オレ、本気なんだ。
なのにアンタはいつも余裕かましちゃってさ。
くれるのは、綺麗な笑顔と肯定の言葉。
けど……それだけじゃ、もう足りなくなりそう。



Please 1
-273.15 ExtraSide Junpei-01



彼女には、いつも噂が付き纏ってる。それは昔から変わんないけど、今じゃ大抵が男絡み。根も葉もない≠チて言い切れないトコがちょっと、って感じの。何年も前から知ってる人だし、そんな噂を真に受けるほど馬鹿じゃない。第一、彼女の男性遍歴はオレが一番知ってる。何せオレが彼女の最初の男なんだし。

なーんて…カッコ付けた考え方したって現状は変わらないわけで。この所……ってか、もう半年以上。運良く時間が空いてればキャンパスデートって感じの物足りない状態が続いてて、何か色々溜まってた。

いきなり医者になるって聞いた時は驚いたけど、医学部は六年制だって知った時はすっげ嬉しかったのに。彼女は講義と実習と勉強の繰り返しで忙しくなっちゃったし、しかも家の事があるのにバイトまで始めてて、休みの日でも滅多に会えなくなった。オレが大学入ってから告白して付き合い始めても、それは殆ど変わらなかった。ってか、どんどん酷くなってる気がする。

特に今年はオレも卒業控えてるから、単位やら卒論やら試験やらで時間が無かった。その上彼女は彼女で臨床実習とか言って、大学来るより市内の病院に通う日の方が多いくらいだし。それが男二人と一緒のグループだってのも、こんな風にグダグダ考えて気が滅入って来る原因だったりするんだよな。

何かオレ、どんどん余裕無くなってるような気がする。オレが卒業しても彼女は後一年大学に居て、あいつ等と実習とか試験勉強とかするんだ。医学部の勉強なんてオレじゃさっぱりだから仕方ない。そう思って我慢してるけど、嫉妬心や独占欲が騒ぐのは止められなかった。

◇◆◇◆◇

「あ、居た居た。にーぃな君!」

「うわ?!っちょ、何?オレこれから、」

「ねえねえ、お昼まだでしょ?うちらもこれからなんだ〜」

いきなり右腕に飛び付いて来たのも、少し遅れて左腕を掴んだのもゼミの仲間なんだけど、やめてくんない?って感じ。そりゃ昔はナンパばっかしてたけど高校入る前に止めたし、今は付き合ってる彼女だって居るって公言してんだから。

「だからオレは、」

「あ、また逃げる気ー?良いじゃん、別にコンパとかじゃないんだし」

「医学部の先輩は超多忙なんでしょ?偶には新名も息抜きしたって、」

「――ニーナ」

声のする方を向いたら、携帯片手に立ってる彼女と男が二人。普通だったら、どっちも最悪のタイミング!って感じ。ちょっと強引に身体を捩って、やっと両方の腕が自由になった。こんな行動、オレが焦ってるって言ってるようなもんなんだよな。なのにアンタは、いつもみたいに綺麗に笑うんだ。まるで何でもない事みたいに。

さん!」

「久し振り」

大声で名前呼びながら慌てて駆け寄るなんて、飼い主見付けた迷子犬じゃあるまいし。けど、彼女に誤解されるなんて二度とゴメンだし、久し振りの生彼女に喜ばない男なんて絶対ぇ居ねーって。

「何々、今日こっちだったの?」

「1コマだけね。さっき終わった所なの」

「マジ?んじゃ今から――って、何か顔色悪いみたいだけど大丈夫?」

顔色悪いって言うか、やけに白いような気がする。服の上から見ただけじゃ判んないけど、首とか鎖骨の辺見ると、ちょっと痩せたかも?って思う。でも、アンタはまた綺麗に笑うんだ。大丈夫よ、って言って。

けど、今からはちょっと≠チて何ソレ?バイトはいつも月水金で、今日は火曜日。しかも珍しく学内で会えて、半日は一緒に居られるって好条件。なのに久し振りに会った彼氏より、お友達と勉強する方が大事とか?一瞬で頭の中に湧いた考えは、嫌になるくらい幼稚な嫉妬だって解ってる。解ってるから、口には出さない。

「あー、そっか。じゃあさ、今度の日曜は?空いてる?」

「ごめん、模試があるから外せないわ」

「えっ?あ、ならしょうがないよな……。んじゃ、その次!27日は?」

「模試の翌週は先輩達から話を聞く事になってるの」

今日だけじゃなくって、次もその次の日曜も駄目って――マジで?本格的に落ち込みそうなんですケド。今さ、11月なんだぜ?忘れられてる?もしかして……オレ、誕生日独りで過ごさなきゃいけない上に祝ってももらえないとか?幾らなんでも、それは無いんじゃない?

