――――しっかし、こんなのの何が楽しいかねぇ・・・? とある島の、とあるお洒落な喫茶店。 目の前でキャピキャピと話をする女に適当に相槌を打ちつつ、込み上げる欠伸を押し殺すゾロが居た。 *** 「ねぇ、ゾロ。あんたたちってどんな会話してんの?」 この島に着く数日前、ゾロが朝の鍛錬を終えて、ラウンジに向かおうとした所を引き止めたのは、GM号事実上の権力者 |
ナミだった。 「ああ?」 折角、昼食の仕込み前でしばしの休息を楽しんでいるだろう恋人に会いに行くところを邪魔されて、邪険に返事をしたのだが。 流石にそれに堪えるナミではなく。 「だってさぁ、あんたってそんなに話する方じゃないでしょ?興味あるじゃない。」 「てめぇなんぞに聞かせる話なんざねぇよ。」 「そんなにもったいぶらずに教えてくれてもいいんじゃない?大体、もうそろそろ倦怠期って言うし。」 「倦怠期?なんだ、そりゃ?」 サンジと付き合い始めて、早2年。 ゾロとしては、それまでの喧嘩ばかりの日々にもそれ程退屈はしていなかったが。 それに加えて、まともに見られなかった笑顔なんか見せて貰えるようになったし。 自分だけと向き合ってくれる時間ができたし。 ずっと触れたかったすべすべで真っ白なお肌を堪能できるようになったし。 毎日毎日がとても充実していて、ナミの言う倦怠期などとんでもない。 まだまだ成り立てホヤホヤ、未だもってラブラブ状態なのだ。 そんなゾロをチラッと一瞥したかと思うと、業とらしいほどにハァッと大きな溜息を吐いて、ナミが言う。 「だって、こないだサンジくん、言ってたわよ。『ゾロと話しててもオレばっか話してて、あいつはただ聞いてるだけ。』って。 |
そういうのって嫌なんじゃないの?」 「……………。」 確かにその通り。 でも、ゾロとしては別につまらないから黙っている訳でもないのだ。 サンジの話は、そりゃ、ゾロからしたら興味も無い話題が多い。 料理の話、バラティエ時代の話、タバコの話、そしてこれが一番面白くない女の話。 それこそ、ラウンジで夜2人きり。 即座に夜の営みに持ち込みたいゾロとしては、サンジにもそういう気持ちでいて欲しいのだが。 如何せん、照れ屋且つ天然の鈍感極まりないサンジ。 ゾロのそんな気には気付きもせず、しかもいきなりそういう展開には恥ずかしいのか、まずは話だと1時間も(ゾロ的には’も’) |
喋り続ける。 それをうんざりと聞いているかというと、先ほども言ったが、そうでもないのだ。 コロコロ変わる表情はそれはそれは可愛らしいし、そしてなんと言っても極め付けがある。 最後の方で、必ずと言っていい程ゾロに聞いてくるのだ。 首をチョコッと傾げて、顔を覗き込むようにして、ちょっと不安そうな顔をして。 「ゾロ、聞いてるか?」 と。 もう、その顔がなんとも言えず、ゾロの心の温度を一気に急上昇させて。 だから、ゾロも言ってやるのだ。 目を合わせて、その頬に手を当てて、ニッコリと最大級の笑顔で。 「聞いてるぜ、サンジ。」 と。 たかだか、ゾロの笑顔1つ。 されど、普段他のクルーにも晒されないその笑顔が強烈らしいのか。 サンジは大抵、顔をポポポッと朱に染めて。 そんなサンジが堪らなく可愛くて。 そのままエロに突入というのが、2人のパターンになっている。 なのに………。 「やっぱ、オレが喋らないのは拙いのか?」 思わず弱気になってポツンとゾロが呟いた言葉に、ナミが目を点にしながらもうんと頷く。 「仮に恋人気取るならね。会話はキャッチボールを楽しむものよ。特にサンジくんはお喋り大好きなんだからさ。」 「でも、何話しゃいいんだ?」 「まあねぇ、あんた世界一の大剣豪以外趣味ないもんね。」 「趣味言うなっ!!」 怒鳴ったところで、ナミには全然通用しない。 それどころか、ニヤニヤ笑ってからかうような視線をゾロに向けてくる。 「サンジくんと長〜〜〜いお付き合いをしたいんだったら、共通の趣味を持つことね。そしたら、自然とその趣味の事で会話も |
