Apocalypse
010



フォルセ達が引退して、新型神機の開発っつーか開発に要る素材集めを依頼されるようになってから、もう五年も過ぎてた。それは長かったような気もするし、短かったような気もするけど。

『新型神機が完成するまで待ってくれるかい?』

そう言われてからの二年は、短かった。相変わらず以外のヤツと組む事は無いけど、任務以外で他人と関わる時間が増えたからだろうな。

つっても、仲良し子よしのオトモダチ……なんて間柄じゃない。初めて会った頃は挨拶しかしなかった。それが今じゃ顔を合わせりゃ軽口を叩くし、結構真面目な情報だって交換する。……だから。

表向きは試用期間って事にして、半年は経過観察のフリをする。その間にもう少し神機の使用可能適合率を下げて、一般から適合候補を探し出せるようにする。そこまでは納得出来たんだ。けど、その後言われた事には……俺もも素直に頷けなかった。

「討伐班に配属って――どうして?」

「このままじゃダメなのか?」

新型神機が完成して、再登録したら他のヤツらみたいに出撃出来ると思ってた。なのに駄目だよ≠ネんて言って、子供を宥めるみたいな感じでフォルセは小さく笑う。

「何せ君達は、初の新型神機使いだ。それが入隊早々本部長直轄≠ネんていう厳しい条件の部隊に揃って配属されるとなれば、周囲からの風当たりは相当なものになる。それは解るだろう?」

強硬派のヤツらから余計なちょっかいを出されないように。それで怪我するヤツや死ぬヤツが出ないように。俺達が狙われないように、って暗に言ってるようなもんだ。そんな風に言われたら、俺達だって納得しないワケには行かなかった。

「というわけで、色々と済ませておかなければならない事があるからね」

討伐班に配属されるのは明々後日。それまで休暇だって言われた俺達は、こっちはこれから出撃だってぼやく四人と研究室を出た。精々ゆっくりしとけ、とか。勘を鈍らせるなよ、とか。俺達の使えないエレベーターに乗ったアイツらに手を振って、部屋の前でと別れて。

コーヒーを飲みながらノルンで映画を見たり、新しい服をオーダーしようかって色々探してみたり。いきなり休みになった一日目は、久し振りにフォルセ達と晩飯を食って、新型神機のパーツを組み替えたりしてる内に終わってた。

二日目の今日は、朝からアサルトとブラストに合わせたバレットを作ってる。レーザーは今のヤツを使えば良いけど、他のヤツは色々試しながら作るしかないからな。何べん聞いてもああ、またか≠チて思うその音が聞こえたのは、威力と属性値をチェックしながら使えそうなヤツを絞ってた時だ。

「あー。…………っ?!」

何でだよ?!どうして俺達が!!考えるより早く部屋を飛び出したら、隣の部屋から飛び出して来たと目が合った。多分、も俺と同じ気持ちだったんだろうな。目は切羽詰まってるし、口は俺の名前を呼んだっきり開いたままだ。けど、俺達が次にする事は決まってた。

こんな事考えるようなヤツなんてフォルセしか居ないし、こんな事やれるヤツなんてユーリしか居ない。だから、そのまま研究室に走った。

「フォルセっ!!」

「うん、やっぱり予想通りだったねぇ。……待ってたよ」

通話ボタンを押す前に扉が開くって事は、フォルセは最初から俺達が来ると思って……つーか、来るって判ってたんだろうな。だけど、そんな事どうでも良かった。いつもの位置で、いつもの口調で、いつもの顔で俺達を見てるのがムカついた。

「どういう事なの?」

「キッチリ納得出来るように説明してもらおうか!!」

ちょっとは落ち着いたらしいの声に被せて怒鳴ったら、またいつもの調子で答える。何がもう暫く待ってくれるかい?≠セ!!イラついて外に出ようとしたら、疾っくにロックされてたらしい。フォルセが開錠キーを叩かなきゃ内側からでも開けられない扉を睨んで舌打ちしたら、チャリって軽い金属音がした。

「新しいドッグタグだよ。腕輪の施術は今夜……そうだねぇ。ユーリも心配しているから、23時にしよう」

暫く待てって言われた時、何となく気付いた。どうしてこんな事したのか。新品のドッグタグが飛んで来て、それが確信に変わった。俺達は……いや、チャンドラとスーリヤは死んだ。俺達が新型として生きて行く為に。

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研究室へ飛び込んでから、30分くらい過ぎた頃。フォルセが招き入れたのは、任務から戻ったばかりらしい面々だった。訝しげな声や怒鳴り声を上げる四人は、私達と同じように何も知らなかったのだろう。その後ろから居心地悪そうに出て来たのは見慣れた顔だったけれど、いつもに比べて随分汚れてて。

