もしも誰かが自分を必要としてくれるなら、それはとても嬉しいと思う。
もしも自分が夢中になれる事があるのなら、それはとても楽しいと思う。
もしも何者かがそれを奪っていったなら、それは辛くて苦しくて哀しい。
もしもそれを与えてくれるなら、それは私に……生きる意味をくれる筈。
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「気付いたか。まだ起きない方が良い。寝ていろ」
――― え? ―――
「良かった……!どこか調子が悪かったりしないかな?」
っと……ここ、何処なんだろう?
「やっと起きたか!よし、天帝を呼んで来る」
この人達、何慌ててるんだろう?
「不用だろう…もう此方に向かっている」
――― こいつ等! ―――
家の前に浮いてた四人組だ―――け、ど……なんでこんな場所に居るんだろう??眼前に広がる景色はそれはもう見事で、とても拉致されたとは思えない。危害を加えられた様子は無いし、何故か心配そうにしている誘拐犯もどき達。全く状況が把握出来ないんだけど、何がどうしてこうなってるんだろう?
「体調が良くなるまでは無理をするな。まだ休んでいろ」
大きな枕を整えて、私を寝かし付けようとする人。
「どこか痛い所は無いかな?もしかして気分が悪い?熱でもあるのかい?」
身体のあちこちを確かめるように触って……確認している人。
「腹減ってるだろ、食い物用意してあるぜ。何か食いたい物あるか?」
走り出して直ぐに戻って来て、また走り出そうとする人。
「食事より…先に水を飲んだ方が良い。飲めるか?」
水差しを持って来て……水を飲ませようとする人。
「無事目覚めたか――我が愛し児。器なる”人”よ」
此方に歩いて来て意味不明な言葉を発する……人?私、この人、知ってる……なんだろう、この人達の感じって。人間の気配じゃ――ない。
「天帝?!」
てんてい?全員が全員、少し下がった……って事は、御偉いさん?
「皆、大事無いようだな。我が愛し児よ、話す事は出来ようか?」
「それ、私の事言ってる?」
「そう。そなたは我が愛し児――天姫と成り得る、空きを備えた器」
「ちょっと待った。状況が理解出来ないんだけど」
「ならば尋ねるが良い」
「そう……じゃあそこの誘拐犯もどき四人を見た後の事から全部、説明して」
なんだか妙な顔付きになってるけど、そんなの知ったこっちゃ無い。私にしてみれば、家の前でいきなり拉致られたようなものなんだから。誘拐犯だって断定してないだけマシってもんでしょうよ。
妙な集団に囲まれて、妙な話を聞かされる。こんな非日常的な事、滅多に無い。少なくとも身の危険は無いみたいだし……なんて、暢気に考えていた。
「突然の事ですまぬな。その四人は守人という。そなたを探し出し、此処へ連れて参れと――我が命じた」
「ここ何処?君、人間じゃないよね……そこの四人も。君等、何者?」
「此処は東世界の東天界。我等は天界に住まう者。”人”は、我等を神と呼ぶ」
「大した歓迎だね……じゃあ私は、人の世界から神の世界に連れて来られたってワケ?」
「否、そなたは西世界の人界に住まう”人”。此処とは真逆の世界から……」
「ちょい待ち。東世界に西世界って事は、北と南も在るっての?」
「その通りだ。察しが良い。四方の世界に四方の天界が存在しておる」
「御伽噺じゃあるまいし……。それが現実だって証拠は?」
「そなたが納得するまで過ごさば、何よりの証となる。他に証は無い故な」
まともに話をしている筈なのに、内容は夢物語。でも、感じられるのは夢にしてはリアルな感覚――頭が痛くなりそう。
「ご尤も……じゃあ、私を此処に連れてきた理由は?」
「吾子の無念を――否、我が願いを受けさせる為」
「……はぁ?!神が私に願う?神に出来ない事を私にやれっての?」
「そう。八百万の神とて出来ぬ事。否、そなたで無くば出来ぬ事」
「一応、先に聞いとく――拒否権は?」
「無論在る。だが……これは、そなたにしか成せぬ事。諾を望む」
「何をさせられるのか判らないのに返事をするほど馬鹿じゃないんだけど」
