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どうも調子が狂う。 オレはなんとなく釈然としない顔付きで、甲板に置かれたロッキングチェアに腰を下ろしてタバコをふかす。 そんなオレの視線の先には、ヒラヒラとはためく洗濯物の群れ。 そして・・・。 「おい。これは、どうすんだ?」 陽光暖かく差し込むその下で、洗濯物を干すマリモ1個。 オレの調子を狂わせている張本人だ。 *** 2日前、取るに足らない海賊の襲撃があった。 次の島には後10日はかかる場所にいて、食料を狙った海賊どもの襲撃がひっきりなしにやってくる。 この可愛らしい外観からか、どうも格好のターゲットとなっているようだ。 勿論、化け物じみた船長と剣豪が殆ど時間も掛けずに撃退してしまうのだが。 とはいっても、毎度毎度食事時や仕込み中に来られると腹が立つ。 ぶっ倒したアホな船長らしきヤツに聞けば、匂いに誘われて襲ったとか。 いくら自分の腕を認めてくれてるんだとしても、全くもって面白くない。 今日もおやつの準備を邪魔されて、オレは相当頭にきてバンッとラウンジの扉を乱暴に開け放った。 案の定、大したことない海賊に船長・剣士コンビが幾分呆れながらじゃれている。 その遊んでいるかのような態度に、いい加減に片付けやがれと怒鳴ろうとしたのだが。 「サンジっ!危ねぇっ!!」 ゾロの声がした時には、もう目の前に何か物体が飛んできていて。 それが人間と認識する前に迷わず蹴り飛ばしたとこまではよかった。 その蹴った脚が勢い余って壁に激突しなければ。 ゾロが自分を気に掛けた言葉なんぞ言ったからか。 普段呼ばれねぇ名前なんか口にしやがったからか。 とにもかくにも、足元が狂ったのは確かだ。 その場で激痛にしゃがみ込んだオレのところにゾロがチョッパーを投げてきて、そのままラウンジに転がり込んだ。 外で何人もの悲鳴と罵声と物凄い風の音が聞こえたかと思ったら、急に静かになって。 息一つ切らさない船長と剣士が申し訳なさそうにラウンジのドアから覗いていた。 「打撲だね。」 船医はあっさりそう言うと、オレに言い含めるように一言一言区切って言った。 「いい?サンジ。打撲っていっても結構酷いから。ヘタに使うと腰にくるよ。ただでさえ古傷があるんだから。立つのも禁止。 |
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座るか寝るか、どっちかね。」 「でもよ、チョッパー。オレ、メシ作んなきゃなんねぇ―――」 「とにかくダメ!移動は右足使わない!立ち続けるのもダメだからね!」 「……………。」 正直参った。 キッチンに椅子持ってきて料理するだけなら座ってでも出来るが、食材取りに冷蔵庫やら倉庫やら往復しなきゃなんねぇ。 しかも、量も半端じゃねぇから小麦粉10キロ担いで片足で階段の上がり下りなんぞ出来やしねぇ。 オレが眉間に皺寄せてタバコに火をつけていたら、それまで黙ってドアの外から覗いていたゾロが話し掛けてきた。 「オレが手伝う。」 「あぁ?」 「オレが雑魚と遊んでたからコイツがしなくていい怪我したんだ。オレが手を貸す。」 「そんならオレもだろ?オレがやるよ。」 ルフィもゾロの言葉に反応してそう言い出した。 オレとしては、普段ソリの合わねぇクソ剣士よりも船長の方が使いやすいとルフィにお願いしようと思ったのだが。 ゾロはオレが口を開くより早くこう言った。 「ルフィ、てめぇ、つまみ喰いする気だろ。」 「ちぇっ、バレたか。」 にししと笑う船長の全然悪気のない様子に脱力する。 ウソップにゃ力仕事は頼めねぇし、チョッパーにそうしょっちゅう大きくなってもらうのも申し訳ねぇ。 レディに頼むなんざオレのポリシーに反する。 結局、残るは――― 「………お詫びにしっかり働きやがれ!」 役に立つかどうか定かではないが、とりあえずやる気になっているゾロにお願いするしかないオレだった。 朝目が覚めて、自分が男部屋でなくラウンジで寝たことに気が付いた。 ふらふらしながら、なんとか夕飯の準備はしたものの、作り終えた時点でダウン。 その後の記憶は無いので、多分そのまま寝ちまったんだろう。 よく寝たせいか、気分はいいので、とりあえず起きようと身体を動かした。 カタンッ。 腹の辺で音がして、そこを見れば、白鞘の刀。 「……んふああ、起きたか。」 次いで、大きな欠伸と低い声が頭の後ろから聞こえて振り向くと、そこには胡座掻いて座っているマリモがいた。 