自分では何も出来ない――そう思っていた。だからいつも嘆いて……。
自分にはなんの意味も無い――そう思っていた。そして、ここで……。
自分にしか出来ない事がある――そう言われて、説得されて……。
自分では見付けられなかった意味を与えられたのが、嬉しかった。
++++++++++++++++++++
「記憶の流れが…緩やかになった。どうやら落ち着いたようだな」
「そうだね。だけど……こんな過去があったのなら、取り乱すのも無理は無いね」
「なんつーか、すっげえ痛い。こんなの二度と御免だぜ」
「知って――良かったのか?知られたくない事も多いだろうに」
守人達の見たものは彼女の記憶。彼女が――幼子から少女となり、少女から女となって辿った路。
「知っておけば…この先、役立つ事もあるだろう」
「まあ、余計な負担を掛けずに済む事もあると思うけどね」
「本人はこの事知ってんのか?何も言わない方が良いのか?」
「それは……。天帝が伝えているかもしれないが、余計な事は口にしない方が良いだろう」
「否、我が告げよう。隠しおいたとて、益は無い」
いつの間にか夢渡りを終えた天帝の言葉は、尤もといえば尤もな事。隠し通す事で得られるものは極僅かしか無く、告げる事で避けられるものがあるのだから。
「誓約を交わすとの諾を得た。主等は守人。我が寵姫、天姫を護る者。徒に心乱さねば、知る事を隠す必要は無い。護るのは身体のみでなく、精神のみでもない。天姫の……全てを護れ。其の為に、必要な記憶となる」
「判った」
「御意」
「了解」
「承知」
気が付いたら、何やら妙な雰囲気を醸し出している男達。忘れられてたら間抜けだな……と、肩を竦めて一声掛けたら――あの四人組は一斉に此方を向いた。
「何が必要な記憶なんだか知らないけど、いつまで放置されるの?」
「目覚めたか。我が愛し児よ、そなたの名を……教えてくれまいか」
「あぁ、そうだね。今更だけどです。宜しく」
「北方将神次代…霧鎖だ。姫。きりさと呼べば良い」
「西方将神次代の風牙だよ。ふうがって呼んでよ、お嬢」
「南方将神次代、炎尾。 えんびで良いぜ、嬢」
「東方将神次代の雷矢だ。らいやで良い。……天姫、どうした?」
聞き慣れない呼び名に驚いて腹の中で一々突っ込みを入れていたのは、極普通の反応だと思う。寧ろ、それを口に出さなかった事を褒めて欲しいくらいだ。
「我が愛し児の名はと申すか。――では、誓約を交わす前にそなたに伝えておかねばならぬ事がある。酷な事だが、必要な事なのだ」
「ん?ああ、天姫とやらに成る為の条件とか?」
「否、代償と言うのが正しかろう。天姫と成る為の条件は、既に満たされているのだからな」
「代償――ね。寿命が縮む?身体の一部を失う?そんなトコ?」
「――失うものは、そなたにとって……最も意味を成すもの」
「最も意味を成すもの?一番大切なものって事?」
「そうとも言える。そなたが拘るもの―― という人間を造り出す、根本とも言える。それが無ければ、そなたという人間が成り立たぬほどの……」
「はぁ??私じゃない人間になるの?記憶喪失になるとか?」
「全てを奪われる訳ではない。なんであれ、失われるものは唯一つ」
「もしも私が一番拘っているものが生き物だったら、それは死ぬの?」
「否、命が奪われる事はない。だが……其の者のそなたに関する記憶が失われ、そなたの其の者に関する記憶は、奪われる事になるだろう」
何かを失う。それが何かは判らない。それでもそれが必要なら……。リスクが大きかろうと、諦められないものを諦めずに済む方法が在るのなら。それに賭けても悔いは無い。
「ふぅん……解った。良いよ。それだけ?」
「代償は唯一つ。そして……天姫と成った時、そなたは変化する」
「変化ぁ?何か、色々ありそうだね――纏めて説明して。あ!但し、要点を簡潔にね。聞きたい事があれば後から聞くから」
承知した。天姫となったそなたは神であり人でもあるが、そのどちらでもない。人の身体に神の特性を宿す者となろう。寿命は神と同じく数千を超え、病や怪我で潰えはせぬ。我の持つ参眼の神力と身体能力を身に受け、我を模した女型となり、姿は成年期に留まる。傷を負えば痛みを感じ血を流すが、そなた自身が損なわれる事は無い。天姫と成る為の儀式――降臨の儀では激痛に見舞われ、幾日か床に臥す事となろう。……今までこの東天界に於いて召喚された器は七人。全ての者が天姫と相成ったが、降臨の儀に失敗すればそなたの身がどうなるやは判らぬ。”人”が器となった例は無く、文献にはその危険性が記されておらぬ故。
