ボタンに願いを  後編




「あっ………ふぁ……あぅん…んんぅ……。」

教卓に身体を押し付けられて、立ったまま後から貫かれる。
ゾロの両手はサンジの腰を力任せに掴んで離さない。

サンジは尻をゾロに突き出す格好で犯されているのだ。

「ここ数年、てめぇのココとはご無沙汰だったが、相変わらずいい締め付けしてくれるな。」
「………んやぁ……あんっ……。」
「違う男の味はどうよ?それとも、いつもとっ替えひっ替えってか?」
「………ひあっ…何、言って……ううん……んああっ!」

例え蔑みの言葉でも、無言でのSEXではない。
相手をサンジと知っての、サンジと認めての行為だ。
誰の身代わりでもなく、サンジ自身でゾロが勃って入れてくれている。
自分の、男の声で喘いでも萎えないそれに、サンジの身体はどうしようもなく昂ぶってしまう。
ついさっきまで自分を優しく見つめてくれていたゾロの中に、まだ自分の身体への執着心が残っていた事に喜びを
感じてしまうなんて。
そんな自分が情けなくて、それでも自分の中にゾロがいる事が嬉しくて。
そのどちらから来るかわからない涙で、瞳の中が一杯になる。
ゾロに揺す振られるまま、腰を揺らして。

誰も居ない、誰も来ないであろう準備室でただひたすらこの時が長く続けばいいのに。

そうサンジが願った時だった。
またしてもガラッと教室の扉が開けられて。
その扉を2人して驚愕の目で眺める。

そこには、扉に手を掛けて呆然と立ち竦むエースの姿があった。

何も視界を遮るものの無い3人の間。
当然エースには、ゾロとサンジがつながっている部分も丸見えだろう。
エースの、一瞬血の気が引いたかと思ったその顔が、真っ赤に染まる。
恥ずかしさからではない、怒りのせいだ。
だが、その顔色を見てか、ゾロが止まっていた腰の動きを再開する。

「ああっ……んやぁあ……。」
「………ゾロ、てめぇっ!!!」
「エース、これはオレんだ!てめぇにゃやらねぇっ!!」
「何言ってやがる!サンちゃんはなぁ―――――」
「エース……、止めてくれっ!!!」

怒りを隠すことなく、詰りながらゾロへと突進しようとするエースに対し、サンジがなんとか声を上げる。
それを聞いてエースとゾロの動きが止まった。
悲しそうな表情のエースと、何故サンジがエースを止めるのか分からず疑問を浮かべているゾロと。
2人の視線を感じつつ、サンジがゾロを受け入れたまま言葉を続ける。

「これ……はっ…オレ……とゾロ、の……問題…だ。」
「サンちゃん………。」

声を出そうとすると、中のゾロを感じて言葉が詰まる。
それでも何とかそう言い切って。
サンジの瞳が潤んで、溢れて、一滴の涙が頬を伝い落ちる。
それを拭うことなく振り返り、目を見開いているゾロに言った。

「続けろよ、ゾロ。」
「…………てめぇ……。」

サンジの言葉に、2人は言葉を失う。

そしてサンジは口を開く。
呆然とするゾロに、悔しそうなエースに、そして何より自分自身に。
視線を戻し、俯いて、長机に付いた両腕の間を睨み付けるようにして。
胸元のペンダントトップを、Yシャツ越しにぎゅっと握り締めて。
今の自分の立場を、気持ちを伝える決定的な一言をサンジは放った。

「………エース、あんたは………関係無ぇ。」

その言葉にエースは唇を噛み締め、ゾロは更に目を開く。
そして、エースはそのまま無言で教室を出て行った。
それを薄笑いを浮かべながらサンジが見送っていると、ゾロが口を開いた。

「……どういう……ことだ?」

そのゾロの震える声に、今度はサンジが驚く。
先程までの自信満々な声ではない。
それこそ小さな子供が悪い事をして、それを母親に告白するようなそんな心許無い声で。

「エースと付き合ってんじゃねぇのか?」
「……付き合ってねぇよ。………シねぇんなら抜け。」
「てめぇ、…………オレが好きなのか?」

ゾロを自分の中から出そうとするサンジの動きを抱き締めることで制して、ゾロが別のことを問う。
一番聞かれたくなくて、一番答えたかった問い掛け。
サンジは自分の腰に置かれたゾロの手におずおずと自分の手を重ねる。

