例え非日常的な空間でも  前編




奇妙な島だった。


着いた早々、入港には条件があると入港管理者が言うもんだから、喧嘩っぱやいクルー達が色めき立つのは当然だろう。


「お金ならダメよ!あんた達に払う余分なんてないわ!」と、開口一番はナミ。
「決闘か?受けて立つぜ!」と、歯を見せて笑うルフィ。
その後ろでゾロが楽しそうに鯉口をきる。
「レディを人質になんて言った日にゃ、てめぇの腹に重い蹴り打ち込んでやるぜ。」と、サンジ。
ウソップとチョッパーは4人の背後で肩を寄せ合って震えている。
そしてロビンはと言えば、腕を組んで他のクルーを楽しそうに見つめているだけだ。


恐れを成した管理者ではあったが、ビビりながらもナミに説明書を渡してきた辺りは流石にプロと言うところか。
ナミの脇にクルーが集合する。
肩越しに覗くウソップとその上に乗ったチョッパー、反対の肩からルフィ、ナミの真横をロビンとサンジが陣取る。
ゾロは興味無さ気に欠伸をしながら周囲を見渡していた。


ゾロにとっては見覚えのある衣装を島中の人が身に付けている。
いわゆる着物と言う代物。
ご丁寧に髷まで結っている。

(変な島に来ちまったな。)

そう思っていたゾロにサンジの声が掛る。
「おら、行くぜ。クソ迷子剣士。」
「…………どこ行くんだよ?」
「貸し衣装屋。」
「………………は?」
先を行く他のクルー達を親指立てて示しながら、サンジがもう片方の手で子供を呼ぶ母親のように手招きする。
眉間に皺を寄せつつも、待っていてくれた事に気をよくして一歩を踏み出した剣豪なのであった。




入港の条件とはたった1つ、着物に着替える事。

それ以外は何をしても構わず、普通に買い物も宿泊もできるのだそうだ。
着物自体もレンタル料は取られるものの、そうべらぼうに高いわけでもなく、ナミも渋々納得した。
ログが溜まらないことには次の島へは行けないのだし、港でぼおっとそれを待つのも味気ない。
それに、他の島では手に入らないだろう着物や小物、そしてこの島独特の雰囲気を楽しみたいではないか。
立ち並ぶ商店、おいしそうな匂いを放つ屋台、宿もベッドではなく直接床に布団を引いて寝るようで、今までとはまるで違う独特
の慣習に惹かれたのはナミだけではあるまい。
ルフィは勿論、新しい物好きのウソップとチョッパー、独自の文化に目の無いロビン、そして刀鍛冶が沢山居ると聞いて浮き立つ
ゾロ、見た事もない料理に気も漫ろなサンジと珍しくクルー全員一致での上陸が決まったのだ。


そして今、ゾロは黒地に濃紺の格子柄を織り込んだ着流し姿で1軒の刀鍛冶屋の前に腰を下ろしている。

前の戦闘で結構傷んでいた刀3本を出したところ、刀鍛冶が目を輝かせた。
こんな代物めったに扱えないと興奮して、是非やらせてくれと頭を下げられれば悪い気はしない。
休む暇も惜しんで仕事をしてくれる鍛冶屋に、返ってこちらが恐縮しているくらいだ。
あと少しで終わるとの言葉を先程貰い、店先で待たせてもらっている。

日もとっぷり暮れて、あと少しで夜9時になろうというところか。
お茶を出してもらって、通りに面した縁側でズズッと茶を啜っていた。

カーン、カーンと小気味いい槌を振る音。
それを聞きながら、気分よく湯飲みに残った茶を飲み干そうとして。
気を取られた……視界の右端に入った紅いものに。

(………何だ?)

