遍く昼



もうのんびり過ごしていられるような状況じゃなかった。前から少しずつ崩れ始めていた平家だけど、今はもう、ほんの少し突いただけであっと言う間に消えてしまうんじゃないかってくらいにまで崩れかかってる。源氏に対抗する為に怨霊を生み出す。それを止めようとして、望美ちゃん達が戦う。そしてまた、次の怨霊になる人が死ぬ。ぐるぐるぐるぐる、次から次へと渦巻くだけ。

「悪いね、将臣」

私が失敗したのはどうしてだろう?その原因は何だったのか。答えは判らない。一度目は京で、邸が燃えていた。二度目は吉野で、凶刃に襲われた。三度目はどこで、どうすれば君達を護れる?忘れていた記憶を、出来るだけ細かく思い出す。思い出したくないような嫌な場面も……間違えない為に。あの時私は何をしていたか、みんなは何をしていたか。どうしたら全員が無事に生き延びられるのかを、考える為に。それで判った事も、完全には当てにならない。判るのは、それを繰り返しちゃいけないって事だけだ。だから私は、以前までした事のない事をするように動いてた。

「別に構わねえよ。で?話ってのは何だ?」

睨み付けるみたいにして、目を逸らさないまま話す。あの時の事を。今の事、これからの事、本当の事。それを全部は話せないけど、話せる事は全部本当の事を。君がこれで納得してくれるようにと願いながら。

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何の話かなんて、聞かなくても見当は付いてた。いつまでも気拙いままでいるよりは、はっきりさせた方が良いって判ってる。けどな、こういうのは――やっぱ理屈じゃねえんだ。

「あの時は戦で気が高ぶってたからね」

いつもの顔で淡々と話すを見ながら、俺は思う。一時の気の迷いなんかじゃない。もしそうなら、こんなに悩みはしないだろう。

「助けられた事に恩を感じてるって事もあるだろうし」

命の恩人に対する感謝。俺も初めはそうだと思ってたさ。けど、あの時そうじゃないって気付いた。斬られたお前を見た時。俺は声が出なかった。お前が死ぬんじゃないかって思うと、堪らなかった。

「あの時私が怪我をしたのだって、君の所為じゃないんだから…」

遠回しに諦めろって言ってるつもりか?それならそうと、はっきり言ってくれた方がすっきりするぜ。そこまで考えて、漸くの態度がおかしいって事に気付いた。感情を顔に出さずに相手を斬り捨てるような、いつものじゃない。回りくどい言葉、睨み付けるような視線。これまで見た事の無い態度の意味は何だ?

「そうかもな。けど、俺が今お前を好きだってのも確かだ」

俺の答えは一つだけだ。こいつが敵じゃないなら、迷う事なんて無い。俺を嫌いだってんなら話は別だが。

「気の迷いや勘違いでもなけりゃ、お前に対する負い目でもない」

何も答えないままのお前と睨み合って、どれくらいしたか。急に気の抜けた顔、いつもの調子に戻って頼まれた。全部話せる時が来るまで待つか、忘れてくれだって?

「全部、ね。その時なら答えが出せるってのか?」

それすらも今は判らないと言ったお前を、少しだけ憎たらしいと思った。全てを聞ける時が来るとしたら、それはいつになるんだろうな。

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「また考え込んでいるみたいだね」

どうしたら良いのか判らない。この幾月か、お嬢はそう口にする事が増えていた。独り言を言う癖があるから気にするなとは言われていたけど、大きな溜息を吐きながら背を撫でられていると……どうしてもね。

「何か変わってるのかなって思ってさ」

俺達がお嬢に教えた事は、大した事じゃない。一度目は平家が源氏を倒し、結果的には護るべき全員が死んだ。二度目は白龍の神子と譲が元の時空へ帰り、白龍が龍の姿へ戻った後。将臣、知盛、重衡は行方知れずで、お嬢達は逆賊として追い詰められた。

「お嬢が記憶を取り戻した事で、既に変わっているんだよ」

二度目のお嬢は、何も思い出さずに違う行動を取っていた。けれど、今回は違う。同じ時空を、意識して繰り返す。間違いは数多、正しきは唯一というのが天界に住まう者達。人界ではそれが通じないからこそ、お嬢の変化が意味を成す。

「そうだったね……。もう、変わってるんだ」

変わってしまった時空の運命が、あの者達を救う結末になっていれば。そう言って硬い表情で口を噤んだまま、空を睨み付けていた。それは、数あるお嬢の癖の一つ。今度は何をしようとしているのか。判ったのは、幾日かの後の事だった。

「火輪よ、我が主の行く末を――遍く光照らし給え」

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「……それで?」

「俺達三人が揃ってる時に話したいんだと」

「私は構いませんが」

あの話が済んでから、俺達に話したい事があると言われた。あいつにしては珍しいくらい真剣な……いや、切羽詰った表情で。俺達三人に共通点があるとすれば、それは平家だ。あいつが何を話そうとしてるのか、想像も付かなかった。敵じゃない。だが、味方でもない。お前は一体何者で、何をしようとしてるだろうな。



     

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(壁紙:十五夜/ちゃちゃ様)

火輪=太陽
章間平家編、終盤開始は暗く重く…なっているのだろうか。





橘朋美







FileNo.108_01 2008/2/4 ※2010/10/5修正加筆