袈裟懸けの傷

<償却>




「できねぇ・・・・・・。」
「馬鹿言うな、サンジ。オレはもう生かしておいちゃいけねぇんだ。やることぁやった。最後はてめぇにしてもらいて ぇ。」
「・・・・・・ゾ、ロ・・・。」
サンジがのろのろと白い鞘から刀身を抜き出す。
ゾロが目を瞑り、その白刃が自身を斬るのを待つ。
だが、いつまで待っても振り下ろされる気配が無い。
ゾロはキッとサンジを睨み付けると、ニヤッと下卑た笑顔をサンジに向けた。

「それとも、もう一回犯されてぇか?」

言われた内容にサンジが愕然とする。
今、・・・今、なんと言った・・・・・・?
「オレにヤられてぇのかって聞いてんだ、サンジ。」
「な、んだと・・・・・・?」
「ヨかっただろ?オレに挿れて欲しくてソコがうずいてんじゃねぇのか?」
「・・・・・・・・・てめぇっ!!!」
逆上するサンジにゾロが大声で言い放つ。

「斬れ、サンジ!」

ゾロの叫びと共に、サンジの持つ和道一文字が袈裟懸けに振り下ろされる。
その瞬間にサンジが見たゾロの顔は、本懐を遂げ満足した様に微笑んでいて。
飛ぶ血飛沫と、口から吐き出される血で真っ赤に染まりながらゾロがゆっくりと崩れ落ちていく。
「ゾロっ!!!」
我に返ったサンジが刀を放り投げ、駆け寄り、今にも倒れ込むゾロを抱き抱える。
そんなサンジの頬に手を伸ばし、ゾロはニッコリと笑う。
そして、消え入りそうな声で、それでもハッキリとサンジに言った。
「サン、ジ・・・・・・てめぇを・・・愛・・・・・・して・・・た・・・・・・。」
だから、てめぇを抱きたかった、すまねぇ、と。
そこまで言って、ゾロがゴボッと口から大量の血を吐く。
「ゾロっ、ゾロっっっ!!!」
自分を見つめる眼差しが、今投げ掛けられた言葉こそゾロの本心とサンジに伝えてくる。
何故、何故今頃になって・・・・・・。
−−−−−−馬鹿、が。
溢れ出る血がサンジの身体をも濡らしていく。
−−−−−−この、馬鹿が。
ゾロの身体から力が抜けていくのが、自分に掛かる重さで判る。
−−−−−−馬鹿野郎、が!
自分に差し伸べられようとしていた手が、ガックリと下ろされる。


「この、大馬鹿野郎がっ!!!」


ボロボロと零れ落ちる涙でサンジの視界が曇っていく。
その雫がゾロの顔に滝の様に落ちていくにも拘らず、ゾロは目を覚まさない。
その顔は、昔の親友だった頃のゾロの穏やかな笑顔で。
サンジはゾロの頭を抱えて、泣きながら血の付いたゾロの唇に口付けた。







サンジは胡河の河畔へと足を向けている。
そこは、以前翠国と呼ばれていた場所だ。
あれ以降翠国は滅び、南朝は悌国が盟主として君臨することとなった。
翠国の領土は悌国の管轄下に置かれ、元翠国宰相コーザがその領主として配置された。
斬罪にされたゾロの妻、ビビを伴って。
そして、南朝は以前以上の結束でもって北朝鰐を迎え撃つこととなる。
サンジは今、そのコーザの納める領土に来ていた。
ゾロの母親が幽閉されていた東屋。
その脇に、ゾロの墓がひっそりと建てられていた。
まず、そこに花を手向け、そしてその横の東屋へと足を向ける。
扉を開け、中を覗くと、そこにはコーザが座って待っていた。
「どうだ、様子は?」
「はい。もう、傷も塞がりましたし、起き上がられるようになりました。」
立ち去るコーザと入れ替わるようにサンジが中へ入っていくと、そこにある褥に寝ていた人物がむくっと身体を起こ す。
サンジを見て驚き、そして視線を逸らして。
「どうした?オレの顔なんぞ、見たくなかったか?ゾロ。」
「・・・・・・・・・何故、オレを助けた?サンジ。」
サンジは目の前に座るゾロを微笑んで見つめる。


そう、ゾロは生きていた。
サンジが斬った袈裟懸けの傷は、深いものではあったが致命傷には至らなかった。
逆上し刀を振り下ろしたサンジだったが、寸での所で我に返り、刀を手前に引き傷を浅くしたのだ。
流れ出た血の量が多かったせいで周囲を誤魔化すことが出来、その身体をサンジが始末すると言うことでゾロをその 場から隠すことは出来た。
ただ、ゾロの回復は思ったより遅かった。
サンジが思った以上に傷が深かったのと、ゾロの体力が落ちていたからだ。
食事も睡眠も十分に取れていなかったのが原因らしい。
そのゾロが漸く目を覚ましたのが、あの時から2週間後。
起きれるようになったのが、更に1ヵ月後の今と言うわけだ。


「てめぇは死んだんだろ?もう、てめぇは翠国の国主じゃねぇ。ただの、ロロノア・ゾロだ。」
「・・・・・・どういう意味だ?」
「てめぇが母親と約束したのは、翠国の滅亡と、翠国国主の血の断絶だろ?ちゃんと果たしたじゃねぇか。」
「まだ、オレが生きてる。」
ゾロの言葉にふっとサンジが笑う。
そして、徐に服を脱ぎ始める。
「何してる?」
「ん?要は、てめぇが子孫残さなきゃいいんだろ?」
「・・・・・・それは、そうだが・・・・・・・・・。それとてめぇが服脱ぐのと・・・。」
一枚ずつ服を脱いでいきながら、ゾロの傍に近寄るサンジ。
そして、全裸になってゾロの前に座る。
ゾロは、目を見開いてサンジから視線が外せないでいる。
「オレはな、ゾロ、蒼国の国主だ。」
「・・・・・・あぁ。」
「国を守っていかなくちゃならねぇし、妻を娶り子孫を残す責務がある。」
「・・・・・・あぁ、知ってる。」
「それでも、いいなら・・・・・・。」
そこで言葉を切り、サンジはゾロの頬に手を当てる。


