「ようケヴィン。何だ、お前これから任務か?」
「おう、ヨシュアとな」
各支部でも精鋭と呼ばれる神機使いによって編成される第一部隊の任務は、通称が示すままのアラガミ討伐である。その戦力増強が優先されるのは、本部とて同様の事。短期間で多くのゴッドイーターを失ったフェンリル本部では、大規模な人員編成が行われた。
「参るよな、ランクAの禁忌種二体だぜ?」
「へえ。じゃあ、またこの前言ってた馬鹿強い奴等と一緒とか?」
出世欲の旺盛な者達は花形とも言える第一部隊への配属を喜び、残された者達はそれを羨んだ。だがそれは、ただ一時の事。喜びは焦りに、羨望は嫉妬に。その応酬が、今日もまたエントランスで繰り返される。
「はっ、馬鹿言うな。今日は二人で行くんだよ」
「お前等だけ?それこそ馬鹿言ってんじゃねえか!」
「そうだよ、曹長にランクAなんてアサインされないだろ?」
「上からのご指名でさ。特別任務、ってやつだな」
割り振られる任務の過酷さに戸惑い、対峙した事の無いアラガミに翻弄され、それでも大きな怪我をする事も無く過ごした一月。それは、彼等の自信となった。難しい任務だが君達になら…と直々に依頼された任務は、口を聞くどころか顔を合わせる機会すら得られない、いわゆる幹部という人間からのもの。それらが、彼等の自尊心を擽った。
「へーへー。まあ精々死なないように頑張れよ」
「縁起でもねー事言うなよな!」
第五部隊でチームを組んでいた四人は、出撃ゲートの内と外とで手を振る。今では幾分か取り繕うようにしているとはいえ、悪友同士の気軽な遣り取り。これが最後かもしれない――などとは微塵も考えず、数え切れぬほど繰り返されてきた彼等の日常だった。
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あれから私達は短時間で任務を終わらせれば、トランス化異常を起こす暇も無いんじゃないかな?≠ニいうフォルセの助言で、単独での任務を避けるようになった。その助言は的確だったようで、トランス化自体の頻度も低くなったくらいだ。
「救援要請?」
マーシュまで後数分の空で、状況次第では…と頷き合って。ああ。と短く答えたムスハからの情報に、私達は耳を傾けた。
要請したのは灼熱の巣穴に向かった第一部隊の二人で、祈りの戦艦から飛び立ったばかりのヘリが急行するらしい。討伐対象はセクメト二体、ランクはA。距離的に大した違いは無いという言葉で、顔を見合わせる。
「行くか」
祈りの戦艦からという事は、救援に向かったチームも任務帰り。それでも救援要請を受けたという事は、それなりに実力のあるメンバーが揃っているんだろう。
だけど――今のマーシュの状態を考えれば、実力不足の可能性も高い。この状況で、行かないという選択肢は選べなかった。着陸態勢に入ろうとしていたムスハに、急行してくれとが叫ぶ。
「……了解。まったく、随分と人使いが荒くなったもんだ」
諦めの溜息と彼なりの冗談を合図に、ヘリは灼熱の巣穴へと進路を変えた。あの場所へ行きたいわけではないけれど、いつまでも避けていられる筈がない。いつかは行かなければならない時が来る。それが偶々、今になっただけの事だ。そう自分に言い聞かせていた。
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「くっ、拙いな。ナランハ、このままじゃ…」
「ッチ…、こいつ等連れて一旦退くぞ!」
せめて敵の視界から抜けられればと、僅かな距離を稼ぐ為にスタングレネードが地面へと叩き付けられる。その瞬間、彼等は走った。それぞの利き腕に武器を携え、もう一方の腕で仲間を担ぎ上げ、全速で、茹だる様な暑さの中を。
「駄目だ…、間に合わない!」
「くそっ!トラップは?!」
