何度も何度も胸の中で紡がれた言葉。 夢では簡単に口に出来るのに、現実にはなかなかそうはいかない言葉。 夢の中では何度も言った。 そしてその都度返されるのは、見たこともない優しい笑顔と受諾の言葉。 だが、現実はそういうわけにもいかなくて。 声を掛ければ、帰ってくるのは不機嫌そうな顔と喧嘩腰の態度。 だから、その言葉を口に出す事は絶対に出来なくて。 いつも喉まで、いやそれこそ唇のすぐ内側まで出掛かっているのだけれども。 声として発された言葉は、全く違うもの。 そして、その時吐き出されなかった言葉を、そりゃもう一生懸命飲み込むのだ。 だけれども、飲み込むのには物凄く痛みを伴って。 その痛みを我慢するのもそろそろ限界だとは思っていたのだが。 やはり、口の外へと吐き出すことには抵抗があって。 だから、いつも心の中で叫ぶのだ。 ありったけの気持ちを込めて。 「ゾロ、好きだ。」と。 *** 麗かな春の日差しの下。 後1日で次の島に着くと言うのんびりした状況に、クルー達がダレ切るのも無理は無い。 昼食後のひととき、GM号のあちこちで欠伸と鼾と寝息が響き渡る中。 「おら、クソマリモ!いい加減、てめぇもグータラしてねぇで手伝いやがれ!」 「………お前、モノを頼む時の礼儀を知らんのか?」 「礼儀だ?!そんなもの、いつも『御飯作ってくれてありがとうv』って言ってからほざけ!!」 「ああっ?!!やるのか?!」 「上等だ!受けて立ってやる!」 ゾロとサンジ、恒例の言い争いが始まった。 いつもサンジが突っかかって、いつもゾロが切れて、いつもそれが乱闘に発展する。 呆れて、クルー達がそれを遠巻きにして見ているのも恒例で。 キィンキィンと鳴る金属音と、風を切る音と。 それらが激しくなるにつれて、波以外の揺れが船を襲う。 そしてナミがそれを止めるのも恒例となっていて。 だが1つ、今回は恒例じゃなかった事がある ナミが眠気を堪えきれず、欠伸をしたことでそのタイミングを外したのだ。 ドカアアアンと大きな音がして、気付けば倉庫のドアが壁ごと崩壊していた。 わああと思って手と足を止めても既に手遅れ。 当然のように、ナミのクリマタクトが2人の上に炸裂する。 「ゾロもサンジくんも3日間お互い以外との会話禁止っ!!」 ナミの怒りの鉄拳と共に口にされた台詞に、ゾロはムッとしてそっぽを向き、サンジは半泣きで叩かれた頭を押さえた |
のだった。 基本的に日々誰かと会話をして過ごしているサンジに対して、ゾロはヘタしたら1日中誰とも会話しないで過ごす事も |
稀ではない。 そんな2人がお互い以外会話できないとなると、辛いのはサンジの方だ。 口を開けば喧嘩に発展してしまう。 かといって、親しげに話しかけること等到底不可能で。 だって、そんなことしたら、気持ちが言葉に溢れてしまうかもしれない。 何度も何度も想いを打ち明けてきた…………夢の中で、心の中で。 その度に、現実に返されるだろう言葉を想像して落胆する。 絶望する。 というか、そもそも期待する方が間違ってるんだろう。 名前もまともに呼ばれた事がない。 会話も戦闘時以外、碌にしていない。 なのに、何で好きになったんだろう? いつもそれを考えて、思い出すのは鷹の目との決闘。 脳裏に甦る度に、胸が熱くなる。 惚れ直しちゃったりするのだ。 そんな惚れた相手とだけ会話できる、この機会を上手く利用すればいいのだが。 如何せん、相手は無口な剣士だ。 ナミに言い渡されて以来、後甲板でお昼寝中ときた。 (折角の機会なのになぁ。) 蜜柑畑に上がる階段に腰掛け、左下で寝扱ける剣士を見下ろしつつ、タバコに火を点けて、サンジは空を見上げる。 今も心の中で紡がれる言葉は、サンジの胸を傷付けていく。 