Apocalypse
019



拉致事件から三ヵ月。実力不足で大きな怪我を負う人間は多く、慢性的な人手不足に拍車がかかって上層部でも問題視されているらしい。強行派は、適合試験の適合率をギリギリまで引き下げるなり、適合候補の年齢を引き下げるなりの対処を求めていると聞いた。けれど、穏健派は断固として反対の姿勢を貫いている。それだけなら、きっと私達には関係の無い所で話が進んでいたのだろう。

「本気で言っているのか?」

「ええ、…恐らく。疲れているのは皆さん同じなのに…」

緊急の討伐任務を断られて困っている。と、ミシェルに声をかけられていたのはロッソだった。適合候補として招致されたものの適合神機が見付からずオペレーターになってからまだ日の浅い彼女は、何度かこうした事態に遇っているらしい。

「人手不足で働き詰めだから、今日はもう出撃しない……と」

「他に出られるチームは?」

悲しそうな顔で首を横に振った彼女を見て溜息を吐いたのはアズールで、舌打ちしたのはナランハだ。出撃ゲートが開いた時からその様子を見ていた私達は、そのままオペセンのカウンターに向かった。

「――二手に分かれるか。黒鉄の丘は何とかする、」

「んじゃ、余った方は俺等が行くって事で」

「ああ?何だ、お前ら戻ってたのか」

「うん、今。依頼内容見せてくれる?」

「えっ、……少々お待ち下さい。あ!お二人とも、お帰りなさい」

「素直に喜べないのは僕だけじゃないと思うんだけど」

違う?と言って苦笑するアズールの言いたい事は判っているけれど、だからといって退く気は無い。彼等だって無理をしないようにとシュヴァルツから釘を刺されていたんだし、明日まで放っておけるような状況じゃないからこそ、戦力を分散してまで出撃しようとしていたんだ。

「ええと……あの、私、もう一度さっきの…」

「放っとけよ。緊急任務断るぐらい疲れてる奴等なんだろ?これ以上人手不足になったら、こっちも堪ったもんじゃねーからな」

「チャンドラ、こっちは俺達で何とかする。お前達は、」

「黒鉄の丘にマータとピター、スサノオ。残虐の会堂にサリエルと堕天、複数種の小型アラガミが随伴。三人じゃ難しいね」

「冷静かつ的確な分析ありがとよ、スーリヤ」

「確かに難しいだろうけど、君達は休んだ方が良い」

戻ったばかりなんだから。とアズールが言えば、碌に休んでないんだろう?とロッソが聞く。ナランハは二人の意見を後押しするように、そうしとけ、とだけ言った。どうしたら良いのか判らずに成り行きを見守っていたミシェルが何か言いたそうにこちらを見ているけれど、何を言いたいのかなんて判る筈も無いし、それを考える余裕も無い。頭の中は、出来るだけ考えないようにしている問題と幾ら考えても答えを見付けられない問題で一杯だから。

あの拉致事件からこちら――僅か二ヵ月の間に、KIAの数は疾うに二桁を超えてしまった。遊撃班や特殊班が難しい任務に向かえば、残った任務は他の部隊から出撃するしかない。けれど、その誰もが実力不足を否めなかった。頻繁にある救援要請、任務失敗の報告、KIAやMIAの調査捜索。人手が足りないのに仕事は増えて行くばかりで、多くの神機使いが不満を抱えているのが現状だ。

「KIAが出るよりマシだろ?ほらミシェル、日が暮れちまう」

「え?あ、はい。でも…良いんですか?本当に」

そして、不満を抱えている神機使い達は訴える。人手不足の解消を。適合候補枠の増大を。殆どが中立か無関心だった神機使いが今では強硬派の意見に賛成していて、ユーリやフォルセの立場は良くない。――という噂が、実しやかに囁かれていた。

「もしかして、出撃人数が足りないんですか?」

「私達で良ければ同行しますけど」

悪い予感ほどよく当たる。昔そう言っていたのは誰だったろう?戦力の激減という理由で転属を先延ばしにされていた新型の二人に声をかけられた時、少しだけ予感はあった。予感――とは言えないかもしれない。中堅と呼ぶには浅いとはいえ二人とも経験を積んでいるし、曹長としての実力も申し分ないのだから。それは多分、もしかしたら≠ニかまた≠ニいう不安。どちらにしても的中しなければ良いと願いながら出撃したのに。

