「到着まで凡そ8分!最速で飛ぶ!しっかり掴まってろ!!」
操縦席から飛んだ言葉が終わるか終らないかの内に、機体は上昇し始めた。ヘリに乗り込んだゴッドイーター達は皆、詳しい状況すら知らぬまま。ただ課せられた役割を果たす為に、作戦とも呼べぬものを立てる。
「俺等は直ぐ戦闘に入る。お前等は神機と遺体を回収!」
「はいっ!!」
「やる事やったら一秒でも早くその場を離れろ!良いな?!」
通常を上回る速度で曇天模様の空を飛行する機内に二度目の返答が繰り返された後、再び人の声が響くまでに要した時間は約五分。
その頃、とは――。
二人で挑むには危険性が高いと判断してから、ツクヨミの姿を捉えていた。カインから告げられた増援到着の予定時刻まで、果たして待っていられるだろうか?と。
「まだ五分ってトコか……このままじゃ不味いし、行くか」
「うん。――初撃の後、行けるだけ向こうに行く」
「判った。しくじんなよ!」
「判ってる。――――行くよ!」
一連の出来事を思えば、このままみすみす逃がすような真似など出来る筈もない。剣形態の神機を構え、ツクヨミの視界が逸れた事を確認した瞬間。増援を待たずして、二人はその場を駆け出した。顔すら知らず、名を呼んだ事すら無い。レヌクという神機使いの身体から広がった血溜まりを挟み、その先に浮く標的を目指して。
背後に迫り、地を蹴る音にツクヨミが振り向く。が、既に二人は跳んだ後。手招きするツクヨミ、その頭上から見舞われる初撃。
「おらぁあッ!」
「――はッ!」
着地したは神機を銃形態に変化させ、距離を取る。は腕部を横薙ぎに払った直後、黒々とした神機を喰らい付かせたかと思えば瞬時に引き抜いた。
「神機解放」
「目一杯食らわせてやるぜ?」
チャージクラッシュが叩き込まれるのと同時にバレットの連射が途切れ、ツクヨミが攻撃体勢を整え標的を定める。走り出したのは、どちらからともなく目を合わせた後。駆け出した地点から真逆へとツクヨミの誘導に成功した二人は、再び神機を構えた。
そして、その僅か後の上空。
機内からその光景を捉えたゾディは目を瞠り、スピーカーに向かって叫んだ。既に戦闘が始まっており、幾分か離れた位置を降下地点とすると知った六名の神機使いは、開かれたままの扉に近付き目を凝らす。
「っくそ!ガキのくせに無茶しやがる!!」
「落ち着けナランハ。直ぐに着く」
交戦中の二人を目にした彼等は直ぐにでも飛び降りたい気持ちを抑え、到着の瞬間を待った。
「これ以上は無理だ!行け!!」
広がる血の海に濃い影が差し、その声を合図に機体の左右から次々と飛び降りる六人の神機使い。変わり果てた姿で横たわるレヌクらしき遺体を見て、数人が息を呑んだ。
「何をしている?!早く収容するんだ!!」
「っ?!はい!!」
「シュヴァルツ!俺等も行くぞ!!」
喝を入れられた回収班の神機使い達は我に返り、慌てて作業に取り掛かった。ナランハとシュヴァルツがツクヨミ討伐に加わったのは、黒い大きな染みの浮かんだ暗緑色のシュラウドが四方からフックを装着される頃。それによってとが体力を回復させたのと同じ頃には、ウィンチが稼働されていた。
「シュヴァルツ、無事に……いや、全員揃って戻って来いよ」
ゾディの呟きは誰に聞かれる事も無く、周囲の音に掻き消された。機体の下ではワイヤーの先にある四つのフックが、ギチギチと神経質な音を立てている。それを見上げる四人の神機使いは、空に負けぬほど暗い表情と虚ろな目をしていた。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
ヘリが見えた時に思った。あと少し持ち堪えれば形勢逆転出来る!って。モニタなんて見る暇無くて、誰が来るのかイマイチ不安だったけど。
「待たせたな、援護する」
「サッサと回復しちまえ!」
声が聞こえて、ちょっと安心した。ナランハと出撃した事は無くても、シュヴァルツなら俺達も慣れてる。昼前からの連戦でかなり携行品が減ってたし、正直言ってテンパってたんだ。
それなりに覚悟してたけど、ツクヨミ2体と同時に戦うのは結構……いや、かなりキツかった。俺達が2、3分でトランスするぐらい。それでも回復する暇が無いぐらい。本気でヤバい!って何回か冷や汗掻いたぐらい、キツかったんだ。