そんな痛みに耐えかねて、言葉ではなく、溜息だけが口から溢れ出た。 ナミから罰を言い渡されてから1日が経ち、予定通り島に上陸した。 当然、ゾロとサンジはお互い以外会話禁止のため、他のクルーとは宿が別で。 ナミから鍵と地図を渡されて、サンジはチラッと自分の後で刀を帯刀しているゾロに目を向ける。 同じ宿の1つの部屋にたった2人。 幾らなんでも意識するなって方が無理な話で。 話は出来なくても他のクルーがいれば、まだいいんだけど。 どうしようと眉間に皺を寄せて悩んでいると、ポンと肩を叩かれる。 振り向けば、嫌そうな顔したゾロが頭をボリボリ掻きながら立っている。 「おい、行くんだろ?」 「………ちゃんと付いて来いよ。この迷子野郎。」 「てめぇは……宜しくお願いしますくらい言えねぇのか!」 「それはこっちの台詞だ!」 「期間延長されたいの?やるなら船から降りてやんなさいっ!!!」 始まり掛けた2人の喧嘩に、ナミが負のオーラ全開で怒りを爆発させる。 流石に場が悪いと踏んだのか、ゾロは口を閉ざし、サンジは身体をクネクネさせながら謝った。 「まぁまぁ、航海士さん。やっとゆっくり寝られるんだから。」 「………そうね。久し振りにのんびりしましょうか。」 勿論それに返事は無く、ロビンと連れ立って去っていくナミを寂しそうにサンジは見送る。 他のクルーが完全に船から見えなくなって、サンジが船を降りようと船縁に脚を掛けた時、ゾロが声を掛けてきた。 「オレは船番してるから、てめぇ1人で泊まってこい。」 「え?」 「オレたちが一緒の部屋なんざ泊まったら、喧嘩ばっかで宿ぶち壊し兼ねねぇだろ?また借金増えるのも御免だ。」 「…………。」 やっぱりゾロと自分はそういう接触しかできないのかな? 楽しくとまではいかないまでも、穏やかに一緒にいられないのかな? 船縁で固まっているサンジに、ゾロが何を思ったのか、歩み寄って顔を覗き込んできた。 「どうした?クソコック。」 「!!!な、な、なんでもねぇっ!!」 「?疲れてんじゃねぇのか?早く宿行って、さっさと寝ろ。」 「……メシはどうすんだ?」 「メシ?………1日抜いたってなんとかなんだろ。」 「そんなの許せるかっ!作ってくからそれ喰え。」 「いいのか?悪ぃな。」 間近でニカッと微笑まれ、素直にお礼まで言われて、サンジの顔が真っ赤に染まる。 顔が強張ってしまう……笑ってるのか引き攣ってるのか判らないような感じで。 そんなサンジに首を傾げて、ゾロがサンジのおでこに触れる。 それも、おでこで。 「熱でもあんのか?顔真っ赤だぞ。」 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 あまりに近くにある顔に、しかも自分を心配してくれるなんて有り得なかった状況に益々身体が沸騰する。 更に体温が上がったのだろうか、ゾロが眉間に皺を寄せたかと思うと、ひょいっとサンジを抱き上げた。 「?!!!お、おいっ!!」 「折角陸に着いたんだ。体調悪いならちったあゆっくりしろ。オレが宿まで送ってやる。」 そう言うが早いか、ぴょんと船縁から港へ飛び降り、歩き出す。 所謂お姫様抱っこ状態のサンジは、それはもう慌てまくって。 いきなり飛び降りられた反動でゾロの首に手を廻している事に気付かない程。 「おい、ゾロっ!!だ、だ、大丈夫だ。下ろせっ!!」 「何言ってやがる。さっきより熱上がってるぞ。大人しくしてろ。」 「誰のっ……あ、いや、その……だ〜〜〜っ!そっちじゃねぇっ!!」 「いってぇなぁ。いちいち叩かなくてもわかるわ。こっちに曲がればいいんだろ?」 「アホか!宿まで一直線だ。何で曲がるんだ!地図くらいいい加減読めるようになりやがれ!」 お決まりの方向音痴さを発揮するゾロの頭をポカッと殴りつつ、傍から見たらホモカップルのような抱っこをして街中を |
