気の合わねぇヤツだと思ってた。
気の合うヤツだとも思ってた。

でも、そう考えてしまうこと事態、ヤツを気にしているんだと。
気になって気になって仕方ねぇんだと。

つい最近まで、気付かなかった。




同調、愛を育む




カチャカチャと皿を洗う音が、深夜のラウンジに響き渡る。

女どもはさっさと自室に引っ込んだし、ルフィとチョッパーは昼間散々大騒ぎして遊んでいたせいか、男部屋で高鼾だ。
不寝番のウソップは、さっきうきうきと夜食入りバスケットを受け取って、見張り台へと上がっていった。

で、オレはといえば、グースカグースカ寝ちまって食べ損ねた夕飯を、後片付けするコックの後ろでパクついている。

以前ならば、罵詈雑言の嵐。
当然オレもまだまだ出来てねぇから、応戦すること必至で。
ナミの鉄拳が落ちてくるまで、大喧嘩するのが当たり前だったのだが。

ラウンジに入り、メシくれと言う前に置かれていた出来立ての夕食。
「喰え。」とこちらを見る事無く、声を掛けてきたコックの楽しげな口調にホッとする。
こうもタイミングよく出てくるのは、オレ相手だけだと自負してもいいだろう。
そして、鼻唄の1つも口ずさみながら、手際よく片付けをこなすコックの後姿を見て思う。


気が合わないと思ってたんだよなぁ、と。


初対面からぶっ魂消た、今まで会ったことも無い特殊な性格だと思った。
その後同じ船で過ごすにつれ、輪をかけて理解しがたい性格だと思った。
でもって、きっと一生涯自分と気の合う事はないんだろう、と。

女と見りゃ、見境無く際限無く褒め千切り、下僕の如く仕え捲るのが、まず合わねぇ。
人の面倒見るのが好きで、自分の時間を割いてでも相手の欲求に合わせるとこが、また合わねぇ。
1つ処に落ち着くこと無く暇さえあれば、捻り出してでも仕事しようとするその姿勢が全然合わねぇ。
遅寝早起きも、タバコ好きなのも、話し好きなのも全く持って合わねぇ。

かと思いきや、戦闘中はそれが正反対で。

何も言わずとも、次の動きが読める。
ひと言言うと、打てば響くかのように次の動きを正確に言い当ててくる。
考えずに本能の赴くままのオレの剣先が掠めること無く、オレの隣で平然と戦う。

これを気が合うと言わずして何というのか。

そんなコックを見てる内に胸の中を埋め尽くす想い。
戦闘中だけじゃなくて、普段の生活の中でもそういう仲になれないだろうか、と。
想い始めたそれは、胸を一杯にするだけでなく、熱を帯びて焦げそうな勢いだった。

喧嘩を売られても上の空で、胸の痛みと格闘する日々が続いて。
そして気付けば、コックも何かどっか痛そうな顔をしていて。
オレを見る顔が豪く寂しそうで。
そんな顔をさせておくのが、どうしても嫌で。
思わず口にした言葉は、コックが発した言葉とシンクロした。

「「何でそんな顔してんだ?」」

「「だってよ、ここが痛ぇから。」」

「「何で胸が痛むんだよ?」」


「「オレぁ、てめぇに惚れてっから。」」


言ってから、2人して相手の言葉に目を見開いた。
暫く呆然とした後、相手に向かって1歩同時に踏み出した。
始めはゆっくり、次第に歩調を速めて、最後は駆け寄って、抱き締め合って。
キスしようと勢いよく顔を近付けたら、お互いのタイミングが又しても同じだったから。
ガコンと歯と歯が当たっちまって、一緒に半泣きになりながら口を押さえて笑ったんだ。




そんな馴れ初め話を思い出しながらへヘッと笑うと、コックも笑ってた。
熱いお茶を淹れてくれて、それを差し出しながらコックがコーヒーカップ片手に隣に座る。
それを飲んでたら、あれだけ寝たにも拘らず急に眠気が襲ってきて。
ふああああっと大欠伸をしたら、コックも一緒に欠伸してた。
それを見て、2人でぷぷっと吹き出す。
こんな些細な『一緒』が嬉しくて。

「今日は寝るか?」

頬杖付いて揶揄うようにそう聞けば、コックがニヤニヤしながら首を傾げてオレを見る。
そしてヤケに艶っぽい顔を浮かべ、鼻がくっ付くくらいの位置まで近付いて、呟く。

「寝れんのか?」

挑発するようなその言葉に、コックが同じ気持ちでいることを確信する。
だから、コックの前髪をするっと掻き揚げて、隠れた瞳に小さなキスを1つ落とす。

「寝れるぜ。てめぇに突っ込んで散々出した後、傍にてめぇが居てくれたらな。」
「そうだな。オレもぶっ倒れるまでてめぇから絞り取った後、てめぇが温めてくれたらな。」

そして、やっぱり同じタイミングで唇を今度はゆっくりと寄せていく。
直ぐに触れたそれを互いに割って、舌を絡ませ合って。
相手の着ている物を同じように剥いでいく。

イく回数はコックのが多いかもしれないけれど。
満足度はきっと同じくらいだろうと思う。
カッコつけるのが好きなコックが、それこそ我を忘れて声を上げるから。
もっともっとと強請る艶やかなコックに、オレも我慢できずにイっちまったりする。
そして、最後は『一緒』にイって、気を失ったように眠るコックを抱いてオレも直ぐに眠りに落ちるのだ。
『一緒』に眠れる事に喜びを感じながら。


今思えば……。
気が合わないと思ったのは、きっとそれだけコイツを良く見てたからなのだろう。
コイツが慕う女どもに嫉妬して。
コイツを独り占めしたくて仕方なくて。
コイツの時間をオレに欲しくてムカついて。
時間帯が合わなくて苛立ち、、趣味が違うから取っ掛かりが解らなくて焦り、口下手な自分に呆れたりして。

今やそれも、オレたちの間の適度なスパイスになっているのだが。


生まれながらに持ち合わせた性格が異なるのだから、育った環境が違うのだから、気が合わない部分があるのは当然だ。
にも拘らず、気の合う部分があって、それが物凄く嬉しかったりする事に気付いた。
その相手がコックだからだという事にも。

だから、これからもずっと――――
『一緒』に同じものを見て、『一緒』に同じものを聞いて。
『一緒』に笑って、『一緒』に怒って、『一緒』に泣いて。
そして、『一緒』に戦って、『一緒』に生活していくのだ。

そうすれば、今まで以上に同調する確率は必然的に高まっていくのだろう。
そして、些細なシンクロに幸せを感じる回数も増えていくのだろう。

そんな同調するオレたちの心がある限り、オレたちの相手に対する深〜〜い愛情はシンクロしながらすくすくと成長を遂げるのだ。




END


同じタイミングで欠伸して、それが嬉しくて笑っちゃうゾロv




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