「………ずっと、この手で触れて欲しかった。」
「あ?」
「例え他人のモンでも、この手で……。でも、それじゃ、いつまで経っても前に進めねぇ。オレも、お前も。だから、
お前の前から姿消した。嫌いになれる筈もねぇ。」
「だって、てめぇ……卒業式ん時来なかったじゃねぇか!」
「行ったさ!!………でも、てめぇが……。」
「オレ?」
「てめぇが女の子といるの見ちまった。……あの子と付き合ってたんじゃねぇのか?」
「何で?!」
「何でって………第2ボタン渡してたじゃねぇか。」
「……………。」

ゾロがサンジの中に埋めていた砲身をズルッと引き抜く。
反動で教卓にしな垂れかかったサンジだったが、直ぐにクルッと反転させられて肩を掴まれ、至近距離で顔を覗き
込まれた。

「あれ、みんな知ってることなのか?」
「……は?」
「もう着ねぇ制服のボタンだから、何の気なしにやったんだ。したら、えらい騒ぎになってよ。他の女共にゃ詰め寄ら
れるわ、男共は冷やかしてくるわで。意味聞いて、慌てて取り返した。」
「取り返したって?」
「おう。そんなんなら、てめぇに貰って貰いたいと思って。………でも無くしちまった。部屋の机に置いといたんだ
けどよ。」
「………それって―――」

ゾロの言葉に、サンジは首に下げていたチェーンをシャツから取り出す。
その先にぶら下がっているのは………少し錆び付いたボタン。

「……サンジ……これ…?」
「お前と最初にシた後、部屋の隅に転がってたこれを貰ったんだ。第2ボタンじゃなくてもいい、てめぇのモノを
思って………。」

2人して無言で、互いを呆然と見つめ合って。


プッとサンジが吹き出した拍子に、ゾロもクックッと笑い始めた。


「「何やってんだ、オレたち。」」


口をついて出た言葉も重なって。
ひとしきり笑って、その後、目が合って、ゾロの熱の籠もった視線を感じて。
ゆっくり目を閉じたら。


唇にゾロのそれが重ねられた。


今までの乱暴なキスなど比べ物にならない、甘い甘いキス。
ただ触れるだけでこんなにも胸がいっぱいになる、そんな心の籠もったキス。

瞳を開いて、唇が離れていくのを名残惜しげに見送れば、そんなサンジの頬をゾロが愛しげに撫でる。

「始めからなんて………ムシがよすぎるか?」

少し気弱に問い掛けてくるゾロの手に手を重ねて、頬を擦り付けて言った。

「いいんじゃね?しっかり感じさせてくれよ、てめぇの気持ちをよ。」

そう言って抱き付いたら、下半身にゾロの猛りがあたって。

「畜生っ!後で覚えてやがれ。」

耳元で悔しそうに呟くゾロにケタケタ笑って。
改めて自分たちの格好が滑稽なことに気付いて。
また声を立てて笑いながら、2人帰り支度をしたのだった。








久しぶりに来たゾロの部屋は、以前来た時よりも男の匂いがした。
入り口付近で突っ立っていると、後ろからミネラルウォーター片手に入ってきたゾロに背中を押された。

「どうした?入れよ。」
「………うん。なんか変な感じ。」

以前ここに来た時は、自分の想いに気付かずにただゾロを眺めていたか、身体だけでも愛して欲しいと届かない
想いに胸を痛めていた。
それが、こんな――――。

ゾロに促され、部屋の真ん中に置いてある小机の前に座る。
そして、思い付いて胸元のネックレスを外し、ボタンを抜き取る。
掌に乗せて、一回ギュッと握って、それをゾロに渡す。

「?……いらねぇのか?」

不安げに聞くゾロに、すぐさま首を横に振って否定し、手の中のボタンを見下ろして言った。

「てめぇから渡してくれよ。………やり直し、だろ?」
「あ、………おう。」

一旦受け取って、ゾロがボタンにこれ見よがしに唇を寄せて。
そして、サンジに差し出す。

「………貰って、くれるか?」
「………ありがとよ、ゾロ。卒業、おめでとう。」

サンジがフワッと笑ってボタンを受け取ったその手を、ゾロが握ってグイッと引き寄せる。

「好きだ、サンジ。」
「………オレも…好きだ、ゾロ。」

サンジはその肩に顔を埋め、背中に腕を回した。
ギュッと抱き付いて、この言葉にならない気持ちが少しでも届くように。
ゾロがサンジの背中と後頭部に手をやり、掻き抱く。
合わさった胸から心臓の高鳴りが伝わり合う。
バクバクと、それこそ音になって聞こえてきそうな鼓動がシンクロしているのがわかる。