「リンクだシュヴァルツ!!」
「任せておけ!」
叩き付けた回復球に走って、そのままアラガミバレットを一発撃つ。リンクバーストしたシュヴァルツを見て、ナランハが一瞬ビビった後で笑いながら口笛を吹いた。
「ナランハ!これっ!使って!!」
「うぉあっ!なっ?!おいこれ!どうなってんだスーリヤ!!」
見たのも初めてなら、されたのも初めて。何の説明も無しに三発もアラガミバレットぶち込まれたら、ナランハみたいなヤツでもパニクるか。
「ナランハ!アンタ今バーストしてんだ!」
「はぁあ?!」
「妙なバレットあんだろ?ソレかなり威力高いぜ!」
疾っくには髪の崩れたツクヨミ斬ってるし、シュヴァルツは腕の毀れたヤツに斬りかかってくトコだ。細かい説明してる暇なんて無いし、ナランハだって特殊班のヤツだから腕は良いだろうし、一通り見りゃ何とかなるだろ?つーか何とかしろ!って思いながら神機を構えて声を出す。
「目ん玉引ん剥いてよく見てな!」
百聞は一見に如かず!って感じで、チマチマ切り替えた三種類のアラガミバレットを一発ずつ撃ってから、俺はシュヴァルツの援護に走った。
「マジかよ?!ツクヨミの攻撃そのものじゃねーか!!」
驚いてるっつーより新しいオモチャでも貰った子供みたいな声が聞こえて、ナランハがの方に走ってく。これで良い。そう思ったら、勝手に口が右上がりになった。
標的を片方に絞れるお蔭で隙を衝くチャンスは増えたし、狙ったトコに攻撃出来る。コンボ捕喰ばっかしてたも、チャージクラッシュを叩き込めるようになってるぐらいだ。
銃撃、防御、斬撃、防御、リンクバースト。何回もフォームチェンジしながら繰り返す攻防の合間に、俺は考えてた。そろそろ集中してどっちか倒した方が良い。ただ、どっちに集中するかが問題なんだよな。
どっちの月輪も、まだ壊れてない。こっちは腕と髪が毀れてて、向こうは髪だけだ。破壊箇所だけで決めるなら、こっちに的を絞る方が良い。けど、装備や戦闘パターンを考えると決定打が無かった。
リンクバーストのついでにクラッシャーをぶっ放して、守るより攻めるのを優先する。使い勝手が判ってから、何回か重ね掛けされたアラガミバレットを命中させてるナランハ。チャージクラッシュの威力は最強だし、重ね掛けされたアラガミバレットは最凶だ。
それに比べて、こっちは俺もシュヴァルツも元々守り優先。アラガミバレットを纏めて撃てるヤツは居ないし、そもそもストックが少ない。しかもツクヨミの一番弱いトコだってのに、月輪は銃貫通に強い。となると、向こうに的を絞る方が良いように思えてくる。
「……どーすっかな、っと?」
暫くして、先に月輪を叩き割られたのは向こうのツクヨミだ。ついでに活性化してるのは厄介だけど、こうなりゃ向こうに的を絞った方が良い。そう決めた瞬間に叫んだ。
「シュヴァルツ!先に向こう倒してくれ!!」
「解った!直ぐ向かう」
屋上の左右で戦ってる状態で、俺は残り少なくなったスタングレネードを叩き付けた。これで少しは時間を稼げるし、一番離れたトコに居るシュヴァルツでも合流出来る。そう思ったんだけどな。
「げ!マジ?」
神機を持ち直して走ろうとしたら、跳び上がったシュヴァルツの攻撃が月輪を壊した。ヤバい!そう思った時にはスタングレネードで怯んでたツクヨミが活性化して、いきなり攻撃態勢になる。そのツクヨミに体当たりされて吹っ飛んでったシュヴァルツに回復弾を撃ち込んで、ブレードフォームに切り替えた。オラクル不足だしアンプルが無かったってのもあるけど、それより位置が悪かったんだ。
少し先で浮いてるツクヨミはもう月輪を掲げてて、後ろに逃げても間に合わない。右は錆び付いたフェンスで逃げ道は無いし、左に走れば達の戦ってるツクヨミの視界に入る。ソイツも俺を狙って来たら……いや、それより2体揃って活性化してるアイツ等に合流されたら。……最悪だ。
「極太レーザーの往復ビンタは勘弁して欲しいぜ」
だから一か八かの距離だって判ってても走った。シュヴァルツはもう白真弓の攻撃範囲を出てる。なら俺は、最低でも防御だけすれば良い。けど、出来ればどうにかチャージ捕喰に!
