Apocalypse
011



久し振りに見るエントランスは、あまり昔と変わっていない。色んな服を着た神機使い達が行き来し、ベンチで談笑する。武骨で頑強な出撃ゲートの横にあるオペレーションセンターからは、任務管理を行っている二人のオペレーターの声がして。

「昨日話した二人だ。当分の間は俺が任務に同行するが、」

散漫だった意識を戻すと、シュヴァルツが討伐班の神機使い達に向かって早く馴染めるように力を貸してやってくれ≠ニ話を終えて、こちらに向かって頷いた。

です。コードネームはスーリヤ。宜しくお願いします」

。コードネームはチャンドラだ。宜しく」

当然だけれど、周囲から良い反応を期待出来るわけがない。ついこの間KIAになった二人の名前を口にした途端に辺りがシンと静まって、それまでとは明らかに違う種類のざわめきが生まれる。

……ってこないだKIAした二人だろ?新型のコードネームにしたんだって。称号みたいなモンか。新型っつってもプロトだろ?大丈夫なのかなあ。どんな作用が出るか判んないんだって?ちょっと恐いね。でもさ――。

聞きたいと思わなくても聞こえて来る小さな話し声は、予想通りのもの。とはいえ、鬱陶しい事には変わりなかった。

「えーっと……スーリヤにチャンドラ?で良いのか?」

「はい」

「ああ。その名前使えって言われてる。何か煩いけど、曰く付きとか?」

肯定しただけの私より、の方が上手く立ち回る。正体不明でKIAした神機使いの事を入隊したばかりの新兵に話せる筈も無く、その男はの言葉を軽く往なして自己紹介の口火を切った。

「今居ない奴等は出撃中だ。また改めて紹介する」

その場を締め括ったシュヴァルツに連れられて出撃したのは――ノーマル種のオウガテイル三体の討伐任務。あっと言う間に終わってしまった任務では、新型神機の使い勝手を色々と試す暇も無かった。ついぼやいたらシュヴァルツに笑われて、今日の任務は二人じゃなかったと思い出す。

「確かにお前達にとっては物足りないだろうな。だが、暫くは我慢してくれ」

そんな風に始まった新しい生活は、良くも悪くも順調に過ぎて行く。以前は一日に一つの任務にしか行けなかったけれど、今は時間さえあれば次の任務へ行ける。半月もした頃には同じ班の人達と関わる事にも慣れて、話をしたり食事したりするのも楽しいと思うようになっていた。

でも――。擦れ違い様に向けられる視線や、離れた所で繰り返される噂が収まるまでには何日もかかるだろう。ふとした時に思ってしまう。そう、今みたいな時に。

「あ。スーリヤ、チャンドラも。時間空いてるのか?」

「よー、お二人さん。暇なら俺等と任務行かね?」

「え?――と」

「つってもなー」

日課とも言えるシュヴァルツとの任務から戻って、この後は好きに過ごせば良いと言われた直後だった。エレベーターから降りながら声を発したのは、アレクセイとジューザ。言葉の通り今から出撃するんだろうし、同行するのが嫌なわけじゃない。でも――表向きだけとはいえ未だ指導を受けている身では、好き勝手に出撃出来ない。残念だけれど断ろうとして、それでも私が声を出す前に、頭上で低い声が響いた。

「任務内容は?」

「まだ決めてないけど、ランクBの大型でも行こうかと思ってる」

「そいつ等だってちっとは慣れて来たんじゃね?ここらでもうちょい、」

「ランクBか――、中型の単体なら許可しよう」

思わず振り返ったのは、も一緒だった。ずっと弱い個体ばかりを相手にして来て、物足りなさを組手で晴らすような日々を過ごしていたんだから、当然と言えば当然だ。だから少しでも早く階級を上げようと、二人だけで日に何度も出撃して来た。漸く一等兵になったばかりの私達が出られる任務はランクDか、Cでも討伐対象が小型のものだけ。シュヴァルツが同行しなければ、中型の単体討伐さえ許されない。

「中型の単体?!マジ〜?俺、大型の討伐数上げたいんだぜー?」

「ランクCの中型同時討伐に成功したばかりで無茶はさせられん。これは部隊長としての命令だ」

「オレは構わないけど、ジューザはどうする?」

シュヴァルツの小さな声を耳にして、何の事だろうと不思議に思った。並んだ神機を取り出しながら自分からは話すんじゃないぞ≠ニいう、その言葉をに伝えた少し後。懐かしい物を目にした。

