「ほらほら、そんな怖い顔しないで。せっかくの海なんだからさあ」
「そうだよ〜。楽しまなきゃ損だって!」
取り敢えず、私一人なのはラッキーだったのかもしれない。ここに望美が居たら三割増しの面倒くささになっていただろうし、この鬱陶しい奴等程度なら助けも必要ない。というより、相当な手加減が要るだろう。
「こんな所で脱ぐぐらいなんだから、よっぽど自信あるんでしょ〜?」
「ってゆーか、誘ってるよねぇ?僕等、結構いいカンジだと思うけど」
待っている間に服を脱いでおこうとしたのが拙かったのか。それにしても、勘違いも甚だしい。無視しておくのが一番だと思っていたけれど、いい加減イラついてきた。どうやって追い払おうか……。偶の休息日を邪魔するなんていう最悪の行為に対する返礼なら、それなりのものを。とは思うけれど、騒ぎを起こせばパトロールに見付かって余計に面倒な事になるだろうし……思ったより厄介だな。
「何も怖い事する訳じゃないし〜。あ、何か飲み物でも飲む?ビールとかいっちゃう?」
「ああそうだ、まだ名前も言ってなかったね?僕…」
「そんなもん聞きたかねえな」
「何か御用ですか?」
丁度良いタイミングで現れた弟達は、不機嫌そのものの口調と表情。二人とも身長が高くて恐く見えるし、中々の迫力だと思う。煩い奴等はオロオロし始めて、決まり文句を口にしながら歩いて行った。
「ったく。何やってたんだよ、お前」
「服脱いでた」
「服……って、姉さん!何もされなかったんだろうな?!」
「――ナンパされてた」
「「そうじゃねえだろ?!」なくて!!」
「私が誘ったんじゃない」
つい低い声で不機嫌丸出しな表情をしてしまった所為で、将臣も譲も押し黙る。朝の事もあるし、多分これで大人しくなってくれる筈。そう思って作った表情を崩した瞬間、二人の後ろに走って来る望美を見付けた。
「お帰り」
「ただいま。ごめんね、遅くなっちゃって――あれ、どうかしたの?将臣君。譲君も、何か変じゃない?」
望美って……本当に自分に向けられる恋愛感情以外の事に関しては鋭い。何も今、蒸し返すような事を言わなくても良いのに。天然な幼馴染を前にして脱力気味の私をチラリと見た将臣と譲は、さっきの事を思い出したみたいに渋い表情で言う。
「何でもねえよ。いつもの事だ」
「いつもの事って?」
「姉さんですよ。ナンパグループに捕まっていたんです」
将臣や譲が一緒だったのにどうしてと騒ぐ望美に事情を説明すれば、今度はどうして私一人を残して行ってしまうのかと憤慨する。望美も中々の心配性だと思う。
「良いんだよ、私が行って来いって言ったんだから」
「そんなの駄目だよ。ちゃんと用心しないと……変質者とかも居るんだから!」
「お?が望美に説教喰らってるぞ。雨にならなきゃ良いがな」
「茶化すなよ兄さん。取り敢えず、荷物番は俺達が交代でしよう」
頭を掻きながらしょうがねえなと言う将臣に、望美はちゃんと私達も交代で荷物番をすると言い返す。けど、譲はそれを窘めて……埒が明かない。こういう時は結構みんな頑固で、中々譲らないから。荷物番をするだけなら式神を使えばどうにかなるけど、そんな事をすれば私が二人になってしまう。結界を張って荷物だけ置いておいても平気だと言ったところで、誰も納得しないだろうし……。
「………あ、ちょっと待ってて。知り合い見付けた」
「え、どこ?誰か居たっけ??」
「いや、学校のじゃないから」
どこに行くんだとか何なんだとか言ってるみんなを置いて、人目に付かない所へ走り出す。知り合いを見つけた訳じゃなく、どうすれば良いのかを思い付いたから。
「珍しいな、あいつが他人に頼み事するなんて」
「うん。でも、そうしたら皆で遊べるね」
「ええ。姉さんが頼み事をするような知り合いなら、安心出来るでしょうし」
◆◇◆◇◆
幅広の腕輪に付いた青黒い石。使い魔の住処。呪を唱えて息を吹きかければ、何処であろうと姿を現す。いつもは少し笑って。今はやっぱりなという表情で。
「サングラスは絶対に外さないでよ?」
「判った。ある程度の距離で結界を張っておく」
「了解。じゃあ宜しく」
これで荷物を気にせずにいられる。顔さえ見られなければ、特に拙い事は無い。後は適当に誤魔化せば良いんだから。
「お待たせ。車に積んでくれるって」
「こんにちは。の弟さんと、幼馴染だそうだね。俺は釣り帰りだから、夜まで寝ている。遠慮せずに遊んで来ると良い」
呆気に取られてる三人を余所にがさくっと説明してくれたのは良いんだけど、それを聞いていた私まで呆気に取られそうになった。こんな人当たりの良い笑顔を浮かべるは生まれて初めて見たし、喋り方なんて信じられないくらい優しいお兄さんだ。
「ありがとうございます」
「あ、ああ…じゃあ、頼むぜ」
「お言葉に甘えさせてもらいます。夕方には戻るので、それまでお願いします」
「荷物はこれだけなのか?」
「うん。頼むよ」
四人分の荷物を持って歩いて行く姿を見送ると口々に喋り出したんだけど、やっぱり聞かれるのは判っていた事で……。
「助かっちゃったね」
「ああ、まあな。けど、あいつ誰なんだ?」
「姉さん、どういう知り合いなんだ?」
「バイト……かな?」
「何で疑問系なんだよ。それに、お前バイトなんてしてないだろ」
「最近始めたの?」
「姉さん……もしかして、付き合ってる人なんじゃ」
何でそんな突拍子も無い事を思い付くんだろう?付き合っている人間と会ったのなら、紹介くらいすると思う。
「じゃあ何者なんだよ、あいつ」
「バイトみたいなもので、知り合ったんだよ」
「バイトみたい?バイトじゃないって事?」
「厳密にはね」
「「じゃあ、何なんだよ?」」
「ネット上で株取引やら海外の先物買いやらの動向を調べて揃えた資料や、相場の動きを見極めて情報を売ったり、自分でも買って頃合を見て売って、儲け分で別の取引に関わってみたり…」
盛大な疑問符を足して見事にハモった三人の言葉に返すのは、勿論嘘だ。本当の事は言えないから。
「その仕事仲間」
何で黙っていたんだって追求する将臣と、危ない事をしているんじゃないかと窺う譲。二人とも、素直に感心している望美を少し見習って欲しい。
「もう良いでしょ。いつまでも話していたら陽が暮れるよ?」
望美はともかく将臣や譲は簡単に納得してくれなくて、無理矢理会話を終わらせた。拙かったかな……。でも、今更仕方ないか。似たような物は揃ってるし、誤魔化せる。本当に偶の休息日なんだから。せめて十二時までは三人と同じように遊びたいと思っていた私は、多少の気まずさを気にしたくなかったんだと思う。

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(壁紙:PLUS+/coloさま)
本当はシメようかと思ったけど、警察沙汰は拙いので弟達に任せました。
これ、次で終らせられるのかなあ?いや、ちゃんと終らせるぞ〜。
因みにバイトらしきものの説明は、当然デタラメです。
譲の身長は175cmってことで、前回に同じ。
橘朋美
FileNo.101_02 2006/8/12 ※2010/10/6修正加筆 |