「マックス!!」

作戦開始から数分。飛び交うレーザーと撒き散らされる毒の間を縫うようにして叩き込んだチャージクラッシュの向こう側で上がった叫び声。

「…嘘でしょう?あなたまで――ねえ、目を開けて?返事をして!!」

視線の先に捉えたのは、倒れるマックスと駆け寄るエイラ。一瞬遅れて続いた彼女の声は、その絶望的な状況を把握するには充分だった。

「何してるエイラ?!避けろ!!」

「く……間に合わないっ」

マックスに縋り付いていたエイラが、悲鳴を上げて倒れて行くのが見えた。折り重なるように横たわる二人の周囲には、血の海と、それを養分にして自生する植物のようなメイデンの姿。

「これでも…っ、喰らえ!」

「くそ!鬱陶しいんだよ固定砲台が!!お?っと!」

?!」

「何でもないって。こっちは何とかするからソイツら離脱させろ!」

脳天から叩き込んだ斬撃と放射バレットの一発で呆気無く崩れたメイデンは、三体の内の一体でしかない。倒したばかりのメイデンから飛び退いてグレネードを使ったらしいは、残る一体に集中砲火を浴びせていた。ザイゴは既に三体とも消えた後で、二体のサリエル種が感覚を取り戻す前に!と倒れた二人に駆け寄った私は、湧き上がる感情を抑え切れないまま――。

「っ?!な、何を…」

「何をじゃない!!」

エイラの声はずっと聞こえていたし、マックスを思って泣いているのも判った。二人が恋人同士だとは知らなかったけれど、目の前で恋人が死ぬのを見れば取り乱すのも無理はない。それくらいの事は判る。それでも、今はそんな悠長な事をしていられる状況じゃない。

「助けられないなら諦めるしかない!二の舞になりたいの?!」

「そんな――っ、マックスを…?仲間をっ、見捨てるなんて…酷い」

打たれた頬を押さえる手も、涙を溢れさせる目も、訴える声も、肩も震えていた。荒れた世界を守る為に戦い、傷付き倒れながらもまた戦いに出る。恋人の死を目の当たりにして泣き崩れ、それを見捨てられないと訴える若い女。こんな場面を見れば、きっと大勢の人が心打たれるのだろう。それが他人事で、現実じゃなければ。

「ッ…チィ、おい!無理なのか?!」

二度目の炸裂音と閃光で、私はマックスを担いだ。一切の力が入っていない身体から離れた神機が小さな音を立てて床に転がると、肩にかかる重みは自然と軽くなる。心に圧し掛かる重みは、それに反比例して行くというのに。

「回収班を呼ぶ。神機を持って来て」

呆然と見上げていただけエイラが立ち上がったのは、私が歩き出してから。自分より大きなマックスの両足が床を引き摺られる音と、時折りしゃくり上げながら泣いているエイラの声が、まるで葬送のようだった。

∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

「オペレーションセンターです。用件をどうぞ」

「こちらスーリヤ。残虐の会堂でKIA一名」

左手に自身の神機を持ち、右肩にマックスの腕を回して担ぎ上げた彼女は、些か苦労しながらも携帯端末を繋いだ。その足取りは徒歩より幾分か早く、競歩より遥かに遅い。僅かに遅れてそれを追うエイラの目からは枯れる事を知らぬかのように涙が溢れ、視線は背負われた背中だけに只管注がれていた。

「そう。じゃあ、終わったらこっちに寄越して」

「はい。では、至急そのように連絡します。増援は…」

「要らない」

「え?あの、スーリヤさ…」

忘却の聖堂へと続く階段の手前、残虐の会堂では作戦開始前の安全地帯となる場所にまで辿り着いた時。マックスを床に横たえたは、ミシェルの言葉が終わらぬ内に通信を終了させ振り向いた。

「どうして…あなた達、」

「退いて」

「どうして戦ってるの?」

「邪魔しないで」

「どうして平気でいられるの?!目の前で仲間が死んだのに!!」

「退いてよ……道を開けろって言ってるの!」

恋人の死によって惑乱したエイラが壁の崩れた狭い通路を塞ぐように立ち、を責め立てる。教えを請い、共に戦った事もある彼女が。まるでその頃の事が嘘だったかのように。早く戻らねば。その一心で、は彼女を突き飛ばす。全力で走る背中を責め立てるようにして漏れた嗚咽は、長い時間その場を満たしていた。

∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

相手は射程の広いアラガミばかりで、小型でもランクSの奴は厄介だ。特にメイデンは鬱陶しい上に倒しても不規則に湧いてくるらしい。サリエルは俺らがやるから、そっちはザイゴとメイデンを頼む。特殊班の奴等とは違って畏まった返事をした二人に、油断するなって釘は刺しといた。

