Apocalypse
003



『まったく、あまり心配させないでくれ』

『悪い悪…っ、スーリヤとチャンドラは?!』

『あの双子も連れて来てたのか?!――ひょっとして、その…』

『――――シュヴァルツ、ナタリエに連絡を。四人とも無事だ≠ニね』

『あ、ああ。だが、良いのか?それ』

シュヴァルツが気にしていたのは、少し前までアラガミだったモノだ。融け崩れて固まったみたいなソレを、二人は複雑そうな顔で見てた。

『ああ、心配要らないよ。二人ともどこかに隠れているだろうから』

『そうか。じゃあ、先に行ってる。何かあれば呼んでくれ』

シュヴァルツが通路に消えてったのを見て立ち上がろうとした俺を止めたのは、だ。多分、足音が聞こえなくなるのを待ってたんだろうな。掴まれたままの手首を引っ張られたのは、それから数十秒後。二人の名前を呼んで泣きながら抱き付いた俺達を待ってたのは、ユーリの怒鳴り声とフォルセの静かな声だった。

『リンクエイド出来なかった?』

『うん。二人とも起きなかったの』

『君達二人ともがかい?』

『そうだよ!フォルセもユーリも、ずっと起きてくれなかった…』

とにかく何があったのか話せって言われて、俺達は一生懸命説明した。リンクエイド出来なかった事だけじゃなく、あんまり言いたくなかった見覚えの無い神機の事も。当然、あの時見えた女の事もだ。

『――そうか、やはり……そうだったんだね』

『認めたくはないが、そういう事なんだろうな』

意味の解らない遣り取りをしてる二人を不思議そうに見上げると、あの寂しそうな顔が並んでた。黙ったまま立ち上がったユーリがプレデターモードにした神機を黒い塊に突っ込んで、いつもより長い時間をかけて取り出したのは――コアだけじゃなかった。

『……ビンゴだ』

『――――じゃあ、帰ろうか。後は僕達の領分じゃない』

傷だらけの腕輪と神機を持ってマーシュへ帰ったその翌日、その腕輪の持ち主の扱いがMIAからKIAに変わったって聞いた。それが数少ないフォルセやユーリの同期だったって事も、あの時見た女だったって事も。

そしてその日から、俺達には極秘と呼ばれる任務がアサインされるようになった。討伐対象は神機使いを喰ったと思われるアラガミか、元人間だったと思われるアラガミ。特に強い個体の多い特務と極秘任務は、確実に俺達を成長させてった。少なくとも、普通ならどう足掻いても新兵にしかなれない歳で一人前のゴッドイーターだって認められる程度に。

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初めて極秘任務に出た頃とは違って、その頃には世界各地で禁忌種と呼ばれるアラガミが目撃されるようになっていた。私達が10才になったのはその頃で、思い付きを口にしたのも同じ頃。

『それはまあ、あれば便利だろうがなあ』

『でしょ!』

『うーん、それはちょっと……いや、かなり難しいだろうねぇ』

『えええ、じゃあ作れない?』

数年前まではピターとマータしか見かけられなかった禁忌種が少しずつ増え始めて、アイテールやセクメトだけじゃなく、テスカやハガンまでがそれに加わっていた。実際それを口にした時には目撃情報すら無かったけれど、その上位種まで存在していたんだ。

『恐らく不可能ではないよ。進化し続けるアラガミに対抗するには有効な手段にも成り得る。でもね、それには膨大な時間と貴重な素材が必要になる事は確かだ。それに――適合率の高い優秀な人材もね』

任務をこなす度に少しずつ改良を加えて使い続けていた神機は、最初の頃とは比べ物にならないくらい威力を増していた。けれど、当然それにも限度がある。これ以上改良する事は出来ないと三人の整備士から言われた時、正直がっかりした。

一撃の威力に劣るショートでは手数を稼ぐしかなくて、まだ身長の低い私には届かない部位が多くて、そこが弱点だと判っていれば跳びながら攻撃するしかなくて。その結果スタミナ切れを起こしたり、余計な隙を作って体力を消耗したりする羽目に陥る。

『二つとも使えたら、もっと強くなれると思ったのになぁ』

『二つとも、って……、まさかお前が使うつもりだったのか?』

だけじゃないよ!二つとも使えたら凄く強くなれそうだもん!』

――君まで使うつもりだったのかい?』

声を揃えて返事をしたら二人に大笑いされたけど、逞しくなったもんだ≠ニか随分と頼もしくなったねぇ≠ニか。何だか色々な事を言いながら上機嫌で頭を撫でられて、膨らませていた頬は直ぐに萎んだ。