話を聞きながら”理解不能”という表情になった私を、責める人は居ないと思う。でも、特に疑問に思った事は二つ。何千年も生き続けたら暇でしょうがないんじゃないか?とか、この人に似るのなら、凄い美人さんになるんだろうな〜とか、また倒れるの?とか、失敗したら死ぬんだろうな……とか、その辺は、まぁ良いとして。
「参眼の神力と身体能力って、何?」
「参眼は代々の天帝のみが持つ。気を操り術を使う、天帝の持つ神力の源。身体能力は我の持つ力……武器を操り馬を駆る。それらをこなし、維持する力。我の出来得る凡その事を出来るようになろう。身体で覚えた事を継ぐのだ」
つまり……戦闘向きの高い能力を持つ事になるって事か。ふむふむ……と納得のいった表情で、最終確認とばかりに天帝を見上げて聞く。
「了解。天姫になったら、あの子達が死なないように動けば良いって事なんだよね?」
「そう。だが……誓約を交わせば、戻る事適わぬ――」
天帝が長々喋ろうとするのを遮って、”良いよ”と……まるでお使いを頼まれた子供のような返事を返した。ここで私が必要とされているっていうのなら、それくらい。居ても居なくても変わらないような世界になんて、いつ戻れなくなっても構わない。ずっと、そう思っていたから。だけど――そんな私に死なない理由を与えてくれた人達が居たのも確かで、その人達には嫌な思いをさせたくなかったから、無理を承知で聞いていたんだ。
「あ〜っと。私が居た世界での私って、今どういう扱いになってる?」
「今は、そなたが居らぬ事に疑念を抱かぬよう、術を施されておる」
「これから先は?」
「可能な限り、そなたの望む通りに計らおう」
「旦那と友人を悲しませず、迷惑を掛けずに私を消して。他は任せる」
「承知した。必ずそのように」
結界を通して知った過去…あれらが姫の決断を早める要因か。忌まわしい記憶…哀しく痛ましい、思い出とも呼べぬもの。忘れる事も出来ず、捨てる事も出来ず…その過去が、お前の空きを作ったか。
ずっと、自分に意味が無いなんて思い続けて生きてきたんだね。そんな哀しい思いは、もうしなくて良い。俺達は、君を必要としている。俺達が……護るから。お嬢にしか出来ない事がある。気味が生きる意味なんて、ここには幾らでもあるんだから。
嬢は簡単に了解したけど、良いのか?!あれだけ怒鳴り散らしてたくせに。消滅するかもしれない儀式なんだ。成功しても、あんたの何かが奪われる。それをなんでもないように受け入れるのか?それは――あの記憶の所為、なのか?
多大な危険が付き纏う事態を、何故そう簡単に受け入れられる。自分自身に未練など無いような要求は、些細な事で。天姫、あなたは何を失っても構わないのか?人として生き続ける事が、それほど苦痛だったのか。
「――ふぅん。じゃあ、私から一々説明する必要は無いって事か」
「そう。守人等も殊更気に病んでおったのでな。我が告げると申した」
「そっか……ま、煩わしくなくて良いんじゃない?で、これで全部?誓約完了?」
「否、我の掌にそなたの掌を重ねよ。良いのだな?――」
天帝は泣きながら怒ってるような表情をしていて、私は今―――どんな表情をしてるんだろう?無表情なのかもしれないし、清々しいくらいの笑顔なのかもしれない。でも、これだけは言える。きっと私は、辛さや寂しさを感じるような表情はしていない。
「良いよ――あの子達を助けられるなら、誓約する」
間髪入れずに答えた私を見て、更に天帝の表情が複雑なものに変わる。笑っているのか困っているのか……案外、泣きそうな笑顔って言うのが一番近いのかもしれない。でも、そんな事はどうでも良い。今は只、天帝の眼を見据えるだけで良い。もう何も、迷う事なんて無いんだから。
「、天姫が器たる”人”よ。――降臨の儀の証を。今此処に……誓約を交わす」
その瞬間、”ぞわり”何も触れていないのに両腕を何かに撫でられたような、奇妙な感じがした。
「その両の腕にある紋様が誓約の証。、感謝する」
「どう致しまして――ん?紋様って?」
袖を捲り上げると、手の甲の中心から上に牡丹唐草の紋様があった。左は白で右は黒。さっきの感覚はこれか……肩まで入ってる。綺麗だけど――入浴お断りさん?
