「エラいこと言ってくれやがって・・・・・・・・・。」 厨房へドカドカと足音を立てて向かうサンジを見ながら、ゾロはゼフに対してごちた。 ただでさえ、負けず嫌いなサンジ。 ゼフが相手となれば、それは最高を極めるだろう。 「・・・・・・・・・てめぇにも言っときたいことがあるぞ、元海賊狩り。」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 ゼフの言いたいことは大体見当が付く。 黙っていた方が無難だろう。 「あいつに大事なヤツができたことぁ、手紙の文面見て察しがついてた。」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 「それがてめぇたぁ、流石に思わなかったがな。」 「・・・・・・・・・何が言いたい?」 喧嘩を売るような口調に、思わず口が出てしまった。 ゼフは、顎で向かいの席に座るようゾロに促すと、言葉を続けた。 「てめぇは剣士だな。」 「おう。」 「アイツぁ何も言わねぇか?」 「・・・・・・・・・どういうことだ?」 「人一倍意地っ張りでなかなか感情を表に出さねぇし、自分の幸せにゃとことん疎いヤツだ。」 「んなことぁ、先刻承知だ。」 「自分の為に相手が何か失うのも嫌がるアホだ。」 「それをオレが厭わなくてもな。おかげで2年も待たされた。」 ゼフは、ほうっと感心したような声をあげた。 「・・・・・・・・・世界一になったってな。」 「あぁ。」 「相手が絶えねぇだろう?」 「さしあたって、問題ねぇ程度にな。」 「この先もずっと続く世界一の道に、アイツを付き合わせるつもりか?」 「・・・・・・・・・・・・。」 「目の前から消えることぁ耐えられんヤツだぞ、あれは。」 「オレはアイツを措いては死なねぇ。」 ゾロは揺ぎ無い眼差しでゼフを見た。 ゼフも視線を逸らさない。 「・・・・・・・・・ゼフ。」 ゾロが名を呼ぶ。 ゼフの眉がピクッと動いた。 「オレにどうしろってんだ?」 「あれと生きてく覚悟を見せろ!そうじゃなきゃ、オレは認めねぇ。」 「・・・・・・・・・期限は?」 「チビナスと一緒だ。」 ゾロは無言で頷くと、席を立って外へ出た。 サンジが部屋に戻って来たのは、何時もより2時間以上遅く夜中の1時を回っていた。 ――――流石にゾロは寝ただろう。 そう思ってドアを開けると、フワッと窓のカーテンが舞い上がった。 「コック。」 ベランダで酒を瓶ごと煽り、手すりに腕を乗せてゾロが振り向く。 「・・・・・・起きてたのか?」 「あぁ、・・・・・・もう遅いぞ。てめぇはもう寝ろ。」 「ゾロ・・・・・・・・・。」 自分に気を使っているのだろう。 それは解っている。 でも・・・・・・・・・。 サンジはベランダに出てゾロの背中に抱き付いた。 胸に廻したサンジの腕に、ゾロは手を乗せて指で撫でる。 「・・・・・・コック。」 「ん?」 「我慢できなくなっちまう。離せ。んで、寝ろ。」 「・・・・・・・・・。」 「てめぇが寝たら、てめぇ抱き締めてオレも寝る。」 「じゃ、一緒に寝りゃいいじゃねぇか。」 「起きてるてめぇだとダメだ。手ぇ出しちまう。」 身体の向きを変えてギュッと抱き締めてくるゾロを堪らなく愛しく思う。 それにしても・・・・・・。 「クソジジィに何か言われたのか?」 「・・・・・・・・・てめぇは料理のことだけ考えてろ。アイツに認めさせてやんだろ?世界一のコックさんよ。」 ゾロの言い様に絶対口は割らないことを確信して聞き出すことを諦め、サンジはハッと笑った。 「あぁ、あったりめぇだ。最高だって言わせてやるさ。・・・・・・・・・それとよ。」 ゾロから体を離して、風呂場に向かいながら話し掛け続ける。 「これ終わったら、オレを堪能しろよ。」 「コック!てめぇっ!!」 サンジの爆弾発言にゾロが目を剥いて怒鳴ると、サンジは手をヒラヒラ振りながら風呂場に消えた。 その日、ゾロが寝付いたのはサンジが寝入ってから更に2時間後だった。 