最近出来たオレの恋人は、非常に体裁を重んじるヤツである。 つい2週間前、ひょんなことから互いの気持ちがわかって。 それこそ、絶対無理だろうと踏んでいたヤツ、コックからの告白だったもんだから。 びっくりして、息をするのも忘れたくらいだ。 そんなオレの態度を、逆に取ったのか。 急に寂しそうな顔をして、気色悪いかなんぞとぬかすもんだから。 慌てて抱き締めた次第で。 おずおずとオレの背中に手を回すコックがあんまり可愛くて。 思わず、そのまま夜中の甲板で雪崩れ込んじまった。 どうもそれがよくなかったのか。 元々、そんじょそこらの女好きな男たちとは比べ物にならない、超が10乗は付く程の自他共に認めるフェミニストだ。 クルー内にも、オレに言わせれば魔女たちだが、コックから見れば極上の女神さまが2人いる。 その2人も含め、クルー全員にばれてしまったのだから堪らない。 恥ずかしいと思っているのか、カッコ悪いと思っているのかは、オレにはわからないが。 日中、キスなぞ以ての外、接触することすら拒まれる状態で。 まあ、夜はこちらから誘えばOKなのだが。 オレとしては、朝から晩まで傍に置いておきたいし、暇さえあれば触りたいしキスしたいし抱き締めたいし啼かせたい。 19歳のピッチピチの男なのだ。 それも当然だろうと思うのだが。 コックにそう言えば、お前は万年発情マリモか!!と蹴り出されることは間違いない。 だから、常に自身を自制し、コックに極力近付かず、夜クルー全員が寝付くまで大人しく待っていたのだが。 昨夜は、どうしても1人で考えたい事があるからと、ラウンジを追い出されてしまった。 ただでさえ、今日は朝早くからさっきまで女部屋の模様替えだとぬかすナミにこき使われて、ろくにコックの顔を見ていなくて。 できればあんな事やこんな事をして、一緒に寝ようと思っていたのだ。 そのコックが、いつものように邪険に扱うような態度なら強行突破で剥いてしまうのだが。 妙に真剣で思い詰めたような顔をしていたので。 その表情に気圧されて、ラウンジを出てきてしまった。 窓から覗いたコックは、何か紙切れを見つめながら頭を抱えて真剣に悩んでいるようで。 もう一度声を掛けるのも憚られ、興奮する息子を宥めながら眠りについた。 その悩みが何なのか、考えながら。 *** 考え事などしながら寝入ったせいだろうか。 朝、珍しくコックに起こされずに眼が覚めた。 いつもは皆の朝メシが終わった頃、コックが迎えに来る。 強烈な踵落しを腹に喰らわせる為に。 (偶には、起こす手間ぁ省かせてやるか。) そう思って、男部屋のはしごを上り、ハッチを開け、ラウンジへと向かう。 そして、ラウンジの戸を開けた時にすぐ眼に入ったのは・・・。 目の前のちょっと驚いた顔のコック。 「お!珍しい事もあるもんだ。おはよう、マリモv」 昨日の悩んでいる様子は微塵もなく、明るく声を掛けてくるコック。 そのコックが首に手を回してきて軽く眼を閉じるから、腰に手を置いてその薄く開いた唇にキスをした。 朝っぱらから物凄く濃厚な、舌を絡めて吸い付くようなディープキスを。 抵抗もせず積極的に応えてくるコックに、ああもう皆メシ済んだのかと思っていた。 いつ人が来るかわからないラウンジだ。 もしかして島に上陸でもして、他のヤツ等は船に居ないのかとも思った。 思っていたのだ。 ・・・・・・ガシャンと食器の落ちる音がするまでは。 その音に驚いて、オレがコックの肩越しにラウンジ内を見れば。 コチラを見るクルーの驚いた顔・顔・顔・・・。 「・・・・・・コック?皆いるぞ?」 「おう、メシ食うか?」 「・・・・・・頼む。」 素朴な疑問も軽くスルーされて、食事の支度にかかるコックを横目にオレは席に着いた。 妙に鋭い視線を四方八方から浴びながら。 *** 食後に軽い運動をと後甲板へと向かう。 コックの態度に首を捻りながらも。 クルーの視線を浴びながら、席でメシが出来るのを待っていると。 コックがオレの前にコトコトと皿を並べていく。 御飯・味噌汁・浅漬け・玉子焼き・青菜のお浸し・焼鮭・蓮根の煮物・あんかけ豆腐。 他のクルーとは全然違うメニューに目が点になる。 こんなことは恋人同士になった翌朝でもなかった。 しかも・・・・・・。 「ほい、あ〜ん。」 コックがオレの横に座り、箸に御飯を一口分乗せて、オレの口元に持ってくる。 オレをはじめ、クルー全員があんぐり口を開けてしまう。 そこに御飯が放り込まれ、 「何ポケッと口開けてんだ。」 とニコニコ微笑まれたもんだから、とりあえずもぐもぐと咀嚼してみる。 してみるが味なんぞわかったもんじゃねぇ。 コックの顔に態度に仕草に圧倒されて、味わうどころじゃないのだ。 コックはそんなオレに構うことなく。 「おいしいか?」と頬を撫でてきて。 コクコクと条件反射で頷く。 「そっか。よかった。」 またしてもニカッと笑われ、今度はこれと玉子焼きが一口分口元に運ばれ。 半分化石と化したクルー全員を目の前にして、新婚さんの朝ご飯が繰り広げられたのだ。 ラウンジからは、鼻歌交じりのコックの声と、カチャカチャと皿を洗う音が聞こえる。 そんな音を聞きながら考えるのは、さっきのコックの態度。 昨日の悩みと何か関係があるのかと考えながらも、オレの頭の中からは何にも出て来やしない。 