多分、顔に出てたんだろうな。滅多に見られないアンタの困った顔は貴重だけど、こんな状況で見たいわけじゃない。今更取り繕っても無駄かもだけど、こんな気まずい状態で帰したくないから。そう思って声を出そうとしたら、彼女の両脇に居た二人に先越されてた。

、レポート貸せ。報告書は俺等が出しとく」

「え?あ。じゃあ、頼んで良いかしら?」

「あんまり放っとくと捨てられるぜ?けど、そうなったら俺が面倒見てや」

「?!余計なお世話!オレがこの人手放すと思ったら大間違いだよ」

腕引っ張られてよろけた彼女を抱き締めて、ふざけた事言ったヤツを睨み付ける。顔に触れる髪も、顎の下にある肩も、薄い背中も、括れた腰も、オレの目の前で他の男になんて触らせない。

久し振りのハグは彼女が一回り小さくなってるような気がして、ちょっと切なかった。中途半端に手を浮かせたままの男と、レポート用紙を受け取ったままポカンとした男。彼女がオレの名前を呼んだのは、二人が笑いながら歩いて行ってからだった。

◇◆◇◆◇

「だから気を遣ってくれたのよ」

「ふーん。で、同情しちゃったり?」

デカい方の男は恋人が居る。それはまあどうでも良いけど、軽い方の男はつい最近別れたばっかってのは要注意じゃん。これからどうするか学食でランチしながら決めようって事になって、やきもちだってバレバレの言動を軽く窘められて。そんな話を聞いても、イライラした気分は収まらなかった。

「……別れた理由になら少し、ね」

「何それ?別れた事じゃなくて理由?」

「そうよ。――全くの他人事、とは思えないもの」

「は?それどういう意味?!」

思わず身を乗り出して大きな声出しちゃったけど、しょうがないと思うんだよね。この人の言動って、はば学に居た頃から――いや。多分それよりずっと前からなんだろうけど、普通じゃないって言うか、思わせ振りって言うか……、とにかく誤解を招き易い。偶に、掌の上で転がされてるんじゃね?って思ったりするし。

あまり人の多い所で話すのは避けたいって言うから、どっか外でって事になって学食を出る。陽当たりの良いベンチに座って聞いた話は、オレにとっても全くの他人事ってわけじゃなかった。

さっきのヤツの彼女は一流教育学部の三年で、別れた理由ってのが――何か妙にリンクする。さんと同じ学部なら、他のヤツ等だって同じくらい忙しい。当然その彼女も彼氏に会えないのが寂しかったんだろうけど、同じ学部のヤツに告られて天秤にかけた挙句に別れるって決めたらしい。お互い忙しくて滅多に会えなくなってから半年くらいだったなんて聞いたらモロ被っちゃって、心臓からギュって音がするんじゃないかって思ったくらいだ。

「ここ何日か彼の様子がおかしくて、二人で聞いてみた結果がそれ」

「……ふーん。そんなに落ち込んでたってワケ?」

そいつの様子がおかしいって直ぐに気付くくらい近くに居て、そいつの事心配してやったんだ?オレの言葉の裏になんて全然気付かないのに、アンタは律儀に答えてくれる。

落ち込んでいたと言うより、落ち着きが無かったわ。勉強をしていても上の空だったり、実習中に考え込んだり、他にも色々。でも……半年後じゃなかっただけマシだ。なんて笑って、お前等も気を付けろよ?って言われたわ。だけど、これから気合を入れ直すとも言ってくれて安心した所だったの。

「半年後って――何で?」

「ふぁ……ん。あ、ごめん」

欠伸を堪えられなかった彼女は、その頃には国試の準備を始めている頃だからって答えた。単位を落とす事は無いだろうけど、国試だけじゃなく卒試は実技もあるから。なんて言いながら、また欠伸を一つ。