「オレを抱け、ゾロ。」
「っ?!!!」


ゾロが、更に目を見開く。
そんなゾロにサンジが触れるだけの口付けをする。
「目隠しは無しだ。てめぇの目を、気持ちをオレにちゃんと見せろ。」
「・・・・・・・・・。」
「ちゃんと正面から抱き締めろ。」
「・・・・・・・・・。」
「そんで、そ・・・んで・・・・・・・。」
サンジの目から涙が溢れ始め、ゾロがそんなサンジに手を伸ばす。
「サンジ?」

「ちゃん・・・と、ちゃんと『愛してる』って・・・言いやがれ!」


ゾロが最後の最後でサンジに伝えたあの告白を、サンジはゾロが回復する間ずっと考えていた。
そして、出した結論。
憎みきれなかったのは、好きだったから。
犯されて食べられなくなったのは、好きな相手に気持ちも無く陵辱されたと思ったから。
最後に酷い言葉を投げつけられても冷静さを失わなかったのは、ゾロをこの手に抱きたかったから。
だから・・・だから・・・・・・。


「サンジっ!!」
ゾロが伸ばした腕をサンジの背中に廻し、力強く抱き締める。
サンジもゾロの首に縋り付く。
背を撫でられ、頭を掻き抱かれ、ふっと身体が離れたかと思うと唇にゾロのそれが押し当てられた。
初めてのゾロとの口付け。
何度も確かめるかのように触れ合った後、舌で唇を押し開けられ、舌を絡め取られる。
道理で、陵辱の時してこなかった訳だとサンジは翻弄されながらも思う。
ゾロの自分への痛い程の愛情が伝わってくるのだ。
そんな激しい口付けの後、ゾロがサンジの頬の涙を指で拭い、そこに両手を当てて聞いてきた。
「サンジ、オレを・・・オレを許してくれるのか?」
不安そうな、それでいてどこか期待しているかのような目で。
そのゾロを睨み付けて、サンジが言い放つ。

「絶対ぇ、許さねぇっ!!」
「−−−っ!!」
「てめぇが死ぬまで、いや死んでもオレはてめぇを許さねぇ!だから、てめぇはオレの傍に居ろ!離れんな!オレが 付けたその袈裟懸けの傷に誓えっ!!一生涯かけてオレに償うと。オレ以外の誰も愛さねぇと。」

その言葉にゾロが涙を零す。
サンジの気持ちを、自分を想ってくれているその心を貰えた事に嬉しさを隠し切れずに。
声も無く泣くゾロの目尻を、サンジが舌で舐め取る。
それを合図に、ゾロがサンジを引き寄せ、自分の下へ組み敷いた。
もう一度、唇を合わせてゾロが囁く。

「愛してる、サンジ。てめぇだけだ。」
「・・・・・・オレもだ、ゾロ。」

サンジが、ゾロの傷を指で辿り、それにそっと口付ける。
そして、その後ゾロがサンジの首筋に顔を寄せる。
手を胸にあて、指でその尖りを摘む。
サンジが声を上げれば、ゾロがその箇所を執拗に攻めてくる。
思わずサンジがゾロの名を呼び、以前の事を思い出して固まると、
「もっと、呼んでくれ。サンジ。」
とゾロがサンジの耳に舌を滑り込ませながら言う。
「あ、あぁ・・・・・・ゾロ、ゾロ・・・。」
サンジがゾロと呼ぶ度に、ゾロは身体を起こしてサンジを見つめる。
サンジが手を伸ばしてゾロの背を抱き締めれば、ゾロもその都度サンジの身体を抱き返す。
同じような触れ方でも、名を呼び合い、視線が絡み合い、抱き締めあうだけでこれ程違うものなのか。
ゾロもサンジも、互いの互いに対する愛情を確かめながら駆け上っていく。
ゾロが胡坐を掻き、その上にサンジを座らせてその奥を貫けば、サンジが善がり声を上げながらゾロにしがみ付く。
そんなサンジを見つめてゾロが笑みを浮かべる。
優しい、それでいて色欲を浮かべたそのサンジの好きな笑顔で。
「ゾロ、絶対ぇ離すな。」
「あぁ、死んでも離さねぇ。」
そう言って動き始めたゾロに、サンジの身体が上り詰める。
絶頂を同時に迎え、抱き締めあう2人にもう、言葉は無かった。






その後2年経ち、蒼国は悌国に吸収され、その領地は悌国国主ルフィの兄エースが治めることとなる。
国主サンジが死んだのかどうかは、定かではない。
ただ、その更に半年後の南朝と鰐との決戦のとき、南朝の盟主でもあるルフィの両脇を占める2人の男が居た。
1人は刀を自在に操る緑髪の偉丈夫で、もう1人は金髪の弓の名手だったという。
その3人の働きにより、鰐との戦いで勝利を治め、悌国は南朝統一に乗り出す。
だが、南朝が統一されようという時に両翼の姿は無かった。
その後の2人の行方を知るものはいない。
そして、更に数年後、胡河の東屋の脇にあったロロノア・ゾロの墓の横に、もう一つの墓が建てられていた。
その墓にはこう記されてある。

「死して尚、離れられない者達、ここに眠る。」と。




                          END


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中国モノっぽくって、母親の復讐の為サンジを犯すゾロv




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