一頻り笑った以外には特にいつもと変わらないブリーフィングを終えて、ユーリの声で神機を構えて、次々に安全地帯から飛び降りる。討伐対象はハガンが二体。黒鉄の丘と呼ばれるどす黒く濁った川の流れる旧工業地帯を舞台に切って落とされた幕は、中々閉じる事を許されなかった。今では第一種接触禁忌種として名を連ねるアラガミ、スレイプニル。――ケルベロス神属派生亜種の闖入によって。

『くそっ、デッドリーヴェノムだ!気を付けろ!!』

下位種の吐く炎とは似ても似つかない凶悪なまでの黒い炎。それを受けるダメージだけでも大きいというのに、追加効果も厄介な事この上ない。

時折り球体になった小さな黒い炎を吐き出す三つの口が咆哮を上げたかと思えば、三本の尾が撓って周囲を薙ぎ払う。器用に地を蹴り人を蹴る六本の脚に直撃されればスタン効果があるらしく、ユーリですらかなり消耗しているのが判った。それが私なら言うまでも無く、シールドを展開しても削られる体力は大きい。あんなモノを見たら、きっと地獄の番犬ですら尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

!前に出過ぎるんじゃない!!』

叫んだフォルセは、きっと私達が気絶する事を心配していたんだと思う。残虐の会堂であった一件の後。どれだけ試してみても私達はお互い以外をリンクエイド出来なかったし、お互い以外にリンクエイドしてもらう事も出来ないと判ったから。二人揃って戦闘不能に陥れば、それが戦闘中なら、助けられなくなってしまうから。それはユーリ達にも言える事で、目撃情報すら無い未知の敵に翻弄される事数分。

『あ!壊れた!!』

『ぐっ?!う…、あ』

『何っ?!』

『援護する!そいつを引き付けるんだ!を!!』

私のガードは確かに間に合わなかったけれど、元々あれは気絶するほどの一撃じゃなかったし、あの時あいつは活性化してもいなかった。それなのに何故?確証を得られたのは随分と経ってからだったけれど、原因は単純なものだ。結合崩壊した中足は私達の士気を上げた代わりに、スレイプニルの特性で大幅な攻撃力上昇を引き起こしていた。

『行けるな?、安易に近付くんじゃないぞ?隙を狙え!!』

『うん!!』

タワーを展開しながら地道に攻撃するユーリを、とフォルセが援護しながら更に数分。初めて活性化したスレイプニルは、荷電性ケルベロスと同じ特性を持っていた。黒い身体の一部に鈍く光る赤。あの時は、あれでも運が良かったんだと思う。変色したのは頭も尻尾も左側の一つで狙い易かったし、偶然とはいえ、遠距離型の二人ともが神属性のバレットを装備していた。

『やれやれ、厄介な新種が現れたものだねぇ』

『これから……こんなのが、沢山出て来るのかな?』

30分近くかかって漸く倒したそれを捕喰していた時。の発した言葉で、フォルセは決意したんだと言っていた。それまで何年も中断していた、剣形態と銃形態を兼ね備える新型神機の開発を。

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初めてスレイプニルと戦ってから、二年ぐらいだったか。改良を重ねた神機とバレットを使いこなせるようになった俺達は、忘れそうになった頃にアサインされる極秘任務と頻繁になった禁忌種討伐に明け暮れてた。二人が引退するって話を聞いたのは、その頃だ。

強いアラガミが急増した所為で、優秀な神機使い達は少しずつ減ってった。それが各部隊の統率を危うくして、ユーリはそれをどうにかしなくちゃいけない立場に居た。神機を開発した研究者達の一人だったフォルセは、本格的に新型神機の開発を始めようとしてた。他にも色々と理由はあったんだろうけど。

『俺達も年だからな。そろそろ楽隠居してもバチは当たらんだろう?』

冗談半分で言ってたけど、実際には楽隠居なんてしちゃいない。正規軍や強硬派との交渉や駆け引き、神機使い達の統率や配属部隊の選定。特殊班のフロアから出られなくても、それぐらいの事は顔馴染みの人達から耳にする。

『そうそう。僕もそろそろ研究に専念したいんだよ』

オラクル細胞が発見された頃から研究をしてて、元々その関係で俺達を引き取ってくれたって事は知ってた。俺達が生かされてるのは二人のお蔭だって事も、それが普通じゃないって事も、いつも二人が一緒だった理由も――。あの頃から、ちゃんと知ってたんだ。