歩く2人であった。 (…………で、何でこうなるんだ?!) ゾロの勘違いのお陰で、初めての同室、初めての2人きり、初めてのお泊りの予定だったのに。 そう思って後ろを振り返れば、ゾロは居る。 居るのだが、余計なのもその更に後ろにいっぱい、い〜〜〜っぱい居る。 「待て〜〜〜〜〜っ!!ロロノアっ!!」 「待てっつわれて待つヤツぁ居ねぇだろ。なぁ、コック!」 「〜〜〜〜〜〜っ!!何でオマケ連れて帰ってくんだ!このアホ剣士!」 そう、今2人は海軍に追われているのだ。 お姫様抱っこのまま、件の宿についたのだが。 部屋まで運んでくれた後、ゾロが酒とか適当に見繕って買ってくると言い出した。 迷子と賞金首という事もあって、サンジが行くと言ったのだが。 ゾロが頑として首を縦に振らない。 「てめぇは寝てろ。」 の一点張り。 ゾロに触られての体温急上昇とは言えずに。 近場で仕入れてこいよと言うのが関の山で。 宿の窓から、ゾロの行く手を見守っていたら、ちゃんと近く、それも宿の斜め前の店で購入活動に出たまではよかった。 そこに海軍士官がお買い物に来ていなければ。 宿に着いたばかりで直ぐに買い物に出たから、刀も3本帯刀したまま。 「オレはロロノア・ゾロだ。わからんヤツがアホじゃねぇ?」 と言って歩いているようなものだ。 偶々店の主人が、実は剣士のファンとかで、ゾロに耳打ちしてくれて。 間一髪、その海軍士官の手を潜り抜け、宿の下で見下ろす自分に言い放ったのだ。 「飛び降りろ、コック!!」 飛び降りろって簡単に言うが、ここは5階。 よく階段で5階分も大の大人の男1人、お姫様抱っこで上がれるよなと感動したのはつい10分前。 そこから飛び降りろってどういう神経してんのかな? しかも、下は石畳だし……。 大体放っておいてくれればいいのに。 自分1人で逃げれば………オレが追っ掛けてくって分かってんのかな? 色々考えて躊躇していると、またゾロが怒鳴る。 無線をしながら歯向かってくる海軍士官を軽く交わしながら。 「オレが受け止める!来い、コック!」 そこまで言うならと、ひょいっと窓枠から身を躍らせる。 事実、階段を駆け下りてる時間も無いほど、先程の海軍士官の部下1隊が駆けつけてきてるのが見えたし。 脚が今にも地面に着くってところを、ゾロにがっちり抱き止められて。 それを喜ぶ暇も無く、街中を縦横無尽に走り回って。 今に至る訳だ。 「ダメだ、ゾロ!こっちだ!!」 「んでだよっ!船はこっちじゃねぇのか?」 「お、珍しく方向感覚バッチリ……って、アホか!船なんざ拿捕された日にゃ、ナミさんにどやされんぞ!何とか海軍 |
撒くんだ、いいな!」 「ふうん、そんなもんか?………お、チョッパーじゃねぇか、あれ。」 「あ、ホントだ。おいっ!チョッパーっ!!」 路地を走り抜けていたら、ちょうど薬屋と思しき店から出てきたチョッパーを見かけた。 チョッパーは嬉しそうに返事をしようとして、両蹄で口を隠す。 話をしたらダメとナミに言い含められているからだろう。 周りを落ち着きなさそうにきょろきょろと見回している。 「チョッパー、非常事態だ!海軍に追われてる。クソ剣士が見つかったからルフィも時間の問題だ。ナミさんに言って、 |
皆船に戻るように言ってくれ!」 「ええええっ!!わ、わかった!」 「頼んだぞ!オレとコイツで海軍撒くからってそう伝えてくれ!」 ちょうどその時、後からバタバタと走り寄ってくる沢山の足音が聞こえてきて。 サンジはゾロの手を引っ張って、直ぐにその路地脇にある店に飛び込んだ。 チョッパーが走り去るのと、海軍の一団が駆け抜けていくのを確認して、もう一度その路地に出る。 勿論店主には詫びを入れ、店主婦人にお世辞を言うのを忘れずに。 「どっち行くんだ?」 「てめぇ、ホント考えてねぇな。………差し当たって、港を見下ろせる小高い丘が海岸沿いにあったはずだ。そこへ |