「遠慮無く貰うぜー?」
行けると思ったから止まったし、右腕を引いた。なのに、プレデターフォームになった神機を突き出す寸前。
「バカ!無茶すんなチャンドラ!!」
離れたトコからナランハの大声が聞こえた。けど、その直ぐ後で聞こえたの叫び声は――。
「ナランハ避けてっ!!」
不味い状況になってると思うのに充分だった。捕喰し終わった神機を引き抜いて振り返ったら、案の定。
「直ぐに行く!」
踊り狂うツクヨミの腕がナランハを殴ってた。何回も立て続けに殴られてるって事は、ナランハにスタン耐性は無いってワケだ。そんな状態であれを真面に食らったら、タダじゃ済まない。装甲を持ってないヤツが続け様に食らえば、とんでもないダメージだ。それが活性化してる時なら……、どうなるかなんて判り切ってる。
倒れたナランハ。走るシュヴァルツ。身体ごと回転して腕をぶん回すツクヨミ。がチャージクラッシュの体勢に入った時には、月輪に銃口を向けてた。こんなチャンスを見逃すほど、俺は間抜けじゃない。
「っと、撃ち過ぎか」
無防備になったツクヨミに撃てるだけ撃って、オラクルは空っぽだ。ブレードフォームに切り替えた神機を持って、時間稼ぎに走ろうとした時だった。ツクヨミがゆっくり上がってくのが見えて、腕がこっちに月輪を向けるのが判った。
「……く!……っち、くしょ……」
慌てて盾を広げたって、防ぎ切れるワケがない。一発目を受けた衝撃で腕が震えて、二発目を受けた衝撃で足が揺れる。三発目を食らった衝撃で眩暈がしたのと同時に、俺の意識は身体ごと吹っ飛んだ。
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
立ち上がったツクヨミが上昇するのを見たは、それを仰いだ。退くか攻めるかを見極める為に。ツクヨミが圧倒的な力を放つのなら、嫌でも退かねばならない。だが、標的を定め狙い撃つのなら――。
「いい加減、」
余程の事態でなければ使わぬ薬剤を取り出し、忌々しげに睨み上げたまま呷る。足元に落とした小さな容器を踏み潰す時、その手には新たな薬剤が握られていた。
「――、片を付ける」
ヂャリ。と二つ目の容器を踏み潰し、限界を超えて引き出された力を蓄える。己の兵装と薬剤による効果を考えての策は、二分にも満たぬ先の決着を招き寄せる筈だった。
裂帛の気合を以って振り下ろされた刀身は瞬時に黒い銃身へと変形され、頽れた痩躯を狙う。零距離での放射がツクヨミの腕部を砕き、は再び神機を剣形態へと変えたのだが――。
「?」
視線は漸く立ち上がろうとしているツクヨミに向けられたまま、不自然な静けさに耳を澄ませる。しかし、届くのは短く微かな風の音ばかり。その途端、湧き上がった違和。
「――まさか、っ?!」
動きを止め、視線をずらした先。広がる光景に息を呑み、目を疑うも、それは紛れも無い現実。
少し先に捉えたのは、倒れた身体を僅かに動かすばかりの。そこから大きく逸れた位置ではシュヴァルツが地に伏し、更に先でツクヨミが乱舞する。その向こうにあるナランハの姿が他の二人と同様だったなら、恐らくは冷静さを欠いていたであろう。
懸命にツクヨミの攻撃から身を躱すナランハに僅かなりとも安堵すると、はへと駆け寄った。その場に眩い閃光を残し、神機を変形させる事も忘れずに。
「!!」
「……ッ、悪ぃ」
立ち上がったが即座に錠剤を呷り、は地に鮮やかな球体を浮かび上がらせた。そして、それに触れた直後。
「援護して」
声と同時に濃縮弾が受け渡され、は神機を銃形態へと切り替える。その間に戦況を概観するが、先程と比べ好転したようでもあり、暗転したようでもあった。何故シュヴァルツが倒れ、ナランハが追い詰められているのか。惑う思考とは裏腹に身体はの走る先に向かって神機を構え、視線が標的を確認した時。
「チッ」
両の腕が月輪を掲揚しようと頭上へ伸び、またしても絶大な威力を誇る攻撃が放たれるのだと察知したは、即座に地を蹴った。その先で右前方に力を蓄えるの姿を認め、正面に捉えた無防備な痩躯へと続け様にバレットを発射する。
「ん?……っと。返報食らっとけ!」
その刹那。視界の端で何か小さな物が跳ねた事に気付いたものの、それを確認するだけの余裕は無かった。から渾身の一撃を叩き込こまれたツクヨミに、迷わず濃縮弾を放つ。
「はっ!やっ!」
「……、梃子摺らせやがって」
が右へ左へと神機を振り、蒼い痩躯が倒れ行く様を最後まで見届けもせず振り返る二人。その時になって漸く視界の端で跳ねた小さな何かを認識したが叫び、それを知らずにいたは息を呑んだ。
「シュヴァルツ!!」
先刻と然程変わらぬ光景。だが、明らかに違う物があった。薄汚れた灰色の地面に散らばる幾つかの赤黒い染み。主の手を離れて転がる神機。二人の心を乱すだけの光景が、そこにあった。

************************************************************
装甲車の通常速度は90q/h前後で限界速度は200q/h弱。
装甲ヘリの通常速度は280q/h前後で限界速度は400q/h弱。
というのが知らなくても問題無い細か過ぎる設定。
橘朋美
FileNo.014 2013/6/19 |