特別メニューを召し上がれ  <前編>




「何がいいかねぇ・・・・・・。」
サンジはひとりごちながら、その島のショッピングストリートをブラブラ歩いていた。


明日はゾロの誕生日だ。
漸く思いの通じ合った相手の初めての誕生日。
自分としては隠していたつもりが、既にクルー公認の仲と知ったのは思いが通じ合った翌日だった。
ゾロではなく、自分の態度でモロ判りという実に情けない理由で。
とはいえ、そのお蔭で明日のゾロのお祝いは、まず昼食時にクルー全員揃って島のレストランでパーティー。
夜は、ゾロとサンジ以外のクルーが島で宿を取るから後はごゆっくり、とナミさんの可愛らしいウィンク付きメッセージを頂いた。
ゾロは船番押し付けただけじゃねぇかと零していたが・・・。
折角の2人きりのゾロの誕生日。
当日の夕飯はゾロの好きな和食と決めているし、とっておきの酒も手に入れてある。
でもそれは、結構しょっちゅうの事だったりするから。
何か特別の事がしたいと思うのは、恋人としては当然の話で。
だが、しかし・・・・・・。
「何がいいかねぇ・・・・・・。」
また同じ台詞を零して、溜め息。
そう、全く見当がつかないのだ、何が喜んでもらえるのか。
基本的に物事に執着しないゾロ。
そんなゾロが自分に見せる独占欲は、サンジとしては目茶苦茶嬉しいのだが。
もう既に自分は全部あげちゃっているのだ。
じゃあ、あとは・・・・・・。
堂々巡りのサンジが、う〜んと頭を悩ませていたその時。
抹茶頭が目に飛び込んできた。
(お、ゾロじゃねぇか。ちょうどいい。こうなりゃ直接聞いたほうが早ぇ。)
と思い声を掛けようとしたのだが、済んでの所で思い止まる。


ゾロはある一軒の店の中を通りの反対側に突っ立って食い入るように見つめていた。
その目は、ずうっと欲しかった玩具を見つけた子供のそれで。
サンジがその店に視線を移して絶句する。
武器屋でも、刀鍛冶屋でも、飲み屋でもないそれは。

とても可愛らしい小さなレストラン。

外観は高原のプチペンションを思わせる造り。
窓はピンク色の枠。
カーテンはフリルをふんだんにあしらった白のレース。
カーテン止めは赤いリボン。
遠目で見ても、レディ受けすること受け合いの店構え。
事実、オープンカフェ方式となっているその店の外のテーブルには、レディ同士、子連れの若いマダム、もしくはカップルしかいなか った。
(こんな店に何の用があんだ?ってか、アイツがあんなに夢中になるのって・・・・・・。)
サンジは気になって、そうっとゾロの背後に近づくと声を掛けた。
「何見てんだ?」
「うわっ!!!コック、てめっ???」
明らかに動揺して振り向いたゾロはサンジの姿を見とめると、顔を強張らせる。
サンジが首を傾げてもう一度おいと言うと、何でもねぇと手を横に振り後退りをしてサンジから離れ、クルッと向きを変えると一目散に 走り出した。
「おいっ!!ゾロ、待てよっ!!」
サンジがそう声を掛けても立ち止まらず、ゾロの姿は雑踏に紛れてしまった。


「何なんだ、アイツは。オレに見られちゃ不味いもんでも・・・・・・。」
そこまで言ってハッとする。
そして、サンジは件のレストランにもう一度目を向ける。
ゾロが居た場所から、ゾロの見つめていた方向を。
そこには・・・・・・・・・1人のウエイトレスが居た。
客に料理を出した直後なのか、トレイを脇に抱え偶々目が合ったサンジに微笑みかけてくれた。
メロリンとなりながらも、サンジは考える。
淡いピンク色のプリンセスラインのワンピースに、白いフリル一杯のエプロンを身に着けた彼女。
長い金髪を頭の上のほうでお団子にして纏め、その上にはちょこんとメイド風の帽子が載っている。
顔も美人と言うよりは可愛らしいタイプで、十人並みからは抜きん出ている。
おそらくこの店の看板娘なのだろう。
(あんな娘が、実は好みなのか?)
そう思ってサンジは、しょぼんと項垂れる。
好きと言った自分を受け入れてくれたのに、自分を好きと言ってくれたのに。
でも、ゾロだってサンジと付き合う前は完全ノーマルと言っていた。
ならば、ゾロが店の中を見ていた原因の可能性は
 @ 彼女がゾロのタイプ。・・・・・・・・・・・・・・・75%(大本命)
 A 彼女の着ている服が気に入った。・・・・・20%(結構コスプレ好き)
 B その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5%(もう、検討付かない)
の内のどれか。
自分の出来ることでゾロが喜んでくれることをしたいサンジ。
和食とか酒とか自分とか以外で。
例えそれが、自分を苦しませることになっても。
サンジは涙を飲んで自分のほうを向いている彼女の方へと近付いていった。