本部長の甥が後見に立つからって、チーフも酔狂だよな?こんなヤツら要らないだろうに、まったく無茶を言ってくれるよ。設備も敷地も足りないんだ、邪魔になるだけじゃないか。

バケモノになるかもしれないんだろう?何かあったら……。

特殊防壁からは出られないんだから、その辺は大丈夫だろう。心配しなくても、何かあれば処分して構わないって許可が下りてるんだ。その時には、直ぐに死んでもらうさ。その為の設備なんだからな。



俺には聞こえなかったけど、には聞こえてた声。それを知らされた時には驚いたけど、俺はそれを直接聞いたワケじゃないからか、ちょっと怖いって思ったくらいだ。だけど、分厚いガラスの向こう側で繰り返される奴らの会話に、はどんどん怯えるようになってった。

だから、考えたんだ。ちゃんと勉強も運動もして、言われた事を聞いて良い子にしてれば。フォルセ達みたいに強いゴッドイーターになれば、外の世界で生きて行けるんじゃないか。この白くて狭い世界の中で、死ななくても良いんじゃないかって。

『邪魔だから?……もう要らなくなっちゃったから?』

?お前、いきなり何を…』

『私達、バケモノになってないよ?!死にたく、…ない」

『――どういう意味だい?』

怒られたり褒められたりしながら、少しずつ強くなった。もっと強くなりたい。そうすれば、きっと大丈夫だ。このまま大人になれれば、怯える必要なんて無くなる筈だ。そう思ってたから。まだ大人には程遠かった俺達には、二人の引退宣言が死刑宣告に聞こえたんだ。

『だから我が儘すら言わなかったのか?』

泣きじゃくるを宥めながら、何とか昔の事を話した後。ユーリは大きな溜息を吐いてから、そう言った。俺達が首を横に振ったのは、嘘じゃない。あの頃から、単に我が儘を言う必要が無かったんだ。だけど、フォルセは悲しそうな顔で言った。

『長い間、辛い思いをさせてしまったね。これからは慎重になろう』

俺の涙腺が崩壊したのは、その後だった。ここで終わるんじゃない。俺達にはこれから≠ェある。それが判って安心したんだろうな。まあ、それからも結構大変なんだろうって事が判からないくらい子供だったからってのもあるんだろうけど。それでも、俺達は充分幸せだったんだ。

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ユーリとフォルセが引退してから、私達は二人きりで任務をこなすようになった。捕喰を繰り返した強い個体や禁忌種を二人だけで倒すのは大変だったけれど、何年もかけて改良した神機は扱い易かったし、何より――それと共に成長した身体は、昔とは比べ物にならないくらいに力を発揮出来るようになっていた。

『これで――っ、終わりっ!!』

袋小路になった場所。昔は宿泊施設だったらしいその屋根の上から、振り被ったタスクを突き立てるようにして落下する。既に弱り切っていたマータは、吹雪の代わりに血飛沫を纏って動きを止めた。

『…――、本部オペレーションセンター』

神機をプレデターモードにしながら携帯端末の回線を繋げば、雑音交じりにカインの声。動かない肉塊を喰い破らせながら、任務完了と伝える。捕喰の出来ないは、こちらに背中を向けて辺りを警戒しているみたいだ。随分早かったな?と言うカインの言葉通り、今回の任務は制限時間を大幅に下回った。

常に薄暗く雪が降り積もる――時には今日みたいに吹雪く場合もある静寂の森での任務は、通常より余裕を持たせた制限時間が設定される。そもそも制限時間というものは、神機使いの身体に負担をかけ過ぎないよう設けられている。というのは表向きで、実際には周辺地区から新手のアラガミが乱入しないよう短時間で決着を着ける為に設定されている。それが戦略指導部の本音だとか何とか聞いてるけど、どうだって良い。どちらにしたって、早く倒す方が良いって事だけは変わらないんだから。

『シユウ堕天種とプリティヴィ・マータ、どちらも――あ!』

グチャグチャとその肉を喰らっていた神機に手応えを感じて引き抜けば、ゴロリと転がる赤黒い球体。大きな声に何事かと振り返ったに、笑ってそれを見せ付けた。

『何?うわ、無傷?!』

コアの摘出は毎度の事とはいえ、殆どの場合が一目で傷だらけだと判るものだったりする。これは見た限り傷も無いし、今日は運が良いなんて思いながら手の平に余るコアを抜き取って差し出す。ボトリ、ポタリと地面に落ちる滴は、やっぱり血なんだろうか?白い雪を抉った赤黒い液体は、鮮やかな赤を浮かび上がらせた。

