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AnotherSide

Kouichi-03



あれからそれほどの事を考えなくて済んだのは、受験勉強っていう鬱陶しいヤツの追い込み中だったからだろう。いつだったか、突然はば学を受けるってルカが言い出した時には何を考えてんだかと思ったが、合格発表後に言い出した事には耳を疑っちまった。いつか絶対そうしようとするだろうとは思ってたが、まさか高校入学前に言い出すなんて。

「――――どうしても、か」

「うん。頼むよ父さん」

二人揃ってはば学に合格するとはなって、親父もお袋も喜んでた。なのに、合格祝いに何か欲しい物はあるか?って言った親父に、ルカは――家を出て一人暮らししたいんだ。そう言って、場の空気を重苦しいものに変えた。親父やお袋も初耳だったらしい。二人ともルカを止めようとして長い事説得してたんだが、ルカは頑として譲らないままだった。

また一人、居なくなっちまうのか?こいつはそんなに、ここに居たくないってのか?いくら俺が守ってやりたいと思っても、無理なのか。ルカはきっと、出て行く事を諦めないだろう。だったら――。

「なら俺も行く。それで良いだろ?」

高校生が一人で暮らすなんて無理だ。しかも生活費はアルバイトで稼ぐなんて。親父やお袋が何度も言った言葉をまた口にした時、俺は決めた。こうなったらトコトン付き合ってやろう、ってな。

「コウ?!」

「テメェみたいなイカれた野郎、野放しに出来るか」

親父もお袋も唖然としてたが。これで良いだろ?って聞けば、一応納得したらしい返事が返って来た。ルカは釈然としない顔のままだったが、少なくとも、一人じゃ親父達も許してくれないと思ったんだろう。何のかんの言いつつ、最後には礼を言ってから部屋に戻って行った。

◇◆◇◆◇

「そんな焦んなよ、コウ。入学式までには教えてやる」

どこに住むつもりなんだか聞いても、ルカは毎回はぐらかした。コウは早くバイト見付けなよ。じゃないと飢え死にしちゃうかもよ?なんて言われると、俺もそれ以上追及出来なかった。けど、今日になって漸く一枚の地図を寄越した。で、ここまで来たは良いが――。目の前の建物を見て、俺は暫く絶句してた。

「ここ、だよな?ハァ……マジかよ」

勘違いかもしれないと思って地図を見直してみても、それはここだった。近くには海岸線に沿った道が――っつーか、それしか無い場所だ。Diner West Beach。ここには見覚えがある。随分昔の事だが、親父が俺らを連れてメシを食いに来た。バス通りから少し外れた位置にある、寂れた土地。立地の悪さから客足が伸びずに潰れた筈の店だ。いや、しっかり潰れてる店、だな。

ポケットから取り出した古い鍵で扉を開けて中を覗いてみれば、外観の酷さよりは幾分かマシな状態だった。つっても、掃除すりゃ住めなくはないだろうって程度だ。当時のままらしい一階は、業務用のデカい冷蔵庫やなんかが置かれたまま。調理器具やら食器類まで置き去りにされてる。二階、三階と上がって行っても、雨漏りの跡やヒビの入った壁がやたらと目に入るだけだった。

そこから眺める夕陽が良いんだ。凄く綺麗で。

ルカがそう言ってたのを思い出して窓の外を眺めると、海に沈みかけの太陽が見える。場所は判ったし、掃除は今からじゃ無理だ。取り敢えず今日は帰るか。そう決めて階段を下りる途中で、裏の様子も見ておいた方が良いだろうと考えた。表があんな状態じゃ、期待するだけ無駄――いや、表以上に酷いかもな。

◇◆◇◆◇

「――シャドウ、400?」

表へ出て左手に回り込んだ所に、それはあった。間違い無い。しかも、の小父さんが乗ってたヤツと同じ型ときた。けど、はばたきナンバーのこれは、違うヤツのもんだって事だ。当たり前だ。あいつは今、東京に住んでる。古い型だからって、乗るヤツは乗ってるもんだ。単なる偶然に過ぎない。どれだけ否定しても否定しきれない自分が、もしかしたらって繰り返す。どれだけ女々しいんだ、俺は。

親父は言ってた。また落ち着いたら連絡するって話だ、って。昔も言ってた。あいつはその気の無い事を言うヤツじゃなかったからな、って。からのメールが途絶えてから、もう一年以上が過ぎた。それでもまだ、音沙汰は無いままだ。それは――、そういう事なんだろう。

「私のバイクに何か用かしら?」

「っ?!」

いきなり後ろから聞こえた声には、聞き覚えがあった。聞き間違いかもしれない。そう思ってるのに、そうじゃないって否定する自分が居る。振り返ると、ゆっくりと距離を詰めて来た女は、ある程度の位置で足を止めた。手を伸ばしたとしても一歩や二歩じゃ届かない、絶妙な位置で。

だが、あいつはもっと小さかった筈だ。背が伸びたのかもしれない。髪だってあんなに長くなかった。髪なんざ切らなきゃ伸びるもんだ。頭の中で否定と肯定が入り乱れて、上手く声を出せねぇ。