常ならば難無く走り抜けられたものをと歯噛みするも、瀕死の仲間を放って行くわけにもいかない。中身の乏しくなったポーチに手を遣り、一縷の望みに賭ける。これで駄目なら覚悟を決めるしかない。瀕死の二人を見捨てるか、全滅覚悟で戦うのか。どちらを選ぶにしても、苦渋の決断になるだろう事は間違い無い。そして――藁にも縋る思いで設置された二つの罠は、首尾良くその役割を果たした。
「今の内だ!」
「ああ、急ごう」
とはいえ、その効果は長くもつものではない。それを熟知していた彼等は四方にある道のどれを行くか選ぶ暇も惜しみ、間近にある曲がりくねった狭い通路を抜け、様子を窺いつつ更にその先を目指すしかなかった。かくして彼等は撤退に成功したのだが――。
「一体はA地点で捕喰してるが、もう一体は……くそ、こっちに来る」
「――僕が行く。足止めしてる間に救援が来てくれる事を祈るよ」
「待てアズール!」
この状況では仕方の無い選択だと理解してはいても、単独で二体のセクメトを倒すのは無理だろう。二人は、その事も理解していた。
ランクSのスレイプニル討伐任務、帰り際に拾った救援要請。ランクAのセクメト二体を相手に出撃した二人は近ごろ第一部隊に配属された神機使いだったが、とてもそうとは思えぬほどに取り乱していた。体力を分け与え、彼等を叱咤し、それを何度繰り返したか。回復アイテムなど疾うに無く、倒れた二人は虫の息。
「ありがとう、助かるよ」
「持ち堪えろ。意地でもだ」
続け様に三発。撃たれたアズールは礼を言い、撃ったナランハに再び背を向け走り出す。回復された体力で戦える時間は、そう長くないだろう。それを判っていても、救援が到着するまでは――と願いを同じくして。
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一ヵ月半振りに降りた灼熱の巣穴は、相変わらずの暑さで満ちてた。けど、一般人ならともかく俺達は神機使いだ。長居しなけりゃ、これぐらいどって事ない。あの時みたいに長居しなけりゃ、汗だくになる事もないんだ。
「――、二体とも東で交戦中。相手は近接型一人みたい」
「あ?ああ、そうか。って事は、手分けした方が良さそうだな」
余計な事を考えてる場合じゃない。頭を切り替えて、情報を整理する。俺達が到着するまでに、同じ救援要請が数回。一ヵ月ぐらい前まで調査班だった二人は、調子に乗って出撃した事を嫌ってほど後悔しただろう。最後の要請では半狂乱になって泣き叫んでたし、祈りの戦艦から向かったのはナランハとアズールって話だった。今ここで戦ってる近接型が一人だけだってが言うなら、まず間違い無くアズールだ。
「でも、他に――音がしない」
「?」
「何も、音が…」
「!――落ち着いたな?良し。超視界錠、残ってんだろ?」
「……あ、うん。そっか――ごめん。私…、」
「で?どこで戦ってんだ?」
「東――でも遠いからJ地点」
まだ生々しいぐらいに覚えてる。当然それは俺だけじゃない。強引に話を戻したのは良いが、大丈夫なのか?って不安が広がってく。けど、ここ以外じゃ平気だったんだ。今はを信じるしかない。
C地点からJ地点までの通路は一番入り組んでる。急いで合流すれば、獣道を使って逃げられる事は無いだろう。超視界錠を飲み込んでモニタを確認してたが居た≠チて言うのを待って、口を開いた。
「良いか、ヤバかったら直ぐ緊急集合かけろよ?」
「うん、も気を付けて。心配無いようだったら直ぐ合流する」
いつもの様に声をかけて、俺は東に。は北に走ってく。合図が無い事を祈って駆け抜けた先には、予想通りのヤツが居た。けど、どうやらこっちの方がヤバかったらしい。
「伏せろアズール!!」
「っ?!」
間に合うか?!撃った回復弾は、飛び交うセクメトを掻い潜って飛んでった。直撃されてなきゃ、間に合った筈だ。スタングレネードを地面に叩き付けて、フォームチェンジしながら走る。もし間に合ってなかったら――この状況は、かなりヤバい。
