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この船に乗り合わせた時には予想もしなかった事だ。 犬猿の仲? いや……犬と猿の方が絶対に仲がいいだろう。 そう思われても過言ではない、俺とゾロがどこをどう間違えたのか、恋に落ちた。 いわゆる、晴天のヘキレキだ。 その意味はよくわからんが、とにかく、そんな感じ。 バラティエ時代、この11月って言うのは、ハロウィンに始まりホワイトデーに終わる、ラブイベント目白押しのシーズンの中でも、ポ コンと空いた隙間のような、目ぼしいラブイベントが無いつまらない月だと思っていた。 だけど。 今年からは、俺には11月にもラブイベントができてしまった。 anniversary 11月11日はゾロの誕生日だ。 誕生日って言っても、海上で祝うんだから、できる事は限られてる。 たとえば、食材にしても、陸にいるようには思う存分作れるわけではない。 それにプレゼントを用意しようにも、海上に店なんか無いから、そうそう用意できるもんでもない。 まぁ、仲間の誕生日は皆知っているから、誕生日前に島を出る時には、たいてい何かプレゼントは用意してたりする。 って言っても、だ。 この船の金庫番、ナミさんの財布の紐はとにかく固い。紐どころか、財布自体が鋼鉄でできているんじゃないだろうか。 一応、お小遣いは配られるけど、気の利いたプレゼントを買うには僅かすぎる。 特に、この間、出航した島が物価の高い島だったから、どんなに嘆願しても変動為替制度を取り入れてくれないナミさんからのお 小遣いでは、気の利いたどころか、プレゼントになるようなものも買えなかった。 だから、ゾロの誕生日を明日に控えた今日、男連中は甲板や格納庫でコソコソ内職を始めている。 ルフィは似顔絵を描くようだ。しかもカラー。 あの抽象画のような人物画に、色までつけるとは、さすがルフィ。 ツワモノとしか言いようが無い。 ルフィなりに気に入らないのか、何度も下書きを繰り返していたのを見た限り、ゾロが喜ぶとは到底思えない。 が、ゾロがどんな顔をして受け取るのか興味あったから、止めることなくルフィの作品が出来上がるのを待つ事にした。 ウソップは、手先の器用さを利用して、腹巻を編んでいる。 うん。まぁ、これもこれから冬に向かうし……アリかな、と思う。 ただ、小遣いでは余り糸しか手に入らなかったらしくて、色が7色っていうのは、ちょっとアレかと思う。 しかも、しかも、だ。 黄色とか紫とか、蛍光ピンクとか、とにかくファンキーなのは、かなりアレだと思う。 それから、チョッパーというと。 経絡の位置を詳細に示した足ツボ表(?)を作ってる。その絵を見れば、足の裏のどこに何のツボがあるか一目瞭然の優れもの だ。 赤と青、黄色を駆使してツボの位置を示したその表は、ご丁寧にも色に沿って、刺激の仕方まで書いてある。 健康マニアには垂涎の品にも見えた。 ただ、惜しむらくは、ゾロが性格的にそれを使うかどうかだろう。 賭けてもいい。絶対に、使わねぇ。 俺の女神ナミさんは、多分、ゾロの借金関係だと思う。 借金を減らすか、利子を減らすか。 賢いナミさんの事だから、借金を減らしても誕生日後一時的に利率が上がるんだよなぁ。 そんな鬼のような彼女も素敵だ。 っていうか、だ。 借金持ちを相手に選ぶ俺って、人生あえてイバラの道を進んでるような気がする。 まぁ、相手が男って時点で、十分イバラの道なんだから、細かい事はどうでもいいけどな。 むしろ、腹巻して大酒のみでって言ったら、借金でもあった方が、しっくりくるじゃねぇか。 いや、何の話だ。 そうそう。プレゼントか。 ロビンちゃんは、謎だな。 最近は、ゾロもロビンちゃんと接するときに角は取れてきてるけど、あんまり2人で話してるところを見ないしな…… よくわからん。 でもあれだ。 もしも、プレゼントがロビンちゃんのセクシーな唇でキッス☆とかだったら、ゾロを押しのけてでも俺が頂く。 