汚い 笑うな 目が腐る 気持ち悪い ブタ 汚れる 近寄るな 病気になる 死ね 邪魔だ 消えろよ どっか行け 腐る 触るな 菌が付く お前は最悪――――なんで今更、昔の事。……辛い、苦しい、どうして……
ワ ス レ タ イ ノ ニ 。蔑まれて、否定されて、消えたくなる。何故――― ワ ス レ ラ レ ナ イ。
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私が信じている神というモノは、我侭で自分勝手で贔屓が得意。ボードゲームの駒のように世界の全てを動かして、その中で右往左往する人間を見て楽しんでいる。そんな感じの絶対的支配者。若しくは最高権力保持者。そんなモノでしかない。理不尽な事が罷り通るこの世の中で、全てを平等に愛し、許し、救う、全知全能の神。そんな都合の良い神なんて、存在する訳が無い。神に愛されるモノは、ほんの一握りだけ。神に許されるモノ、神に救われるモノは、そうなりたくて神を崇め奉るモノだけなんだから。
「もう三日か……随分と負担が大きかったみたいだね」
――このままじゃ危ない。何か他に手段はないのか?
「水も飲めねぇんだ、このままじゃ死んじまうだろ?!」
――天帝が近づく度に痙攣するなんて……どうすりゃ良いんだ。
「辛うじて息はあるが、これ以上保つのか?」
――使えるものは全て使った。残るは術、か。
「この”人”を…死なせる訳にはいかない」
――危険を承知で覚醒を施す…それしかあるまい。
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幾等考えても、他の案が浮かぶ気配は無い―――考える猶予も。その間にも時は確実に過ぎ行き、彼の人の命脈を絶とうとしているのだから。
「残る手段は覚醒だけだよ。乱暴な手段だけど、それしかないだろう?」
「放っとくよりゃマシだろ!他に手が無いってんなら、さっさとやろうぜ」
「この”人”は、まだ器なんだぞ?!失敗すればどうなるか解っているのか?」
「危険な賭けではあるが…このままでは身体が持たないだろう」
「そうだね、もって二日―――いや……一日が限度だろうね」
「だったら!”人”のままだろうが覚醒させるしかねえだろ?!」
たとえどれ程の危険が伴おうとも、他に手段が無いのだ。失敗は許されず、成功の確約は無くとも。
「天帝は近寄れない。俺達の神力で覚醒させられるのか?」
「四方の神力を調和させ、それを保ち続ければ…覚醒させられる筈」
「急いだ方が良い。早く覚醒させないと……手遅れになる」
「さっさとやろうぜ。間に合わなかった〜なんて御免だからな!」
「縁起でもない事を言うな。やるのなら成功させる……必ずだ」
「注ぎ込む神力は極僅かずつ…絹糸ほどを保ち、融合させろ」
一頻りの口論は、最早残されているのは最後の手段しかないという見解の一致で幕を閉じた。このまま何もせず、最後の時を迎えさせるよりは……と。
「さぁ、起きて」
「死ぬんじゃねえぞ」
「持ち堪えてくれ」
「器よ…覚醒を」
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隣接する世界を越えての召喚は、”人”に多大な負荷を与える。そう聞いてはいたけれど……。これほど消耗が激しいなんてね。昏睡が長引くほど死が近付くのは当然の事とはいえ、もう三日。覚醒させるにも限界の頃。これ以上延ばせば、覚醒しても正常な状態には戻らないかもしれない。君は、最後の頼みの綱なんだ―――どうしても、失う訳にはいかない。どうしても―――だから、どうか……目覚めてくれ。
こんなとこで死なせて堪るかっての。無茶かも知れねえが、この際一か八かに賭けるしかない。あんたが消えるなんて、絶対に許されねえ事なんだ。天界にも人界にも居なくて、四方の世界全てを探した。諦め掛けた最後の地で見つけた―――その最後の希望が潰えちまったらどうなる?世界は混乱する―――人界から、いずれは天界までもが。だったらもう、覚醒させるしか手はねぇだろ。守人の名に懸けて……!