「サンジ……。」
「ゾ……ん……。」

身体を離され、名を呼ばれて顔を上げると唇を塞がれた。
こんなキスはしたことがない。
今までの荒々しいのとは違う。
さっき、気持ちが伝わった時の優しいそれとも違う。

ゆっくりと丁寧にサンジの情欲を煽っていくようなキスは。

「……んふっ……う…んん…。」
「…………その顔ヤベェよ。」

互いの唇を繋ぐ唾液の糸にぼうっと見とれていると、ゾロがそんなことを言ってシャツ越しにサンジの脇腹をするっと
撫でる。
ビクッと身体を震わせてゾロを見れば、にやりと魅惑的に笑って呟いてきた。

「思いっきりイかせてやる。」

その顔にまたグッときてしまって、泣きそうになりながらも微笑んだ。








どうしよう……?

正直サンジは戸惑っていた。


今までのゾロとのそれは、殆ど服を身に着けた状態で。
キスも前儀もお座成りで。
触れているのは、サンジの中に埋め込まれたゾロの分身と、サンジの腰を掴むゾロの手だけで。
互いの気持ちなど考えた事も無くて。

そういう、SEXと呼べないだろうゾロの、サンジの身体を使った自慰行為だった。


それが、今は……。

何1つ互いを隔てるモノの無い、素肌の胸が脚が密着して。
目を開けば、直ぐ目の前に自分を見つめる瞳があって。

背に廻された自分よりも体温の高い腕も。
手を伸ばしてしがみ付ける背中も。

「あっ………ゾロっ…!」
思わず名前を呼んでしまった自分へと返される、嬉しそうな笑みも。

「……サンジ…。」
吐息と共に呟かれる、自分を愛しげに呼ぶ声も。

その全てが信じられなくて。
でも全身でそれが本当なのだと知らしめてくれて。

どうしようもない程嬉しくて、胸が一杯になって、ポロポロと零れる涙を止められない。
そんな自分を誤解したのか、ゾロが動きを止めてサンジを見る。

「………やっぱ、嫌か?てめぇを強姦したようなオレとは……。」
「ちっ…………違っ……!」

しゃくり上げて言葉に出来ない気持ちを、必死になって首を横に振って伝える。

降り注がれる視線が余りに優しいから。
紡がれる台詞が余りに優しいから。

脳内が沸騰しすぎてショート寸前だ。
殆どまともに思考など働かない。
どうやって自分の気持ちを言葉に表せばいいのか、変換不能に陥っている。

なのに、感覚だけがヤケにハッキリしていて。
どこもかしこもゾロが触れて口付けてくる箇所は神経が過敏に反応してしまう。

耳朶を噛まれて、目を細めてしまう。
鎖骨を、脇腹を、大腿を撫でられて、身を捩ってしまう。
乳首を緩く摘まれて、肩を持つ手に力が籠もってしまう。
分身を口内に含まれて、髪をわし掴んで声が溢れてしまう。
孔を舐められて、腰を揺らしてしまう。

そして、その反応全てにゾロが嬉しそうに笑うのだ。
愛しそうに微笑むのだ。

「サンジ……好きだ。」
そう囁いてくれるのだ。

正常位のまま脚を大きく開かされて、後ろにゾロを受け入れた時、サンジはゾロにしがみ付く事しか出来なかった。
名前を、ただひたすら自分を抱く男の名前を嬌声と共に呟いて。
自身の欲望を互いの腹の間に吐き出した瞬間、自分の中にゾロのが満ちてきて。


サンジは漸く心も身体も絶頂に達したのだった。








髪を撫でる感触に気付いて目を覚ませば、優しそうな照れ臭そうな笑顔があった。

ゾロのベッドで横たわったまま、ゾロの腕枕で眠ってしまっていたらしい。
カーテン越しに差し込む朝陽で少し明るい室内を見渡した後、ゾロへと視線を戻す。
少し心配そうに自分の顔を覗き込むゾロにサンジも微笑んでみる。
すると、ゾロが嬉しそうに笑って。