マックスもエイラもまだ曹長で、ランクAの同行までしか経験してない。結局死んじまった間抜け野郎どもの時みたいに、コイツ等から逆恨みされるのは御免だった。なのに――。

「マックス!!」

エイラの大声で振り返った時に見えたのは、マックスの左胸から抜けてくメイデンの長棘だ。運が良ければ……って望み薄な期待を嘲笑うみたいに広がってく血の海に舌打ちした直後、直ぐ傍のメイデンの動きに気付いてないエイラが見えた。また舌打ちしそうになるのを堪えて叫んだのは、飛んで来たケバい色のレーザーを避けた後だ。

多分、マックスは死んだんだろう。その所為で半狂乱になったエイラは邪魔にしかならない。状況は最悪で、このままじゃオールレッドどころか全滅だ。そう思ったから、二人を離脱させろって言ったんだけどな。

「お、っと。ったく、鬱陶しいったらねーな」

いい加減戻って来ても良さそうな頃なのに、は戻らない。倒した場所とは全然違うトコに湧いたメイデンのジャベリンが降って来るわ、遠くからレーザーが飛んで来るわ。集中攻撃を避ける俺は、討伐対象に構ってる暇が無いぐらいだってのに。

「っ、…残念だったな?効かねーよ」

十八番の毒鱗粉をダブルで撒き散らしたかと思えば、派手な身体を見せびらかすみたいにして光線を放つ。流石に単独じゃキツい数だし、幾ら毒抗体があるっつってもダメージはくらう。一つを避けても、避けられない攻撃が幾つも襲って来る。そんな状況だ。

「くそっ…、拙いか」

こっちは回復系アイテムが心細くなってるってのに、相手はピンピンしてるってのは――そろそろ本気でヤバイかもな。トランス化に気付いた俺が、そんな事まで考え出した時だった。

っ!」

「ふう、首が伸びるかと思ったぜ」

背後から身体を包んで抜けてった回復弾で一息吐いて、軽口を叩きながら銃形態にした神機を構え直す。マックスは死んじまったのか、エイラは大丈夫なのか。気にならないワケじゃないけど、聞く暇なんざ無い。

「お前は先にメイデン潰してくれ!」

「了解。…はあぁあ――消えろっ!!」

がメイデンを次々消してくのを尻目に、俺はサリエルの頭を撃ち抜いてた。後はメイデンが復活するまでの時間を使って、がスカートを結合崩壊させるだろう。落ちた所を滅多切りにすれば、簡単にダメージを与えられる。気を抜く暇は無くても、二人がかりなら余裕だ。

「ねぇ――、」

今日の任務報告は気が重いな。マックスは即死だったらしいって聞いて、そんな事を考えてた時だった。どんな難しい任務でも、弱いヤツと出撃するぐらいなら二人だけで良い。そんな感じの事を、が呟いた。この何ヵ月かで、もうイッパイイッパイだったんだろうな。

「そうだな、そうするか」

態々横を見なくても判った。は今、泣いてる。声を出さずに、必死で息を整えながら。他に誰かが居るワケじゃないし、昔みたいに監視されてるワケでもない。なのに、マーシュが見えるまでずっと――昔みたいに泣いてたんだ。

∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

私達が帰投する時、安全地帯に残っていたのは血の跡だけだった。もうこれ以上、人が死ぬ所を見たくない。それが近しい人間なら、尚更。この数ヵ月間、何度も何度も考えていた事を口にすると、は静かに肯定してくれた。

これからは、実力不足だと思える人とは出撃しない。そうすれば、もうこんな思いをしなくて済む。子供の頃決めたように――ただ外で生きて行く為に、ゴッドイーターとしてアラガミを倒せば良い。そう思うと、少しだけ気分が楽になった気がした。本当に――ほんの少しだけ。

「最初は三人で次は二人、今回は一人か」

いつか聞いた事のある声がしたのは、報告書は俺が書いとくという言葉に頷いてエントランスに足を踏み入れた時だった。潜められた非難の声が、ざわめきを作る中。聞こえよがしの言葉が一際大きく響いて、思わず足を止めてしまう。

「気の毒だよなあ、討伐班の奴ら。誰かさん達と関わった挙句、次から次に死んじまうんだもんなあ?」

一歩前に立ったが殺気立つのが判って、その腕を掴んだ。止めなければ、以前のように小さな騒ぎで終わるとは思えなかったから。この数ヵ月、只でさえ険悪な雰囲気が流れているマーシュだ。大きな騒ぎを起こせばユーリ達が心配するだろうし、穏健派のメンバー全員に迷惑をかけるかもしれない。何より、相手に大怪我でもさせたら――。