その日、サンジが彼女との商談を終えてGM号に戻ったのは、もう日も暮れかかった5時近かった。
明るい陽の下で、ゾロの顔を見る勇気が無かったからだ。
既に船に戻っていたゾロが、薄暗い空の下でサンジの顔を見て
「どうした?」
と聞いてきたくらいだ。
何でもねぇ、と何とか返してサンジはラウンジへ向かう。
今日はゾロが船番。
誕生日前でも容赦の無いナミだ。
順番どおり巡ってきたそれに乗じて、今日は2人で船で過ごすのに。
明日のゾロの反応次第で、この恋も終わりかなぁと考えれば沈んでしまうのは無理もない。
ならば、終わってしまう前にとサンジは一大決心をする。


夕食後、2人分の食器を短時間で洗い終えて、サンジは後ろで酒を飲みながら寛いでいるゾロへと向かう。
そして、なんの前触れもせずゾロの膝にチョコンと座った。
対面座位の状態だ。
さすがのゾロも吃驚して、少し上にあるサンジの顔を見上げる。
「どうした?てめぇからなんざ、珍しいな。いつもなら、嫌がるくせに。」
「たまにゃいいじゃねぇか。今日はオレがサービスしてやるよ。」
そう、サンジは決意したのだ。
ゾロは、いつもマグロであんあん啼かされっ放しのサンジに飽きたのかもしれない。
なら、自分から積極的にゾロに絡めば、もしかしたら捨てられずに済むかも・・・・・・なんて乙女なことを考えたのだ。
「・・・・・・へぇ。どういう心境の変化か知らねぇが・・・・・・してくれよ、サンジ。」
ゾロの最後の台詞に欲が滲んで居るのがわかる。
サンジはヘヘッと笑ってゾロに跨りながら、口付けを落とした。


ゾロの股の間で金色の頭が上下している。
サンジは全裸で、ベンチに座るゾロの両脚の間に蹲っているのだ。
ゾロはというとズボンは履いたまま。
ファスナーだけを下げてゾロの男根を取り出しサンジが咥えている。
手をサンジの頭に載せて、時折漏らす声に快楽の兆しを認めてサンジは嬉しそうに微笑む。
ちゃんと自分の行為で感じてくれているのが嬉しいのだ。
「ゾロ、舐めてくれ。」
サンジがゾロの棹を細い指で扱きながら、反対の手をゾロの口元へ持っていく。
「何、すんだ・・・?」
「自分で解すんだよ。早くしろ。」
「!!てめぇ・・・・・・どうし・・・ぐっ。」
何か話そうとするゾロの口内に指を突っ込む。
ゾロに咥えられた指が、自分のそれならと考えてサンジは赤面する。
そして、未だに触られていないそれがもう先走りの汁を零していることに苦笑した。
(オレ、ほんっと、マジでゾロが好きだわ。)
そう思いながら、ゾロの棹を咥えなおす。
口に入りきらないそれを、丁寧に舐め、吸い、扱く。
そして、ベタベタになった自分の指をゾロの口から引き抜くと、自分の後ろに持っていく。
持っていって、入り口に当て、ゆっくり挿れてみる。
いつものゾロのやり方を思い出しながら。
「ん・・・・・んあ・・・・・・ふっ・・・。」
くちくちと音を立てる自分の行為を自身で感じて、思わず腰が揺れる。
そんな行為を全て見ているゾロがどう見ているか気になって、サンジは視線をゾロに向けドキッとする。
自分を見つめるゾロの、優しい中に潜む野獣のような欲を含んだ視線を。
それだけでイきそうになって、サンジは慌てて俯いた。
自身を解すことに集中しないと暴発しそうだ。
サンジの指が軽く3本入れられるようになったので、サンジは指を抜き身体を起こしてゾロに跨った。
ゾロの両手がサンジの腰に廻される。
「てめぇは動くなよ。オレが挿れる。」
「・・・・・・わかった。でも、無理すんな。」
ゾロの気遣う言葉に頷きながら、サンジはゾロの男根を入り口に当てゆっくりと腰を落とす。
サンジの細い指ではやはり解しきれなかったのか、ミシミシと音を立てる後孔。
ゾロの心配そうな表情に引き攣りながらも笑みを浮かべて、サンジはゾロを受け入れていく。
「ん・・・・・・んんっ・・・・・・は、入ったか?」
「おう、きっちり、入ったぜ。・・・・・・大丈夫か?」
ゾロの太腿が尻に当たって確認すれば、ゾロが肯定と心配とを口にする。
そんなゾロが愛しくて、サンジはまだ慣れない後孔を気にすることなく動いてゾロにキスをする。
ゾロもサンジのキスに応えて、舌を絡めてくる。
「好きだぜ、ゾロ。」
「あぁ、てめぇだけだ、サンジ。」
互いの唇の間で糸を引く唾液をうっとり眺めながら、サンジが腰を動かし始める。
それを支えるゾロが、サンジの表情を見逃すまいとサンジの顔にキスをしながら見つめる。
今、この瞬間、自分だけを見つめてくれるゾロがいる。
そのことに喜びを感じながら、サンジの動きが早くなっていく。
サンジのそれが飛沫を飛ばした瞬間、ゾロの熱情を身体の中に感じ、サンジは堪らない幸せを感じた。