視線を右に移動したら、暗闇の中に映える紅い布。
それが紅い着物を着ている長い黒髪の人だと分かった。
素足で、蹴出しをちょっと小粋に引き上げて、後ろをチラッと振り返りながら。
そして、それはえらい勢いで自分の方へと走ってくるかと思ったら、前をズギュンと通り過ぎる。
その通り過ぎる瞬間。

相手の視線が自分のと絡んだ。

一瞬、たった一瞬だったがその絡んだ視線が覚えのあるモノだと気付く。
長い黒髪で、見覚えの無い紅い着物で、前髪も全部上げていたが。
その人物が遠くの角を曲がるのを見て、ゾロはフッと笑って徐に立ち上がる。
刀鍛冶屋の暖簾をくぐり、中に入ると歩きながら主人に声を掛けた。

「おい、裏通りにはどう出る?」
「あ?ああ、そこの休憩用の部屋の脇に裏口があるだろ。あそこから出れるよ。」
「そうか。………少しその部屋借りてもいいか?」
「ああ、構わないよ。布団も置いてある。……さっきの、あんたのいい人かい?」
「………まあな。悪ぃ、じゃ借りるぜ。」

スタスタと裏口へ向かえば、言われた通りつっかえ棒の掛けてある木戸があった。
脇にある休憩用の部屋を覗けば、行灯の明かりも点いており、布団も引きっ放しになっているのが見て取れる。
まず、その部屋の障子を開け放っておいて、つっかえ棒を外し、裏口をガラッと開け、5つ数える。
そして、すっと片手を上げて物凄い勢いで通り過ぎようとした人物の腕をガシッと掴んで中へ引っ張り込んだ。

「なっ?!!!」
「黙ってろ。」

そう言うなり、その身体を休憩用の部屋へと投げ込んだ。
すぐさま木戸を閉め、部屋の中へとゾロも上がる。
そして障子を閉め、脇にあった短刀を握ると、ゾロはその目の前で自分を驚愕の表情で見る人の身体の上へと覆い被さった。

ブツッと帯が断ち切られて、締めるものを無くした着物の袷がたらりと垂れ下がる。

直ぐにその障子の外がガヤガヤと賑やかになり、いきなり障子がガラッと開けられる。
それを見越して用を無くした短刀を頭の方へ置き、ゾロは腕の中の人物を思い切り抱き締めて、深いキスを落とした。

「んんっ………んんんんんっ!!!………んふっ………んぅん。」

ゆっくりとその口内を蹂躙して、相手の抵抗が止んで首に手を廻してくるまで手は抜かずに。
唇を離してとろんとした目で自分を見てくるのを確認してから、背後にいる男たちをチラッと見やる。
幾分緩めた殺気と、嘲笑を込めた目で。

「何だ?邪魔だぜ、とっとと帰んな。」
「……あ、いや、ちっと聞きてぇ事があってよ、兄さん。」
「早くしてくれ。コイツが焦れちまうからよ、なあ。」
「あっ……やぁ………。」

そう言って、腕の中でくったりしている人物の内股に膝頭を擦り当てれば、吐息混じりの喘ぎ声を洩らす。
その声が妙に官能的で、男たちの顔が真っ赤に染まる。

「えと、長い黒髪の緋襦袢着た女見なかったかい?」
「知らねぇな。そっからでも見えるだろうが、こいつは金髪だぜ。」

少し腕の中の身体を起こして、態と背後のヤツらに見えるようにその首筋に舌を這わせる。
息を殺しながらも眉間を寄せて、ゾロにしがみ付くその腕はゾロの黒い着流しで更に映えるほど白くて。
また、その白さが少し薄桃色に染まってきているから堪らない。

悪かったと男たちが去っていく。
木戸の閉まる音がして、その足音が遠ざかっていくのを確認して、自分の下に居る人物にニヤッと笑ってやる。
そして相手も自分に対して、勝気な笑みを浮かべている。

「ったく、いきなり何すんだ?」
「いきなりも何も、てめぇこそ、んなカッコで何してんだ?」
「てめぇの方こそ、んなカッコで何してくれんだ?帯ぶった切っちまってよぉ。またナミさんにどやされるぜ。」

ケタケタと笑いながら、ゾロの着物の半襟を掴んで起き上がったのはサンジだ。

例えサンジが被っていた長い黒髪の鬘を外しても、このカッコできっとバレると踏んでゾロは咄嗟に行動した。
帯を解く時間も惜しくて、手近にあった短刀で切り、自分の着物の中にサンジを隠したのだ。

「それにしてもあの一瞬でよくオレだって気付いたな。さっきウソップと擦れ違ったけど、全然気付かなかったぜ。」
「てめぇ………オレをバカにしてんのか?」

ゾロがそう言うと、サンジはくくくっと笑って流石獣と褒めてんだか貶してんだか分からない感想を洩らした。

ウソップが気付かないのも当たり前だ。
貸衣装屋で着替えた時、サンジはゾロと同じく着流しにしたのだ。
海をそのまま布に写したかのような、水を思わせる青い着物。
それが、今はどうだ。

