号外だよぉと言う声を耳にして、世の中物騒だねぇと1人呟きながら帰り道を急ぐ。 年の瀬も近い昨今、今日は馴染みの八百屋にツケを返しに行った。 本来なら、女将であるナミ自ら行くべきなのだが。 「あそこの奥さん、サンジくんにホの字だから、きっと負けてくれるわよ。」 半ば強引にそう押し切られ、渋々行ってみたら。 顔を真っ赤に染めたぽっちゃりしたおばちゃんが、本当に負けてくれて然もオマケに大根1本付けてくれた。 (ふろ吹き大根にでもすっか。) そう思いながら、店の暖簾をくぐる。 「んナミさ〜ん、貴方のサンジが帰ってきたよぉ!!」 ニコニコして顔を上げた先に、思ってもみなかった仏頂面があった。 「………遅かったな。」 「………ゾロ。」 そこに居たのは、見た目僧侶だが、はっきり言って敬虔なんて言葉どっかで斬って捨てただろう破戒僧ゾロ。 ここ2週間ほど姿を見せなかったのに。 前に身体を重ねたのはそれより1週間遡るだろうか。 そんなことに頭が及んで、身体中にカッと熱いモノが流れる。 (オレは淫乱か!冗談じゃねぇぞ。) サンジは焦って周囲を見渡しナミを探す。 すると、そんな雰囲気を察したのか、2階からナミの声が聞こえてきた。 「サンジく〜ん、夜の仕込みまで時間あげるわ。七つには帰んのよ。」 その台詞にへっと間の抜けた返事を返すサンジの横に何時の間にかゾロが立っていた。 「行くぞ。」 耳元で囁く低い声に腰が砕けそうになりながらも、 「……どこ行くんだよ。」 と自分を叱咤して平然を装い憎まれ口を叩く。 そんなサンジをゾロは一瞥して言った。 「ヨサクんとこ。……仕事だ。」 表向きゾロは僧侶、サンジは一膳飯屋の料理人だが、実は裏の顔を持っている。 『始末屋』 法で裁けない相手に鉄槌を下すのが仕事だ。 ゾロもサンジも幼い時に親を失い、養生所で手伝いをさせて貰って生活していた。 そこへ、やってきたのが目付シャンクス。 2人を目にして、ニカッと笑ったかと思うと養生所医師くれはに引き取ると言ったのだ。 それから、ゾロには剣を、サンジには一撃で相手を沈める足技を習得させた。 一人前にこなせるようになった頃、自分達にその意図を教え、仕事を与えられた。 表の顔も同時に貰った。 そして、仕事を頼んでくる時は必ずヨサクを通して文を寄越す。 ヨサクの店、鰻屋で。 「お待ちしてやした。コレをサンジさんに。」 「オレに?」 渡された文を受け取りながら、サンジは疑問を口にする。 大抵、ゾロ宛なのだ。 どうも自分は感情的になるらしく、ゾロには詳細を教えるが、サンジはそのゾロから相手を知らされるだけだ。 なのに…………。 「お部屋、何時ものとこ、用意しときやした。どうぞ。」 案内するヨサクもそれ以上は何も教えられてないのだろう。 部屋の襖を開け、2人に入るよう促すと八つ半過ぎにまた来ますと言って階下へ降りていった。 サンジが先に部屋へ入り、ゾロが続いて後ろ手に襖を閉める。 サンジが懐に仕舞った先程の文を取り出そうと手を差し入れた。 その上に、ゾロの腕が重なる。 後ろから抱き締められているかのような恰好に、一度は仕舞い込んだ欲望が頭をよぎる。 「お、おいっ!」 サンジが振り向こうとすると、ゾロがそうさせまいと回した腕に力を込める。 「文なんぞ、後にしろ!」 「後って……てめっ、仕事じゃ、あぁっ!」 いきなり裾を割られて布越しにサンジのを擦られて、サンジは声をあげる。 「なんだ。てめぇもヤる気満々じゃねぇか。……それとも何か、シャンクスから文貰って喜んでんのか?」 「??……な、に…言って、んあっ…」 「シャンクスとこの間2人で会ったろ。何してきた?」 嫉妬心丸出しのゾロに、サンジは笑い出しそうになったがゾロの仕掛けてくる愛撫に喘ぐことしか出来ない。 それでも誤解だけは解きたくて、サンジはゾロに顔だけ向けてバカがと言った。 「てめぇ見てこうなってんだよ、ボケ!」 「!!!」 普段なら絶対口にしないだろうサンジの台詞にゾロが顔を真っ赤にして固まる。 その一瞬をついてサンジがゾロに向き直る。 そしてゾロの肩に顎を乗せ、背に手を回した。 