ある晴れた日に
V



夏が終わって秋が過ぎ、疾うに季節は冬模様。芹沢君からメールが来たのは、クリスマスまで十日を切った頃。文面は相変わらずの几帳面さで……。相談したい事があるので、都合の良い時に電話を下さい。って――千秋や蓬生にならともかく、私に相談したい事?一体なんやろ?指定されてた時間を見計らって携帯を鳴らせば、これまた几帳面なままの声がした。

さんですか?お久し振りです。急な話で申し訳ないんですが――」

確かに在校中そういった事に駆り出されたりはしたけど、クリスマスにOB会なんて聞いた事が無い。珍しい事もあるもんやねと笑えば、他に都合の良い日が無かったらしいんです、って――?何となく妙な違和感はあったけど、場所は神南高校で主催は管弦楽部。しかも交渉相手が現部長の芹沢君やったら、疑う事も無い。

「二十五日の十時?んー……――ええよ、イブにはそっちに帰っとく」

蓬生や千秋にはもう連絡がいってるらしいし。それなら今度は、こっちから遊びに行こ。今までは、ずっと待ってるだけやったから――。あ、そうや。どうせこっちに居ても予定は無いんやし、年末年始も向こうで過ごそうかな。そうすれば、少しはゆっくり蓬生と会えるかも。電話口から聞こえてくる予定を書き写しながら、そんな事を暢気に考えてた。

そんなこんなで、急遽決まった神戸行きに浮かれて過ごした一週間余り。賑やかな中華街があるこの街も好きやけど、久し振りに帰った神戸の風景は、やっぱり落ち着くなぁ。なんて――のんびりしてられたんは、束の間やった。

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「よう、。久し振りやな」

「は――?なんで千秋がここにおんの?」

駅を出た所で待ってたのは、幼馴染の一人。蓬生はどうしても抜けられん用があるって言うてたから他のみんなと同じように会えるのは明日やって判ってたけど、まさか千秋が迎えに来てるなんて思わへんかった。で、ついそのまま口にしたんやけど――悪気なんて一つも無い。

二人ともOB会の事は芹沢君から聞いてて、千秋は蓬生が忙しいって聞いて迎えに来てくれたらしい。メールの遣り取りくらいはあったけど、実際に会うのは卒業式以来。お互いどんな生活をしてるかなんて話はせんかったけど、相変わらずやなって笑ってた時間は楽しかった。

「それにしても――クリスマスイブに予定が無いとは、淋しい女やな」

「そんなん千秋かて一緒やろ?」

俺は引く手数多で困っとるんや。一人を選べんのやったら、全員断るのが一番やろ。なんて言うてるけど、千秋は結構真面目な男や。聴衆を派手に煽って酔わせるのは得意でも、惚れた相手がおらんのやったら余計な事はせえへん。せやから今は、はいはいそうやねって笑ったげる。いつか本気で惚れた相手が出来たら、ちゃんと紹介してや?って加えて。

「ああ。……サンキュウ」

家の前に着いて車を降りようとした時。不意に口を噤んだから、どうしたん?って聞いたら……。

「お前は――ほんまに相変わらずやな」

そう言って、やけに優しい顔で笑った千秋が印象的やった。

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久し振りに帰った家は相変わらず静かやったけど、昔ほど寒々しくはなかった。何でも気の持ちようやってのは、ほんまかも。そんな事を考えながら荷物を片付けて、玄関へ急ぐ。昨日、電話で話した時に決まったパーティーの準備をする為に。

『イブには会えへんけど、OB会の後なら会えるし。二人っきりでパーティーでもせえへん?』

勿論私は二つ返事で返した。イブに一人なのは何となく淋しいけど、明日ゆっくり過ごせるのは嬉しい。美味しいもん用意して待っとこうって、レシピも用意して来たし、酒の肴になるようなオードブルと、あっさり系のメインディッシュ。ケーキはシンプルで大人っぽいのにしようか?なんて――浮かれた気分で材料を選ぶ。一人で食べる食事の為の準備とは大違いやった。

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そして、クリスマス当日の朝。十時に始まる筈のOB会は一時間もサバ読みされとって、学校に着いたばかりの私は控え室に連行された。相手は女の子やから手荒な事も出来んし、渋々大人しゅうしとったんやけど……。

「……なんやの?これ」

「見ての通りの物ですわ、先輩」

「私達がお手伝いしますから、じっとしていて下さいね」

見ての通りって――――なんでこんな事になってんの?!今日は管弦楽部のOB会で、私は芹沢君に頼まれて一曲弾きに来ただけやのに。何を言うても後輩達は右から左に聞き流して、頼むから誰か説明して!っちゅう叫びに、返ってくる声は無かった。

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「蓬生?一体なんやの、そのかっこ――え?ちょ……っ!」

チャペルの入り口にずらっと並んだ後輩と一緒に、主役が来るのを待っとった。見た目とは裏腹の台詞で登場した恋人は、ほんまに綺麗で――。腰を抱き寄せると同時に、耳元へ唇を落としとった。相変わらずの呆れたような千秋の口振りも、一瞬乱れたアンサンブルの演奏も気にならへんまま。

「おい、蓬生――少しは人目を気にしろ」

「化粧を落とさんよう気ぃ付けただけ、偉いと思わん?」

「ハア……さっさと中へ入れ。に風邪を引かせたくないならな」

珍しく赤うなって呆けてるに聞いても返事をする余裕は無いみたいで、割って入った千秋に急かされる。立場が逆やったらって思うたら、その気持ちも解らんでもない。それに、風邪なんて引かせとうないっちゅうのは俺も同じや。

「ほな、行こか。――手ぇ貸して?」

やっと状況を理解したのか、さっきの勢いはどこへやら。差し出した腕に置かれた手は音を紡ぎ出す時よりも優美で、少しだけ俯いたまま俺の横を歩く姿に、また惚れ直す。後できっと色々と聞かれるやろけど、今はただ――。なんて、物思いに浸っとったのが間違いやった。チャペルの中で、いざベールを上げてっちゅう時。

「――仕返し完了、やね?」

爪先立ちして触れられた唇から、一気に熱が伝わってく。まるで、甘いカクテルを飲み干したみたいや。一生尻に敷かれそうやなっちゅう千秋の声に、それでもええって思うてた。

「……なぁ、もう許してくれてもええやろ?」

その夜。美味しそうなご馳走を前に、長い事お預けを喰らうまでは。





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実は蓬生に先を越されていた千秋でしたとさ。
と、いう事で。イレギュラーな土岐短編、これにて終了。
これ、立場逆転させて書いてみても面白いかもなぁ…。





橘朋美







FileNo.101_03 2010/4/15 ※2010/10/10修正加筆