春はいつ来る?




ロロノア・ゾロ。
性別、男。
年齢19歳。
夢は世界一の大剣豪。




そんなゾロにも最近、付き合い始めたばかりの相手がいる。
通常、まだまだ初々しい時期、幸せ真っ只中の筈なのだが、どうも顔色が冴えない。
それというのも………。


「サンジく〜ん、ちょっといい〜?」
「ハ〜イ、ナミすわん。今行くよぉ!」

「コックさん、コーヒー頂けるかしら。」
「勿論ですとも、ロビンちゃん。待っててねぇ!」

「サンジぃ、新しい発明品が出来たんだ。見てくれよ。」
「相変わらず、ワケわかんねぇモン作ってんなぁ、ウソップ。」

「サンジっ、何か手伝うことあるか?」
「悪ぃな、チョッパー。んじゃ、これ持ってってくれるか?」

「腹減ったぁ。サンジ、メッシーっ!」
「さっきメシ食ったばっかだろーがっ、クソゴム!!」


ゾロのお相手は、GM号で一番の人気者コックのサンジだったりするのだ。









剣の道をひたすら真っ直ぐ生きてきたゾロは、恋愛経験など皆無で、恋愛感情さえ抱いたこともない、超が付く程の恋愛初心者。
だから、サンジを見て胸が痛くなり、動悸息切れし始めた時には悪いモノでも食べたのかとサンジに対して怒りを覚えた程だ。
それも、一度や二度でなく、日に日に、顔を見る度酷くなっていったので、昼食後1人洗い物に勤しむサンジに言ってみた。

「てめぇ、オレのメシに何入れやがった?」
「………あぁ?てめぇ、オレの作ったモンにケチ付ける気か!」
互いに喧嘩早い2人、当然言い合いだけで終る筈もなく。
陰の船長のゲンコツを喰らわされるまで、傍から見たら殺し合いかと思うようにやり合った。

船尾で二人並んで正座させられて、少しの沈黙の後、サンジが口を開いた。
「………メシ、不味かったか?」
少し沈んだような物言いに確証もなく疑って悪かったと思ったゾロは、首をフルフルと横に振り、自分の症状を言ってみた。
その対象がサンジだとは言わずに。

「ふーん。その人見ると、心臓がバクバクして息苦しくなるんだ。」
「おう。」
「で、その人が他のヤツと話してっとムカつくんだ。」
「おう。」
「喧嘩した後、胸が痛くなんだ。」
「おう。」
「で、てめぇはそれがメシのせいって?」
「………てめぇのメシ食うようになってからだからよ。てっきり………。」
「ちなみに誰?ナミさん?ロビンちゃん?………喧嘩すんだからナミさんか?」
「どっちでもねぇよ。」
「…………てめぇって……ホモ?」
「ホモって何だ?」
「そっからかよっ!あ〜じゃあ、レディじゃなくて男が好きなのか?」
「何でそうなんだよっ?!」
「だってクルーが相手でレディじゃねぇんだろ。じゃあ、そういうことだろが。」
「失礼極まりねぇな、てめぇは。そもそも好きだ嫌いだとかって、何言ってんだ?……それより、こりゃ何の病気だ?」
「………てめぇホントにオレとタメか?歳誤魔化してんじゃね?」
「もういい!!てめぇに聞いたオレがアホだった!」

プイッとサンジから視線を外してムッとしていたら、サンジがヤケに艶っぽい声で話し掛けてきた。
「なぁ、相手言ってみろって。」
「しつけぇな。・・・・・・言ったら何なのかわかんのかよ?」
「そうだな、事と次第によっちゃ、てめぇのその病、治せるかもしれねぇぜ。」
「・・・・・・・・・じゃあ、言うけどよ。」
「おう。」

一呼吸置いて、ゾロは答えた。
「・・・・・・・・・てめぇ。」
「・・・・・・そっか。なら、話は簡単だ。」
「え?そうなのか?!」

サンジの言葉に期待を込めて、振り向いたその先には・・・・・・サンジの顔が間近にあって。

ほんの一瞬、唇が触れた。

ポカンと、そうそれこそポカンと口をアホみたいに開けて、ゾロはサンジを見た。
ニヤッと笑うその顔は、いつもの厭味な笑顔ではなく、勝気な中にも何か違うものがあって。
そして、サンジの手がゾロの股間に当てられた。

「?!!!何っ・・・?!」
「自分でわかんねぇか?勃起してんだろうが。」
「勃起って・・・・・・え?」

確かに見下ろした先にある、自分の股間は外から見ても解るほどテント張った状態で。
意味が解らず、ゾロは自分の股間とサンジの顔を交互に見た。
それを見て、またサンジが笑う。
笑って、言った。