長襦袢だろうか、どうみても布が薄い。
しかも赤だ、赤。
紅い縮緬の長襦袢、所謂緋襦袢って代物だろうか。
その上、前髪を上げて長い黒髪のかつらを頭に被っていれば、自分以外は気付かないだろう。

「てめぇ、また女絡みの厄介事に巻き込まれたな?」
「…………。」
「差し当たって、オレんとこ来たからにゃ、結構やばいんだろ?」
「…………。」
「………怒りゃしねぇから、言ってみろ。」

呆れたようにそう言ってやると、そうかそうか流石ゾロだなとか言いながらサンジが事情を話す。
何でも、ゾロを刀鍛冶屋に送り届けてから、買出ししようと港近くをぶらぶらしていたのだと言う。
この島では魚介類は港で直接漁師から買いつけできるが、他のものは朝早く神社で行われる市でしか手に入らないという。
もしくは、ぼて振りが持ってくるのを待つしかない、と。
じゃあ、とりあえず神社の下見と港に一番近い神社へと向かったのだが。
その境内でバッタリ遇ったのが、今サンジが身に着けている緋襦袢を着た女性だった。
サンジを見て、顔を真っ青にして怯えるので、いつものメロリンスマイルでまず彼女を宥め、神社の裏で彼女の話を聞いた。

何でも、足抜けしてきたのだと言う。
好きな男が今日で島を出るのだ、と。
前々から約束していて、今日の夜10時にこの神社で待ち合わせしているのだ、と。
それが今日に限って、昼見世から居続けている客が居て、中々出てこられずに。
髪を結い直すと言い訳して、解けた髪をそのままに逃げ出してきたのだと言う。

じゃあと身代わりを申し出たと言うサンジにゾロは呆れる。
身も知らぬ女相手に、どうしてここまでお人よしに出来ているのか。
育ての親ゼフの意見も是非拝聴したいものだと改めて思う。
多分、半分も聞いていられないだろうが。

「でさ、着物を交換したってわけ。」
「鬘は?」
「あ?彼女元々鬘だったんだって。鬘取ったら、髪は綺麗なピンク色だったぜ。」
「で、襦袢だけじゃなくて蹴出しまで借りたのかよ?」

そう言って、サンジの太もも辺りまで朱色の蹴出しを捲ってやる。
するとサンジがニヤッと笑って、ゾロの股間に手を当ててきた。

「勿論、腰巻もだぜ。そそるか?てめぇ、もうこんなになってるもんなぁ。」

ゾロの下穿きの上からゆっくりとなぞるように動かされるサンジの指先に、ゾロがそれを押し付ける。

「ならねぇヤツがどうかしてんだろ?」

緋襦袢の襟足から覗く、少し後れ毛のある白い項。
腕を上げた時にチラッと見える脇。
紅布から出たスラッと長い腕と脚。
特に蹴出しが左右に肌蹴て、視線に入る太股がそりゃもう絶品に色っぽい。

「てめぇのこのカッコ見て勃たねぇヤツがいたら、お目にかかりたいぜ。」
「……いや、てめぇだけだろ。そんな物珍しいヤツ。」

くすくす笑いながらも、もう一度ゾロの首にサンジが手を廻してきた。
そして、ゾロの身体を引き寄せて、腰をゆるゆると振って互いの性器を布越しに擦り付けあう。

「ま、お互いさんってとこだな。」

ニヤッと笑うサンジの腰に手を廻し、薄く開け舌を出して誘うサンジの唇に齧り付いた。




緋襦袢の襟元を大きく肌蹴させて、現れた鎖骨に吸い付く。
舌で嘗め回してからチュッと強く吸うと、サンジがんっと声を上げる。
先程、捲り上げた蹴出しの裾から手を差し入れて、サンジの下腹部を撫でる。
もう少し溢れ始めているサンジの先走りを掌に擦り付けるように動かすと、堪らないのかサンジの腰が跳ねる。
そんなサンジの媚態にゾロがくくっと笑うと、その粘る液体を指先に付けて後孔へ塗りつける。

