「なぁ、2週間優しくしただろ?お礼くんねぇ?」 場所は、今年は使用されていない教室。 今日で実習を終えるサンジは、自分を指導するエースが担任をしている2年3組の級長ロロノア・ゾロと一緒にいた。 2週間、忙しいエースに代わって学校内の案内から、果ては実習の手伝いまで散々世話になった。 嫌々手伝ってくれるというよりは、自ら進んでやってくれるゾロに対してサンジは勝手に想像していた。 もう自分のことは忘れたのか、と。 穏やかに自分と付き合えるようになったのか、と。 だから、急に変わったゾロのぞんざいな口調に驚いて、振り向こうとしたサンジだったがそれは叶わなかった。 両腕ごと、後ろからゾロに抱き締められたからだ。 「ゾ、ゾロ?」 「ヤらせろよ、サンジ。」 ゾロがそう言うなり、サンジの股間を軽く握ってきた。 「……っ?!」 「エースにゃ、やらねぇ。」 「何言っ………あっ、ゾロっ!!」 片手でサンジの両腕を制して、反対の手でサンジのベルトをホックをファスナーを外し、ボトムの中に手を滑らせて |
くる。 下着越しに撫で上げられて、サンジが息を飲む。 その手が更に後ろに伸ばされ、サンジの後孔を探る。 「オレとしなくなってから、何人咥え込んだよ。」 「………なっ?!」 「さっき、ここでエースとキスしてたろ。あの後、ヤったのかよ!」 「ばっ……か、ああっ…!!」 戻ってきた手に布ごと扱かれて、忘れていた強烈な快感に頭の中が真っ白になる。 サンジが喘ぎながら後ろのゾロに凭れ掛かるように背を仰け反らせると、ゾロがちっと舌打ちする。 「……そんな簡単に身体開くのかよ、てめぇは。」 悔しそうに呟かれた台詞の意味を測り兼ねて、頭だけ振り返ったサンジがゾロに聞こうとした言葉は発することが |
出来なかった。 口をゾロの唇で塞がれ、抵抗する間も無く下着ごとボトムが擦り下ろされて。 ゆるゆると前を扱かれながら、後ろを弄られる。 「…ん……んんっ……んうっ。」 自然と腰が揺れてしまう。 久し振りに与えられるゾロからの刺激に、身体が喜ぶ。 もっともっととそこがゾロを欲して疼く。 それが悔しくてなけなしの抵抗を試みるが、力の抜けた身体に出来るのはしがみついた手でゾロの腕に引っかき |
傷を付けることしか出来ない。 「……んんんっ………あはっ…。」 ゾロが漸く唇を離し、後孔に指を1本侵入させてきて、ゾクッと背筋が痺れる。 もうどうだっていい。 Yシャツの中、胸元に揺れるチェーンネックレスのトップを布越しに震える手で握り締めながら、サンジは観念する。 例えゾロが自分の身体にだけしか用が無いのだとしても。 *** 今から2年前。 まだ、サンジが大学2年の頃の事だ。 5歳年下の幼馴染ゾロが今年受験だという事で、ゾロの親から家庭教師を頼まれた。 小さい時は、事があればサンジサンジと声を掛けてきたゾロだったが、中学に進学した頃から寄ってこなくなった。 何となく、それまでの頻度の高さからいきなり解放されて、寂しく思ったのも事実だが。 サンジ自身、高校生活をそれなりに満喫していたので、ゾロもそんなもんかと思っていた。 それでも、久し振りに幼馴染に会えるという事で、ちょっと嬉しく思いながら了承したのだった。 「久し振りだな。」 「・・・・・・おう。」 2年半近く会わなかっただけで、成長期の男はこんなにも変わるものなのか。 正直、胸がドキッと鳴った。 サンジの肩まで位しかなかった背は、サンジと変わらないくらいになっていたし。 肩幅はサンジよりも広いし、身体つきはサンジよりも逞しい。 声もサンジより低くて男を感じさせる。 何より、自分を見つめる目が・・・・・・。 「受験まで2ヶ月。宜しくな、サンジ。」 「おう。オレの教え方は容赦ねぇぞ、覚悟しとけ。」 「・・・・・・てめぇもな。」 そう言った時のゾロの目が、何だか怖かったのを今でもよく覚えている。 ゾロはいい生徒だった。 飲み込みも早い。 質問も的確で、参考書の調べ方も、公式の暗記もバッチリだった。 ただ、それまで部活の剣道に費やす時間の多さが、ゾロの成績を下げていただけなのだろう。 受験も無事終わり、明日卒業と言う日だった。 勉強を見てくれたお礼と、ゾロの家族が夕食に招待してくれて。 近くのレストランに食事に行った帰り、ゾロが家に寄ってくれと言ってきた。 