翌朝、いつもより遅く、それでも8時には目覚めたサンジ。
朝食の下拵えをし、溜まっていた洗濯物を片付け、甲板の掃除をし、倉庫の整理及び食材のチェックをして一服。
そして、10時。
ラウンジでそのまま寝ているゾロを、蹴り起こした。
いつものように、普通に起こせと文句を言いながらも顔を洗いにいこうとしたゾロはふと疑問を口にする。
「あ?おい、ナミには12時半にレストラン集合って言われてんだろ?もちっとゆっくり−−−」
「てめぇ、オレのスペシャル朝ご飯、食えねぇってんじゃねぇだろな?」
寝かせろやと続けようとした口が、サンジのドスの利いたチンピラも真っ青な口調で止まる。
こういうサンジには逆らわない方がいいと学習したゾロ。
以前これに歯向かって、1週間お預けを食らったのだ。
なので、仕方なくすごすごと顔を洗いにバスルームへ向かう。
そんなゾロを、サンジは複雑な表情で眺めた。


彼女との約束の時間は、10時半。
いくらねちっこいゾロでも、1時間半あれば大丈夫だろう。
というか、サンジ相手なら3日3晩でもOKというゾロだが、自分以外にはそれ以上時間をかけて欲しくないというのが本音だったりし て。
はぁっと溜め息を付きながら、サンジはキッチンで朝食の最後の仕上げに取り掛かる。
(今日一日、ゾロのいい顔、見てぇもんな。頑張れ、オレ!)
自分自身に活を入れながらも、サンジは朝食のお握りを無心で握り始めた。


その朝ご飯をものの5分でたいらげたゾロに対し、サンジは後片付け&冷蔵庫の整理を理由にラウンジから甲板に放り出した。
「オレがいいって言うまで、ラウンジ立ち入り禁止!」
と言い渡して。
ゾロは怪訝な顔をしながらも、サンジの言う通りにしてくれた。
今、甲板で串団子を振り回しての鍛錬中だ。
昼寝もすんなと言っておいた。
万一寝過ごして、彼女に気付かなかったら意味が無いからだ。
そして、10時半。
彼女は約束通り現れた。


「この船に、ロロノア・ゾロって殿方は居る?」
船の脇から声を掛けられてゾロがそちらのほうを向いたのが、少し開けたラウンジのドアから見えた。
ちょうど、船柵が陸地の高さと同じこともあって、彼女は容易に船に飛び乗る。
昨日のウエイトレス服ではなく、ちょっと背中の露出の激しいブラウスにフレアのミニスカートで。
女性の武器を十分に生かしきった格好に、サンジは感心すら覚える。
その彼女が、ゾロの傍まで来てニッコリ笑う。
何か話しているのだろう。
遠くてよく聞こえないが、彼女が差し出した包みをゾロが受け取り、それを見てふっと微笑んだ。
そして、彼女がゾロの向こう側へ回り、肩へ手を置いて耳元に話し掛ける。
ゾロは彼女の方を向いていて、こちらに表情は見えない。
(なんか思ったとおりになりそ・・・・・・。)
サンジはその先を想像して、ラウンジの扉をゆっくり閉める。
そして、そのドアに凭れ掛かり、ズルズルとしゃがみ込んだ。
今から彼女とどこかにしけこむんだろう。
(精々、楽しんでくれよ、大剣豪。んで、一回こっきりにしてくれ。)
ポロッと零れ落ちそうになる涙を膝に押し付けて拭い、床を呆然と見詰めていた。
その時、