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文句ばっか言ってたジューザが仕方無さそうに俺も行くって言って、やっと出撃ゲートを潜ったのがちょっと前。格納庫に降りて自分の神機を持って、に耳打ちされてから装甲車に乗り込むまでが長かった。つーか、滅茶苦茶長く感じた。

「さて、と。それじゃ、色々話しながら行こうか」

「聞きたい事あんだろ?俺も色々昔の事とか知ってるぜ〜?」

バックミラー越しに笑ったアレクセイも、助手席から振り返ってニヤニヤしてるジューザも、もしかしたら……いや、もしかしなくたってシュヴァルツも共犯だったってワケか。見慣れた二つの神機を持った二人を見て、も驚いてたしな。

「昔の事?」

「そーそー。あんた等が本部長と柳博士に引き取られて新型開発の被験者になった秘蔵っ子だとか、昔は本部長達と出撃してたとか。連合軍の作戦にも参加してたとか?」

「へ〜、そこまで知ってんのか」

「オレも、ジューザが討伐班に配属された時に聞いたんだ。いずれ力を貸して欲しい、って言われてね。君達と別れてから色々あったけど、今は家族もこっちで……」

相変わらずのアレクセイとそれ以上かもしれないジューザの話で、大体の事は判った。赤ん坊の頃フォルセ達に引き取られて、二人が引退する少し前にゴッドイーターになった俺達は適合率の高さから新型神機の開発被験者になって、強硬派の目を晦ます為に表へ出ずに過ごして来て今がある。って事らしい。まあ、粗筋的には間違っちゃいないな。

「――で、あの作戦が成功すれば君達に会えるようになるって言われたんだ。無理矢理仲間にされたとか、嫌々協力してるとかじゃないから。安心してくれて良いよ」

「アレクはそれで良いだろうけどさ〜俺、嵌められたんだぜ?成功すれば特殊班に入れると思ってたら条件を満たしてくれれば、と言った筈だよ?≠ニか言っちゃってさ〜あ」

ジューザはアレクセイより三ヵ月遅れて討伐班に配属されたらしい。それ以来馬が合ってコンビで出撃する事が多いけど、二人じゃ難しい任務が増えて来て困ってるとか何とか。俺達とは逆の事で愚痴ってるジューザを見て、横を向いたら……ニヤリ。同じ顔して笑うと目が合って、口を挟んだのは俺が先だった。

「だったら手ぇ貸してくれよ。チマチマ雑魚倒すのに飽き飽きしてんだ」

「は〜あ?」

「ずっと弱い個体ばかりの任務で、身体が鈍りなりそうなの」

「ははっ。やっぱり頼もしいままだね、君達は」

久々に堕天シユウを仕留めて、お手並み拝見とか言って手出ししなかったジューザが口パクパクさせてんのを鼻で笑ってやった。その横で、やっぱり凄いとか何とか感心してるアレクセイと笑う。ちょっと懐かしい気がしたのは、フォルセ達の神機の所為だ。けど、楽しいと思えるようになったのは……多分、仲間だと思えるヤツらのお蔭なんだろう。

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初の新型ゴッドイーターが誕生して半年が過ぎた頃。数名の研究員が出入りするようになったフォルセティの研究室では、新型神機の最終調整が進められていた。

そして今。重役会議室でその成果を報告している彼の表情は、ピターのように厳しいものとなっていた。

「使用可能適合率は88%。これ以上下げようとすれば、神機の稼働に問題が出て来るだろうね。プロトタイプのデータと比べれば69の予測だ」

だが、しかし、と非難めいた意見が上がる中。結論は?と、それまで静かに耳を傾けていたユリウスが促すのを聞き、辺りは漸く静まり返る。

「多くの新型ゴッドイーターが望まれるのは確かだとしても、旧型神機を使いこなすゴッドイーターが不要になるわけじゃない。今の段階で新型を実用化して一般から適合候補を募り、旧型神機と併用して行く。それが妥当だろうね」

「一つ提案があるのだが、構わないかね?」

声を上げたのは、色白で神経質な面持ちの男だった。質の良いスーツに長白衣を羽織った中年研究者は言う。現在88%としている使用可能適合率を捕喰危険適合率の85%にまで下げれば、適合候補の数は大幅に増えるのではないか。その後に得るデータで更なる改良を重ねれば、最終的に使用手可能適合率は80%程度まで下げられるのでは?と。

「それは、」

「それを私が認めると思うか?!15年前の大量KIAを覚えていない者は今直ぐこの部屋を出て行け!!」

至って冷静に意見を返そうとしたフォルセティの声を遮ったのは、ユリウスの怒号とも言える発言だ。

オラクル細胞によって形成されたアラガミが世界に蔓延り、神機使いの数を増やす事が急務だという考えがフェンリル全体に蔓延していた頃。事前審査が今ほど徹底且つ緻密には行われず、多くの若きゴッドイーターが命を落とした時期があった。