まさか覚醒させる事になるとは。術式を知っていても実際に使った事は無い、本来は天帝と四方将神達だけが使える秘術。神ではない者に覚醒を施すのは危険だ。失敗すれば、あなたは髪の一筋すら残さず消滅するのだろう。だが、このまま衰弱死させるよりは―――分の悪い賭けを選ぶ他に手は無い。最後の拠り所だ。……覚醒させる。神力の限りを尽くして。慎重に、確実に、絶対に、目覚めさせる。―――必ず。
意識は無く…身動き一つせず、呼吸は浅く…血の気の失せた肌色。此方に着いた時には…既に昏睡していた。天帝の…我等の捜し求めた空きを持つ器。ただ息絶えるのを待つ事は許されない。ならば一縷の望みに賭け、覚醒を施そう。守人の仕えるべき存在―――お前は最後の光。このまま、何も知らぬまま黄泉路を辿るなど……断じてさせぬ。どうか、秘術の成功を―――暗き死の畔より、立ち戻れ。
命脈は未だ絶えず 黄泉路より還り 覚醒せよ
刹那の静寂―――微かな協和音と共に四本の指先から光の糸が紡ぎ出され、絡み合い、混ざり合いながら口内へと注ぎ込まれてゆく。緩やかに融合された神力は体内を巡り、覚醒を促しながら身体に溶けゆく。
性急に事を運ぶのは逆効果。静かに、ゆっくり、確実に。きっと巧くいく。
弱りきった”人”の身体に、これ以上の負担を与えぬように注ぎ込まれる神力。触れ合いながら極微量ずつに調節され、それと共にゆるゆると時が刻まれてゆく。僅かずつ、着実に―――術者への焦燥感と共に。
順調、なんだよな。拒否反応は出てない。幾ら遅くても、直に起きるよな?
只々注ぎ込まれる神力は、過ぎた時間と同じく嵩が増すばかり。どれほどの時が過ぎた頃からか、術者達は一様に違和感を感じていた。神力を注げば注ぐほど焦燥感は募る。これは一体どういう事なのか―――と。
四方の神力を受けて尚、反応が無い?失敗なら疾うに消滅している筈だが。
本来ならば、何等かの兆候が現れていて当然の筈の刻限。辺りが闇に包まれ、月の光に照らされる今になっても昏睡は続く。注ぎ込まれた神力は想定されていた量を遥かに上回り、術者達の焦りは今にも頂点に達しようとしていた。
どれほど大きな空きを持つ器だとしても…兆しすら見えぬとは。
昏睡を続ける”人”は、未だ自分の置かれた状況を知らぬまま。数の減った呼吸は、辛うじて生きている……死んではいないという事を微かに証明していた。が、しかし……それ以外は―――既に死人も同然の様相に成り果てていた。身体も、精神でさえも。
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人っ て 死 ぬ の に 時 間 が 掛 か る ん だ。 意 外 と 面 倒 な ん だ な。 私 は 、 何 で 死 ん だ ん だ ろ
う? 事 故? 事 件? 病 気? こ こ に 来 て、 も う ど れ く ら い 経っ た の か な? 古 い ま ま の 実 家。 写
真 で し か 見 覚 え の 無 い 、曾 祖 母 が 縁 側 に 座っ て い る。 あ そ こ ま で 行 け ば 良 い 筈 な の
に …… ど う し て だ か 近 付 け な い ま ま 、 立 ち 尽 く す 。
ま だ 駄 目 だ と 告 げ る 思 念 に 阻 ま れ て い る? ど う し て …… 私 自 身 を 必 要 と す る 人 は 居
な い 。 何 の 意 味 も 無 い。 だ か ら …… も う 良 い で しょ う?――― 楽 に さ せ て く れ て も。 何 も
産 み 出 せ ず、 何 か を 壊 す 事 す ら 出 来 な い 。 死 ぬ の を 待 つ だ け の 生 活 な ん て ―― 無 駄
で し か な い で しょ う?