行くぜ。」 「あったか?んなモン。」 「てめぇの目は節穴か。そういうてめぇの暢気さには腹が立つを通り越して呆れるぜ。」 「ふうん。………どっちがホントなんだかな?」 「ああ?」 「いや、いい。こっちか?」 「………もう、てめぇは判断するな。オレについて来い!」 走り始めた自分の後をゾロが追ってくることを確認して、サンジは更に足を速める。 周囲の物音に耳を澄ませば、後方と右方向から足音が聞こえる。 港は左側だから好都合だ。 折角の2人きりを邪魔されたという事もあってか、サンジのイライラはピークに達しようとしていた。 背後に切り立った岸壁。 落っこちたら一溜りも無いような高さだ。 幾ら人間離れしてる自分とゾロでも、まず無傷は有り得ないだろう。 そして、前面には一部隊と思しき海軍兵。 機関銃を手にしている者が多いのは、やはりゾロがいるからだろう。 自分のことも多少は海軍内に知れ渡っているのか、先程から狙ってくる銃弾は足狙いと思われる下方ばかりだ。 何とか避けていたものの、じりじりと後方に下がっている自分達。 崖まではあと3メートルというところか。 「金髪の方は大人しく投降しろ。ロロノアは生死を問わずだ。この場で射殺しても構わん。」 その言葉にサンジが逆上する。 自分をバカにしたことよりも、ゾロが射殺されるということに。 冗談じゃない。 こんなところで死なせて堪るか。 自分の前で、しかも剣士との立会いでならいざ知らず、海軍とのごたごたでそんな事になった日には、自分を何度 |
殺しても飽き足らないだろう。 隣のゾロは、そんなサンジの気持ちを知ってか知らずか不適な笑みを浮かべて海兵を見ている。 その海兵たちの銃口が一斉にゾロに向けられる。 ゾロと自分の間は約2メートル。 飛び付けばゾロに届くだろうが、ゾロを庇い、その身体を押したところでそこに待っているのは崖なのだ。 落ちたら無傷では済まない崖。 「撃ち方用意!」 片手を空に向けた仕官の言葉に、サンジが焦る。 焦って、でもどうしようもなくて歯噛みした時に。 見えた!………麦藁海賊団の黒い旗が海上にはためくのを。 後数十秒もすれば、この崖の眼下に到達するはず。 まだ海軍兵たちは目の前のゾロに神経を集中させているのか、GM号には気付いていない。 ニヤッと笑って、サンジが言う。 「てめぇら、ここでゾロがくたばると思うのか?」 「何?!」 愉しげに話すサンジに、海軍兵もゾロも自分の方に視線を寄越したのが分かる。 それでいい。 GM号はゾロの方から来ているから。 だから、サンジは殊更ゆっくりとポケットからタバコを取り出して火を点ける。 ふうっと紫煙を吐き出して、嫣然と微笑んだ。 「こいつは化けモンだからな。バズーカで撃ったって死なねぇんだよ。」 「………麦藁ならともかく、ロロノアは生身だ。これだけの銃弾、幾らなんでも避けきれまい。」 「どうだかな。人類じゃねぇから出来るかもしれねぇぜ。」 「コック、てめぇ何言って……?」 首を傾げて自分を見るゾロを、サンジはニッコリ笑って見つめる。 これで最後ならば、極上の笑顔をゾロに焼き付けておきたい。 こんなヤツが一緒に船に乗っていたと覚えておいて欲しい。 どうせ最後なら気持ちを伝えときゃよかったな、と思いながら。 海軍士官の上げられた手が下ろされるのを見計らって、サンジが動く。 彼らが引き金を引くのと、ゾロの身体が宙に待ったのはほぼ同時だった。 「コックっ!!!てめぇっ!!!」 サンジが銃弾からゾロを庇うため、ゾロの身体に体当たりしたのだ。 