両手に持ったダンベルを上下にコキコキやりながらも、ラウンジのサンジの様子に意識がいってしまうのは仕方のないことだろう。 「楽しそうね、剣士さん。」 そこへロビンがやって来たのに、声を掛けられるまで全然気付かなかったのも。 「どう?」 「どうって・・・・・・何が?」 階段に腰を下ろして意味深な目線で見つめてくるロビンに、チラッと視線を送りつつそう答えた。 そのオレの答えに、フフッと笑ってロビンが言う。 「コックさん、可愛いわよね。」 「・・・・・・まあな。」 「一生懸命ね、貴方の事となると。」 「・・・・・・それは、どうだかな。」 「どうして、そう思うの?」 「あいつはオレと違って、周りの目が気になるってぇか、男のオレとどうこうしてるって考えられるのが嫌なんだってよ。オレは、別に どうでもいいがな。」 「・・・・・・まぁ、そこが貴方たちの魅力でもあるのだけれど。でも、一生懸命よ、コックさん。いつも、いつも・・・。」 「いつも?今日だけじゃなくてか?」 「そう、『いつも』よ。」 そう言って、ロビンが立つ。 ダンベルの動きを止めて、オレがロビンを見るとニコッと笑って口を開いた。 「もうすぐ来るわ、コックさん。私は退散するけど、今日を精々楽しんでね。」 手をヒラヒラさせて去るロビン。 それを呆然と見送っていると、コックが飲み物を持って顔を出した。 「ロビンちゃんと話か?」 どこか不安そうな顔をして、オレに話し掛けるコック。 オレはダンベルを下に置いて、コックからグラスを受け取りながらその頬に軽くキスをする。 いつもなら、何しやがると真っ赤になって蹴りを入れてくるヤツが、今日は頬を染めたもののそのまま大人しく立っていて。 「ワケわかんねぇこと一方的に話して行っちまいやがった。」 と言うと、ホッとしたようにフワッと笑いやがった。 何となくその態度に疑問を感じたものの、それが何なのかまではわからない。 それから、昼御飯の支度があるとラウンジに引っ込んだかと思うと、蒸した栗のいっぱい入った樽を持ってきて。 オレが鍛錬する隣で皮を剥き始めたコック。 他愛もない話をしながら、午前中が過ぎていった。 *** 昼食の栗おこわを食べた後、後甲板で昼寝をしようとゴロンと横になったら、コックがやって来て。 「もう洗い物済んだのか?」 と聞けば、 「まだだけど、オレも一緒に昼寝する。」 とか言い出しやがった。 絶対に有り得ねぇ。 暇さえあれば、女共への奉仕作業に勤しむのがいつものコックだ。 女共に相手にされなければ、年下組の相手をしてやっていて、オレの相手なんぞしたことねぇ。 少しは構ってくれてもと常々思ってはいても、いきなりくれば嬉しさよりも戸惑いが先で。 確か、昨日の昼間、洗濯が溜まってたとかなんとかぶつくさ言っていたのを思い出して、 「洗濯モン溜まってんだろ?・・・・・・オレ手伝ってやろうか?」 と提案してみた。 どうもコックは今日一日オレとべったりしたいらしい。 それも人目を憚らず、だ。 オレとしては嬉しいが、それで後でコックに皺寄せがいくのは避けたい。 夜の生活に差し支えるのは、もっと御免だ。 オレの心中は流石に読めなかったのか、コックは嬉しそうな顔をして、 「んじゃ、頼もうかな。オレ、洗い物済ましてくる。」 そう言って、ラウンジへと戻っていった。 オレは盥と洗濯物を甲板に用意して、コックが来るのを待つ。 意外と、接触以外でコックと過ごすのも楽しいものだと気付いた。 年少組が手伝うと言うのをコックがやんわりと断り、2人で洗濯を済ますと、汗を流そうとコックが言い出した。 「コック、てめぇ先入れよ。」 「・・・・・・ょに。」 「あ?」 小さな声で俯いて、しかも横向いて言うから聞こえやしない。 だから、聞き直した。 聞いて、鼻血が出るかと思うくらい、驚いたのだが。 「一緒に入ろうぜ。」 昼間っから、クルーも全員揃っている船内で、2人でいることもバレバレな状態で。 2人して風呂に入るというのは、初めてだ。 当然、素っ裸になるワケで。 ただでさえ、船内でヤる時は、コトの最中極力声を抑えるコックだ。 バスルームなんぞ、声が響いて仕方ない。 誘われて一緒に風呂に入るとはいえ、ここでしたら拙いだろう。 オレは、自分の息子に勘違いするなと言い聞かせながら、先に入ったコックを追ってバスルームのドアを開けた。 白くて細い扇情的な肢体が目に飛び込んできて、思わず視線を逸らす。 いくら言い聞かせても、この身体は反則だ。 絶対、反応するなというほうが無理だ。 当然、オレの息子は臨戦態勢で、辛うじてタオルで隠しているものの、コックにはわかってしまうだろう。 バツの悪そうな顔をしてコックを見れば、ボワンと音がする位思いっきり真っ赤に染まった頬と身体。 「・・・悪ぃ。」 オレが謝ると、コックはぶんぶんと首を横に振る。 そして、更に心臓を直撃する言葉を投げてきた。 「今から、シようぜ。」 そう言って、タオルを持つオレの手を引いて、タオルを取り上げ、オレの息子をギュッと握ってきた。 そして、既に硬くなっているそれを軽く扱いて甘く囁いてきやがった。 「これ、挿れてくれよ、オレん中に。」 ブチッと、どこかが切れる音がした。 |
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