そうだな…… ロビンちゃんがこうくるだろ。そしたら、ゾロをこうやって、俺がこう!!だ。 いや、こうきて、こう!か。 悪く思うな、ゾロ。 ロビンちゃんのキッスは俺が貰った。 こんな風に、仲間のプレゼントは準備万端な感じだ。 でも、肝心な俺のプレゼントはって言うと、な。 まだはっきり決まってない。 結構、前から何にしようか悩んではいる。 一応、恋人ならでは〜ってやつを1つ、考えていたものはあった。 意外なことに俺らはまだ、プラトニックな関係だったりするのだけれども。 キスはしてる。 それも挨拶程度のモノよりも、ちょっと大人寄りのキスだ。 でも、今はそこまで。 やり方が分からないなんて純情ぶるつもりはない。 そんなつもりはないけど、なんかちょっとまだ抵抗もある。 アイツは俺を抱きたいみたいで、俺はアイツを抱きたいと思った事はない。っていうか思えない。 だったら俺が抱かれればいいんじゃねぇ? ……っていうほど、世の中は簡単にはできていない。 そう思えたらいいけど、男が男に抱かれるって結構勇気いるわけだ。 そんな雰囲気になったら、のらりくらりと逃げる毎日。 でも、最近、逃げてるんじゃなくて逃がしてくれてるって事に気付いた。 それって男としてどうよ。 だから……、まぁ、誕生日っていいきっかけじゃね?って思ったわけさ。 それで、前の島で、本屋に寄って雑誌を色々、捲って見たらよ。 丁度、来月に控えるクリスマスの特集記事にあった、「男が貰って嬉しいMONO特集」を見ると、意外にも世間の男って現実味が あるんで驚いた。 好きな彼女が自分にリボン巻いて「私がプレゼントv」なんて言った日には、俺なら天にも昇る気分になるけど、世間の男はドンびく らしい。 そうか。 って事は、だ。 俺がリボン巻いて、「俺がプレゼントだ」って言っても、ゾロはドンびくって事か。 まぁ、それ以前に、俺にリボンって時点で結構、ひくだろう。 でも、近い事を考えてたから焦った。 かといって、1位の時計なんかは、両手で剣を握るゾロには邪魔になるだろうし、2位の手帳なんてのもアイツが活用する姿は、犬 が背泳する以上に想像できねぇ。 他、ネクタイだ、指輪だ―――ってなっても、どれもこれも、ゾロにはピンと来ない。 服なんかどうだろうと思ったけど、あの島で小遣いの範囲で買える服は、恐ろしくアレな物しかなかった。 折角の特集号だったが、参考になったようで、参考にならなかった。 散々悩んだ挙句に買ったのは、酒だ。 代わり映えしねぇ。 こんな関係になって初めてのイベントだっていうのに。 でも、酒でも買っておかないと、リボンを巻くのは自分自身になりかねないところだったから、仕方ないといえば仕方ない。 ひかれるよりかは、いいだろう。 それに、他の連中の様に、時間をかけて用意するのは、やっぱり俺には向かないと思う。 食事の支度だけでも結構時間を取られるし、他にも食料の在庫確認や、みかん畑の整備、その他片付け諸々。 正直、プレゼントにだけ構っていられない。 特に、今夜は日付を跨いでゾロの誕生日を祝うって事だから、その支度だけでも朝から大変だ。 芸がないようだけど、酒っていう選択はある意味妥当だったと思う。 こうやってグリグリ考えている間、当の本人がどうしているかっていうと。 後甲板を伺う船窓から覗けば、錘を振り回してた。 ありえない重さの錘を何千回も振り回しているから、錨なんてものを素手で下ろせるのか。 もう、そんなゾロの力自体がありえない。 俺の視線に気づいたゾロが、片方の口角を上げて見せるから、全身の皮膚が粟立つ。 しかし、人の気持ちっていうのは、かくも変わるものか。鍛錬しているゾロを見て、鳥肌が立つほどムカついた頃もあったのに、今 では顔がにやける俺がいる。 恋って偉大だ。 でもこのままじゃやられっぱなしな気がして、意趣返しに右目でウィンクしてみる事にした。 やってから気が付いた。