盛り上がるでしょうよ。ま、精々頑張って奥さんの為に努力をしなさい。」 ナミはそう言い捨てると、スタスタとラウンジへと向かい、ドアを開けながら飲み物を要求していた。 それを呆然と見送るゾロ。 仕込み直前ちょい暇サンジを取られた口惜しさも然ることながら。 ヘタしたら、お付き合いが自分の口下手のせいで終了してしまうのかとの情けなさも手伝って。 ――――よっしゃ、こうなったら一丁やってやるかっ!!コックを失ってなるものか!! 傍から見たら、海軍の1艦隊も相手にしているかのような凶悪な笑みを浮かべて、意気込んでいるゾロが居た。 *** 「でねvこの島ではね――――」 甘いケーキを3つもパクつきながら、飽きることなく喋り続ける女を見つつ、ゾロは選択を誤ったかと内心頭を抱えていた。 あの後、サンジの趣味を一生懸命分析してみたのだが。 一応恋人を名乗る事だけはあって、趣味だけはしっかり把握していた。 ……していたのだが。 まず、料理。 といっても、これは趣味とかそういう枠で括れるはずも無く。 サンジの生き甲斐というか、夢というか。 それこそ、ゾロの『世界一の大剣豪』と同じく、不可侵なもの。 手を出した日には、蹴りを喰らうだけじゃ足らないだろう。 じゃ、バラティエ。 …………こんなの話題にしたら、はっきり言って腹が立って仕方ない。 サンジ曰く、荒くれ者のコック集団、ムカつくヤツらばっかだと言うのだが。 その顔は、懐かしそうを通り越して楽しそうで。 ゼフやパティ、カルネ、その他のコックの事をそりゃ嬉しそうに話すサンジに刀を突きつけたくなるのを必死で我慢している状態 |
なのだ。 正直、口にするのも耳にするのも、嫉妬の嵐で腸が煮えくり返るのだから無理と諦める。 そしたら、タバコ。 漸くサンジが吸ってるタバコの銘柄と香りは覚えた。 が、それ以外はチンプンカンプン。 身体によくないからてめぇは止めとけと昔サンジに止められたし。 自分自身もタバコに手を出す気には到底なれず。 会話の種になるとは、罷り間違っても有り得ない。 で、最後に残ったのが女の話。 ナミやロビンに対する賞賛の言葉の数々、とてもじゃないが賛同できない。 街を歩いて、行き交う女どもに声を掛けるなど、自分には不可能だろう。 が、しかしこれがゾロに残された最後の砦。 だから、エッチの前の会話の時間に聞いてみた。 所謂、ナンパの極意とその楽しさについて。 最初は勢い込んで、自身の経験を織り交ぜてありとあらゆることを楽しそうに話していたサンジだったが。 「……何で、んなこと聞くんだ?」 と、それこそいつもの可愛い仕草で聞いてくるもんだから。 理由も言えずに押し倒したのが、昨夜の上陸前だった。 ――――あん時のコック、何か色気あって可愛かったなぁ。 頬杖をついて、昨夜の会話とその後のやたら盛り上がった情事を思い出していると、目の前の女がゾロの顔を覗き込んできた。 ――――誰だったっけ、コイツ? と少し考えて思い至る。 島に上陸して直ぐ、船番兼倉庫整理のサンジをおいて、船を降り街へと繰り出して女を物色したのだった。 とはいっても、声を掛けるわけでは無く、ただ周囲を見回していたら向こうからお茶しようと言ってきたのがこの女だっただけだが。 「んあ?」 折角の妄想を邪魔されて、少しムッとしながら顔には出さず先を促してやると、女が首を傾げて、少し不安そうに聞いてきた。 「聞いてるの?」 何で同じ仕草でもこうも可愛さが違うのか。 何で同じ会話でもこうも愛らしさが違うのか。 そして、もう一度昨夜のサンジを思い出して、目の前の女の顔にサンジが重なる。 サンジが自分の顔を覗き込んで、首をちょこんと傾げて、少し不安そうな顔で。 「聞いてるか?」 と。 だから、思わずゾロは対サンジ専用極上の微笑を浮かべる。 「ああ、聞いてるぜ。」 ポワアッと真っ赤になった女の顔を見て、 (あ、しまった。コックじゃなかった。) と気付いて、笑みを引っ込めても、相手の女はそれを気にせず会話を再開して。 ――――早く、コックに会いてぇな。 と自分のしている事を棚に上げまくって、ゾロは今頃GM号で倉庫の整理をしているサンジに思いを馳せた。 *** 陽もとっぷり暮れて、港に停泊するGM号ラウンジは妙な雰囲気に包まれていた。 会話をするゾロに対して、黙り込むサンジ。 ゾロとしては、サンジの趣味に合わせて会話をしていると思っているので、何でサンジが黙っているのかわからない。 話が進むにつれて段々顔が曇ってくるし、タバコの本数は増えているし、普段余り呑まない酒にまで手を出している。 だから、ゾロは黙った。 黙って、サンジの顔を覗き込んだ。 「コック?」 「…………。」 返事も無い。 視線もテーブルに落としたまま、ゾロを見ようともしない。 前髪の1房を指先で摘んだら、ピクッと肩を震わせて。 それでもゾロに目を向けることなく、プイッと横を向いて、ゾロの指から髪を外した。 だから、前のめりになっていた身体を椅子に凭れさせて、天井を見つめて呟いた。 「やっぱ、無理か。」 はあっと大きな溜息を吐いて、ゾロは酒を瓶ごと呷った。 呷って、サンジを見る。 サンジは俯いたまま、新しいタバコを口に咥え、火を点けている。 それで確信を得る。 「オレの話じゃつまんねぇよな。」 「え?」 そう言うと、やっとサンジが顔を上げてくれた。 でも、その顔は何故だか悲しそうで、不安そうで。 そんなサンジの前髪をもう一度指先で掴む。 今度はそのまま外されないでいることにホッとしつつも、ゾロは言葉を続ける。 「なんかよ、てめぇとまともに会話した事ねぇからさ。同じ趣味持てば、会話も成立すんのかなって。実際言われたし……てめぇ |