「誓約は交わされた。降臨の儀は四日後に。守人等よ、を氷月の許へ。、必要な物があれば氷月か守人等に申し付けよ。我は支度を整えねばならぬ。四日後に見えようぞ……ではな」
そう言って、歩いて行った天帝――残されたのは、私と守人達。四日後か……それまで何してれば良いんだろう?何も言われなかったって事は、特に遣るべき事は無いって事なんだろうけど……それはちょっと暇そうだなぁ。
「邸で皆が待ち侘びているだろう…行くか、姫」
「お嬢、歩けるかい?辛いようなら抱いて行くけど」
「大した距離じゃねえし平気だろ。なぁ、嬢?」
「まだ休んだ方が良いか?急ぐ事も無いが――天姫?」
取り敢えず、当面の遣るべき事は見付かった。この人達のけったいな呼び方、早急に訂正しておかないとね。
「あのさぁ……その恥ずかしい呼び方、やめてくれない?」
私は思わず顰めっ面になっているのに、本人達は平然としている。なんでそんな普通の表情してられるのかなぁ。
「何故だ…恥じる必要があるのか?」
「何故って――見りゃ解るでしょうよ」
「見て?うーん……何か変な事――あるかい?」
「普通、あるとしか思えないってば……」
「なんでだよ?別におかしな呼び方じゃねえだろ?」
「私には充分おかしい!」
「は?どこが……ああ、敬称が無い事か」
「や、そうじゃなくて」
「どういう事だ…姫」
「なんで?お嬢」
「嬢じゃ駄目なのか?」
「天姫……やはり、殿か?」
恥ずかしいなんてものじゃ済まないくらいなんだけど、どうやらそれが相手には丸きり理解されていないらしい。正直、不似合いすぎて虐められている気分になる。それに……正直言って重過ぎる。
「だから!私は、お嬢さんとかお姫様とかって呼ばれるような年じゃないんだってば。傍からすれば、変な人達にしか見えないよ?!名前は教えたんだから、でもでも好きな方を使って呼べば良いでしょーよ!」
八つ当たり気味に怒鳴り散らして睨み付けたんだけど、何故か彼等には何の効果も無いみたいで。
「姫と呼ぶ事に…異を感じる者はない。他の者達は天姫様と呼ぶが?」
「お嬢を名で呼べる神は天帝だけだし、誰も変だなんて思わないよ?」
「それに年っつっても、 嬢は俺等より遥かに年下なんだぜ?」
「他の呼び名も無くはないが――そちらに替えるか?天姫」
四人共、それが極普通のような言い方をした。私の考え方がおかしいんだろうか?って、んな訳無い!
「取り敢えず、他の呼び方ってのは何?」
「主…か」
「姫御前とかね」
「姫帝ってのもありだよな」
「姫御というのもある」
あるじ、ひめごぜ、ひめみかど、ひめご……それって何者?!なんかもう、頭が痛いのを通り越して寝込みそうな気分。
「公主…とも呼べる」
「姫様って呼ぶのもありだね」
「昔は守姫とかって呼び名もあったらしいぜ」
「皇女では、後で紛らわしい事になるだろうな」
こうしゅ、ひいさま、もりひめ、みこ…って、一体どこの誰よ!どこをどう見たらそんな呼び方が出て来るっての?!