俺はアズールをリンクエイド出来ない。倒れたアズールを守りながら一人で戦うのは不可能じゃないにしても、何かの拍子に逃げられる可能性はデカくなる。もし他のヤツ等が全員動けない状態だったら……。そこに合流されたら、は真面に戦えなくなる。最悪の状況を想定しながら、俺は次のスタングレネードを手にして叫んだ。
「アズール!」
「ぅ――ああ、…すまない。まだ、行ける」
「…、サッサと倒すぞ!」
「了解。援護は頼むよ」
何とか、って感じで立ち上がったアズールはフラフラだ。スタングレネードの炸裂音に紛れて短い溜息を吐いた俺は、そのままセクメトの翼手を斬り付けた。オラクル量が回復するのを待って、銃形態に切り替える。ステップで距離を取って貫通属性の高いバレットを連射してやれば、脆い頭は直ぐに壊れた。
「はっ、ちったあマシな面になったんじゃねぇの?」
「良し!じゃあ、そっちは任せてくれ!」
結合崩壊と同時に活性化したセクメトを見て、アズールが斬りかかる。こうなりゃもう、こっちのもんだ。しつこくアズールを狙うもう一体の頭を続け様にぶち抜いて、挑発に乗ったバカが向かって来るのを横目にアンプルを呷った。その直後、薄暗い通路に見えた人影が二つ。
「待った?」
「いーや全然」
「良し、一気に叩くぞ!チャンドラは俺が援護する!」
「それじゃスーリヤ、こっちを頼むよ」
こっちのヤツも頭が結合崩壊したのを確認して、すぐさまナランハが指示を出す。剣形態に切り替えた俺を銃形態に切り替えたが横切って、それから二分後。
「さっさと、くたばれっ!」
「――お見事。じゃあ次に行こうか」
「んじゃ、俺は援護に回るぜ?」
「油断するんじゃないぞ!」
総攻撃を仕掛ければ、残りの一体も呆気無く倒れた。面子が面子だし、当然っちゃ当然の結果だ。これで不安が無くなったワケじゃない。それは解ってたけど、上手く行った任務に気分良く帰投した。
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帰投中も、ずっと気が重かった。私がナランハと合流した時、――確か、ケヴィンとヨシュアという名前だったと思う。その二人は瀕死状態で、意識も無かった。やっと来たな?と笑ったナランハも、とても戦えるような状態には見えなかった。
『スーリヤ、回復錠あるか?』
祈りの戦艦からの連戦とはいえ、携行品が無くなってしまうほど難しい任務だったんだろうか?不思議に思いながらも、これほど弱っているならと回復錠Sを差し出す。
『おい、これ…良いのか?』
『うん。全然使ってないから』
『悪ぃな』
直後。無造作に口へ放り込まれた薬剤は、ナランハを戦える状態にまで戻した。明らかにさっきまでとは違うその様子を呆気に取られて見ていると、彼は怒りを滲ませた声で言った。
『おいスーリヤ、こいつ等が討伐班だってのはホントか?』
『うん。一ヵ月くらい前から…だったと思う』
『はっ!新米班の奴等かと思ったぜ。よく一ヵ月も生きてたもんだ』
言いながら携帯端末を取り出したナランハがヘリを呼び、二人を搬送するよう伝える。A地点まで彼等を運んでいる時、思い出していたのはあの時の事じゃなく、一ヵ月前の事だった。
沈黙の楽園で、大型アラガミの複数同時討伐という緊急依頼。討伐対象は三種のケルベロスで、ランクはS。流石に二人だけでは厳しいだろうと思って、特殊班の三人か新型の二人を探した。けれど全員が出撃中という間の悪さ。
遊撃班に任せるしかないと諦めかけた時に声をかけて来たのは、第一部隊のリーダーに任命されて間もないワンツだった。彼は私達が討伐班に配属された時から所属していた中堅の少尉で、随分前の事とはいえ任務に同行した事もある。危なげない戦い方をする旧型のロング使い。彼なら、と事情を話して同行を頼んだのだけれど……。その結果、彼等が早く討伐任務に慣れる為にも手を貸してくれと頼み込まれ、元調査班の二人と出撃する事になったのだ。