右目しか出てねえから、アイツにはウィンクに見えねぇじゃん。 なのに、一瞬考えたゾロにニヤリと笑って、綺麗なウィンクを返された。 もう駄目だ。 正直。かなり好きだ。 いや、結構、大好きだ。 堪んない程、大好きだ、この野郎! 照れ隠しに船窓越しに「何食いたい?」って訊いたら、そりゃあ爽やかな男前な笑顔で「オマエ」って答えやがる。 うわぁぁ……どっきーん! 超ときめいた−!! やっぱり好きだー!! かっこいいー!! 煮るなり焼くなり、好きにしろー!! ドキドキしながら火照る頬を両手で挟んで床にペタリと座ったら、ふと閃いた。 今だ。絶対この勢いを逃してはならない。 腹をくくれ、俺! ケツの穴にチンコの1本や2本、入れてやろうじゃねぇか!! 覚悟しやがれ!! や、覚悟するのは、俺か!? * * * * * その夜の誕生日パーティーは、飾りつけた甲板で行う事になっている。 飾り付けの方は、俺以外の仲間全員で夕方までに終えていた。 俺は、主役の為に最高の料理を作る事に専念したから、飾り付けには殆ど参加していない。 朝からキッチンに篭って作ったパーティーの食事メニューには、愛情っていうスパイスをふんだんに使って腕によりをかけた、最高 のものを用意済みだ。 後は、アイツリクエストの、料理「オマエ」の為の準備だけだった。 コトがコトだけに、シャワーでも浴びておきたいって思ったけど、あまりにも不自然だろう。 どうしようか悩みながら甲板に出したテーブルに皿を並べる。 すると、飾り付け中のナミさんにカラースプレーをかけられた。 「あ、ごめん! サンジ君!」 「大じょ〜ぶでっすv」 もう、彼女のする事は全て許せる俺だけど、今は、不自然なくシャワーを浴びる口実を作ってくれた彼女を、全てを許すだけではな く、抱きしめて愛も叫びたい。 着替えの口実も合わせもった、素晴らしいナミさんのお力添えもあって、俺は極々自然にシャワーを済ませ、着替えられることにな った。 まぁ、料理「オマエ」の下準備って所だな。 件の雑誌によれば、「ヤル気満々な所にひく」ってなってたから、髪もきっちりセットしたい所だけど、シャワーを浴びて身体を綺麗 に清める位で止めておいた。 この料理。 ポイントは、生鮮食品って事だ。 下準備さえしとけば、煮て食うか、焼いて食うかは受け取ったゾロが決める。 だから、俺はまな板の上に乗った魚みてぇに、鱗を剥がされるのを待てばいい。 要は、このシャワーを浴びた時点で、プレゼント料理「オマエ」としては成り立ったわけだ。 でも、プレゼントって言ったら、肝心なのはラッピングだろ? ラッピングとはいえ、箱に入ってゾロが開けた途端飛び出すっていうのもどうかと思うから、新しいシャツに袖を通して、少し前に新 調したスーツを着る事にした。 仕上げが問題のリボンだ。 「プレゼントはわ・た・しv」作戦は、男がドン引く。 それは既にリサーチ済みだ。 このリボンって言うのが、駄目なんだ絶対。 しかも、俺は男だ。 どこにリボンなんか、巻くってんだ。 でもな。 プレゼントにはリボンが大事だろ? あのルフィでさえ、完成した似顔絵に、ナミさんにもらったリボンを巻いてたぜ? プレゼントにリボンがなけりゃよ、開ける楽しみ半減すんじゃねぇか。 そう。 開ける楽しみの為に、そしてゾロをドン引かせない為に。 俺が選んだのは、蝶ネクタイだった。 しかも、出来合いの品じゃない。 一本物のタイは巻くのにコツがいるけど、これで解く楽しみもあるってもんだ。 っていうか、それは既にリボンじゃないか、なんて考えは俺には浮かばない。 それよりも、この妙に礼装くさいこの服装が、結構、不自然だから、どう誤魔化そうかを考えていた。 そこで思いついたのが。 「チョッパー、足ツボより笑いのツボ押さねぇ?」 「え? なんだ、サンジ。漫才でもやんのか?」 「手品とどっちがいい?」 「手品もできんのか!?」 できらいでか。 