それを再び繰り返すような事を、彼が許す筈など無いのだ。たとえ本部長という立場になくとも、たった一人だったとしても、ユリウスは反対しただろう。その場に居た彼の気質を知る者達は、それ以上口を開こうとはしなかった。その痛ましい事件を忘れている者など、居る筈もないのだ。

「新型神機の実用化を全面的に許可する」

結論が出され、恐らく本部に所属している神機使いの一割にも満たないだろう適合候補を募る放送が流されたのは、その数日後。それによって新たな新型神機使いが配属されたのは、更にその数日後の事だった。

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「スーリヤとチャンドラはお前達と同じ新型だ。旧型では判らないような事があれば、この二人に聞いてみると良い」

討伐班に配属されてから、もう半年以上。新型神機の適合候補が見付かったとは聞いていたけれど、まさかその全員が討伐班に配属されるなんて思っていなかった。今回入隊した新人は8人で、残る5人は新米班へ配属されたらしい。

普通なら入隊したばかりの新兵は新米班に配属されて、上等兵になった時点で正式な所属部隊へと配属される。私達は正規運用の難しい新型プロトタイプのデータ収集≠ニいう名目で、特例として討伐班に配属されていたのに。

「ま、経歴が経歴だし?即戦力として期待されてんだろうな」

「だとしたら――、考えが甘いよね」

それぞれが指定されたチームに加わってオペレーションセンターへ歩いて行くのを見ながら、ポツリと呟いたの言葉に返したのは本心だ。フェンリル士官学校を卒業したという3人は、確かに知識はあるだろう。でも、所詮それだけ。どれだけ訓練を積もうと、幾ら勉強しようと、実戦は別物だ。それは自分自身がよく知っているし、多分、も同じだと思う。

「おい、お前等!半年早いくらいで威張ってんじゃねー!」

いきなり振り向いた最後尾の男の子の声に驚いたのは、私達だけじゃなかった。周囲どころか、エントランスに居る殆どの人の視線が集まっているんじゃないだろうか?今では滅多に聞く事の無くなった噂話の代わりに、興味津々といった感じの会話が耳に入る。

「っは、実戦経験の無いヤツぁ威勢が良いな。頑張れよ?新米」

「んだとー?ガキ扱いすんな!オにレはライアンって名前があんだよ!」

「ちょっと、二人とも落ち着いたら?」

「はいはい、判った判った。他のヤツらに迷惑かけんなよ」

「うっわ、ムカつく!!テメー、オレに喧嘩売ってんの…カッ?!」

背後から彼の頭を直撃したのはジューザの拳だった。ゴツ、という鈍い音が聞こえたのは、きっと私だけじゃないだろう。両手で頭を押さえて蹲るライアンは細かく震えていて、少し気の毒な気もするけれど――。

「直属上官からの有り難〜い教育的指導だ。今のはお前が悪い」

「って〜ぇ……何でだよ!オレだってアイツ等と同じ新型だぜ?!」

「スーリヤとチャンドラは少尉だよ。新兵の君とは同じじゃない」

「ああ?!少尉って……半年だろ?マジかよ?」

「俺等が嘘言ったって意味無いだろ〜?」

アレクの言葉通り、私達はこの半年で少尉まで階級を上げていた。実際には、表向きも少尉になったという感じだ。それほど厳密にというわけではないけれど、神機使いとして守らなければならない事は幾つかある。上官に対する礼儀も、その中の一つだから。

「そういう事だ。俺達はお前の先輩で、同じ所属部隊の上官」

「くーっ、――決めた!アンタ達を追い越してやる!!」

「――――え?」

「ぜってー追い越してやるからな!覚悟しとけ!!」

「っははは、何だありゃ?」

私に聞かないで欲しい。左右からアレクとジューザに腕を掴まれて、ズルズルと両足を引き摺りながら遠ざかって行ったライアン。何だか珍しいもの見たよね?と言うと、そうかもな?とは笑っていた。そして数時間後、今日三度目の任務へ行こうとした時だった。エントランスのベンチに腰掛けている新人トリオを見かけて、横を通り過ぎようとしたら――。

「元気出しなよ、ライアン」

「そんな落ち込むなよ。俺達、初任務だったワケだし」

「…………ハァ」

殆ど人影の無いエントランスでは、小さな溜息もよく聞こえる。もう月が中天に昇る頃だ。夜は神機使いにとっても休息の時間だし、こんな時間にエントランスに居る方が珍しい。声をかけたのは、明日の為に寝ておいた方が良いと伝える為だった。