「あの二人は曹長なんだろう?ランクA任務がアサインされる筈ない」
「けど、実際あったじゃねーか」
「ああ。こんな事が出来るヤツなんざそう居ない。そこが問題なんだ」
あの時は散々だった。こんな事なら、二人だけで出撃した方が楽に戦えたと思うくらい。何せ彼等は戦う事も難しい様子だというのに、逃げる事も隠れる事も承知しなかったのだから。
「そうだね。一応、フォルセに報告しておいたほうが良いかもしれない」
「アンタに任せる」
「証言は多い方が良い。お前達も一緒に来い」
神機使いとして数年の実績がある曹長という立場、つい最近までチームリーダーを任されていたという自負。自分より経験の浅い人間に指示され、それに従う他無かったという恥辱。それらが気に障ったのだろう。
『あーあ、お前等みたいなヤツと任務に行くなんて二度と御免だね』
『全くだ。お前達と任務なんて冗談じゃねえ!精々荒稼ぎしてろ』
捨て台詞を残して背中を向け、エレベーターを降りた彼等の言葉通り。あれ以来、同じ任務に出撃する事は一度たりとも無かった。
「ほら、やっぱりアイツ等じゃん。だから言っただろー?」
「へえ、二度ある事は三度あるってヤツ?」
エントランスに着いて早々、耳に飛び込んで思考を中断させた言葉。声を潜めるでもなく、視線を外すでもなくソファーに腰掛けている人達。私は、その人達の事を知らなかった。ここ一ヵ月あまり、普通なら聞き取れない程度の声で私達を皮肉っているという事以外は――何も。
「恐ぇよな〜。疫病神みてえ」
「疫病神っていうより死神じゃね?二人とも死にかけてるらしいし」
これまでも、これからも、何も言うつもりは無かった。けれど、死にかけてるという言葉に足が止まった。今この場で死にかけていると言われるのなら、それはあの二人に間違い無いだろうから。
「二人とも気にするな。それより報告に行くぞ」
「――ああ、そうだな」
「報告が終わったら昼食にしよう。ついでにロッソも誘ってみる?」
「その話、詳しく聞かせて欲しいんだけど」
どうしても気になって、つい聞いてしまった。完全に虚を衝かれたと言わんばかりに目を見開いたのは、その中でも中心的な人物だったらしい。周囲の数人が、救いを求めるようにして視線を送っていた。
「……お前らだろ、鬼みてーに強いけど味方にも容赦無いヤツらって。ケヴィンとヨシュアが討伐班に移動してから、話は色々聞いてるぜ?」
一瞬バツの悪そうな表情をした彼は、喋り始めてから少しずつ本来の調子を取り戻したように毒舌を振るう。そんな事を聞きたいんじゃない。私はただ、二人の容体を聞きたかっただけなのに。
「どんだけ強えか知らねえけど、付いて来れないなら隠れてろ≠セの死にたくなきゃ邪魔するな≠セの調査班だったんだから仕方無い≠セの、散々コケにしてくれたらしいじゃねぇか。お前ら何様だよ?!」
あの二人が私達のスピードに付いて来られないと判った時、そんな事を言った。長年調査班だった彼等は高ランクの討伐任務に慣れていなかったから、初めの内は仕方が無いと思ってそんな事も言った。荷電性ケルベロスの攻撃を碌に避けられず慌てふためいていた彼等に、はそんな事を言っていた。
「倒れたヤツが居てもリンクエイドしねーままアラガミ追っかけてくんだって?自分より弱い奴は囮か捨て駒ってか。脱帽もんだよなあ?!」
ランクBまでの任務にしか出撃していなかった彼等が初めて荷電性ケルベロスと対峙したのだと知ったのは、漸く任務を終えてからだった。それを知った後それなら同行しなければ良かったでしょう?≠ニ言ったのを思い出した時。鈍い衝撃音がして、ソファーやテーブルが音を立てて転がった。エントランス全体が一瞬の静寂に包まれ、叫び声やどよめきが上がる。何が起こったのか理解したのは、殺気立ったの声を耳にしてからだった。