「アル?ゾディも――どうしたの、その格好」

「久々に前線出たらヘロヘロ≠チて感じだよなー?」

からかうように言ったを見ると、どこか楽しそうで――それでも意地の悪い笑みを浮かべていた。そのまま放っておけば、きっとシニカルな言葉と表情で彼等を構っていたんだろう。

「さて。全員揃ったようだし、そろそろ説明しようか」

それを止めたフォルセが、最後尾に居た二人に早く入りなさいと声をかけた時。私とは同じように息を呑み、その名前を口にした。所々に血が滲み、泥まみれで立つその人に。あれ以来、初めて。

「アレクセイ?!」

「やあ、久し振り。元気そうで良かった」

「積もる話は後にして、先ずは私の話を聞いてもらうよ」

再度フォルセが声を出して、全員が口を閉じる。勿論、私達も。スーリヤとチャンドラのKIA報告は間違いじゃなかった。と言うより、ユーリとフォルセによって故意に仕立て上げられたものだったらしい。いわゆる偽装工作。

「二年前、アラガミの襲撃があった事は覚えているね?」

初めてウロヴォロスが現れた日の事を思い出して頷いた。周りでは幾つかの声がそれを肯定し、誰もが無言で先を促す。


マーシュから東遠方に現れたウロヴォロスとその堕天種に対して主力部隊から多くのゴッドイーターが出撃し、第二陣が出撃した少し後。まるでその時を狙っていたかのようにして、小型アラガミが群れを成してハイヴへと押し寄せた。そして私達は、研究室に呼び出された。

周囲はアラガミ防壁で守られているとはいえ、脆くなっている数箇所はかなり危険だ。そこを破られれば、アラガミは易々と居住区へ進入する。防衛班と輸送班が総動員され、救護班と調査班が援護に当たり、回収班と新米班が一般人を非難させる。采配にも連携にもミスは無かった。実際、あの時被害を受けた一般人は一人も居なかった筈だ。

本部周辺がどんな状態にあるのかを聞き終えて、部屋へ戻るよう言われた直後。二度目のレッドアラートが鳴り響いた。複数の大型アラガミが四方のフィールドから移動し、ハイヴへと向かっている。どれも捕喰を繰り返した強力な個体であり、早急な討伐が必要だ。幾つものモニタの奥で、独り言のような調子でフォルセは言ってた。けれど、マーシュに居るゴッドイーターは一個分隊程度だ――とも。

北からはマータと堕天サリエルが。東からはテスカとカムランが。南からはスレイプニルとヴァジュラが。西からピターと荷電性シユウが。多少の時間差があるとはいえ、立て続けに襲撃を受ければ――結果は火を見るより明らかだった。

ウロヴォロス討伐へ向かった神機使い達の余力を当てにする事は出来ないし、彼等を待つだけの余裕も無い。ハイヴの各所に散っている神機使いを呼び戻すにしても、相当のロスが出る上に彼等の中でランクAやSの大型同時討伐に向かえる実力がある者は極僅かだった。次々と入って来る情報に、私達が行けば足りない?と言っても、フォルセは口を噤んだままで。

討伐班と遊撃班はペアで3チームを編成!各個準備が整い次第、東、西、北へ出撃しろ!!特殊班の二名は即座に南へ向かえ!!

どうしてユーリが放送を?と思ったけれど、レッドアラートの代わりに響いた指示は的確だったと思う。四方からマーシュへ近付いていたアラガミは全て討伐されて、MIAやKIAは一人も出なかったんだから。


あの事件の後で口にした言葉は、明後日になれば叶う。そんな事を思っていると、チャンドラとスーリヤは知らないだろうけど――と、フォルセが語り始めた。

「事態が収束して何日か過ぎた頃、君達の存在が指摘されるようになってしまったんだ。初めはゴッドイーター達の間で特殊班に居る新型だ≠ニか極秘任務専用の神機使いだ≠ニか、他にも随分と面白可笑く噂されていたよ」

そういえば、そんな事もあったね。思い出したようにアズールが言うと、ロッソが当然の事のように付け加えた。今では噂と言うより暗黙の了解になってるようだがな――と。

「何だそりゃ?」

「どういう事?」

「簡単に言えば、都市伝説のようなものさ。チャンドラとスーリヤという、凄腕のコンビが存在する。その正体を知っている者は一握りで、恐らく本部長の切り札的神機使いだろうってね」

隠す事が難しくなったから、その噂を利用させてもらったんだ。と楽しそうに続けるフォルセを見て、私達は唖然とするしかない。しかも、この二年で受けたランクSの任務を表沙汰にしてあるなんて――開いた口が塞がらなかった。からかうように掛けられた幾つかの言葉と幾つかの苦笑いに囲まれて何とか返した言葉は、それで?という一言。