ゾロの叫び声と幾つもの銃声が木霊する。 身体の彼方此方に感じる痛み。 それでもサンジがその中で願ったのは、ゾロが無事船に乗り込むこと。 耳を澄まして、波の音が掻き消してしまいそうなその音を必死になって聞き分ける。 ものが水面に落ちる音は聞こえず、代わりに届いたのは「ゾロ、見いいいいっけ。」と言う船長の暢気な声。 海兵が自分の傍に駆け寄ってくる足音の中で、安心したサンジは気を失ったのだった。 *** 暖かな温度に包まれているのに気付いた。 ちょっと硬いけれども、誰かに抱かれているような感覚。 心地よいその場所に、サンジは思う。 (ああ、オレ死んじゃったのかな?) ふっと目を薄く開けると、目の前に自分を心配そうに見つめるゾロが居た。 (ゾロ?………ゾロが心配してくれんのか。ここは天国かな?でもって、コイツは天使なのかな?) 漠然とそう思って、サンジはニッコリ笑った。 だって、最後の最後にやっぱり会いたいのはゾロだから。 自分よりも大事で、誰よりも大好きで、何よりも大切なゾロだから。 『何笑ってんだ?クソコック。』 天使なのに、口調はいつものゾロで。 だから、サンジは思った。 神様がきっと粋な事をしてくれたんだ、と。 ちゃんと気持ちを、正直な気持ちをゾロに伝えてから来なさいと言っているんだ、と。 この胸に仕舞い込んだ痛みを全て吐き出してからにしなさいと言っているんだ、と。 じゃあとサンジはゾロに笑い掛けて言った。 なあ、ゾロ。 オレ、てめぇが好きだ。 ゾロの目が点になる。 その反応は、夢の中とも現実ならそうだろうと想像していたモノとも違っていて。 ああ、天使ならこうなのかなとサンジはまた笑った。 笑って、言葉を続けた。 好きって言ってもよ、ルフィやウソップたちへの気持ちとは違うぜ。 ナミさんやロビンちゃんに対する敬愛の気持ちとも違う。 すっげぇ好きなんだ。 てめぇとさ、キスとかエロい事とかしちゃいたいくらい好きなんだ。 好きで好きで堪んねぇんだ。 今まで言えなかったけどよ。 これできっと最後だから、ちゃんと言っとこうと思って。 てめぇが天使ならさ、オレの気持ち受け取ってくれよ。 そしたら、オレ、穏やかな気持ちで天国に行けると思うからよ。 そう言ったら、ゾロが呆れた顔をして溜息を吐いた。 そして、フッと笑って言ってきたのだ。 『そりゃ受け取ってもいいが、何かオレにして欲しい事でもあんのか?』 それがまた、顔に似合わず物凄く優しい声色だったモンだから。 思わずオネダリしちまった。 そだな、最後にキスしてくんねぇかな? そしたら、ゾロの手がオレの頬を撫でて、その顔が近付いてきて。 触れるだけのキスを1つ。 嬉しくってほわああっとした気分に浸っていたら、ゾロが唇のすぐ先でこう言ったんだ。 『もっと凄いのしてやるから、ちゃんと目ぇ覚ましやがれ。』 え?と思うのも束の間、熱い舌がサンジの口内に滑り込んできた。 吃驚して引っ込めようとした舌にゾロのが絡んできて。 強く吸われて、それが少し痛くて。 (痛いって………えええっ?!!!) 目をパチッと思いっきり開けたら、ゾロの顔が目の前で。 周りの会話が聞こえてきて、サンジは更にパニックに陥る。 「やあああっと言ったわね。折角2人きりにしてあげたのに無駄になったかと思ったじゃない。」 とナミの溜息交じりの声。 「毎晩毎晩寝言で聞いてたから、驚きゃしねぇけどな。」 とウソップの呆れ声。 「寝てないと言えないなんてコックさんも可愛いわね。」 とロビンの笑いを含んだ声。 「これでサンジもすっきりするはずだから、皆ゆっくり寝られるぞ。」 とチョッパーのほっとした声。 「何だ、皆寝不足はサンジのせいか。」 とルフィの驚いたような声。 