俺は……それほど意識してたわけじゃねえ。……いや…………確かに最初は意識してたかもしれねえが、それは全然別の意味でだ。――星奏学院に敗れた後。その寮で世話になると決まった時には、こいつ等と会う事になるとは思っちゃいなかった。
「ほんま、ええ夏になったなぁ」
「ああ。思ってたより楽しませてもらったぜ」
「本当に良い勉強になったね。みんなにも会えたし、横浜に残って良かった」
「そうやね。このまま終わってしまうのが惜しいくらいやわ」
「……ああ、そうだな……」
他の三人はいつも通りだが、こいつだけは……。あの派手な制服なんざ目じゃねえくらいのドレスで会場をふらついてやがる。水島なんかは平気な顔して褒めてやがったが、俺は…………正直、目のやり場に困るだけだ。何も気にしてなかった時なら、構う事なく無視してられたってのに。……今は自分でも気付かねぇ内に目で追っちまって、気が付けば……その近くに足が向いてやがる。
「先輩達〜、何してるんですかー?俺達はまだかって、ニアちゃん待ってますよ〜」
…………噂をすれば、ってヤツか。神南の連中はもう済ませたっつってその場に残り、俺達は支倉の所へ――。
「やっと来たか。君達が最後だぞ」
俺は……こういうのはどうも苦手だ。ゆっくり考えれば良いと言ってくれた八木沢部長のお陰で最後の最後に回されたんだが…………どうにも答えが見付からねぇ。大体、『コンクールで得た物は?』なんて漠然とした質問に、何て答えりゃ良いんだ?
「君は本当にじれったいな。何に関しても、悉くそうなのか?」
「……どういう意味だ」
「その音楽とは、比べ物にならないほど奥手だと言っているんだ」
インタビューだけじゃなく、彼女の事に関しても――だと?支倉の視線の先に目をやれば、達の話している姿が見える。……なんでこいつが?……そう思った途端、顔に熱が集まった。
「明日の朝、君達は帰るんだろう?運命の女神には後ろ髪が無いという話を知っているか?」
その機会を逃せば、もう引き止める事は出来ない。次に女神が微笑むのは誰の所なのかも――。
……そんなこたぁ、俺が一番よく知ってる。この気持ちが何なのかも……。だが、知っててもどうしようもねぇ。明日、俺達は帰る。それから先、そうそう会えもしねぇ場所に。……しかもあいつは、正真正銘のお嬢さんだ。俺みたいなヤツが……傍に居るだけで、悪い噂を立てられるような。それを解ってて、何が出来るってんだ?!
「……知った風な口を利いてんじゃねぇ!」
「ほう、やはり図星か。だが――」
「支倉さん、その辺にしてやってくれないかな」
頭に上った血が一気に下がってく。そんな感じだった。だが……悪びれもしないで肩を竦めた支倉を余所に、八木沢部長は言う。
「火積、彼女の言う事も一理あると思うよ」
この人は、いつも自分が正しいと思った事を口にする。俺を部に止めた時も、地方大会で敗れた時もそうだったみてぇに。悩んで……何も出来ないで嘆いてた自分が情けなくなっちまうような事を。
「やらずに後悔するよりも、やって後悔する方が良いと思わないか?」
やろうともせずに最初から諦めてしまうのは、自らチャンスを潰してしまっているのと同じだ。何かしたいと思う気持ちがあるのなら、行動してみなきゃいけない。思っているだけで何もしなければ、結果は出ないんだから。
「……八木沢部長――」
「この先どうするかは、火積自身が決める事だよ」
懲りもしねえでインタビューの答えを要求する支倉に最高の仲間と演奏した時間だと返し、神南の奴等が喋ってる所へ走る。やらないで後悔しねえ為に。自分の気持ちを……行動に移す為に。
「――、あんたに話がある」
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中庭を少し歩けば、中の騒ぎが嘘みてえに静かな夜だった。少なくとも、俺にとっちゃ……。何とかを連れ出したものの、何も言えねえまま時間が過ぎて行く。もう何分経ったのか、それとも何十分なのか、判らねぇまま――。不思議そうに俺の目を覗き込んだあんたに負けて、無理矢理口を開くのが精一杯だなんて……情けねえにもほどがある。
「あんたには、迷惑なだけかもしれねぇが……」
唇が痺れて麻痺しちまったみてえに、上手く動かせねぇ……。咽喉が……乾いて張り付いちまいそうだ。まともにを見れねえまま、また沈黙が流れる。これで……良い筈がねえ。ここまできて決定的な一言を言わねえまま終わったんじゃ、何の意味も――。
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