最近、サンジの様子がおかしい。 とはいっても、気がついているのは俺とナミだけだが。 約1カ月前、ようやくオレとサンジは恋人同士ってヤツになった。 オレとしては、毎日ヤツと一緒にいられる時間も増えたし、ヤツの笑顔もいっぱい見られるようになったし、なによりヤツとキスしたり、SEXで きるようになったのが嬉しい。 が、しかし、サンジはというとため息が増えた。時折、辛そうな顔をする。 情事の後、背中を向けて考え込んでいたりする。 かといって、何かあったのかと問えば、にっこり笑ってなんでもないと答えるのだ。 それは、ナミに対しても一緒。 「だーいじょうぶですよー、ナミすわーん。心配してくれるなんて感激だなー。」 と、目をハートマークにして喜んでいる。 でも・・・・・・・・。 「ねぇ、サンジ君最近おかしくない?」 船尾でいつものように鍛錬していると、ナミが話しかけてきた。 サンジはうまい具合に倉庫で食材の在庫調べの真っ最中。 しばらく出てくる様子もない。 オレは手にしていた串団子をおいて、階段に腰をかけた。 ナミも甲板から見えない位置まできて、オレのほうを見た。 「あんた、なんかしたの?」 「なにって、なんだよ。」 「無理矢理、事に及んだとか?」 「アホか。そんなことした日にゃあ、オレは海に蹴り落とされとるわ。ってか、何で知ってんだよ?」 「見てりゃ、わかるっての。・・・・・・そっか、そうよねぇ。」 ナミはホウッとため息をついて、倉庫の方をチラッとみた。 「じゃ、なんなのかしら?」 「わからん。」 あまりにもあっさり言ったのが気に入らなかったのか、ナミはギッとゾロを睨んだ。 「あんた、仮にもサンジ君の恋人なんでしょ?しかもあんたがベタ惚れで。あんな状態でほっといて平気なの?」 「平気なわけ無ぇ。だが、聞いてホイホイ言うヤツじゃ無ぇだろうが。」 ゾロがそう言うと、そうよねえとナミも頷いた。 そうなのだ。 たいてい悩み事があっても、口にはともかく顔にも出さないサンジ。 それが、一部とはいえ他人に見破られる状態なのだから、尋常でないことはゾロにも十分わかっている。 でも、何回も機会がある毎に訊ねてはいるのだ。 「なにかあったのか?」と。 その度に「なんでもねぇ。」と言われ、それ以上聞けば「しつけぇな。」と蹴りが飛んでくる。 (くそっ。黙ってりゃ解決する問題じゃ無ぇんだろが。) オレが、黙りこくっているとナミはオレの肩をポンポンと叩いた。 「とにかく、なんとかしなさいよ。サンジ君倒れたら、この船お終いなんだからね。」 そう言って階段を下りていくナミの後姿を、オレは複雑な表情で見つめていた。 その日の夜、いつものように船尾で酒を飲んでいると、コツコツと階段を上がってくる音がする。 (コックだな。) オレが酒瓶をおいて、音のした方を見たら案の定サンジがつまみを持って現れた。 「よう。」 サンジはそう声を掛けて、オレの横にすとんと腰を落とした。 そして、胸のポケットからタバコを取り出すと、一本口にくわえて火を点けた。 タバコの煙の行方を、サンジはボーっと見つめている。 しばらく無言でそうしていると、サンジが口を開いた。 「なぁ、ゾロ。」 「あ?」 隣に座っていたサンジの顔が、オレの上にきたかと思ったらフッと触れるだけのキスをしてきた。 「オレ、お前にベタ惚れだ。」 「あぁ?!」 サンジの台詞にびっくりして、オレは身を起こした。 さぞ照れくさそうにしているかと顔を覗き込むと、オレは息を呑んだ。 それは、それは辛そうな顔をしていたからだ。 オレはふうっとため息をついて、サンジの頭を自分の肩に引き寄せた。 「どうした?」 サンジの金髪を撫でながら、優しく聞いてみたが、サンジは何も答えない。 (オレが何か言ったら、答えやすくなんのかな?) 開いていた左手でサンジの左手を掴み、自分の膝に乗せてオレは普段なら口にしない自分の気持ちを話し始めた。 オレはなぁ、昔っから他人にあまり興味なくてな。 自分の夢ばかり追いかけてた。 こう見えても、意外と女にはもてたんだぜ。 お、そんな顔すんな。そういう顔も好きだけどな。 でも、大抵女の方から離れてったな。 「もっと、私の方を見て欲しかった。」とか、 「私と夢とどっちが大事なの?」とかな。 比べらんねぇよな。実際、夢の方が大事だったかもしれん。 今思えば、相手から与えられてばっかだったかもしれねぇな。 だから、てめぇに惚れた時は、どうしたもんか正直戸惑った。 自分の気持ちさえ、コントロールできなかった。 自分から何かしたいと思ったのも、てめぇが初めてだったし。 オレがしてやれることがあんなら、何でもしてやりたいんだよ。 もし、それがオレにとって嫌なことでもな。 ただ、夢だけは諦めらんねぇ。 これが、オレがオレでいられる証だと思うからだ。 でも、それと同じ比重でてめぇが必要なことも事実だ。 てめぇがいなきゃ、夢を叶えても意味が無ぇ。 だから、できることなら側にいて欲しいんだがな。 そこで、オレは言葉を切って、サンジを見た。 サンジは、タバコを持ったままの手を額に当てて俯いている。 前髪に隠れて表情は見えないが、多分話していいかどうか悩んでいるのだろう。 しばらく、そのままそうしていたが、オレはおもむろにサンジに自分の飲んでいた酒のビンを渡した。 「飲め!」 「ん?」 「んで、オレに話せ。たとえオレにとって、辛い内容でもかまわん。てめえのそんなツラ、もう見たくねェからな。」 