「てめぇはオレに惚れてんだよ、ゾロ。」

それこそ、晴天の霹靂、余りの事実に吃驚して二の句が継げないゾロが何とか言葉を搾り出そうとした時だった。

「サンジく〜ん、お茶淹れてくれな〜い?」
甲板辺りからナミの呼ぶ声がして、サンジがは〜いvと立ち上がる。
それを目で追うゾロに、サンジがフッと笑って言った。

「てめぇが自分の気持ちに自覚が持てたら、付き合ってやってもいいぜ。」
「っ!!!」
「但し・・・・・・。」
そこで一旦言葉を区切って、サンジがゾロの頬を撫でる。

「クルーには絶対内緒だ。」

そう言って、後ろ甲板を後にしたのだ。





それから、ゾロが自覚するのは直ぐだった。
何せ、理由さえわかれば状況は実に簡単だったからだ。

サンジが見るもの触れるもの全てにイラついたし、サンジが傍に居てくれれば胸がホカホカする。
これを恋と言わずして、何をそう呼べばいいのか。
ただ、どう頑張ってもサンジとゾロには接点が少ない。
しかも、サンジは彼方此方で引っ張りだこなのだ。
空いてる時なんて皆無に等しい。

深夜遅くか、見張りの時か、後は陸での買い出しか。
クルーに内緒となると、もう2人きりになる機会なんて絶望的に無くて。
最初のキス以来、満足に触れてもいない。
ムッとして睨み付けていても、ナミには「喧嘩しないでよ。」と言われる始末。
正直、欲求不満も限界に来ていた。

例え、隣り合って座った直後だとしても。
例え、今にも唇が触れようとしていても。
例え、ただ話をしていても。

サンジは誰かに呼ばれれば、ゾロを置いて行ってしまう。
ニヤッと意味有り気な笑顔を残して。

ゾロは不満で仕方ない。
不安で居ても立っても居られない。

サンジは本当に自分が好きなのか?
そもそも、何で自分と付き合ってくれているのだ?
あんなに女好きで、それを公言して憚らないヤツなのに・・・。

どうやっても拭えない気持ちを、ゾロは鍛錬にぶつける。
普段の倍以上の激しいそれに、身体が悲鳴を上げるのが解る。
でも、どうしようもないのだ。
身体の軋むのなんて、今のゾロの心の悲鳴に比べたら可愛いものだから。

・・・・・・サンジの笑顔の意味を知りたい。

初めての恋。
初めての苦痛。

それを開放する術を知らないまま、ゾロはただ闇雲に串団子を振るしかなかった。




久々の2人きり。
他のクルーは、ほかほかした春島海域のせいか、甲板でのんびり昼寝中。
漸く訪れた好機に、ゾロはサンジを倉庫に連れ込んだ。
でも、どうしていいかわからない。
顔を見て、ドキドキして、それでも黙っているゾロに、サンジが聞いてきた。

「・・・・・・どうした?」
「オレ・・・その・・・・・・。」
「ん?」

優しい顔で、優しい声で、首を傾げながらニッコリ微笑むサンジを見て、ゾロは更に困惑する。
そんなゾロにサンジが近付いてきて、その手を握った。

「折角、久し振りの2人きりだ。何か、いいことするか?」
「あ?」

きょとんとするゾロの唇が、サンジのそれに塞がれる。
首に腕を廻され、後頭部を撫でられながらのキスは、それはもう股間直撃もので。
ゾロはすかさず自分の腕でサンジの背中を抱き寄せる。

「口開けてみな、ゾロ。」

一瞬唇を離され、サンジの言う通りあ〜んと口を開けると、サンジがプッと噴出しながら、この位と親指と人差し指を使って
1センチ位の幅を示してきた。
またしても言われた通り少し口を閉じてみたら、そこをサンジの口で塞がれて。

舌を差し込まれた。

吃驚して目を開けば、自分を可笑しそうに見るサンジの視線があって。
舌で舌を突付かれて、恐る恐る舌を出してみたら唇で食まれて。
ぞくぞくするのを止められずに、ただサンジのするのに任せていた。


「サンジく〜〜んっ!!魚の群れよ〜〜〜っ!!」


ナミの声が聞こえてくるまでは。


離れていくサンジの唇と自分のそれを繋ぐ唾液の糸を呆然と見つめてから、ゾロはサンジを見た。
いつものように、ニヤッとサンジは笑って。
「はぁ〜〜〜〜〜いvvナミすわんっ!!」
そう言って、ゾロから離れようとする。
思わず、去っていこうとするその手を掴んだ。