「……てめっ…何で……?」 「あぁ?オレが男部屋に居たらてめぇの手伝い出来ねぇだろが。」 さも当たり前のように言ったかと思ったら、まだ座っているオレをほいっと抱き上げて肩に担ぎやがった。 「?!!お、おいっ!てめぇ、何して―――」 「朝起きたらすぐ顔洗いに行くんだろ?」 「1人で行けるわ、ボケマリモっ!!」 「ムリすると立てなくなるってチョッパーが言ってたぜ。治るまでは喧嘩も控えろとよ。」 オレの喧嘩腰な言葉に淡々と返して、ゾロはラウンジから出て階段を降り倉庫へ入るとオレを下ろした。 そして、立てかけてあったものを手渡してきた。 「昨日、ウソップが徹夜で作った松葉杖だとよ。平面歩く時はそれ使え。」 「…………。」 「オレも後で洗面所使う。てめぇここで待ってろよ。」 「……………おう。」 オレが不承不承返事をすると、ニカッと見たこともないような笑顔を向けてくれて。 真っ赤になっただろう顔を見られまいと、慌ててバスルームに向かった。 それからというもの、ゾロは常にオレの傍に居た。 階下に降りると言えば運んでくれたし、荷物も取りに行ってくれた。 しかも、だ。 これが、口に出さずとも動いてくれるのだ。 ちょっと小麦粉の袋をひっくり返して粉を全部ボールにあけただけで、倉庫へ向かってくれる。 冷蔵庫に視線を移しただけで、「何がいる?」と声を掛けてくれる。 飯があと少しで出来そうだってところで、クルーを呼びに行ってくれる。 片付けもやってくれる。 洗濯もしてくれる。 それだけならまだしも。 朝起きたら直ぐに洗面所へ連れて行ってくれる。 トイレのタイミングもバッチリ。 風呂も3日目位から脚を上げた状態で入れてくれる。 包帯も巻き直してくれる。 寝る前の歯磨きまで付き合ってくれる。 でもって、それら全てが絶妙のタイミングなのだ。 最初の内は、いちいち指示しなきゃ動かねぇだろうと思っていたのだが。 今となっては所謂ツーカーの仲、阿吽の呼吸、以心伝心とクルー全員に認められている始末。 しかも、だ。 それが、結構嬉しかったりしちまって。 あと2日で完治と船医に言われた時にはちょっと残念だったりして。 今もまた、床に座り込んでジャガイモ剥きに勤しむオレの脇でかーかーと鼾を掻くマリモを横目で見ながら、少し溜息を吐いちゃったり |
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して。 そんな自分自身に正直凹むオレだった。 *** 怪我をしてから1週間後の朝。 「はい。もう大丈夫。よく我慢したね、サンジ。・・・どうしたの?」 チョッパーがオレの脚から包帯を外して、そう言った。 オレはちょっと変梃りんな顔をしていたんだろう。 そんなチョッパーの問いに首を振り、礼を言うと照れ屋な船医が身をくねらせて喜ぶ。 「ゾロは?」 姿の見えない剣士の居場所を尋ねれば、いつもの通り後甲板だと答えた。 ずっと傍に居てくれたマリモの存在がないだけで、殺風景なラウンジ。 1週間前なら、当たり前だったのに。 ヘッと苦笑して、オレは立ち上がりラウンジの窓から後甲板を覗く。 チラッと目に映るのは、上半身裸で串団子を振るマリモの姿。 そういえば、ここ最近自分の為に鍛錬もダンベル程度だったか。 「ゾロにもお礼言ってね、サンジ。ゾロがいてくれたお陰で早く治ったんだから。」 「・・・・・・あぁ、そうだな。」 そう言ってくれたチョッパーに心底感謝しつつ、オレはいつも鍛錬の後に出してやっていた特製ドリンクを持って後甲板に向かった。 オレがトレイ片手に後甲板に姿を見せても、ゾロは鍛錬の手を止めない。 ぶんぶんと振られる串団子の風を切る音と、ゾロのカウントだけがその場に響く。 前は、そんなゾロを気にすることなく階段にトレイを置いてその場を立ち去ったのだが。 オレは、トレイを階段に置いて、その1段下に腰を下ろした。 ポケットからタバコを取り出して、火を点けふぅ〜っと煙を吐き出す。 カモメがクゥクゥと鳴く。 島が近いのか。 海面の其処此処に小さな漁船もチラホラ見える。 それらをボ〜ッと見ながら、ゾロが鍛錬を終えるのを待った。 ちゃんと礼がしたいのと・・・。 何故自分の生活を知っていたのかを聞きたかったから。 ガコンッ!!! 物凄い音と振動がしてゾロの方を見れば、汗をタオルで拭きながら自分を見ていた。 「もう、大丈夫なのか?」 「・・・おう、お陰さまでな。」 階段脇の陰に座るゾロに、グラスを差し出すとグイッと一気に飲み干して返してきた。 