もうお礼の食事も時計も貰ったし、これ以上何かして貰うのも申し訳ないと断ろうとしたのだが。 「オレ個人として、サンジと話がしたい。」 後部席に座る自分達にしか聞こえない小さな声で、ゾロが真剣に言ってきた。 ゾクッと背が痺れるような感覚と、胸を打つ外にまで響くような鼓動。 それらを感じさせないようにゆっくりと頷くと、ゾロがホッとしたように笑った。 部屋に入り、ゾロの母親がコーヒーを置いて出て行くと、2人床に座り込む。 勉強時に使っていた小さな卓袱台。 それを挟んで対峙していたゾロが、卓袱台を廻ってサンジの方へ近付く。 真横に腰を下ろし、ゴクンと唾を飲み込んで、サンジを見つめて。 ゾロが一気に言い放ったのだ。 「サンジがずっと好きだった。オレが中学卒業したら、その・・・恋人として付き合ってくれ。」 「・・・・・・・・・えっ・・・?」 目の前で不安げに揺れている、ゾロの瞳。 でも、それは嘘など吐いているとは到底思えないような真摯さで。 胸に湧き上がるなんともいえない歓喜の気持ちと。 男同士である事への背徳感と。 そんな自分達の未来への不安と。 全てが交錯して、返事など出来ない。 固まったまま動かないサンジに対して、ゾロが寂しそうに俯く。 その表情に言われも無い罪悪感を感じて、サンジが声を掛けた。 「え、いや、ゾロ。その・・・別に、嫌ってワケじゃ・・・。」 「え?!!じゃあ、いいのか?」 「いいっていうか、その・・・オレたち男同士だぞ。」 「そんなん知ってる。関係ねぇ。」 「・・・きっと女の子の方がよくなるぜ。」 「そんなことねぇ。オレはサンジ以外考えられねぇ。」 「・・・・・・この先も?・・・・・・ずっと、か?」 「ずっとだ!サンジだけだ!」 そう言って、ゾロがサンジの頬に手を当てて顔を近付けてくる。 キスだと思って、ギュッと目を瞑るとフッと笑うゾロの声がして。 熱いものが唇に触れた。 それは一瞬で離れたけれど、目の前にあるゾロの表情がキスをしたんだと知らしめて。 バッと赤くなったサンジに、ゾロが言ったのだ。 「明日、卒業したら・・・・・・抱いていいか?」 今度こそ真っ赤になって目が泳いでしまうサンジに対して、ゾロはその身体をギュッと優しく抱き締めてきた。 卒業式当日迎えに来て欲しいと頼まれ、サンジはドキドキする胸を押さえきれず少し早めに中学校に着いた。 式自体は終わったのか、在校生達が卒業生を送る花道を作り始めていた。 3年生の下駄箱付近では、親と卒業生でごった返した様子で。 ただ其処に目指す緑は発見できなかった。 もう外に出ているのかと、校庭に視線を廻らせて。 その時、サンジの視界の隅に入ったもの。 見間違うはずも無いマリモ頭と・・・・・・セーラー服姿の女の子。 2人連れ立って、体育館裏へと向かっていた。 先程のドキドキとは違う鼓動を奏で始める心臓。 見ない方が、拘らない方がいいとわかっていたのに。 そのまま放置するには時間が足りな過ぎた。 告白されて、初めてキスしたのが前夜だ。 女ではなくサンジがいいと言われたのが前夜だ。 身体も欲しいと言われたのが前夜だ。 ゾロの家から帰ってきて、その事ばかり考えてしまって寝付けなかったのが前夜だ。 それなのに何故、女の子と・・・? サンジは2人の後を追って裏門へと回る。 そこが体育館裏に1番近いから。 自然と早くなる歩調。 それにつられて、嫌な予感も。 そして・・・・・・。 「ロロノアくんの第2ボタン、貰えない?」 「・・・いいぜ。」 漸く辿り着いたそこで、聞こえてきた言葉がそれだった。 それからの事は、正直今でもあまり覚えていない。 学校を後にし、街をブラブラした。 そこで後輩の兄で、教師をしているエースと会って。 誘われるまま一緒に飲みに行って。 気が付いたら、エースの家だった。 夜もしっかり明けていて。 エースに悪いと謝ったら、なんだか複雑な顔してた。 そして、言ってきたのだ。 「サンちゃん、辛い恋なら止めてオレにしなよ。」と。 吃驚仰天して首を横に振り、迷惑かけたお詫びに朝食だけ作って家に戻った。 飲んでスッキリしていた。 覚えていないが、エースに色々言ってしまったのだろう。 頭は妙に冴えていて、これからゾロに言う言葉を捜していた。 自分に気があるなんて嘘吐くな、とか。 自分もなんとも思ってない、とか。 やっぱりレディがいいよな、とか。 