「………何だ、ゾロ?」
「あ、いや………その……。」
「呼ばれてるから、オレ行くぜ。」

あっさりとそう言って、サンジは自分を置いていこうとしている。
さっきまでの雰囲気が嘘のように。
今まで、付き合ってからずっと付き纏っていた不安が、一気に頭の中を駆け巡る。

そして………。

今にも倉庫を出て行こうとするサンジに、ゾロは声を掛けた。


「もう、止めにしねぇか。」

「え?」

ドアノブに手を掛けていたサンジが怪訝そうに振り向く。
そんな余裕有り気な様子に確信を得て、ゾロは自分の気持ちを曝け出す。

「てめぇは、オレと付き合う気なんてねぇんだろ。オレが恋愛初心者だからって、適当にからかって遊んでやがるんだ。面白かったかよ、
オレは。」
「………ゾロ、てめぇ何言って……。」
「でも、もうオレはてめぇのお遊びに付き合ってやれる程閑じゃねぇ。てめぇの行動逐一チェックして、暇探して、モヤモヤした気持ち抱えて
悩んで………。こんなんなら、てめぇの顔見てイライラしてた時の方がマシだ。もう、いい。止めようぜ。」
「…………。」

黙ってその場に立っているサンジの脇を抜けて、ゾロは倉庫を出ようとドアを開ける。
外では、他のクルーが釣竿片手にぎゃあぎゃあと喚いていて。
こっちに気付いては居ないようだとホッとして。
そんな事を気にしている自分に気付いて苦笑する。
最後の最後まで、サンジの立場を気にしている自分に。

「ゾロ。」
サンジに呼ばれて、立ち止まる。
何を言われてもいいように、身構える。

「てめぇ………まだ、オレが好きか?」

この期に及んで何を、と腹も立ったが自分の気持ちを包み隠さずに話そうと、背を向けたまま答える。

「嫌いだ……って言えたらオレも楽になれるんだろうがな。嫌いになりてぇよ。」
「………わかった。」

何がわかったんだか。
まぁ、これからしばらくは寂しいだろうが、それも仕方ない。
期待することがなくなるだけでも、きっと楽だろうから。

倉庫の中で動こうとしないサンジを置いて、ゾロはその場を後にした。




夕飯は、魚のオンパレードで。
刺身、ムニエル、ステーキ、フライに焼き魚と和洋折衷、ありとあらゆる魚料理が並んだ。
皆して大喜びで料理に舌鼓をうっているラウンジへ、ゾロは入った。

先程サンジに踵落しを決められて、一緒に行こうと誘われたが断った。
できるだけ一緒にいたくないのと、またからかわれるのが嫌だったから。
少し寂しそうに去っていくサンジの背を見送ってしばらくしてから来たのだ。

きっと給仕で忙しいから、自分に構う時間はないだろうと。

とっとと喰って退散しよう。

そう思って、箸を手にした時、サンジが自分の座っている傍にやってきた。
御飯か何か持ってきてくれたのだろうと、下を向いて料理に手を伸ばして。

その手を掴まれて。

ハッと後ろを振り返ると、そこには……。

今まで見たこともないような、余裕のないサンジの顔。

「あん?」

思わず、素っ頓狂な声が口から零れ出た。
他のクルーも、見たこともない光景に驚いているようで。
あの食事以外は興味もないルフィまでもが、こちらを向いている。
そのルフィに対し、ゾロの手を掴んだままサンジが口を開いた。

「船長、この場を借りて話がある。」
「おう。何だ?」

みんな、サンジの言葉に耳を傾けている。
ゾロもこの状況で何をサンジが言うのか全く解らず、ただ呆然と自分へと向き直るその顔を見ているだけで。
自分を見る目がヤケに優しいなぁなんて、思っていたら。
その顔がすっと降りてきて。

チュッと可愛い音とともにサンジの唇がゾロのそれに触れた。

更に目を見開いてゾロがサンジを見れば、その顔は真っ赤っ赤で。
言葉も出ない程吃驚しているクルーに対して、サンジが言い切った。


「オレとゾロ、付き合うことにしたから。」


「そっか。(ルフィ)」
「ええええっ?!!(ナミ)」
「何で、ゾロとっ?!!(ウソップ)」
「付き合うって、何?!!(チョッパー)」
「へええ。いいんじゃない?(ロビン)」

5人5様の反応を見せた他のクルーに対し、ゾロはただただ目を見開くだけで。

「こんでいいのか?」
そう言って、ゾロを見るサンジの顔は全然余裕が無くて。
「……何で……てめぇ。」
「オレだって、てめぇに惚れてんだ。からかうつもりなんざ、更々ねぇよ。ただちょっと、戸惑ったつうか。まさか、ホントにてめぇがって……
疑っちまったてぇか。オレだけ本気じゃ洒落になんねぇしよ。すまねぇ。………って、おい、ゾロ、どした?!!」
照れながらも一生懸命話してくれていたサンジの口調が急に変わって。
心配そうにおろおろするそんなサンジを怪訝そうに眺めて。
何がと聞こうとしたその時、頬を零れ落ちるものを感じて掌をそこへやる。