「何とか言ったらどう?」

「お前……、なのか?」

逆光で影にしか見えないその女が、次に声を出した時。俺は何とか言った。そいつが誰なのか、確かめる為に。そうであれば良い。そう願って。けど、返って来た返事は……期待してたものじゃなかった。

「――――あなた、誰?」

「――別に誰でもいいだろうが。……悪ぃ、こっちの勘違いだ」

そう言ってバイクから離れようとした俺に、そいつが近付いて来る。誰だか知らねぇが、さっさと帰ってくれ。惨めったらしい気分で俯いた俺がその場に倒れたのは、その直後だった。

「――コウ!!」

「?!――ってぇ!!」

「きゃあっ?!」

「っつ……テメェ、いきなり何しやがる!」

あの時と同じだ。不意を喰らって、下敷きにされて。まあ、状況は随分違うが。飛び付いて来たは、その勢いで一緒に倒れた身体を起こして、慌てて立ち上がろうとする。こっちとしても、その方が何かと助かるんだが……、それより先に口が出てた。

「お前……、こんなトコで何やってんだ」

「コウこそ。何でこんなトコに居るの?」

「何でって……そりゃ、ここに住む事になったからだ」

「ここに?ホント?!」

随分と暗くなっちまったっていうのに、光る髪が顔を擽る。間近で見詰めるその目は、本気で驚いてやがる。ああ、そうだ。お前は、――この髪も目も。こうして見れば、全部がお前だ。

「驚いた!身長、かなり伸びたのね。声も随分低くなってるし」

「それよりよ、あぁ……いい加減、そこ退いてくれ」

「髪型も違うし……え?あ、ごめん!」

相変わらず、小父さんとも仲良くやってるんだろう。こんな所で会えるなんて思ってなかったから、嬉しくて……つい父さん相手にするみたいになっちゃった。ホントごめん。そう言って今度こそ立ち上がる。久し振りに見る幸せそうなその顔は、少し赤かった。それが夕焼けの所為だったのか、それとも別のものだったのか。その時の俺には、そんな事どうでも良かった。またこうしてお前と会えた、ただそれだけで。

◇◆◇◆◇

「お前……、ここは遊泳禁止区域だ」

「そうなの?道理でいつも貸し切りだったわけだ」

何でこんなトコに居んのか。それを聞いてみりゃ、夏にここを見付けて泳ぎに来てただの、その頃から親父さんの実家で暮らしてるだの。なんとも呆気ねぇもんだ。こっちも話しときてぇ事はあったんだが、あの時とは逆にお前が聞いて来た。

「うわ、もう真っ暗?!ねぇコウ、携帯ナンバー教えて?」

「何だ、もう帰んのか?」

確かに暗いが、今の時期なら時間的にはそう遅くない筈だ。つっても、連絡さえ取れりゃいつでも会えるような距離に住んでんだ。今ここで引き止める理由もねぇ。あの時と同じ遣り取りをして、やっぱりニコニコ笑ったお前がバイクに跨ろうとするのを見て、湧いた疑問を口にする。

「そうだ。そういやそれ、小父さんのじゃなかったか?」

「ん?ああ、今は私のよ。父さんは母さんのシャドウに乗ってるの」

他にも色々話したい事はあるけど、それは今度時間がある時に話すわ。またね!そう言って手を振ったお前が遠ざかってく。黒いボディが闇に溶け込んで、あっという間に見えなくなるのを見送ってから、俺は歩き始めた。

「ルカにも……教えてやんねぇとな」

がこの街に居る。それを知ったあいつがどんな顔をするか。なんてバスん中で考えてた時、ジャケットの胸ポケットから振動音がした。久し振りのメールは、少しだけ長かった。



     

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元々捏造しまくりな話なんですが、二人がWest Beachで暮らすようになった経緯とかSRの話とか、これから先書く事になる桜井兄弟の生活辺りは思いっ切り変えてます。ゲームで知った時に「ルカが一人で全部準備して入学式前日になってコウまでそれに乗るなんて有り得ん!!そんなんが出来るとしたらどこまで放任主義な親?!しかもガス通ってなくてカセットコンロって…どんだけ不経済で不衛生な生活?!っちゅーかソコ勝手に入れんやろ普通!」とか、ホント色々思ったんですよ。それに…………碌に洗濯もしてない服着てるとかお風呂に入ってないとかなんて相手、好きになれるかー!!と。毎回コインランドリーとか銭湯に通ってるとしたら別ですが、高校生二人のバイト代じゃどう考えてもあっという間に暮らして行けなくなるしさー。

バイクの事に関してもそうで「高校一年生で400?!しかも二人乗り?!有り得ん!!メット…は、まあスチルだし顔見えなきゃ意味無いからか」とか、調べたらSRなんてあのタイプなら10年オチでも一番安いヤツで20万だったし…ローンか?けど年齢的に無理じゃん!」とかね。

あー……もしかして法律が変わったとか?それを私が知らないだけなのか?!

あ、主人公入学前の琥一編はこれにてお終い!次は琉夏編。





橘朋美







FileNo.AS.K-03 2012/8/9