「もしかして、あんま寝てないとか?すっげ眠そう」

「ん。模試があるから、この所……ちょっと、ね」

じゃあ今寝ちゃえば?って言ったら、座ったまま寝ると後で疲れるとか言っちゃって。素直じゃないんだよね、ホント。無防備なトコ見られるのが恥ずかしいって事は知ってるけど、そんなの今更だし。

「今ならオレの膝貸してあげる。貴重だよ〜?」

「膝って……あっ、わ」

ちょっと強引に手を引いて陽だまりになってる木のトコに座ったら、バランス崩したアンタが片手と両膝付いてオレを見てた。いつもオレと同じ高さにある顔は当然それなりに下の方にあって、そんな状態で見ないでよって言う代わりに咽喉を上下させる。

マジヤバイ。欠伸の所為だって判ってるけど……それでも。妙に潤んだ目で上目遣いとか、そんなグラビアポーズでされたら我慢出来なくなっちゃうだろ?普通!

「ニーナ?」

しかもそんな甘い声で呼ぶ?!……眠い所為かもしんないけど、ベッドの上で聞くのと同じ声で首傾げちゃって。目ぇ逸らせないんですけど!ここが人の居ないトコだったら――絶ッ対ェ押し倒してる自信ある、オレ。

けど、耐えろオレ。こんな眠そうな彼女襲った時点でケダモノ決定だ。だから今は耐えろ!もう未熟な坊やは卒業したんだから、ここは余裕な振りしてでも彼女を寝かし付けるのが男だろ?

「ほらほら、頭乗せて」

「でも――、あ。せっかく久し振りに会ったのに、」

「だからさ、久し振りに……アンタの寝顔、堪能させてよ」

「……もう。じゃあ、ちょっと良い?」

中々頭を下ろさないアンタは、オレが内心葛藤してるなんて御構い無し。手を離して何をするのかと思ったら、髪と似た色の細いバレッタを次々外してく。昔から見慣れた髪形が崩れて、うねったプラチナブロンドがサラサラ落ちてった。

首の後ろに入れた片手で髪を払ったら光を反射してキラキラ輝いて、何かもうホントこれ以上は勘弁って感じになってんのに。

「――、お休みなさい。適当に起こしてね」

「、……ああ、うん。お休み――って、そっち向いて寝るのはダーメ」

極上の微笑みと一瞬触れるだけのキスなんて……止め刺されそう。けど、これは譲れない事だからちゃんと言っとく。

「ん……どうして?」

「アンタの寝顔はオレだけのもの。でしょ?」

ちょっと驚いた顔で、それでも顔をオレの方に向けて綺麗に笑う。そんなアンタが好きだ。いつもオレの事慌てさせるくせに、こんな無防備な姿を晒す。そんなアンタが好きだ。妙な独占欲も、幼稚な嫉妬心も、こうしてるだけで鳴りを潜めるくらい、アンタが好きなんだ。

片膝に乗せた手を伸ばして髪を撫でたり、絡められた指の間から甲を擽ってみたり。起こさない程度に悪戯しながら、彼女の寝顔を眺める。ここんトコ色々溜まってるけど、彼女だけは足りないから。耳を澄ましても聞こえるか聞こえないかってくらいの寝息と伝わる体温だけを感じて、アンタを補給する。

ただ彼女を見て、彼女に触れて、ささくれ立ってた気持ちが落ち着いてからも、ずっとそうしてた。ちょっと陽が傾いて、流石に起こさないと風邪引いちゃうかもしんないって思うまで。めちゃくちゃ健全だけど、満ち足りた気分になってた。



     

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(壁紙:Kigen/kazuさま)

ちょっと使いたい台詞があったんで書き始めた短編。新名は今んトコ本編が二年生に移行するまで出番無しだし、ネタ忘れない内に書いとかんとなー。

あ、主人公が医学部なのは全固定じゃないです。キャラによって主人公の進路固定するのも良いかなぁ?とか考えてますけど、書き易いかどうか微妙なトコなんだよなぁ。





橘朋美







FileNo.ES.J-01 2012/9/10