「だから消えてもらったんだよ。チャンドラとスーリヤという、得体の知れないゴッドイーターにね」



KIA者
第零部隊所属 スーリヤ
第零部隊所属 チャンドラ

これは、忘却の聖堂に出撃した第一部隊二名よりの報告である。討伐対象であるスサノオと交戦中にテスカトリポカが現れ、救援を要請。直後、付近を帰投途中であった第零部隊二名が現地へ向かった。それにより第一部隊の二名は戦線離脱に成功したものの、第零部隊の二名は二体のアラガミに退路を断たれ、スサノオによってKIA。彼等はスサノオに神機を捕喰され、追い詰められた所を成す術も無く捕喰された。よって神機及び遺体の回収は不可能と判断し、第一部隊の二名は帰投。

以上の報告と位置特定調査により、ここで上記二名を正式にKIAと認定し、二階級の特進を申し渡すものとする。



クルリとこちらに向けられたモニタには、今頃マーシュにある全てのターミナルでトップに挙げられているだろう文章が映し出されている。それを最後まで律儀に読み上げたのはシュヴァルツで、その背後ではナランハが感心しているとも呆れているとも取れそうな声を出した。

「あのさ〜肝心な事忘れてんじゃない?」

「ああ、そうだった。二人とも、彼に会うのは初めてだね」

退屈そうに首を傾げた彼は、討伐班所属のジューザというらしい。アレクセイと二人で出撃する事が多く、今回の協力者でもあると簡単にフォルセが紹介してくれたんだけれど――。

「どーも。って、違うだろ?腕輪だよ腕輪!」

成功したら教えるって言ったじゃねーか!と声を荒げる彼に、恍けた返事をするフォルセ。そういえば…と呟いた様子からして、アレクセイはあまり気にしていなかったようだ。

「簡単な事だよ。二人の腕輪はビーコンを発しない。それだけさ」

一欠片の悪意すらも感じさせない、いっそ無邪気とも言えるような満面の笑みを浮かべてそう言うと、フォルセは表情も口調も真剣なものに変えて話し続けた。

「君達は、昨夜の内に上層部の会議で新型神機の適合候補として登録された。極東で生まれ、北欧で育った双子の姉弟だ。辛うじて実用段階に扱ぎ付けられた新型神機の適合試験は、その安全性の不確かさから秘密裏に行われる。予定は今夜、23時だ」

無言で頷いた私達を確認してからも続けられた話には驚いたけれど、嬉しいと思う気持ちも大きかった。明後日の朝、私達は新型神機使いとして討伐班に配属される。これまでよりも、もっと沢山の人達が居る所へ。それは少し楽しみで、同じくらい不安でもあった。

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「――、君達の上官としてね」

「どうして?!」

が驚くのも当たり前だ。特殊班のサブリーダーが討伐班に配属されるって事は、ちょっとした降格処分と同じようなもんだからな。けど、俺はそんなに驚かなかった。

「本人が望んだからだよ。勿論、それを利用させてもらう形になるという事を否定するつもりはないけれどね」

二年前に死んだ神機使いは三人だったけど、それからウロヴォロスやらアマテラスやらツクヨミやらって厄介なアラガミに何人もの神機使いが殺られてるんだ。戦いに慣れてる筈のベテランですら、何人も。そんな状況で部隊長を任せられるヤツが少ないのなんて判ってるし、本人の希望だってんなら周りがどうこう言う事じゃない。けど、まさかそう来るとはね。

「スーリヤ。第一部隊に配属されるのは、少しでも長く家族の傍に居たいっていう俺の我が儘で……子供がな、生まれるんだ。半年後には――」

厳つい顔したシュヴァルツが、何とも言えない顔で……それでも幸せそうに言うのを聞いて、ああそうかって思った。フォルセ達が引退して直ぐロッソがリーダーになって、シュヴァルツがサブリーダーになって、俺達だって今じゃ少尉だ。

ヴォイドやカインだって何年も前にチーフになってるし、そうじゃないヤツらも超が付くぐらいのベテランになってる。テュスは士官学校の専属医で講師もやってるっていう男と結婚して今じゃ二人の子持ちだし、ナタリエは二年前の襲撃が切っ掛けになったとかで内部防衛班のヤツと結婚して仕事を辞めたって聞いてる。

結婚したり子供が生まれたりして、守りたいと思うものが増えるのは当たり前なんだ。その為に、何とかしたいと思うのも。

特殊班の任務は殆どランクAかSで、オマケに極秘任務まである。討伐班の任務ランクはBかAだ。危険なのは大して変わらないけど、怪我したり死んだりする可能性は低くなる。それに、真夜中だろうが明け方だろうが御構い無しにアサインされるランクSの任務が無けりゃ家族も少しは安心だろうし、一緒に居られる時間も増える筈だ。