ラウンジの扉が開いた。

そして、コロンと後ろに転んだサンジが見上げた先にあったのは・・・・・・ゾロの顔。

「ゾロ・・・・・・。」
サンジが何でと言う顔でゾロを見やれば、
「何やってんだ、てめぇ?」
とゾロは怪訝そうな顔をして聞いてくる。
そして、倒れているサンジの脇を抜けてテーブルのところまで来ると持っていた包みを置いてサンジを振り返った。
「これ、配達してくれたぜ。」
「・・・・・・おう。で、持って来てくれた人は?」
「あ?帰った。」
淡々と話すゾロに、あれ?と首を傾げるサンジ。
(あの娘のこと、気に入ってんじゃないのか?)
そう思って、さり気なく探ってみることにした。
「・・・・・・酒屋さんだったか?」
「ん?・・・・・・あー、ありゃ酒屋か?わかんねぇ。」
「じゃ、男だったか?」
「いや、女だった。」
「・・・・・・可愛かったか?」
肝心の質問を、出来る限り自然に聞いてみた。
返ってくる返事を、どんな台詞がきてもいいように身構えて。
そしたら、
「あぁ?覚えてねぇ。・・・・・・って、何でんなこと聞くんだ?」
と返ってきた。
「い、いや、別に。可愛い子ならオレも見たかったなぁってよ。」
お前なぁと呆れた様に笑うゾロに、へへへと薄ら笑いをしてみる。
自分の予想がいい方に外れた事に心底ホッとしながら。
そして、ゾロが座り込んだままのサンジに手を差し出してきた。
「ナミが待ってんだろ。あんまり遅くなると、うっせぇぞ。」
「んな言い方すんなっつってんだろ、このアホ剣士。」
サンジは起こしてもらってから、軽くゾロの脚に蹴りを入れた。


ゾロの誕生パーティーが、あるホテルの最上階にあるレストランで一部屋借り切って行われた。
最初の乾杯後、クルー達がそれぞれ思い思いのプレゼントをゾロに渡していく。

まずは、ルフィ。
「ゾロ、今度の島でオレと冒険に行ける権利をやる。嬉しいだろ〜?」
「あぁ?なんだって好き好んでてめぇのハチャメチャ行動に付き合わなきゃなんねぇんだ。祝いになってねぇぞ。」
ゾロは呆れながらも、笑ってルフィの肩を叩く。

次にウソップ。
「オレは、こないだゾロが言ってたラウンジの窓にカーテン付けといたぞ。」
「なんでそんなの付けるのよ?」
とナミに突っ込まれ、
「てめぇが覗くからだろ。アイツぁ気付いてねぇが、もしわかったらやべぇのはオレだからな。」
とゾロが返す。

そしてチョッパー。
「ゾロ、これ、新しい薬草で作った絆創膏だぞ。よく背中にできる引っかき傷の大きさでも大丈夫だから。」
「あら、激しいのね、コックさん。」
ロビンが感心してゾロを見れば、ゾロが仏頂面でそれに応える。

最後に女性陣。
「あたしとロビンからは、今日一日船に帰らないプラス他のクルーも帰さないってことで。こんな辺鄙なとこに泊まってあげるってんだ から感謝しなさい。」
「借金減らせば、オレとコックが外泊まれんだぞ。」
とゾロが言うと、
「ホントなら逆に宿泊費もってもらおうかって言ってたのよ。」
とナミが含み笑いをする。