諦めるのが手っ取り早い。 全て夢と思い込もう。 そう思って、家へと続く最後の角を曲がったら・・・。 家の前に座り、自分を睨み付けるゾロの姿が目に入った。 言葉も無く歩み寄るゾロに恐怖を感じてサンジが後退ると、ゾロがサンジに向かって走り出した。 ガツッと腕を掴まれて、振り向き様に頬を張られた。 一瞬気が遠くなったサンジを、ゾロが肩に背負い、家へと向かう。 ……ゾロの家へと。 サンジが抵抗しようと暴れたら、一度下ろされ鳩尾に強烈なパンチを喰らわされた。 目の前が真っ暗になった。 腹部の痛みと、下半身のすーすーした感じに気付いて目を覚ます。 うつ伏せに寝たまま顔だけを横に向けてぼんやりと視線を泳がせると、見慣れたゾロの勉強部屋で。 (・・・・・・あぁ、ゾロの部屋だ・・・。) と思うのも束の間、下腹部に言いようも無い刺激を感じてガバッと身を起こそうとして・・・。 出来なかった。 後から頭を抑えつけられ、ぎょっとしてそちらに目をやれば。 そこには、怒ったようなゾロの顔。 「・・・・・・ゾロ?」 「さぞかし楽しんだんだろうな、サンジ。」 「何?!」 「オレにも、ヤらせてくれよ。」 そう言うなり、滑った何かが剥き出しの尻の穴に突っ込まれた。 「っ?!!!」 物凄い異物感に、サンジの身体が縮こまる。 それに対して、ちっと舌打ちしながらゾロがその入れた指を力任せに差し込んでくる。 そこで、漸く気付いたのだ。 自分の下半身だけが何も身に着けておらず、背後のゾロに晒されている事に。 犯されようとしている事に。 何でだ? 昨日の女の子とは旨くいかなかったのか? だからオレを使って自慰するのか? ・・・・・・そこまで、オレを利用するのか? 不思議と悔しくなかった。 寧ろ嬉しかった。 代替として使えるのだ、自分は。 ゾロにとって、その位には値するのだ。 サンジはゆっくりと身体の力を抜く。 抜いて、ゾロの指を飲み込むように腰を揺らす。 一瞬、ゾロの眼が見開かれ、次いで悲しそうに揺らいだが。 次の瞬間、指が一気に入ってきて。 ぐりぐりとサンジの中を刺激してきた。 闇雲に撫でられていた内壁が、ある1点を触られてクニャッと軟らかさを見せ始める。 サンジの腰が快感で跳ね上がる。 そこを集中的に責められて、サンジは前を触られる事無くイった。 指の本数が増え。 引き抜かれたと思ったら、固いゾロ自身が入ってきて。 ああ、受け入れる事ができたんだ、と。 嬉しくて、涙がポロッと零れ落ちた。 その日、何度もゾロを受け入れて、ガタガタになった足腰を必死で支えて。 横で寝ているゾロを見ながら、何とかベッドから立ち上がる。 つーっと大腿を伝う粘り気のある液体が何なのか、考えるまでもなく。 苦笑しながら散乱している服を身に着ける。 その時、サンジの目に入ったのは、床に転がっている学生服のボタン。 今日、ゾロが女の子にあげていた第2ボタンと同じモノ。 拾い上げて、それを机の上に置こうとして・・・・・・止めた。 ポケットに仕舞い、部屋を出る。 気休めでもいい。 ゾロのボタンを1つ、貰っておこう。 どんなに酷い事をされても、この気持ちが向いてしまうゾロのボタンを。 それからというもの、ゾロは毎晩サンジを呼び出して、その身体を犯した。 場所はゾロの部屋だったり、サンジの部屋だったり。 夜中の公園に呼び出された事もあった。 キスなど無く、前戯もそこそこに後を解され、散々に揺す振られる。 言葉も無く、ただただ行為をするだけ。 気が済めば、ゾロはサンジをさっさと置いて行ってしまう。 その後姿を見ながら、明日こそは断ろうと真剣に思い悩むのだが。 誘いに来るゾロの顔を見ると・・・・・・ダメだった。 決心が鈍るどころか、その逆で。 気持ちなど無くてもいいから、ただ抱いて欲しくて。 夏休み、ゾロが剣道部の合宿で1週間家を開けた時、サンジは遂に決意した。 荷物を纏め、家を飛び出し、大学から近いアパートを探したのだ。 全てはゾロの為だ。 自分という都合のいい相手がいたら、ゾロに彼女は出来ないだろう、と。 ただ必要としてくれるだけで喜んでしまう自分の傍になどいてはいけないのだ、と。 携帯も変えた。 連絡先も自分の親にも知らせなかった。 大学が忙しいのを理由に家に寄り付かなかった。 そして、大学4年になった。 