「どうしたの?」

「オウガ三体相手にリンクエイド三回だって?お疲れさん」

「…………るせー」

彼等の戦果は、夕食の時に聞いていた。討伐対象は全員同じ。エイラという女の子は誤射率が高く、リンクエイドが二回。ライアンは――とにかくフォームチェンジが下手で、攻撃と防御の切り替えが遅いらしい。マックスというもう一人の男の子は指示通りに動くが自主性が低く、リンクエイドは一回だったとか。

それでも各チームのリーダーは、みんな揃ってまあ、最初はこんなもんだろ≠ニ言い合っていた。多分それは、及第点という意味だと思う。

「チャンドラさん!私、」

「スーリヤさん!俺に、」

ほぼ同時に呼ばれた私達は、宙に浮いた言葉に首を傾げる。どっちが先に言うかを譲り合っているのは、エイラとマックス。それじゃあ、と今度は声を抑えてそれぞれ遠慮がちに告げられたのは、特訓と言うか指導と言うか――とにかく私は、それを受けるかどうか迷っていた。

「オレにも教えろ!ってか……教えて、くれ」

二人に挟まれて沈んでいたライアンが顔を上げたのは、負けん気の強さが発揮されたからだろう。少しずつ小さくなって行く悔しそうな声は、きっと強くなりたいというライアンの気持ちそのものだ。横を見ればしょうがない≠ニでも言いたそうな表情のが小首を傾げていて、私は一度瞬きしてから軽く頷いた。

「トレーニングルームはそっちで予約しとけよ?それからメールしろ」

「所属チームのリーダーに報告したら、今日はもう寝た方が良いよ」

翌日から一日に一回は彼等の訓練に付き合って、それ以外の時間はパーツ強化用の素材を集める為に任務へ。そんな日が何日か続いて、彼等の実戦での成果を聞いて、それを嬉しいと思う自分が居た。

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ゴッドイーターが決まった時間に決まった場所に居る事なんて滅多に無い。だから飯のついでに情報交換ってのはよくある事で、最近それが増えたのも当たり前。つーか、仕方ないって判ってる。判ってんだけどな?

「エイラとマックスはかなり使えるようになったらしいけど、な〜んでアイツだけ駄目なんだよ〜。俺は大型の討伐数上げたいんだぞー?」

「それでも、最初の時と比べたら良くなってるじゃないか。大型討伐だって昼から行ってるんだし、焦らなくても良いだろう?」

変わり映えしないメニューを平らげて大袈裟に嘆くフリしてるジューザが、聞き覚えのあるセリフを吐いてテーブルに突っ伏す。その横でアレクがグラスに水を注ぎながら苦笑い。……って、毎回似たような遣り取りが続きゃこっちもいい加減ウンザリすんだよ。ついでに、その鬱陶しい上目遣いで次に何言い出すかなんて丸判りだ!

「な〜、」

「ヤだね」

「まだ何も言ってないぜ〜?」

ランクDでリンクエイドされるようなヤツ、俺達が連れてけるか!初めて相談された時の答えを腹ん中で叫んで、席を立った。だから……トレーを片付けて戻るまでにどんな遣り取りがあったのか、俺は知らない。の言った結果から推測する事は出来たけどな。

「ねぇ、一回だけ。良いでしょ?」

本人も焦ってるみたいで危なっかしい。自分も一緒に行くから、一回だけ見てやってくれ。そう言って頭を下げたアレクに負けて、ランクDのコンゴウ討伐に出た。

「ライアン避けて!!」

「うぁ――ッ?!」

「オレが行く!」

動きの鈍いライアンの癖を指摘しながら、馬鹿みたいに時間をかけてやっと倒した。後は場数を踏めば何とかなるってアレクが言いながら、帰投ポイントに向かってた。何か来るってが言ったのは、次は昼飯食ってから出ようぜ?って俺が言った直後だった。

「チッ…、面倒なヤツが」

膝の下を掠めてったソレは、運良く俺以外のヤツには当たらなかったらしい。ポーチを探ってる間に、が叫ぶ。口に放り込んだ回復錠改をアンプルで流し込んだら、戦闘準備完了だ。

ツイてない。

急かすアレクに続いて瓦礫の山を回り込んだ先。帰投ポイント手前の狭い広場を睨んで、言っても意味の無い言葉を呑み込んだ。ここから約100m。どう考えても、見付からずに突っ切るのは無理だ。



     

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ダラダラ続いてます、ハイ。





橘朋美







FileNo.011 2013/5/9