それからの2日間、ゾロとサンジは殆ど顔を合わせなかった。 ゾロは日中集中するために鍛錬に没頭したし、サンジは出す料理を検討するため厨房に籠もりっ放しだった。 それでも夜は、寝付いたサンジを腕の中に入れてゾロは寝たし、朝はゾロのぬくもりを感じてサンジは目覚めた。 2人とも、互いの寝顔に優しくキスをおとす。 それだけで我慢するのは正直辛かったが、サンジもゾロもゼフに認められたい一心で、どうにか耐えていた。 終に約束の日が来た。ランチタイムの後片付け終了後、従業員達を休憩に出してそれは始まった。 ゾロは今し方サンジに起こされて、ゼフの向かいに座っている。 サンジが厨房に入って少ししてから皿を一枚掌に乗せて出てきた。 そして、それをゼフの座るテーブルに置いた。 「当店自慢のコンソメスープです。」 そう、サンジは色々考えた末、一番シンプルでかつ全ての料理のベースとも言うべきコンソメで勝負することにしたのだ。 それに、バラティエを出る時に嘘とはいえ散々貶された代物だ。 意地でもこれで1人前と認めさせてやりたい。 サンジは自信を持って何時もと寸分違わぬコンソメを、ゼフに提供したのだ。 ゼフは、その皿の中味をただじっと眺めた。 サンジがその沈黙に耐えられそうも無くなった頃、漸くスプーンを手に取り口へ運ぶ。 食い入るように、ゼフの一挙手一投足を見守るサンジ。 それを気付いているのかいないのか、ゼフは淡々とスープを口に運んでいく。 そして最後の1掬いを飲み干すと、静かにスプーンを置いた。 「・・・・・・てめぇ1人で作ったんだな?」 「っったりめーだ。これだけは開店当初から他人に任せたことぁ無ぇ。」 「なら、今この瞬間からバラティエ元副料理長の名は捨てるこった。」 意味が解らず、ただサンジは怪訝そうにゼフを見る。 ゼフは席を立ち、サンジに手を差し出した。 「ここのオーナーってだけで十分名が売れる。そうだろう、サンジ?」 「――――え?」 言葉の意味を図りかねて、聞き返す。 でも、今確かに名前を聞いた。 チビナスでもなく、クソガキでもなく、『サンジ』と。 「・・・・・・・・・オーナー、ゼフ?」 「もう、オレはお前のオーナーじゃねぇ。わかるな、サンジ。」 認めてもらえた、のか? ・・・・・・・・・本当、に? 本当に、オレは――――――っ!! 差し出されたゼフの右手に、サンジは震える右手を合わせた。 すると、ゼフがサンジのその手をギュッと握り締めた。 「料理以外はまだまだオレにとっちゃ、クソガキだけどよ。」 目を潤ませてゼフが言うと、漸く理解できたのかサンジの両目から涙が零れた。 「あ、・・・・・あり・・・・・・ありがとうございます。」 「漸くスタートラインだ。しっかりやれ。」 ゼフはポンポンとサンジの肩を叩くと、ゾロの方へ視線を向けた。 「てめぇは?俺を納得させるだけのもん、用意できたのか?大剣豪。」 「・・・・・・・・・・・・。」 じっとゼフの目を見据えるゾロと、その眼光に負けず劣らず睨み返すゼフ。 「・・・・・・あ、オレ、向こう行って――――」 「居てくれ、サンジ。」 サンジの言葉を、ゾロは途中で遮った。 振り向いたサンジが見たのは、いつになく真剣なゾロの眼差し。 「てめぇにも聞いて欲しい。ここに居てくれ。」 そして、サンジがイスにつくのを待ってゾロは話し始めた。 「まず最初に言っとくが、オレにはコイツを幸せにすることぁできねぇ。」 「「――――――?!!」」 ゼフもサンジもこれには驚いた。 どこの世界に恋人の目の前で、恋人の親代わりと言ってもいい人に、こんなことを言うヤツがいるのか。 言葉もない2人を余所に、ゾロは淡々と話し続けた。 |