高等学校の教員資格免許取得のため、教育実習の学校を選ばなければならない。 そこで選んだのが、大学から程近いエースのいる東海学院だった。 ゾロは自宅近くの公立に通っている筈だ。 会う事はないだろうと思っていたのに。 「今日からこのクラスで2週間勉強させていただくサンジです。宜しくお願いします。」 そう言ってお辞儀をして、顔を上げた時に愕然とした。 「2−3の級長してるゾロです。サンジ先生、宜しくお願いしますね。」 先生に紹介されて立ち上がったゾロに、サンジの頭から血の気が下がったのだった。 でも、ゾロは優しかった。 サンジに学校内を案内してくれて。 何か分からない事があれば、率先して動いてくれて。 実習生の授業など聞く気も無いクラスメートを説得してくれて。 放課後も残って、サンジの手伝いをしてくれて。 実にスムーズに実習は終了した。 教育実習用にとエースが用意してくれた空き教室に居るサンジの元に、ゾロは毎日顔を出してくれた。 困った事はないかと聞いてくれた。 ・・・その眼が、優しかった。 もう自分に興味が無いからそういう態度なのだと思うと寂しかったが、同時に嬉しかった。 ただの幼馴染に戻れるかもしれない。 彼女と上手くいっているのかもしれない。 そうしたら、自分の胸の痛みを抑えてでも、ゾロの幸せをお祝いしよう。 サンジがそう思っていると、ガラッと扉の開く音がした。 だが、その振り向いた先にいたのはゾロじゃなかった。 「サンちゃん、お疲れ様。」 実習担当のエースだった。 「折角毎日サンちゃんに会えたのに、また会えなくなっちまうな。」 「偶には飲みに誘ってくれるんだろ?」 「ん?・・・・・・どうしよっかな?」 「え?」 2人並んで、中庭を走って通り過ぎる陸上部の生徒を見ながら会話をしていたのだが。 エースの意味有り気な言葉に、サンジがエースの方を向いた。 顔がヤケに近くて。 「な、何?エース・・・・・・?」 「サンちゃん、オレ前に言ったよね。オレにしなって。」 「あ、えと、でも・・・。」 「オレ本気だから。」 そう言って、エースがサンジの顎を掴んで顔を寄せてきた。 今にも触れそうになった唇を、なんとか横を向くことで避けて。 「サンちゃん・・・・・・。」 「ごめん、エース。オレ・・・・・・。」 エースに背を向けて、サンジが俯く。 「オレ、やっぱ・・・・・・。」 「会ったら、戻っちゃった?」 「戻ったって言うか・・・・・・まだそうだったって言うか。」 「そっか。残念だな。」 寂しそうに笑うエースに、もう一度ごめんと謝って。 「オレ職員室に居るから、最後の報告書そっちに持ってきて。じゃあね。」 「うん。・・・・・・エース。」 「ん?」 「ありがとう。」 サンジが礼を言うと、いやとエースが優しい笑顔で手を振って、教室を出て行った。 それを見送り、サンジは考える。 エースにキスされそうになって、気持ちを打ち明けられて。 そこで初めてまだ自分がゾロを想い切れていない事に気付いた。 どうしても諦めきれない想い。 だからといって、それをどうすると言うのか? きっとゾロはもう自分の事などなんとも思っていないに違いない。 ならば、自分はこのまま何も言わずに去るのが一番なんだろう。 昔の仲のよかった幼馴染のまま。 それがいいんだよな、ゾロ。 そう思ってフッと微笑んだ時、ガラッと扉が開いた。 「何だ、エース。忘れ物・・・か・・・・・・・。」 てっきりエースが何か取りに来たと思ってそう言いながら顔を上げると、そこには微笑むゾロが居た。 優しいゾロの笑顔に、サンジも思わず微笑み返す。 そんなサンジから視線を逸らさないまま、ゾロは後ろ手で扉を閉め、サンジの前まで来るとサンジの目を見て言った。 「サンジ先生、今日で実習も終わりですね。」 敬語で話してくるゾロに、ホッとしながらも物足りなさを感じるのはどうしようもない。 他人行儀なその態度にサンジは少し寂しくなって、ゾロに背を向けて、中庭に目をやった。 「ゾロには世話になったね。2週間ありがとう。」 「いえ、大したことはしてませんよ。でも・・・・・・・・・お礼ならさ。」 急に声色と口調が変わった事に驚いて。 振り向こうとしたその時、冒頭の台詞がサンジの耳に届いたのだ。 |
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