触れるだけの優しいキスをくれた。

「大丈夫か?ちょっと無茶しちまった。」
「ん?んんー、よくわかんねぇ。わかんねぇけどよ……。」
「わかんねぇけど?」

先を聞き出そうとそう言ったゾロに、サンジが擦り寄る。
背中を引き寄せてくれるがっしりした腕に、昨日の事が夢ではないと教えてもらえる。

言われた通り、腰には結構ガタがきてるし。
ゾロを何度も受け入れた後孔は、何も入っていない筈の今も異物感が拭えないし。

でも、それでも……。

「てめぇだから………いい。」
「サンジ……。」

少し頬を赤らめるゾロに、今度はサンジからキスをして。
そういえばとサンジがゾロに聞く。

「お前、高校違ったよな。何で今、あそこ通ってんだ?志望校じゃねぇし、実際行ってたの違うとこだったろ?」
「あ、ああ、それか。」

サンジの問いにゾロが言いにくそうに、でも1つ1つ話してくれた。

合宿から帰るとサンジが居なくなっていて。
探し回っても見つからなくて。
エースのとこにいったのかと気が狂いそうになったと。
何とかエースを探し当てたものの、そこにサンジがいる様子はなくて。
ならば、エースの職場に現れるだろうかと考えて。
親を説き伏せ、エースが勤める今の私立高校の編入試験を受けたのだ、と。

「てめぇが現れた時、やっぱりって思った。やっぱりエースと付き合ってんのかってよ。」
「何でそうなんだよ?大体、どっからそういう話が出てくるんだ?」
「卒業式ん時てめぇ来なかったから、街を連れとぶらぶらしてた。そこで偶然てめぇを見つけたんだ。隣にエースが
いた。」
「………何で、声掛けてこなかったんだ?」
「エースがてめぇの肩抱いてた。」
「?!!」

吃驚して、その時の事を一生懸命思い出す。
ゾロの気持ちが冗談だったと誤解して、偶々会ったエースと飲みに行ったのは確かだ。
その後の記憶が曖昧なのは、酔って酔い潰れたからだろう。
そして、サンジが誤解したようにゾロもまた、サンジの事を誤解して……。

不安そうな顔で自分を覗き込むゾロに、まだエースとの仲を邪推している事が見て取れる。
だから、サンジは決意する。
今まで自分が抱いていた気持ちを、ちゃんとゾロに伝えようと。

「オレさ、……ボタン持ってて良かった。」
「??ボタン?………これか?」

枕元にいつの間にか置かれていた拾い上げて、ゾロがサンジに渡す。
それを受け取り、握り締めたその右手を左手でふんわりと包んで、その上からキスを落とす。

「てめぇへの気持ちがいっぱい詰まってんだ。ずっとあの時から変わらなかった、てめぇへの気持ちが。これ見る度に
辛かったが、もうそれもねぇんだよな。これが、てめぇのボタンがオレの願いを叶えてくれたって、そんな気がすんだ。」
「………サンジ。」
「てめぇが欲しいんだって、オレの願いをよ。オレ、捨てねぇでよかった。これを……てめぇへの気持ちを……。」
「サンジっ!!」

ぎゅっと力任せに抱き締められて、苦しかったけれど。
今までの苦しさとは比べ物にならない程幸せなのも確かで。
痛ぇと言う口調は、言葉とは対照的に柔らかいものになってしまう。
抵抗することなく、そのまま抱き締められていると、ゾロが耳元で呟く。

嬉しくて仕方ないという声で。

「絶対ぇ、大事にする。てめぇがそのボタンずっと大事に持っててくれたみてぇに。てめぇをずっと離さねぇ。てめぇに、
そのボタンにオレは誓う。」
「………頼んだぜ。」

ボタンを握り締めたまま、サンジはその手でゾロを抱き締め返した。


2週間前、再会した瞬間捨てようとも思った。
2週間一緒に居て、自分を忘れてしまったかのようなゾロに、このまま持っていてもいいかと思った。
そしてついさっき、ゾロの気持ちを知らないまま強姦されていると思い込んで、持ち続けていた事を後悔した。

そのボタンをサンジは大事に大事に握り締める。
手の中の、その確かな感触がサンジに伝えてくれるから。




夢ではなく、本当に自分の気持ちが叶ったのだという事を。




END


ゾロに突っ込まれたまま、それを助けようとするエースを拒絶するサンジ。


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