言い掛けだった言葉を口にした後、返って来たのは暫く待てという答え。最終的に言い渡されたのは、迎えのヘリが到着するまでの待機命令。どうやらタイミングが悪かったらしく、ヘリの到着が遅れるとか。

『祈りの戦艦から直接そっちへ向かってるんだが、少なくとも後30分はかかると思う。それと、マズイ事に大型アラガミの反応があるんだ』

30分程度なら、と考えたのは間違いだった。マーシュから距離のあるフィールドへ任務に向かう場合、出撃後30分以内に帰投ヘリが派遣される。そうでなければ任務終了後の待機時間が無駄に長くなるし、その間に新たなアラガミが現れないとも限らない。その両方に直面するなんて――。今日は運が良いと思ったのは、間違いだったのかな?

『一時の方向、かなり近くだ。それほど早くはないが、確実にそっちへ移動してる。怪我や神機の損傷はあるか?携行品の余裕は?』

スピーカーから漏れた声で、がポーチを探りながらアイテムの数を呟く。自分のポーチは確かめなくても判る。トラップはホールドが一つ、これは相手によっては何の意味も無いだろう。スタングレネードが五つずつ、これなら充分に役立つ。は回復系アイテムを殆ど使ってなかったらしく、余裕は充分。だけど、私の方は充分とは言えなかった。回復錠の残りは二つ、回復錠改が一つ。それでも回復錠Sと回復球が五つずつあるのは救いだし、回復柱も使っていない。

『身体と神機はほぼ無傷。携行品は――、相手によっては厳しいかも』

『確認されてるのは大型アラガミ一体、そこから一時の方向だ。早目に相手を確認して、無理だと思ったら安全地帯でヘリを待て』

『了解』

マータを仕留めた場所。通信を終えて袋小路から出た私達は、大型アラガミの居るだろう方向へ歩いた。前時代はリゾート地だったという山肌に作られたこの街も、昔なら季節によっては緑に覆われていたらしい。だけど、今は年中無休で灰色の雲と白い雪に覆われている。吹き荒ぶ風と降り積もる雪の中では碌に物音が聞こえて来ないのは勿論、遠くにある筈の影も形も見えはしない。

『大型かぁ……何が来るのかな?』

『テスカじゃなきゃ良いけど』

フィールド最北端にある壊れた建物の中で私は耳を澄ませ、は目を凝らしながら数分。つい口にしたのは、私達の――特に私の一番苦手なアラガミの名前だ。硬くて巨大な身体はショートではダメージを与え難くて、跳んで届く箇所でも効果的にダメージを与えられる箇所は限られている。おまけに戦略指導部の推奨兵装は剣破砕と神属性。貫通属性の強いの攻撃も、頭や兜以外にはあまり効かない。ついでに相手の攻撃は範囲が広くて避け辛い上、ダメージが大きいという厄介さ。

ユーリやフォルセが一緒だった時はそれほど気にならなかった自分達の短所が、あからさまになる相手。普段以上に体力を消耗しながら戦うしかない相手だから、携行品が少ない状態で挑むのは避けたかった。それに――朝からある妙な感じ。

『今の内に回復しとく?』

『オラクルの無駄だし、アイテムで回復しよ』

向けられた銃口を手で逸らして、回復球を二つ地面に投げ付ける。戦闘中に使うと隙が大きくなるし狙った相手に上手く使えないけど、そうじゃない時には頼りになるそれは、柔らかな黄緑の球体を浮かび上がらせた。自分も持っていたのにと言うを無視して淡い光に触れると、消耗していた体力が戻るのを感じる。だけど、妙な感じは抜けない。それどころか、時間が経つにつれて酷くなっているような気さえしていた。

『……、大丈夫?まだ怠い?』

『うん。――でも、痛くはないから大丈夫』

出撃前。私の様子が可笑しいと気付いたに無理矢理引っ張られて、テュスにだって診てもらった。熱は無いし、痛みも無い。ただ怠いだけ。

この所忙しくしてるし、疲れが溜まっているのかもしれないわね。

そう言われて、任務が終わったら二日間の休暇を申請するように言われてた。人手不足で十日に一度くらいしか休暇を取れない神機使いにとっては、破格の扱いだ。お菓子や飲み物を用意して貰って、ノルンで面白そうな映画を見ようと二人で計画して、それを楽しみに出撃したのに。