「承知した――事細かに伝えるよう努める」
狂言にしては真面目過ぎる。けど……簡単に信用出来る話じゃない。そもそも、神が人に願い事なんて変な話。
我の願いは吾子の無念を晴らす事。世界の均衡を取り戻す事にも繋がる。元凶は、この世界の人界に在る。我は人界に関与する事が出来ぬ故、我の持つ参眼の神力を受け得る”人”を探した。”人”は身体に器を兼ね備え、その内に精神を宿し、それが満たされねば空きとなる。より大きな空きを抱える者こそが、我が力を受く者と成り得る。我が神力を受け、天姫と成る器。それが――そなただ。
「大きな空きのある器が天姫になれる可能性があって、それが私、ね……」
「そう。天姫は我が寵姫。そなたはその器であり、我が愛し児だ」
「吾子ってことは君の子で、神な訳だ。無念って事は……死んでる?」
「”人”の言の葉ならばそう言うのであろう。吾子の身体は滅したが、そなたは吾子に会うておる。思念のみを残した吾子と黄泉路にて語り、覚醒したのだからな」
「それって――さっきの白い靄の中にいた男の子?じゃあ、あの子にはもう会えないのか」
いい加減、本気で額に手を当てたくなるのを堪えて聞き続ける。でも……どうやらこれは現実らしい。黄泉路ってのは、さっきの場所か。私は死にかけてたって訳だ。
あれは白龍。吾子の片割れ。陰の龍、黒龍と共に応龍を成す陽の龍。その力の源を失った白龍の無念と、力の源に縛られ続ける黒龍の無念。我にはどちらも助ける事適わぬ。我に代わり、吾子を助け得るのは天姫のみ。我が愛し児よ、誓約を。天姫と成りて吾子を救い、均衡を……。
厭味ったらしく深い溜息を吐いても当然だと思う。少なくとも、私にとっては。
黙って聞いてりゃ勝手な事ばかり言って……自分の子でしょう?しかもあんたは神なんでしょう?人間には理不尽な事を強いておいて、自分は高みの見物?横暴にも程があるっての!願いを聞く気は無くとも、聞かせる気は充分みたいね。大体、何で私なの?!神の……っ子供を助けろ?冗談じゃ、ないっ!!わ、たしは―――。
――― キ エ テ シ マ イ タ イ ―――
気を離したか。酷な事を強いたのだ……無理も無い。空きの原因は多様なようだが、耐え難き年月を過ごしたのであろうな。だが、我とて諦める訳にはいかぬのだ。
寝台に寄り添う天帝へと視線を送る四人の男達。彼等――守人達は、事態が飲み込めずにいた。
「炎尾、夢路の香を……有るだけ貰い受けて参れ。大振りの香炉を四つ、共に持て」
「?―――了解」
「夢渡を行う。我が禊を済ませる間に――風牙、この辺りを清めよ。雷矢、霧鎖。主等は円陣結界の支度を整えおけ」
「夢渡――夢見ならば、負担は無いと?」
「なっ……天宮の斎庭で円陣結界を?!」
「それほどの器…なのだな」
「そうだ。参眼の神力、受ける事適わば……我に次ぐ者となろう。故に、最大の注意を払うまで。万事抜かり無く整えよ」
「――御意」
「…判った」
「承知」
彼女の言動。逃れる事を願いつつ、そこに存在する事を求められた人としての半生。そして――それを絶った己等と天帝の勅命。それらが彼女に齎した変化を僅かながらも窺い知る事になるのは、まだ先の事。
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泣き声?ぼんやりと木々を照らす月明かりを頼りに、森の中を歩いてた。蹲って泣いている子供に近づいて……どうしたの――って?!声が、出ない。しかも、その子の肩に触れようとすると、擦り抜ける感触。……幽体離脱?それとも夢??仕方無くそのまま顔を覗き込むと、頬から首にかけて大きく焼け爛れていた。冷やさなきゃ!
「おね、ちゃ…ごめっなさ、うっぅ、あぁ…」
何か冷やす物は無いのかと慌てていると―――消えた。何も出来なかった……あの子、酷い火傷だったのに――ごめん。
晴れ渡る空の下、大きな池の傍に赤茶色の犬。大きな子犬だな〜。鉄より小さいけど、柴犬?秋田犬?どっちかだよね、尻尾丸まってるし。池の水を飲みながら落ちそうなんだけど……ねぇ、体勢崩れかけてるよ?