「どれも似てるか大袈裟になってるじゃん!大体君等が私より年上なんて……あ、あり得るのか。成年期の姿って訳ね。ん?……じゃあ、君等って何才?」
「三十と三だ」
「二十九だよ?」
「二十七だぜ 」
「三十一だが――」
「年上なんて誰も居ないよ?!」
「そんな筈は…ない」
「そうだよ〜……あ、そうか」
「数えの違いか?」
「だろうな」
「何それ?解るように説明して欲しいんだけど」
「”人”の齢で数えるならば…十倍の年月を生きているという事だ」
「十倍?!って……本気で言ってんの??」
「そうだねぇ。天界では若造扱いされるような年だけどね」
「若造って――……」
「だから、俺等より年下だって言ったろうが」
「見た目は君等の方が若いでしょーよ?!」
「その内慣れる。いや、儀式が済めば見た目は変わる」
「そうかもしれないけどっ!!」
何を言っても、中々考えを改めて貰えない。どうしたものかと思案中に、ふと疑問が浮かんだ。
「天帝は名前で呼んでたよね?他の人――じゃなくて、神はなんで駄目なの?」
「強い神力を持つ者の名を呼べるのは…限られた者だけだ」
「はあ?」
「より強い神力を持つ者か、契りを交わした者だけなんだよ」
「何それ?!」
「何それって、まんまだろ。まさか、解んねえってのか?」
「いや、そりゃ流石に解るって」
「言葉はより強い言葉に跳ね返される。返事は呪詛返しを受けるようなものだ」
「物騒でややこしい世界だなぁ――ん?でも、天姫になっていない内は力の欠片も無いんだから……名前を使っても問題無いんじゃないの?」
良い事に気付いたと思った。けど、その後の言い争いは更に私を煽った。
「それは…確かに」
「まぁ、そうなんだけどね〜」
「落ち着かねぇんだよ」
「俺達には、これが普通だ」
「意地でも名前じゃ呼べないって?」
「そう…だな」
「ごめんね」
「良いだろ?別に」
「ああ、当然だ」
「判った。もう良い。好きに呼べば?でも……それなら私が天姫になるまで近付かないで」
「姫?」
「お嬢?」
「嬢っ!」
「天姫!」
「近寄るなっ!そこの邸に行けば良いんでしょう?もう逃げようが無いんだから放っといてよ!!天姫になったら……その呼び名も甘んじて受ける。けど、今の私は何の力も無い人間なんだから……あんた達なんて必要無いっ!」
言うだけ言って、邸まで走った。我ながら大人気ない――けど、どちらも譲れないのなら聞かなければ良い。会わなければ聞かずに済む。事情があって名前を呼べないのは仕方ないけど、今の私は只の人間でしかないんだから。その呼び名が、どれも辛い。
++++++++++++++++++++
「大きな建物――。誰かに聞けば分かるかな?ヒヅキ……とか言ってたっけ」
「どうかなさいましたか?」
「――っ?!ごめん。氷月っていう人に会いたいんだけど、居るかな?」
「氷月は私に御座います」
「え?君が氷月……ちゃん?」
「はい。お初に御目文字致します。天姫様でいらっしゃいますわね」
「いずれ――そうなるらしいね」
大きな邸に豪華な調度品。綺麗な着物を着た小さな可愛い女の子。どこを見ても、これまでお目に掛かった事の無い物ばかりが並んでる。あの四人組の言う通りなら、この子にとっても私は天姫と呼ぶべき人間で、きっとこの世界の誰もが同じなんだろうな。
「次代様方は如何なさいましたか?此方までお送り下さると伺っておりましたが……天姫様お一人でおいでですわね」
「うん。ちょっと――見解の相違ってヤツ?」
「まあ!次代様方は、天姫様を御護りする守人でもありますのよ?!何故そのような……いえ、これは私の申す事ではありませんわね。後ほど天帝様に御報告申し上げて、きつくお叱り頂きますわ」
「いや、そこまでしなくても良いと思うけど……」
「いいえ、それはなりません。これは次代様方の落ち度に御座います。天姫様は御心配なさらず。さ、参りましょう。先ずはお召し替えを」
出迎えてくれたのは十才くらいの女の子。の筈なんだけど、驚くほどしっかりした――あ、そうか。見た目の十倍は生きてるんだっけ。
「天姫様?どうかなさいましたか?」
「え?あ、いや……あのさ、もうちょっと動き易い服は無い?」
「天界の衣は御気に召しませんでしたでしょうか?人界の物も揃えておりますけど……。此方においでの間くらいは、こちらの衣を御召しになって頂きたいですわ。人界に降りられたら、然程の誂え物も御座いませんでしょうし」
って言われても、次々と身に当てられる服は天帝達が着ていた様な物ばかり。つまり、かなり上質の衣装な訳だ。そんなの着てたら、落ち着いてられないんだけどなぁ。
「着慣れない服って、どう着たら良いのか判らないんだよ」
「私がお手伝い致しますから、御心配には及びませんわ」
適当な言い訳をと思って苦笑いを浮かべたけど、着方が判らないってのは嘘じゃなかった。でも駄目だ、この子には逆らえない……完敗。