誰かに必要とされる事を望むのなら、戻るのだ――我が愛し児よ。
昔見た、薄藍銀の光の塊。美しい極小の月が、迎えに来てくれたのかと……。
そなたを必要とする者が居り、そなたにしか出来ぬ事がある。……戻れ。
なのに……私を必要って言うのは誰?私にしか出来ない事って、何?
気が付けば月は消え、そこにあるのは暗闇ばかり。私が要る?なんの為に?ここは死者の為の場所じゃないの?私は死ねないまま、ここに居るの?訳が解らず疑問符ばかりを思い浮かべていると、何かが見えてきた。淡く白い光……違う。靄の様な塊が近付いて来て―――その中に……人が居る?全てが闇の中にあるのに、そこだけが薄ぼんやりとしている。そこから俯いた青年が間近に来て、顔を覗き込まれた。
あなたは……誰?
先に聞かれてしまった。哀しい顔で泣きながら。
あなたは、ここに居てはいけないよ。
子供に言い聞かせるように言う。
私は消えてしまったけれど……。
どうして?また、妙な事が起きてる?
あなたはこの世界の人ではないけれど……。
この世界?解らない。
あなたを呼ぶ者達が、この世界に居るから。
ぽろぽろと涙を零して。
私のように……消えてはいけない。
酷く哀しい表情のまま、微笑んだ。
あなたから、懐かしい気を感じる。
懐かしい気?私を知っているって……。
あなたはきっと、私と近い者。
この人と私が近いって――どういう意味?
私に触れて……?現世へ送るから。
送るって……君は一体、何を知ってるの?
あなたは精神世界に居る。
何で……声が出ないのに聞こえてる?
あなたの意識が、流れ込んでくるから。……解るんだ。
妙な場所なんだね。
私に触れて……身体に戻って。
差し出された手の平に、自分の手を置く。
あなたは……哀しいんだね。そしてとても強く、とても優しい。
違う。
あなたは知らないだけ。強くて、優しくて……まるで私の――。
違うっ!
私には、判る。
哀しいかもしれない。我慢する事は強さなのかもしれない。
あなたはきっと、哀しいから……強くなった。
違う……優しさなんて欠片も無い!
あなたは、哀しみで優しさを隠しているから。
一瞬驚いて、直ぐ。
私は、嘘など言わないよ。
微笑みながら、宥めるように髪を撫でる。
あなたを待つ者達も……きっと、そう感じる筈。
君は優し過ぎるよ。
あなたもだよ。想いに触れるのを、恐れているだけ。
どうかな……?
私には、そう感じられる。さあ、身体に……戻って。
そうだ、このままじゃ……。
死んでも死に切れないし。……戻るよ。
良かった……さようなら――
ありがとう。また会えると良いね。
そう言った直後、揺らいで何も見えなくなった。
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吾子と出会うた……か。既に滅してしまった者に会うとは、何の所以か。
目覚めよと告げる者達の下へ送られる。何が待っているのか、何が起きているのか、何も判らぬままに。やがてそなたは、覚醒の時を迎える。

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今回は大人しくしていた主人公。次回からは騒がしくなりますよ。どうぞ、お覚悟を。(無茶な事はさせるなよ)
只でさえ不審者扱いなのに、それが嫌いな存在なら…(不審者…誰の事だ ?!)
天帝が主人公に近づけないのは、神力の強大さ故です。心身共に不安定な状態にある器が、壊されないように拒絶反応を起こしている。という訳なんですね〜。 (つまり、お前の都合って事か)
生きる事に執着が無く、戻りたいと思わない=戻れと言われても戻る事が出来ない。戻り方の分からない迷子のような感じです。主人公に戻る切っ掛けを与えたのは、あの人の残留思念です。 (覚醒が遅いのも、お前の所為か!)
名前変換は…次か、その次か…には出したい。(だったら、早く進めてやれ)
今回の一言:文字遊びは面白難しい
お相手は雷矢でした。また次回、お会いしましょう!(ん?あぁ。じゃあまたな)
橘朋美
FileNo.002 2006/8/12 ※2010/9/21修正加筆
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