「何をしている。飲み水は器にある物を飲めと教えているだろう」
?なんだ、犬の事か……やっぱり見えてないんだ。 行くぞ銅、って……あか、がね?あはは。くろとあかの違いか〜。なんか楽しいや。くすくす笑っていると――消えた。鉄に銅か……銀と金も居たら面白いのに。あの子、綺麗な黒髪だったな。
大勢の喚き散らす声が聞こえる。舗装されていない広い道と、大きな川。長い塀の角を曲がると、繰り広げられていたのは……団体殺陣?!三十は下らない男の子達が……喧嘩なんて生易しい。これって――殺し合いだ。
「お前らの様な有象無象に……斬られてなるものるかあっ!!」
弾き飛ばされるようにして足元に転がってきた男の子と同時に眼に入ったのは、月明かりの細長い反射光、構えられた刀。殺られると思った瞬間―――消えた。驚いた……あの子、大丈夫――な訳ないか、あんな状況で。
昔、何度も行った事のある渓流を思い出す。月明かりに照らされて、川のせせらぎを耳に夜のそぞろ歩き。機嫌良く足を進めると、崖の前に人影。……ライフル構えてる?狩りには見えないけど――”チュイン”
って……撃ったのは何?変な……煙?
「オレが満足に出来る事って、何も無いのかな」
振り向いた男の子は顔を顰めていて、辛そうに見えた。泣くのを堪えているような表情で、私を走り抜けて行った。その感触に私が振り向いた途端―――消えた。あの子、何を?ライフルに見えたけど……なんであんな表情してたんだろう?
青鈍色の空の下、広がる景色は戦跡。屍累々……その向こうで戦っている派手な戦装束の男の子。どうせ幽体離脱中なんだし……と、近付いてみる。余裕の笑みで、楽しそうに人を斬り捨てていて――両刀使いか、なんて。こっちも余裕でふざけた事を考えていると、大した傷も受けずに数体の屍を増やして呟いた。
「どいつもこいつも……つまらんな」
返り血を浴びて笑っていた奴が言う?!唖然として見ていたら―――消えた。かなり強いな、あの子。もっと強くなりそうだけど……妙な感じだった。
大きな邸の塀が続く道。只歩くしかなくて、のろのろと進むだけ。月明かりが照らし出したのは異様な男の子。いや……薄汚れているけど、私には普通の服装に見える。異様に見えるのは、これまで見てきた物とちぐはぐ過ぎるから。学生服――かな?俯き加減で辛そうに歩いているのが気になって、顔を覗き込んだ時……盛大に腹の虫が鳴った。
「あー、……マジで腹減ったな」
ぷ…あははっ!安心して、可笑しくて。思わず笑い出したら―――消えた。く……ふふふっ、ホントになんてタイミング!あの子、怪我や病気じゃなかったんだ。
灰色の雲に覆われた空の下、豪邸と呼ぶに相応しい邸と、見事なまでに満開の桜。綺麗だけど、こんな天気じゃ寂しく感じるなぁ。根元に座って真上を見ると、今にも雨が落ちてきそうな空とは不似合いなまでの優しい桜色だけが眼に映る。次の雨で散るだろう花は……短くても、咲き誇れただけ良いのか――。
「この桜も今日限りですか」
不意に聞こえた声に目を向けると、私の上に男の子が重なって座った。なっ?!驚きつつ――消えた。はぁ、実体があったら大変だった。……あ、その前にあの子が気付くか。
あれ?さっきの邸だ。やっぱり雨が降ったんだ……桜、もう散ってる。もしもまだ雨が降っていたら、やっぱり濡れるのかな?どうでも良い事を考えていると、さやさやと降り注ぐ月明かりに似合いの笛の音が聞こえて……釣られるように音を辿った。着いたのは……多分、座敷牢。見るからに頑丈そうな格子の中で、笛を奏でる綺麗な……男の子?
「私は、何故……ここに居るのだろう」
綺麗な顔で、哀しい表情と言葉。その言葉を気にしつつ――消えた。あの子も同じなのか。自分の生きている意味が欲しいのかな?