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「オレは剣士だ。常に死の危険が付き纏ってる。 コイツには心配掛けることぁあっても、安穏とした生活なんぞ保障できねぇ。 メシ作って貰って、住むとこも日々の生活もコイツがいなきゃオレはまともに生きらんねぇ。 コイツが守ってやんなきゃならねぇヤツならオレにもやれることがあるが、そんな弱ぇヤツじゃねぇ。 だから、オレがコイツにしてやれることは、1つだって無ぇ。この気持ち以外はな。 だが、オレが幸せになるには、コイツが必要不可欠だ。 コイツ以外、考えらんねぇ。今までも、これからも。 絶対ぇ、側から離さねぇし、離れねぇ。 もし、オレが先に死ぬようなことがあったら、最後の気力振り絞ってコイツぶった切って連れて行く。 あとに残してコイツが悲しむのは嫌だし、コイツが他のヤツと幸せになるのぁもっと許せねぇ。 死して尚、オレはコイツと一緒に居てぇ。 |
これがオレの覚悟だ。」 ゾロが言葉を切っても、誰も口を開かなかった。 聞こえるのは、遠い波の音と、時折しゃくりあげるサンジの嗚咽だけだった。 ゾロは立ち上がってサンジの側まで来ると、涙でぐしょぐしょのサンジの顔を自分の胸に押し当てて抱き締めた。 サンジはゾロのシャツにしがみ付いて泣いている。 ゼフは目を瞑り、腕組みしながら「うーん・・・・・・。」と唸った。 そして、漸く重い口を開いた。 「お前はこれでいいのか?サンジ。」 呼ばれてゾロの胸からサンジの顔は、涙に濡れながらも優しく微笑んでいた。 「・・・・・・オレ、オレと一緒にいてコイツが変わっちまうのなら、止まっちまうのなら、オレはコイツの側には居らんねぇ。前だけ見てる |
コイツに惚れてんだ。ずっと一緒にくっ付いていくさ、何があっても。それが、オレの幸せだ。今までも、これからも。」 サンジがそう言うと、ゼフはフゥッと溜息をついた。 そして、玄関の方へと踵を返す。 「クソジジィ。」 サンジが呼び掛ける。 ゾロは、やっぱダメかと苦笑する。 扉を開け、今にも出て行くその時、ゼフが呟いた。 「お互い大事にしろ。めったに無ぇ出会いだ。ただな――――」 ゼフは、そこで言葉を切って振り向く。 笑みを浮かべて。 「嫌なことあったら帰って来い。副料理長じゃなくなってもあそこはてめぇの家だ、サンジ。」 ゾロとサンジは目を合わせると、ゼフのほうを見て同時に言った。 「帰らねぇよ。」とサンジ。 「帰さねぇよ。」とゾロ。 2人の返事に大笑いしながら、ゼフは帰っていった。 しばらくして、バラティエから手紙が来た。 ゼフが無事帰ったことと、近況がいろんなシェフによって綴られていた。 何枚かあるその中に、小さな封書を見つけた。 宛名は、ゾロ。 差出人はない。 サンジは首を傾げながら、それと用意していたドリンクを持って前庭で鍛錬しているゾロの元へ向かった。 サンジが声を掛ける前に、ゾロが振り向く。 「飲め。あと、これ。」 サンジはグラスと一緒に先ほどの封書を渡す。 「てめぇ宛だ。」 ゾロはグラスに入った液体を一気に飲み干すと、グラスをサンジに渡して封書を開いた。 それをしばらくじっと眺めると、広げたままサンジに寄越した。 「あん?」 「見てみろ。」 渡された手紙の文面を読んで、次第に視界が曇っていく。 「・・・・・・これ・・・。」 「オレも帰っかな。」 ゾロは目を潤ませているサンジを抱き寄せて、耳元で囁いた。 「てめぇを師匠に会わせてぇ。」 「・・・・・・・・・バーカ。」 サンジが目元を拭ってヘッと笑う。 「まともに帰れねぇクセに。」 「海賊王に送ってもらうさ。」 「ナミさんに金払えんのかよ。」 「事情話しゃ安くしてくれっだろ。」 「安くなるかっ!てか、こっ恥ずかしいことすんなっ、ボケーッ!!」 サンジの蹴りをかわして身体を引き寄せ、唇を合わせる。 幸せな、幸せな2人だけの空間。 そのサンジの手に握られた手紙に書かれていたのは、たった一言。 『息子を頼む。』と。 END |
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ゼフの出歯亀でサンジがあたふたするとこv
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