そんな中、じたばたと暴れるサンジの身体をギュッと抱き締めたまま、ゾロが唇を開放する。 バアアアアアッと真っ赤な顔をしてサンジがゾロを見れば、夢とは違うニカッと勝気な笑顔で自分を見ていて。 「な、な、何で?………オレ、死んだんじゃ……。」 サンジが慌てふためいて周囲を見回せば、クルー達が呆れたように肩を竦める。 「海兵の銃は、偶々火薬星みたいなモンだったんだよ。勿論軽い火傷と打撲はあるけど、命に別状ないよ。」 「ゾロが煩いから、もう一回ルフィと一緒にサンジくんとこ行ったら、サンジくん倒れてたんだって。」 「そうそう、その後の剣士さんったらそりゃあ凄かったわ。」 「ゾロがみ〜んなやっちまってよぉ。オレの出番、なかったもんなぁ。」 「ま、いいんじゃねぇ。こういうの怪我の功名って言うんだろうな。」 そのクルーの言葉を聞いてから、ゾロが笑いながらサンジに言う。 「毎晩寝言で告白されてはいたけどよ、起きりゃいつものクソコックだし。どっちがホントのてめぇかわかんなかったん |
だがな。」 「えっと……その、あの……これはっ」 「オレは神は信じねぇが、てめぇの事だ。神の前で嘘は付けねぇだろうから、こっちがホントのてめぇだって受け取っ |
とくぜ。」 「え?それって………?」 「オレが好きか?クソコック。」 「…………。」 そこまで言われても、まだ現状を把握できず黙っていると、ゾロがサンジの顔を覗き込んで至近距離で囁いてくる。 「オレが好きか?サンジ。」 名前を呼ばれて、それも普段は自分に向けられない愉しげな笑顔と下半身にクル声で言われて。 サンジは観念する。 クルー全員の前でなんて、正直遠慮願いたいのだが。 「っ!!!……………きだ。」 「ああっ?聞こえねぇぞ。」 「クソっ!!好きだよ、クソ野郎っ!!てめぇが好きで仕方ねぇんだよ、ちくしょう!!」 「おし、よく言った。」 ちょっと目尻を染めてゾロがニコニコ笑うから。 だからサンジも聞いてみた。 オレが好きか?と。 「オレなんざ、目の前でてめぇがケツ向けて寝てたら襲いたくなるくらい、てめぇに惚れてるぜ。」 それこそ、周囲の耳を塞いで廻りたい事を、平気で大声でのたまうもんだから。 恥ずかしさに、ぎゃあああああっと大声で叫んでみたものの時既に遅く。 「ケダモノ剣士とロマンチストなコックさんはそこでイチャイチャしてなさい。喧嘩しなきゃ邪魔しないわよ。」 とナミ。 「ゾロ、てめぇ……恥ってモノを知りやがれ。」 とウソップ。 「あら、剣士さんみたいに素直なのが一番よ。」 とロビン。 「そうだぞ、溜めるのは良くないぞ。」 とチョッパー。 「何でもいいからさっさと済ませて、メシにしようぜ。」 とルフィ。 5人5様の意見を述べて、スタスタとその場を去っていく。 それを見送るのは非常に居た堪れないサンジと、喜色満面なゾロ。 まあ、でもとりあえず気持ちが通じ合ったので、そこはそれ19歳の性欲盛んなお年頃。 「で、キスとかエロい事とかするか?」 ニヤッと意味ありげに笑うゾロに、サンジもけっと勝気に笑う。 「あったりめぇだ。襲ってみやがれ。」 よいしょと抱え上げるゾロに、サンジがギュッとしがみ付いて。 倉庫に籠もって、夢で見た以上のことをゾロにされてしまった事は言うまでも無い。 これ以降、サンジの寝言でクルーが寝不足になることはなかったが。 2人のイチャイチャ振りと、激しい夜の営みで寝不足になったとか、ならなかったとか。 END |
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天使(と思い込んだ)ゾロに告白するサンジv
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