「子供?シュヴァルツの?そっか――じゃあ、喜んでも良いんだ」

「ああ、勿論だ」

「その辺の事情は判ったけどさ、一つ聞いときたい事があるんだよな」

嬉しそうに笑ってると新顔のジューザ以外は、珍しいとでも言いたそうな顔でこっちを見てる。ま、確かに自分でも珍しいと思うけどさ。

「なあゾディ、アルもだけどさ。何でアンタらそんなカッコでここに居んの?しかもさっきからずーっと黙ってるよな。フォルセに口止めされてる?」

二人の顔をジッと見てたら、少しだけ視線が泳いだ。……やっぱりな。そっちに居るのはフォルセだけだ。みんながここに入って来た時、だって気付いてた。整備士や操縦士が砂や泥で汚れてりゃ、何も言わなくても外で何かやって来ました≠チて言ってるようなもんだし。

「それを指摘されるのは、もう少し先だと思っていたんだけどねぇ」

隠しとく気は無かったみたいで、二人に俺達の神機を処分させたって事を、フォルセはあっさり認めた。どうやって?って聞いたのはだ。さっきの告示からすりゃスサノオに捕喰させて≠セろうけど。フォルセが頷いた後、やっとゾディとアルが口を開いた。

「とにかく捕喰させれば良いって話だったからな」

「喰い易いように目の前へ出してやっただけだ」

アレクセイとジューザは、アサインされてるランクAの任務からカインに薦められたスサノオ討伐に行って、ある程度戦って帰るだけで良かった。首尾良く事を運べたのはテスカが出て来る前で、アルは開かれた神機にタスクを挟ませて、ゾディはヤツの口が大きく開いた瞬間にルーエを投げ入れたらしい。

後は聞かなくても判る。ゾディとアルをヘリに走らせて、アレクセイ達はスタングレネードでも使って戦線離脱したってトコだろ。けど、スンナリ納得しなかったヤツも居た。

「っ、どうしてそんな危ない事!!」

だ。血相変えて叫ぶこた無いだろ?って、今言っても無駄か。冷静に考えりゃ見当は付くと思うんだけど、コイツ戦闘中じゃなきゃ結構間抜けだから。実動部隊だったアレクセイ達はともかくロッソ達は冷静なもんだし、フォルセなんか苦笑いしてるのにさ。

「接続しなきゃ危なくないだろ?」

「――あ」

ゴッドイーターしか扱えない神機は、どれだけ小さな物でもそれなりの重量がある。が片手で振り回せるようなショートですら、一般人じゃ両手で持ち上げるのも難しいぐらい重い。

それに、ゴッドイーターは自分の神機を武器として操る為のインターフェースとして腕輪を使うんだ。だから他人の神機と接続しようとして構えりゃ、普通はあっと言う間に捕喰される。けど、神機を武器として扱わなけりゃ話は別で……要は持ち運んだり投げたりするだけなら、とんでもない怪力の一般人にでも出来るってワケだ。

それをやるのがゾディとアルだってんなら、正に打って付けってヤツだろうな。引退しようが腕輪を封印されようが、ゴッドイーター特有の身体能力は変わらない。放っときゃ現役とは段違いに落ちるだろうけど、それでも一般人と比べりゃ格段に上なんだから。

「だからブラスト使いだったアルにはのタスクを持たせて、ロング使いだったゾディに俺のルーエを持たせた。条件反射で神機を扱おうとしないように……違う?」

「やれやれ。そこまで解っているのに態々聞くのかい?」

「俺の推測だけじゃ完璧じゃないかもしれないだろ?」

予測、推測、憶測、全ての仮定は、どれだけ完璧に近付けたとしても完璧には成り得ない。それはどうしたって69で止まってしまうからね。100%と言えるのは有りの儘の事実だけだと、私は思うよ。

何でか知らないけど、昔から100%と0%を信じてないフォルセは、ちょくちょくそんな感じの事を言ってた。

子供の頃は全く意味が解らなかったフォルセの言葉を匂わせて、意識して意地の悪い笑い方をする。こっちは何も知らないで、いきなりKIA扱いされたんだ。これぐらいの事したって良いだろ?

何も知らないままじゃ素直に喜べなかったし、多分、何も言えなかった。改めて礼を言ったら散々おちょくられたけど、こういうのも悪くないって思える。そんな良い気分で特殊班を離れた俺達を待ってたのは、鬱陶しい視線だった。



     

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まだ本部。
まだまだ本部。
その内極東支部。





橘朋美







FileNo.010 2013/4/21