それを受け取り、トレイに乗せて・・・。 本来ならそれで自分の仕事は終わり。 この場にいる必要はない。 でも疑問に答えて欲しくて。 その疑問を口に出す事が憚られて。 ただ、黙ってその場に座り続けるオレに、ゾロは何も言わずにいた。 無言で傍にいてくれた。 この状況に安心する自分がいる。 この状況に喜んでいる自分がいる。 どうにかなっちまったみたいだな。 ヘッと笑うと、ゾロが訝しげにオレを見て言った。 「何だ?」 「ああ?・・・・・・何でもねぇけどよ、てめぇが悪い。」 「ああ?!!どういう意味だ?!」 「気になんだよ。てめぇが何でオレの常日頃の行動知ってんのか。ちょっとした動きで先が読めるのか。そう一緒にいたわけでも |
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ねぇのによ。」 「・・・・・・ああ、それか。」 バリバリと短い緑髪の頭を掻きながら、ゾロがオレから視線を外す。 「何が『それ』だよ?」 「んん?そんなん、いっつも見てりゃわかるだろ。」 「あああ?!!」 いっつも、だ? 見てる、だ? どういうこった? 口をポカンと開けたオレのアホ面見て、ゾロがニヤッと笑う。 「惚れたヤツの動向目で追うのは当然だろうが。」 「・・・・・・はあっ?!!惚れって・・・てめっ!」 更にワケのわからない台詞で混乱しまくったオレの身体を、汗臭い身体で抱き締めてきやがった。 んでもって、オレの耳元に唇を寄せて確信的な口調で囁いた。 「てめぇのその知りたいって気持ちもよ、オレに惚れてるって証拠じゃねぇの?」 「・・・・・・なっ・・・アホかああああっ!!!」 吃驚仰天して固まっているオレの耳朶をペロッと舐めてくるから、思わず身体がビクッと震えちまった。 「まぁ、オレもまだまだ知らねぇことだらけだ。てめぇの此処が弱い、とか。どんな声で啼くのか、とか。どんな顔してイくのか、とか。」 「えええっ?!!!」 「・・・・・・今から教えてもらおうか?」 ゾロはそう言うなりオレの唇からタバコを抜き取り、ゾロの熱の籠もった唇で塞いできた。 抵抗しようにも、股間にゾロの手があって、それが巧みに動くもんだからゾロの親父シャツにしがみ付くしか出来ない。 口の中を縦横無尽に蠢く舌も、いつの間に肌蹴られたのかシャツの中に入り込んだ掌も、オレの身体から力を抜けさせるのに十分で。 「もうすぐ島よ〜〜〜っ!!!サンジく〜ん、ゾロおおおっ、手伝って〜〜〜っ!!」 ナミさんの呼ぶ声が聞こえなかったら、そのまま雪崩れ込んでただろう。 なんとか我に返って、ゾロにしがみ付いてた両手を階段について脇腹に思いっきり直ったばかりの右脚をお見舞いしてやった。 流石魔獣と呼ばれるだけあって、その反射神経は侮れない。 瞬間避けやがったから、威力は半減しちまったけど。 「いってぇええええっ!!!」 それでも脇腹抱えてしゃがみ込むマリモに、乱れた衣服を整えながら言ってやった。 「島着いてオレが1時間先に船を出る。オレを追っかけてみろ。追いついたら、その探究心、満足させてやらぁ。」 「!!!」 俯いていたゾロの顔がガバッと上がって、オレを見るその顔が可笑しくて。 オレは笑いながらゾロに背を向けた。 迷子癖のあるゾロが追いつくわけねぇと高をくくっていたのだが。 その前に野生の勘ってやつが発達(人として後退?)してるのをすっかり失念してた。 宿でバッタリ鉢合わせして、しっかり喰われる事になろうとは、その時は思いもしなかったが。 *** マリモには調子を狂わされっぱなしだ。 異様に役に立つヤツだと思ったら、それはオレ専用らしくて。 惚れてるだの、知りたいだの、ワケわかんない事ばっか言いやがって・・・。 で、それがまた更にオレの調子を狂わせやがる。 オレも知りたくなっちまっただろうが。 マリモがどんな顔して笑うのか、どんな事したら喜ぶのか。 どんな料理が好きで、どんなオレに興味があるのか。 オレの探究心の矛先が、マリモに向かった瞬間である。 END |
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HEROさま、お誕生日おめでとうございます!!
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リク遵守vいつもサンジを見てるゾロvv
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