鬱蒼と生い茂る木々、獣道とも言えないような足元を辿る。ここで転んだら、土左衛門の出来上がりかな?眼下には叩き付ける荒波、泳げなくはない。けど、これじゃちょっとね。月明かりで何とか見える程度の周囲に眼を配る。なんて暇も無い内に、大きな人影と……それより小さな人影が転がって来た。
「この下です。……急ぎましょう」
兄妹なんだ……綺麗で凛々しい妹だなぁ。でも……なんで二人共ズタボロ?暢気に考えている内に――消えた。兄想いなんだ、あの子。家の兄弟とは大違い……ああいう兄妹もいるんだ。
断崖絶壁って言うんだろうな。こういうのって、初めて見た。月明かりの下、松林と荒海。時代小説や映画の決闘場面に似合いの景色だ。なんて――下らない事を思いながら佇んでいると、勢いよく走って来た男の子が通り抜けて行った。怒ったような、悔しそうな表情で。近付いてみると、拳を握り締めて呟いていた。
「あんなに強かったくせに……なんでだよ?」
低く、絞り出すような声で……。その様子を見ている間に――消えた。何があったんだろう?悔しそうだった。あの子にじゃない……誰かに、何か。
どこかの河原なんだけど、見渡す限りの銀世界。……なのに、全然寒くない。寒さに悩まされずに雪景色を楽しめるのは良いけど、夢か現か幻か。って?ま、私自身がそんな状況なんだけど――ん?眼鏡の男の子、あの眼鏡、時代が違う……って?!あれ怨霊なの?鎧着た骸骨集団が居るんだけど。
「なんなんだ、ここは……先輩は?」
迷子かな?先輩って……お腹減らしてた男の子かもしれない。伝えたいのに伝えられない事に苛ついて――消えた。あの子、凄く焦ってた。なんで私は、見てる事しか出来ないんだろう。
また似たような景色。違うのは、怨霊……鎧を着た骸骨が女の子達を襲ってるって事。不思議な子達。幽かな黒い光に覆われた着物姿の女の子と、淡く白い光を纏う……え?あの子、スカート穿いてる?!その横に小さなあの子が――居る。これは何?過去を見ている?なんでこんな真似をする?何も出来ない事を思い知らせてどうするっての?!剣を取り、立ち上がった子に向けられた言葉。
「大丈夫、私もまだ……戦えるわ」
「あなたに、龍の加護を。……戦う力を」
その子達が羨ましくて、何も出来ない自分が情けなくて、無性に腹が立って――消えた。
あれはなんなのっ!あの子達を見せたのは――同情心でも煽って私に助けさせる為 だとでも?!
そう。我が愛し児よ、先程の幻影は、吾子の護り切れなかった者達。
いつの間にか、さっきの庭に居る?じゃあ、これも幻影なんだね。あの四人が居ないみたいだけど?
守人等は結界を通し、そなたの精神を垣間見ておる。
白龍と話した時と同じって事?ねぇ――あの子達、死ぬの?
そう。白龍の神子以外、皆。――幾度も繰り返し、巡る、運命の中で。
私が天姫になれば……それを防げるって?
前例が無き事故、完全な肯定は出来ぬが……恐らく。
確率は?
判らぬ。……天姫に課せられた事のない事態故、憶測の域を超えぬ。
そんな無茶な事を、愛し児とまで呼ぶ者に遣らせるっての?
無理は承知の上。だが、そなた以外の者には頼めぬのだ。――我の出来得る限りの助力を約し、与え得る全てを与えよう。……そなたには酷な事なれど。
そう言って、哀しい顔で希う。大きな身体を屈ませて跪き、私の手を取って。まるで、救いを求めるただの人みたいに。
我が愛し児よ、誓約を。降臨の儀を受け、天姫と成り、我の願いを――。
どうか……と、頭を垂れて――あんなもの、見せられて。
こ と わ れ る わ け な い
判った……その誓約、交わすよ。詳しい事は現実で聞く。
感謝する、我が愛し児よ。――現にて会おうぞ。
誓約が交わされる。与えられるもの、奪われるもの。多くの疑問を払う事が出来るのは、目覚めた後。現世に戻った時の事。

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登場人物全員集合!無理やりですけど…いやはや、激しく勘違いされている人達もいますが、 (本当に、酷い言われようだったよねえ?)
いずれ、誤解は解けます。本人達と出会ってから!
何故か、ひとつのジャンルに絞れないんです。 (良いじゃないか、楽しければさ)真面目、おちゃらけ、ほのぼの、etc. ごちゃ混ぜの闇鍋状態。ハズレを引かないよう祈ってください。(ハズレなんて入れなきゃ良いじゃないか)
今回の一言:細かい遊びは数を限らないとパニくる。
お相手は風牙でした。次回こそ、名前出します!(え?じゃあまたね)
橘朋美
FileNo.003 2006/8/12 ※2010/9/21修正加筆 |