オレは、一呼吸おいてから一番聞きたくないことを口にした。 「それとも・・・・・・オレとは・・・・・・もう、やめてぇか?」 その言葉に、サンジはふっと笑った。 「・・・・・・そう考えたことは、何度もある。」 「・・・・・・・・・そうか・・・。」 オレは、ため息をついた。 (しょうがねぇよなぁ。大事なんだし。・・・・・・・・・でも、オレ諦められんのか?) そう思っていると、サンジが思いもかけないことを言った。 「こんなに、のめり込むたぁ思わなかった。」 「ん!?」 「てめぇによ。」 恋の告白をしているとは、とても思えない辛そうな表情。 じゃあ、何をコイツがうだうだ悩んでるのか、ちっともわからねぇ。 オレは、サンジの頭を宥める様にポンポンと叩いた。 「女じゃねえから、話したくらいじゃすっきりしねェたあ思うが1人で悩むよりゃ2人で考えた方がちったぁマシだろ?言いたくねェかもしれねエ が、そんなら聞いたら、忘れてやっから。」 オレがそう言うと、サンジの肩がピクッと震えた。 「・・・・・・忘れて・・・くれるのか?」 「あぁ、忘れて欲しい内容ならな。」 サンジは、タバコの火を消し、オレから酒瓶をとってぐいっとあおると、ポツポツと話し始めた。 オレはなぁ、物心就いたときからひとに頼らずに生きてきた。 そりゃ、ジジイにゃ生活面じゃ世話になったけどよ。 精神的にってやつか。頼っちゃいけねえって思ってたんだよ。 だから、今まで付き合ってきた女共ともそうだった。 んな、怖え顔すんなよ。今は、どれとも切れてるよ。 女と付き合ってもさ、やってやるばっかりで頼ることなんてしなかった。たいてい別れる時に言われたよ。 「もっと甘えて欲しかった。」とか、 ひどいのは 「うっとおしい。」とか言われたぜ。 でもなぁ、してもらう側にはたてねえ。 そう思ってた。 でも、てめぇがオレに好きだって言ってくれて、キスしてくれて、抱いてくれて、してもらうばっかりで、でもそれがすげぇ嬉しくて。 やばいと思った。 オレ自身が変わっていくんだ。 今の状態がこんなに心地よくて、めちゃくちゃ執着していく自分に気づいた。 夢があって、この船に乗り込んだはずなのに、たまにそれがどうにもたまらなく辛くなる。 オレの夢と、お前の夢は離れすぎてる。 お前はオレのために夢を諦めないことも、もしお前がそんなことしたら自分自身が許せないこともわかってる。 でも、失うのが怖い。怖ぇんだよ、ゾロ。 お前に優しくされる度に、お前が笑いかけてくれる度に泣けてきそうになる。 この状態が続くわけないんだってな。 そこまで言って、サンジは顔を上げるとゾロを見てふっと笑った。 「女々しいだろ?・・・・・・忘れてくれよ。」 「やだね。」 オレがそう即答すると、サンジは顔を真っ赤にしてオレを睨み付けた。 「忘れて欲しいんなら、忘れてやるっつったじゃねぇか。」 「だってよ、結局オレのことが好きで好きでたまんねぇっつってんだろ?忘れなきゃいかん内容じゃ無ぇじゃねぇか。」 「・・・・・・てめ、いい加減にしねえとオロスぞ。」 「それによ、お前の不安を取り除けるの、オレしかいねぇじゃねぇか。オレは忘れちゃいかんだろう?」 「ううーっ・・・・・・・・・。」 オレはサンジの頭をオレの肩から降ろすと、サンジに優しく口付けた。 「そんなのお互い様だ。ただお前とオレで決定的な差がある。」 「?」 「お前はオールブルーへ行くんだろ?オレは世界一の大剣豪になる。」 「ああ。」 「で、その後、オレは必ずてめぇのところへ行く!」 「はぁ?」 「てめぇを放す気なんざ、これぽっちもねえってことだ。世界一のコックの横に、世界一の大剣豪がいたっておかしくねえだろ?」 オレがそう言うと、サンジは目を見開いて暫くオレを見つめていたかと思うと、ブブッと吹き出した。 そして、腹を抱えて笑い出した。 「・・・・・・なんか、おかしな事言ったか?」 ゾロが憮然として言うと、サンジはまだ笑いながら答えた。 「オ・・・・・・オレ、また、惚れ直した。」 「そりゃ、どーも。」 クックックと笑いながら、サンジはオレの首に手を回した。 オレもサンジの腰に手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめた。 コイツの不安を完全に取り去ることは、不可能だろう。 オレの夢には、常に死が付き纏う。 だが、オレは死なねぇ。 野望のためにも、コイツのためにも。 もっと、もっと、強くなってコイツの不安を少なくしていけばいい。 「夢を実現させて、てめぇも側にいて、最高の未来だな。」 「あぁ、さしあたって今も十分最高だけどな。」 ゾロはそう言って、サンジの顔を見た。 もう、辛そうな顔ではないいつものサンジの笑顔。 自分で取り戻したサンジの笑顔に満足して、ゾロはサンジにキスをした。 「おら、クソマリモ、さっさと起きやがれ!!」 いつも通りの朝が来た。 「ナミすわーん、朝食できましたよー!野郎共、メシだ、さっさと来やがれ!!」 「こら、クソゴム、人の分まで食ってんじゃねぇ!!」 そのサンジの様子を見て、にっこり笑うゾロとナミの姿があった。 END |
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ゾロを好き過ぎて困るサンジを宥めるゾロv
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