『――――聞こえた。クアド神属だ』

『うぇえ、ホント?バレット火属性のしか無いのに!』

通信を切ってから20分弱。微かに聞こえたのは、鈍い地響きのような特徴のある足音。クアド神属以外には有り得ない特徴なんだから、間違えようがない。抉れた壁から身を乗り出したはまだその姿を捉えられないらしく、必死で目を凝らしていた。まだテスカだと決まったわけじゃないけれど、クアド神属なのは確かだ。本当に運が良ければ、三分の一を引き当てるかもしれない。そんな風に思いながら、時間を確認してた。

『……あ。やった!堕天種だ!!』

『なら倒せるね。行こう、

ヘリが到着するのはどれだけ早くても10分後、相手は極地対応型クアドリガ。私だけじゃ心許無いけれど、火属性バレットで狙い撃ち出来るが一緒なら何とかなる。そう確信した私達は、雪に塗れたカウンターを蹴って外へ出た。今日は本当にラッキーだ。なんて思っていられたのは、堕天クアドに斬りかかってから数分の間だった。

『っつ〜。マズいなあ、オラクルだだ漏れ』

少し離れた所でボヤいてるは、どうやら氷結型トマホークを受けたらしい。遠距離型神機使いにとって厄介なリーク状態を付加された攻撃は堕天クアドから離れているからこそ当たるもので、殆ど真下と言えるような場所に居る私には当たらない。規則的にミサイルポッドを狙っていたレーザーの間隔が開いてしまったのは、アンチリーク剤を持って来ていなかったからだろう。元々必要の無い任務だったし、簡単に見当が付いた。

予備行動の見極め難い場所でチマチマとダメージを与えるしかない私は、少しずつ体力を削られて行く。攻撃後の隙を見て回復するけど、だんだん動きが鈍くなってるのが判る。身体の中がグルグル回ってるみたいで、気持ち悪くてしょうがない。

『よし、壊れた!』

『次はドコを…くっ?!』

?!危ない!!』

『っつ、――――貰った!!』

巻き上げられた雪の中で激痛が走る。ズクズクと痛む身体を立て直して変形させた神機を突き刺せば、目の前で粘着質な音が響いた。ほんの数秒。喰らい付かせた神機を通して、何かが流れ込んで来る。身体が軽くなるような、力が湧くような、言い表せない感覚。神機解放――バースト状態に移行して、すかさず敵を正面に捉える。トマホークを覗かせた前面装甲に連撃を加え、少しでも大きなダメージを与えるのに必死だった。

『ダメだよ!そんな無茶したら、』

『判ってる!けど、早く倒さないと!!』

削られた体力を回復する間も惜しいと思うほど、私は焦っていた。氷爆風で感じた痛みは直ぐに消えたのに、消えない痛みに焦燥感を煽られて。一度感じた痛みは動けば動くほど酷くなって、だけど動かないわけには行かなくて、どれくらいそうしていただろう?

?何で、』

!トラップ!!』

巨体が真上に飛び上がろうとした瞬間に噛み砕いた回復錠Sは、瀕死状態からの回復を促す。後方に跳びながら頼んだトラップは、止めを刺す為の時間稼ぎ。無防備になった前面装甲部は、既にボロボロだ。胸だか腹だか判らない部分の肉を斬り刻み、ノロノロと動き出そうとした所でスタングレネードを叩き付けて、またそこを斬り刻む。リークから回復したのレーザーが身体の割に小さなクアドの頭を何度も貫き、怯んだ所を更に滅多斬りにした。

『……ハァ…ッハ、…………はぁ、疲れた…』

、それ…』

『それって?あ、凄い!ほらコア、また無傷かも…っ?!う、くぅ…っ』

執拗に斬り刻まれた前面装甲は、無理矢理引き千切った内臓を思い起こさせるグロテスクさだった。喰らい付かせた神機を引き抜いて現れた赤黒い球体が、綺麗な物に見えるくらい。今日はやっぱりラッキーな日だったんだと思った瞬間、私はその場に蹲って動けなくなった。



     

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新型ならともかく、ショート使いとスナイパー使いでクアドはキツイよなー。
私はバスター+ブラストでフルボッコにします。





橘朋美







FileNo.003 2013/1/21