少し暖かい液体。

止め処なく流れるそれが、自分の瞳から零れ落ちた涙と気付くのに、さして時間はかからず。
周囲を見れば、サンジが宣言した時よりも驚愕の表情をしたクルーが自分を見ていて。

バッと顔を片手で押さえて立ち上がる。
「おいっ。」
「ちょっ…と、頭冷やして…くる。」
どかどかとラウンジを出て、見張り台へと向かった。
自分が出てきたラウンジは、ドアが閉まった途端にえらい盛り上がりようで。
後で茶化されんだろうなぁと思いながらも、縄梯子を霞む視界の中でよじ登る。

どかっと腰を下ろして、グイッと腕で涙を拭って。
正直まだ全然実感が湧かない状況で、見張り台の縁から顔を出したサンジを見る。
「……大丈夫か?」
「おう。」
洟を啜りながらそう答えると、サンジがホッとしたように笑って中に入ってきた。
「悪かったな。」
謝るサンジに首を振り、板塀に背を凭せ掛けて空を見上げる。
隣に座ってくるサンジのその手を握ってみれば、少し汗ばんでいて。
あんなみんなの前で言い切ってくれたサンジの気持ちを思うと申し訳なさが先に立つ。
「オレこそ悪かった。他のクルーには知られたくなかったんだろ?」
「ん?ん〜〜〜、まぁ、確かにそうだけどよ。でも、てめぇと別れるよりはずっといいよ。それにさ。」
サンジが頭をコテンとゾロの肩に乗せて、繋いだ手に力を込めてきた。

「周りを気にせず、てめぇと向き合えるんだからいいんじゃねぇ?」
などと嬉しい事を言ってくれるので。
今まで疑問に思っていた事を口にしてみた。

「てめぇさ、何で笑ってた?」
「あ?」
「その……他のヤツらに呼ばれて行っちまう時さ。」
「ああ、それか。」
サンジが胸ポケットからタバコを取り出し、火を点ける。
フウッと煙を吐き出して、その煙の行方を2人して眺めて。
それが薄くなり始めてから、サンジが言った。

「てめぇ、あんまり顔に出ねぇからさ。でもオレが他のヤツらんとこ行く時だけは、こう眉間に皺が寄ってさ。何か、てめぇの気持ちが
伝わってくるから、つい……。ホント、悪かった。」
「……いいさ。オレも悪かった。」

自分だけじゃなくて、サンジも不安だったんだ、と。
そう思えば、され続けた事も可愛く見えてくる。
同じようにお互い手探りで、相手の動向を必死になって見つめて。

こうして態度に表すことが大事と気付けたのだから、よしとしよう。

繋いだ手を解いて。
その手をサンジの肩に廻して。
ふんわり微笑むサンジの頬に手を当てて。
先程咥えたばかりのタバコを唇から抜き取って。

目を閉じてくれたサンジに口付ける。

ちょっと泣いたりしてみっともないとこ見せちゃったけれど。
それでこんな時間が持てたのならば、それこそ役得と。
腕の中で大人しく抱かれてくれているサンジを感じながら。

付き合ってから初めて、ゾロは満足げな笑みを漏らした。




「サンジく〜ん、ちょっといい〜?」
「ハ〜イ、ナミすわん。今行くよぉ!」

「コックさん、コーヒー頂けるかしら。」
「勿論ですとも、ロビンちゃん。待っててねぇ!」

「サンジぃ、新しい発明品が出来たんだ。見てくれよ。」
「相変わらず、ワケわかんねぇモン作ってんなぁ、ウソップ。」

「サンジっ、何か手伝うことあるか?」
「悪ぃな、チョッパー。んじゃ、これ持ってってくれるか?」

「腹減ったぁ。サンジ、メッシーっ!」
「さっきメシ食ったばっかだろーがっ、クソゴム!!」


ゾロとサンジの仲が船長公認になったとはいえ、GM号コックサンジの人気は相変わらずで。
いつもサンジの傍には、他のクルーが付き纏っているのだけれど。

でも、ゾロは以前のようにヤキモキしたりしない。

なぜなら………。


「また、後でな。」
そう言って、サンジがゾロから離れる度にキスしてくれるから。

「待たせたな。」
用がすんだら、笑顔で戻ってきてくれるから。




ロロノア・ゾロ。
性別、男。
年齢19歳。
夢は世界一の大剣豪。



只今漸く訪れた青春を謳歌中である。



END


初心なゾロv




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