「あ………もう、かよっ……。」
「悪ぃな。我慢できねぇ。すぐにてめぇに突っ込みてぇ。」
「ははっ……いい…ぜっ………オレも、だ…。」

ゾロが自分で入れるより早く、サンジが指に向かって尻を突き出してきて。
にゅるっと音がして、ゾロの指がその中に飲み込まれる。
前日も上陸前の1戦と励んだからだろうか。
スムーズとは言わないまでも、くぷくぷと積極的に蠢くサンジの肉壁。
それがまたなんとも言えずエロティックで。
グッと1本の指を根元まで突き入れると、サンジがはっと息を吐いて仰け反る。
いつものように、サンジが感じる場所を簡単に探し当てると、そこを執拗に撫で擦る。
そして、その間にもサンジのほかの部分を愛撫する事を忘れない。
空いた手で乳首や脇腹の辺りを責め、口内にサンジの性器を招き入れる。
一気に3点を同時に責められて、サンジはもうゾロの襟と髪をギュッと握り締めて、頭を振って喘ぐしか出来ない。
強烈な快感に、全身がショートしたように熱くなる。

「もっ……おかしく、な……挿れろっ!!早くっ!!!」
「急くな。すぐ、くれてやる。」

ゾロは下着を片手で脱ぎ去って、怒張した自身を取り出すと突っ込んでいた指を抜く。
まだ十分に解していないサンジのそこに、先の濡れたそれを当てる。

「いいか?ちっと痛いぜ。」
「いい………もう、待てねぇ…………あああああっ!」

ギリッと捻じ込まれるゾロの猛った男根を、サンジの穴が徐々にではあるが受け入れていく。
いつもよりきつくはあったが、互いにいつもよりも興奮状態に有り、その痛みさえも快感となる。
カリを挿れたところで一旦止まり、サンジの様子をゾロが伺えば、少し辛そうではあるがその顔は甘く蕩けていた。

「いけるか?」
「ん………来い。」

その言葉に甘えて、ゾロが最奥まで一気に突っ込む。
サンジはゾロにしがみ付きながら、ゾロの耳元で声にならない嬌声を吐息ともに漏らす。



その時だった。


もう一度、障子がガラッと開く。
ゾロがキッとそちらに目を向ける。
先程の緩い殺気とは比べ物にならない程の威圧感。
だが、それに臆することなく男たちがニヤッと笑う。

「兄さん、さっきはよくも騙してくれたな。」
「………邪魔だっつっただろ。とっとと失せな。」
「その腕の中の女、オレ等が追っかけてた女だろ?」

コイツは男だと言おうとしたゾロの口をサンジが唇で塞ぐ。
すぐに離れたその口が、言葉を続けようとしたゾロを制する。

「彼女が逃げ切るまでだ。オレが代わりになるって約束したんだ。頼む、ゾロ。」
「…………。」
「オレの男としてのプライド、守ってくれよ。」
「………クソっ!これ終わったら、そのカッコで気の済むまでヤらせろよ。」

歯噛みしながら自身を抜くと、サンジがくうっと眉間に皺を寄せる。
その声を合図に、男たちが部屋の中へと上がり込んできた。
ヤツらに見せないように、素早くサンジの蹴出しを下げる。
間一髪間に合ったのか、ゾロの下からサンジが鬘と一緒に引き摺り出されて、コイツだと男たちが頷き合う。
その内の1人に後ろ手に縛られるサンジが、ゾロにニッと笑い掛ける。

心配すんな。

そう声に出さずに口だけ動かして、サンジが顔をゾロから逸らす。
そして、連れて行かれるサンジを睨み付けるゾロの後ろに、先の鋭いモノが押し当てられた。
「何のマネだ。」
背後で短刀が抜かれている気配はしていたので驚きはしなかったが、相手の意図が分からずに脅し半分揶揄かい半分で
聞いてみる。
「アイツに情夫がいる事は、先様も先刻承知だ。だが、逃げるのはお許しにはならねぇ。何より、御法度なんだぜ。アイツも
ただじゃ済まねぇがアンタも無事に済むワケねぇだろ。アイツと一緒に来てもらおうか。」
ドスの効いた声ではあるが、ゾロには応えない。
それどころか、楽しくて仕方ない。
況してや、サンジ1人行かせて自分はどうしようと思っていたところなのだ。
当に好都合、願ったり叶ったりというところか。
「………仕方ねぇな。」
言葉では残念そうに言ってはみたが、心の中では拍手喝采状態のゾロであった。


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