしても本人じゃねぇし。
だからよ。
ゾロも試しにやってみな。
その人以外、目の前にしてその気になるかどうか。
ま、男だから欲情しちまうかもしれねぇが、そん時はその人の悲しそうな顔思い浮かべてみな。
萎えたら、そりゃ恋だ。
間違いねぇって。
あ?てめぇに礼言われると、ビビるぜ。
ま、いいってことよ。
いつでも、どんと来いって。
で、相手誰だよ?
・・・・・・い、いえ、聞きません。ごめんなさい。


4へ  2へ




TOP  SS<海賊>