「てめぇ1人に仕事任せて、オレが気ぃ悪くしてんじゃねぇかってよ。話しただけだ。」 「…………ホントか?」 「あぁ。」 ホントは押し倒されて、危うく唇を奪われかけたけれど。 すぐさま、急所に蹴り入れてやったし。 そんな事言った日には、ゾロがシャンクスんとこ殴り込みに行ってしまうだろう。 サンジはそこまで考えて言っていると気付いているのか、この目の前の破戒坊主。 「そっか。」 とホッとしたように笑ってサンジの唇にその熱い唇を重ねてきた。 舌で舐められて、薄く口を開ければすかさず入ってくるゾロのそれをサンジはウットリしながら受け入れる。 (だってよ。コイツのじゃなきゃ……こんなに感じないぜ。つーか、気色悪ぃっての!) 鰻が焼き上がるまでの待ち時間。 ゾロとの情事にはちょっと物足りないが、今はもう欲しくて仕方ない。 舌を絡ませながら互いの着物を脱がし合い、敷かれている布団になだれ込む。 耳を舌で犯されながら、指で乳首をこね回され、ゾロの猛った雄で自身を擦られて。 もうサンジは身も世もなくゾロにしがみついて声を上げるしかできなかった。 「あっあっ、ゾロっ!」 「……サンジ。」 ゾロ自身限界なのだろう。 自分を呼ぶ声に吐息が混ざる。 この声がサンジの情欲を更に煽る。 だから、腰を揺らしてゾロを誘った。 「サンジ、てめぇ……!」 「は、やく……し…やがれっ!」 サンジの言葉にゾロがフッと笑う。 扇情的なその笑顔に、泣きそうになりながらサンジはゾロに口付ける。 今日の号外、大奥に娘を仕えさせているある商家の跡取りの殺害の件だ。 その娘が将軍の寵愛を得ているだけに、そのことで天狗になりやりたい放題だった男の末路。 多分、ゾロの仕業だ。 商家となると、サンジの店に関係ないとは言えない。 だから、自分ははずされたのだろう。 でも、とゾロの雄を身に沈められながらサンジは思う。 出来れば一緒に。 もし互いに何かあっても傍にいたいから。 「あ、あぁっ……ん、ゾロ……ゾロっ!」 「なんだ?」 「ず、っと……ぅんっ、オレ…の」 「あぁ、オレの居場所はてめぇんとこしかねぇよ!」 ゾロはサンジの言葉を継いで答えると、動きを深く速くする。 抱き締めて、抱き締められて、互いが生きていることを実感しながら同時に絶頂を迎えた。 鰻が届くのはもう直ぐだろう。 ゾロは、疲れているのか1回しただけで寝てしまった。 (続きはまた今夜だな。) ゾロの頭を撫でながら、サンジは散らばっていた着物を身に付けていると、その中にシャンクスからの文を見つけた。 すっかり忘れていたそれを拾い上げ、中味に目を通す。 『今回1人で頑張ったからな。サンジ、ご褒美やってね。』 たった、これだけ。 しかも、見る前に戴かれてしまったような………。 (ま、いっか。ここの支払い、シャンクスに付けとこっと。) そこへ失礼しやすとヨサクの声。 自分の着物を確認し、どうぞと入室を促す。 香ばしい鰻の匂いにゾロが目を覚ます。 「とっとと食って帰るぞ。」 「続きは今夜な。」 そういうゾロに軽く蹴り入れて、サンジはゾロの着物を投げつけた。 「帰ったら、まずふろ吹き大根だ。」 「……?ふ〜ん、てめぇのメシ食えんなら何でもいいぜ。」 「………嬉しいこと言ってくれっじゃねぇか。」 サンジは着物の帯締めに四苦八苦しているゾロの耳にふっと息を吹きかけた。 「今夜は寝かせねぇぞ。」 帯を締めるゾロの手が止まる。 ニヤリと笑うサンジに覚えてやがれと我に返ったゾロが返す。 シャンクスがチョッカイ出してきたのも、案外計算づくなのかもしれねぇな。 自分もゾロへの気持ちが煽られたし。 ゾロも嫉妬でサンジが気になって仕方なかったろうし。 (あの、赤狸め!) 鰻を頬張りながら、ゾロもサンジもケタケタ笑うシャンクスの顔が頭をよぎったのだった。 |
END |
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年末特番の設定に触発されてv鰻屋での情事vv
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