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あれからずっと、休む暇も無いぐらい任務に明け暮れてた。戦える神機使いが減ったせいで通常任務さえ回せなくなった討伐班としてじゃなく、改めて配属された特殊班として。そんな俺達に対する周囲の反応は、どいつもこいつも似たようなもんだった。
あの後――事実上、三人の腕輪を持ち帰った事で中尉になった俺達は特殊班に配属された。入隊して二年も経たない神機使いが。
レア物の新型が偶々運良く昇格しただけ。
特殊班にアサインされる高ランクの任務を日に何度もこなす内に、月一の戦績が公表された時。ベテランの名前が並ぶ上には俺達の名前。
寝る間も惜しんで荒稼ぎする守銭奴姉弟。
俺達を助けに来たせいで死んだヤツが居るのも、アイツ等のアラガミ化がそのせいだってのも本当の事だ。疫病神だろうが死神だろうが、好きにほざけ。そう思ってた。けど、に絡んでる男の声がどんどんデカくなって耳障りな喚き声に変わった頃。どっかで何が爆発した。
「――ならテメェは何様だ?」
「おいチャンドラ!」
睨み付けても何の反応もない。ソファーごと引っくり返った男は、殴られたショックで呆然としてるか気絶してるか――どっちだろうと知った事か。まだ俺がソイツを殴ろうとしてると思ったのか、アズールとナランハに両腕を掴まれる。こんなヤツでも一応現役の神機使いだ。任務に差し支えるような怪我でもさせれば、審問会だの懲罰だの上層部が煩い。だから素手で一発殴るだけにしたってのに。
「散々足引っ張っといてテメェの実力不足は棚上げか。討伐任務じゃ戦えねぇヤツは邪魔なだけだ。調子こいて出撃した挙句、血迷って救援チーム巻き込んで死にかけた間抜け野郎共が戻ったら言っとけ」
そういや前に似たような事があったな。あの時は――。そこまで考えて、あの時ここに居た三人の遣り取りが頭の中で繰り返される。一度目を閉じて思い出すのを止めた時になって、やっと男が起き上がった。
「碌に戦えねぇんだったら逃げるか隠れるかぐらいしろ。それすら出来ねぇなら、せめて他のヤツを巻き込むんじゃねえ。パニクって死ぬならテメェだけにしとけってな」
アイツ等は、仲間だった。神機使いになった理由は違っても、背中を預けて戦える仲間だったんだ。それを――、殺すしかなかった俺達の気持ちを解れとは言わない。本当の事を知らない奴等に、解るワケがない。
俺達がアイツ等を殺したんだ、俺達が悪いんだなんて自分を責めてるワケじゃない。アイツ等を殺さずに済む方法があったんじゃないか、あの時殺さなけりゃ良かったなんて後悔してるワケじゃない。けど、何も無かったみたいに飄々としてられるワケもない。
「そろそろ行こうか。二人とも、任務報告が先だよ」
「――判ってる」
「おい!一方的に殴っといてそれで済むと思ってんのか?!」
「……なら、」
「文句があるなら訴えろ。特殊班の担当教官はシュヴァルツだ」
この場限りの事で済ませようとしたアズールの声で、俺は考えるのを止めて歩き出した。の言葉を遮ったナランハの声は威圧的で、多分あのおっかない顔で凄んでたんだろう。文句を言ってた男が、息を呑んだのが聞こえた。
もう二度と、あんな思いはしたくない。本当の事を知ってる奴等は、みんなそう思ってる。だから必死になって高ランク任務をこなして、救援要請があれば素っ飛んでく。俺達だけじゃなく、ナランハもアズールもロッソもだ。
「――少しこちらで調べてみよう。君達は介入しない方が良い」
難しい顔してたフォルセや大忙しのユーリだって、引退してなけりゃ俺らと同じ事をしてただろう。そういう奴等だけで良い。そういう奴等を無駄死にさせない為に。俺の戦う理由が増えたのは、この頃だった。

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極東支部までもう少し。
橘朋美
FileNo.018 2013/8/5 |