1人で話しててもてめぇがつまんねぇんじゃねぇかってさ。でも、料理には口出せねぇし、タバコも無理だ。てめぇの前居たレストラン
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の話は腹立ってできねぇし。んじゃ、女かなってよ。」 「………確かに、楽しそうだったよな。」 「ああ?」 「オレ、偶々買出し行った時、てめぇが喫茶店で可愛いレディと話ししてんの見たんだよ。」 「見てたのか。……ん?あれのどこが楽しそうだったんだよ?」 「だって、笑ってたじゃねぇか。『聞いてるぜ』って言ってよ。」 「あ?………あれか。あれはてめぇ思い出してたんだよ。」 「は?オレ?」 ポカンとするサンジの顔が可愛くて、ゾロは前髪を摘んでいた手を頬に滑らせて、顎をクイッと上げて笑って言った。 「いっつもてめぇが言うじゃねぇか。『聞いてるか?』って。同じ仕草であの女が言うもんだから思い出しちまって。昨日のてめぇの |
顔が浮かんできてよ。あん時のてめぇの顔が堪んねぇんだよ。だから思わず笑って言っちまった。直ぐてめぇじゃねぇって気付いた
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けどな。」 「…………。」 先程よりも口を大きく開けて、目を見開いて自分を見るサンジの額にゾロは優しいキスを1つ落とす。 「やっぱ、オレには会話のキャッチボールなんざ無理だ。てめぇが楽しそうに話してるのを聞いてんのが、オレは1番好きなんだがな。」 漸く絡んだ視線に嬉しさを隠せず、ゾロがニカッとサンジ専用極上の笑顔を向けると、サンジが俯く。 俯いて、サンジ?と覗き込もうとしたゾロのおでこに一発、サンジの頭突きがかまされた。 「痛ってぇなぁ。」 おでこを擦りながら、ゾロが痛みに片目を瞑ってサンジを睨み付けると、サンジが笑う。 その笑顔が、今までに見た事もない、それはそれは嬉しそうな笑顔で。 瞳を少し潤ませながら、それでも幸せそうに、楽しそうに笑って。 |
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「………バーカ。」 と、ひと言。 何をどうしたら「………バーカ。」になるのかわからなかったけれども。 機嫌が直っただけでなく、身を乗り出してキスなんかしてくれちゃったものだから。 ゾロは、サンジの身体をテーブルの向こうからこちら側にひょいっと持ち上げて。 その細腰をギュッと抱き締めて、熱い深いキスをする。 「てめぇは黙って、オレの話聞いてりゃいいんだよ。この、アホ剣士。」 「………それでいいのか?」 「ああ。てめぇにはそんなの端から期待してねぇよ。」 相当バカにされている気もしたが、サンジの機嫌が治ったのならそれでいいかとサンジの笑顔の可愛さにすっかりご機嫌のゾロ。 妙に積極的なサンジに、理性の箍が完全に外れきったゾロはその後、サンジの身体を際限なく求め続けた。 会話など無くても、共通の趣味など無くても、それでも。 サンジが自分にこの可愛い笑顔を向けてくれる限り。 ――――絶対に倦怠期なんぞ現れる訳ねぇ! そう思いながら、事後の意識を飛ばしたサンジを抱き締めるゾロが、1つ気付いた事。 ――――オレの趣味は、これだろ。 目の前のコック。 こいつを見て、愛して、抱き締め続ける事。 決して、この趣味に飽きる事はない。 END misakiさん、お誕生日おめでとうございますv 大好きな貴方の今後の益々のご活躍を祈って。 |
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リク内容を遵守v
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サンジと別れたくないが為にしたくも無いナンパをしてつまらなそうなゾロv
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