「じゃあ、適当に選んでみるよ」
「それが宜しゅう御座いますわ。何か御座いましたら、遠慮無くお申し付け下さいませね?」
とは言ったものの――部屋いっぱいに並べられた服から選ぶのか。シンプルそうな物を片っ端から見ていくしかないな。あ、この辺良いかも。
「この邸って、他に人は居ないの?」
「いいえ。常に三十名ほどの者がおりますわ。今は火急の御用、天帝様の御呼びで……さ、あとは此方を羽織るだけですわ」
「ありがとう。じゃ、その内戻って来るのか。氷月ちゃんは行かなくて良かったの?」
「はい。私は天姫様の事を存じ上げておりましたし、そのように天帝様から教育を受けて参りましたもの。御心配には及びませんわ」
「私の事で呼び出されてるの?!」
「はい。せめて天姫様が無事に人界へと降りられるまでは、何不自由無く過ごして頂かねばなりませんもの。邸に関わる者達は、みな天宮へ参じております」
なんで――そこまで大袈裟な。私はそんな大層な立場じゃない。どれだけ期待されていたとしても、失敗すれば只の役立たずなのに。夕食をと言われて通された部屋も食事も、驚くほど豪奢で、着せてもらった服や靴、宝飾類の上等さを本気で考えると、眩暈がしてきそうだ。
「天姫様、何かお嫌いな物でも……。もしや、お口に合いませんでしたでしょうか?」
「え?あ、いや……嫌いな物は入ってないし、凄く美味しいよ」
「それは宜しゅう御座いました。御厨の者達にもそう伝えますわ。天姫様にお喜び頂けたと知れば、きっと皆喜びますもの」
「それは――大袈裟だよ」
「大袈裟などでは御座いませんわ。天姫様は稀有なる存在。天帝様と並ぶ力を持つ、唯一の御方ですのよ?」
「天姫様になれれば――ね」
「天姫様?」
「今の私は……只の人間。――儀式に失敗すれば、それ以下。地面の砂一粒と変わらないような存在でしかないよ」
「そんなっ……!天姫様、どうぞそのような事を仰らないで下さいませ。儀式は成功致しますわ。天帝様も、次代様方も、歴代指折りの優秀な強い神力をお持ちの方々ばかりなのですから――」
「それでも――――結果は判らない」
「天姫様……」
二人揃って項垂れる。駄目だ……氷月ちゃんまで巻き込んでしまった。自分で招いた結果は、自分で始末しなきゃいけないのに。
「ごめん。八つ当たり――卑屈になってるんだ。暫く放っといて」
「……判りました。ですが……何か御用が御座いましたら、必ず御呼び下さいませね?」
「うん。ありがとう」
++++++++++++++++++++
解ってる。今更拘る事じゃない。ただ、過度の期待や自意識過剰が身を持ち崩す元にしかならないって事も知ってる。これは八つ当たり。私は弱いから。臆病な小心者だから……、怖いんだ――失敗する事が。失敗して失望される事が――怖い。期待が大きければ大きいほど、それを裏切って自分が役立たずだと思い知らされる事になった時……同時に受ける絶望感はより大きくなる。
――― そうなりたくはない ―――
気付けば気の沈む事ばかりを考えて……居た堪れなくなって、ふらふらと外へ出ていた。夕暮れ時の空は鮮やかに染まっていて、まるで確固たる信念を持つ人みたいに見えて――。自分の情けなさを、浮き彫りにされた気がした。誰かに必要とされた事が嬉しくて、それを今度は重荷だと感じてる。
――― 我侭な人間 ―――
うろついている間に月が出て、静かに闇が辺りを包み込む。歩き回る事に疲れて、大きな木の根元に座って空を見上げたら、少しだけ……泣きたくなった。
「いつからだったかな……泣けなくなったのって」
滲む事のない視界。泣きたいと感じても、涙は枯れてしまったみたいで。
「子供の頃は泣いてばかりいて、笑えなかったのに」
笑えるようになってから、哀しくて辛くて、生きている事に何の意義も見出せなくなって――死ねれば良いのにと思う事があって。
「あれから……か。もう十年以上も前の事なのにな」
嫌な事を思い出したくなくて、何も考えたくなくて。眠ろうと思った頃には、既に瞼は閉じていた。

************************************************************
漸く名前が出せました♪ (あんまり意味ないんじゃねぇか?)
序章の内は、あまり名前呼ばれないんですよ〜。その先は皆名前で呼ばせる!八葉だろうと誰だろうと、全員名前♪ (俺等もか?)
あ、いや…守人の呼び方は固定のままでいきますけどね。
にしても、回を追う毎に話が長くなるのは何故? (お前が書いたんだろう?!)
早く進めないと…まだまだ先は長いのだ。気長に付き合ってやってください。
今回の一言:氷月の台詞は打ち込み難い
お相手は炎尾でした。では! (ん?おー、んじゃまた来いよな!)
橘朋美
FileNo.004 2006/8/12 ※2010/9/21修正加筆 |