「右の死神、左の悪魔。回収班のヤツも上手いこと言ったもんだよな。同行者は地獄へご招待、その内マー…ぁがっ?!」

こんな人の言葉に、そんな危険を冒す必要も価値も無い。聞き流せば済む事だと思っていた。なのに、私はその人の頬を打った。思い切り、手加減無く、有りっ丈の力で。

「仲間を侮辱された報復にしては優しいでしょう?地獄へ行けるかどうか、何なら自分が試せば良い」

きっと、私は冷たい人間なんだろう。以前のようにケヴィンとヨシュアの事だけを言われたのなら、手を出したりしなかった。それに加えてマックスの事を言われたのだとしても、きっとエイラの時のように加減出来たと思う。

「…ぅアあ、はガ――へひゃあ、」

あの世だとか、天国や地獄だとか。そんなものが存在するなんて思っていないし、信仰心も無いけれど。そんな事、有り得ない。アレクもジューザもライアンも、あんな思いをして、死んでまで苦しむなんて事…有って良い筈が無い。もし万が一どこかに神が存在してして、彼等の行く末をそう決めたのだとしたら――私は絶対に許さない。どんな手を使ってでも、必ずそいつを倒してやる。アラガミなんかよりも先に。

「――…お前、」

「真面に喋れなくても耳障りなのは変わらないのか」

「良いトコ纏めて掻っ攫うなよ…」

握り締めていた拳を下げたは、わざとらしく大袈裟な溜息を吐いてから疲れたような笑みを浮かべていた。それから――。

騒ぎを聞き付けたシュヴァルツやロッソに警告を受け、ナランハとアズールから妙な褒め言葉を貰い、顎の外れた男は強硬派に属しているとフォルセから聞いた翌日。

「これは本部神機使い統括としての命令だ」

真剣な表情と声音に何を言われるのかと身構えた私達に、ユーリは告げた。次の適合者達の入隊が決まり次第、旧英国にある支部――マックスの生まれ育った故郷であり、転属先だったグラスゴーへ行けと。当然、私達に拒否権は無い。

「留守は俺達に任せておけば良い。無事に帰って来いよ」

戦力の要として迎えられる筈だった新型神機使いのKIA。その穴埋めとしてかと思われた命令は大規模作戦の補助としてのもので、作戦成功後の事務処理なども落ち着いた頃、本部への帰還命令が届いた。

「ん?何だ、少し見ない内にまた育ったみたいだな」

見知った顔よりも見た事の無い顔が増えたマーシュで、任務をこなしながら数ヵ月。相変わらずの強さを誇るロッソ達と過ごす日々は穏やかだった。そして、新しい年を迎えて間もない頃。

「ユーリなら心配無さそうだけど、そうも行かないんだろうね」

新設される支部の視察へ同行しろという命令は、道中のアラガミ襲撃だけを警戒していた訳じゃなかった。妙な指示を受けた私達は警戒心を解かずに護衛を続け、それでも怪しいと思われる点が見付からない事に安心していた。何かと理由を付けてはあちこち引っ張り回されるユーリの溜息が増えた頃、漸く本部へ戻った私達を待っていたのは――。

「決め手になるような証拠は何一つ無いんだけれどねぇ」

かといって、看過する事も出来ない。そう言ったフォルセは、一つのファイルを開いて見せた。古い友人を通して送られて来たというそのファイルは、何の変哲も無いメールに過ぎない。もしその内容が真実だとしたら、きっと深刻な問題になるだろう事を除いては。

「――なあフォルセ、何で俺達にまで教えるんだ?」

の言葉の意味が、私には解らなかった。確かにこの問題は一神機使いである私達が知った所で何とか出来るような些事ではないけれど、それを知らされた事に何らかの問題があるとも思えない。だから私は、ただ首を傾げていた。その後、全てを知らされるまで。



     

************************************************************


2の体験版を躍起になってこなしている今日この頃。ミッション回数は既に400を超えたというのにfcは50万弱、アイテムはショボい物ばかりが増えて欲しい物は微々たる数。しかも、どれもこれも売った所で大した金額にもならないとは…!あーあ。バーストから引き継げたら良いのになぁ。神機パーツも全部で12個しか引き継げないなんて…どれを引き継ぐか悩みまくりじゃん!!

極東支部まであと一小節!…にするつもりで書いてますハイ。





橘朋美







FileNo.019 2013/8/25