そのやり取りを、心ここにあらずで聞くサンジ。
いつもなら、ゾロに蹴りが入ったり、顔色が赤や青に変わってもおかしくない状況なのに、何の反応もない。
それに気付かぬ女達ではない。
「どうしたの、サンジくん?・・・・・・サンジくんっ?!」
「・・・・・・・え、ええっ?あ、はっはい。何でしょう、ナミさん?」
慌てて返事をするサンジに、ナミはその内面を覗き込もうとするかのようにじーっと見た。
そして、ニヤッと笑うと
「昨日は激しかったの?そんなんじゃ、本番の今日持たないわよ?」
「・・・・・・・って、ナミさん。その・・・・・・。」
いくらクルー公認とはいえ、女の子にあからさまにゾロとの情事を髣髴させる言葉を出されるとさすがにうろたえるサンジ。
そんなサンジの反応が、さらにナミやロビンを楽しませていることも知らずに。
「ま、いいわ。で、サンジくんは?」
「え?」
「ゾロのプレゼントよ。何にしたの?」
「・・・・・・・・・。」
何にも用意していないとは言えない。
事実、用意はしたけど、それは全然プレゼントにはならなくて。
ゾロが喜ぶだろうと思っていたレストランの彼女との逢瀬は、全く見当違いだったのだ。
サンジがしゅんと俯いていると、ゾロが口を開いた。
「貰ったぜ。」
皆、一斉にゾロの方を向く。
勿論、サンジも。
「あれだろ?さっき女が持ってきたヤツ。」
「え?」
サンジがきょとんとすると、ゾロが続ける。
「ありゃ、こないだの島でオレがてめぇに話した幻の酒だろ?この島じゃ手に入らねぇ筈だ。それがあるってことは、てめぇが用意し たんだろ?」
「・・・・・・・・・ゾロ、てめぇ知ってて・・・・・・。」
知ってて、だから彼女の誘いに乗らなかったのか?・・・・・・そう聞きたかった。
彼女がサンジの差し金だと気付いていたから、好みの女の子なのに付いていかなかったのか?・・・・・・と。
「女ってどういうことよ?」
ナミが言葉を挟む。
聡い彼女の事だ。
サンジの様子がおかしい事に気付いても不思議は無い。
「ん?どっか、知らねぇ女が持ってきたんだよ。こいつからとは言ってなかったがな。」
「ふ〜ん。でも、よくわかったわねぇ、サンジくんからって。」
「あ?好きなヤツの匂いが付いてんだ。気付かねぇ方がどうかしてるぜ。」
「「「「「「−−−−−っ!!!」」」」」」
クルー全員の目が点になる。
ルフィはにししと笑い、ウソップは額に手をあてて眉を顰め、チョッパーは訳がわからず回りを見渡す。
ナミはあんたねぇと呆れ、ロビンはあら可愛いじゃないと感想を洩らす。
そして、肝心のサンジはというと・・・・・・真っ赤になって微笑んでいた。
ちょっとだけ、ゾロの気持ちを疑ったことに後悔しながら。
(なんだ、やっぱり、オレにベタ惚れなんじゃねぇか。・・・・・・んじゃ、何だってゾロのヤツ・・・。)
サンジはまたしても考え込んだ。
いくら他のクルー達から貰ったプレゼントに対して、ゾロが自分のプレゼントの酒を見て微笑んだ時のように嬉しそうな顔をしていな かったとしても。
それでもサンジは足りないのだ。
もっともっと、ゾロの嬉しそうな顔を見たい。
いつもの酒や、和食の料理とかそんなん以外で。

サンジが、う〜んと考え込んだ脇で
「普段のサンジくんなら蹴りの一つも飛んでるのにね。何考えてんのかしら?」
「突拍子も無いことじゃなければいいけど。」
「え?それって、それってもしかして・・・?」
「あら、航海士さんもわかってるんでしょ?」
と、女性陣が楽しそうにお喋りしているのにも気付かずに。




ラウンジの窓に映る自分の姿を何度も何度も確認して、サンジがうんと頷く。
ちょっと恥ずかしいし、動きにくいんだけれども、思ったより似合ってると思う。
これでゾロは喜ぶだろう、間違いない。

ゾロの昼食を兼ねた誕生パーティーも3時にはお開きになって、ゾロとサンジは船に戻った。
そして、昼寝を始めたゾロを置いてもう一度あのレストランへとサンジは向かった。
彼女へのお礼と報酬とお詫びのために。
ペコペコと謝るサンジに、彼女は笑って応えた。
「あの有名なロロノア・ゾロと間近で話せたんだもの。こんなには貰えないわ。」
やんわりとお金を受け取るのを拒否する彼女にサンジは言った。
「でも、ちゃんと届けにきてくれたし、恥掻かせちゃったから。それに・・・・・・それに、実はもう一つお願いがあるんだ。」
「何?」
そのサンジの話を聞いて、彼女は一瞬目を丸くしてそれからニッコリ笑って頷いた。
「そういうことなら、いいわ。このお金は貰っておくわね。」
「うん。ありがとう。」
彼女が一旦レストランの中に入り、そして大きな紙袋を手にサンジの元へ戻ってきた。
それを受け取り、急いで船に戻るサンジをクスクス笑いながら見守る彼女に、サンジは気付かなかった。


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