バラティエ時代に、船上パーティーなんかに呼ばれて出張料理に行けば、よく舞台芸人が招かれていた。 中には、漫才師や手品師もいたから、簡単なものなら女の子にうけると思って教えてもらったもんだ。 それがここにきて、役立とうとは。 人生の巡り会わせって、すげぇ。 こうして、俺のプレゼントは完成した。 甲板に戻ると、船の飾り付けも完成していた。 料理の方も完成している。 日が沈めば、ゾロの「お誕生日会」のスタートだ。 「サンジ君、さっきはごめんね」 キッチンに戻って、せっかくのスーツを汚さないように、エプロンを巻いてたら麗しのナミさんがやって来た。 ナミさんの後ろには、アルカイックスマイルが素敵なロビンちゃんもいる。 「大丈夫ですよ〜v シャワー浴びて着替えてきましたからv」 むしろ、僕ぁ、貴女に感謝したいvvv 「あら。コックさん、今日のタイは変わってるのね」 目ざといロビンちゃんの指摘に、ちょっとドキっとしたけど、 「え? あぁ、今日、手品をしようと思って」 なんてニッコリ笑って言えば問題ないだろう。 「手品するのに、タイを替えたの?」 見透かすようなロビンちゃんの笑顔に、背中を汗が伝う。 大丈夫、絶対にバレねぇ。 「えぇ。……こういうのって…、服装からかと思って……」 なのに、シドロモドロな俺がいる。 なんだろう。 お2人の笑顔が妙に温かくて……心底、怖い。 「あら。このケーキ、自分でラッピングしちゃったのね」 ナミさんまで言う。 「ふふ、覚悟決めたのね」 ロビンちゃんも。 大丈夫だ、しらをきれ、俺!!! なのに、女の子に嘘をつけないのが、俺。 「えー……っと……」 言葉に詰まって、へらって笑えば、ナミさんとロビンちゃんは、満足気に笑って頷いた。 「それはそれで可愛いわ。でも、そうなると、私達からのプレゼントが無くなっちゃうから、サンジ君、これもつけてね」 そう言って、ナミさんとロビンちゃんは、それぞれに俺の前髪にリボンを巻いて、来た時同様、パタパタと立ち去って行った。 スウィートでマーベラスで、ファンタスティックな2人に囲まれるのは、最高の気分だ。 だけど、なんだ? いったい…… * * * * * 誕生日おめでとうの言葉と、はじける笑顔で始まったゾロのお誕生日会。 昨夜から、ほぼ1日がかりの料理が1時間弱で、テーブルの上から消えていく。 作ったからには食べてもらいたいのが心情だから嬉しいけど、あまりにもマナー違反な食い方のルフィに教育的指導の為に蹴りを 落とした。 そんなルフィの服には食べこぼし以外にも、色んな色が付いてる。 ゾロの似顔絵は、なかなか、壮絶な仕上がりになったようだ。 食事が一段落した頃に、その壮絶な仕上がりの似顔絵と思われる紙の筒を、ルフィがゾロに渡した。 「ゾロ、プレゼントだ」 にしし、と笑って渡された品を、礼を言って受け取ったゾロの笑顔が固まる。 そこには、骨格筋の躍動感を完璧に表現された、鍛錬をしているゾロの姿が鉛筆画で描かれていた。 「あっ! お前、それっ、俺がさっき描いてたヤツじゃねぇか!!!」 「ケチくさい事いうなよウソップ」 「お前が描いてたのはどうしたよ!? あの緑の宇宙人!」 そうか、そうだよな、というため息が皆から漏れる。 「あれか! あれはナミのケツの下だ」 「え!? ちょ、ちょっとウソ!! きゃー! あんたっ何してくれてんのよ! このスカート買ったばっかりなのに!」 「お前が座るからだろ。で、仕方なくウソップのを――」 「うっさい!! こんなところに置いてる方が悪い!」 なんともガキ臭い言い争いだけど、船長が船長だから仕方ない。 常日頃こんなモンだ。 それでも、ゾロはルフィの描いた緑星人の絵を礼を言って受け取っていた。 豪気な奴め。 そこに、エヘンと咳払いしたのがウソップだ。銀色の包装紙に包んだ品をゾロに胸をそらして渡している。 自慢気だ。 よほど自信作なんだろう。 あのアレな腹巻きが。 「これから寒くなるしよ。腹冷えるだろ。まぁ使ってくれよ」 「俺様にかかっちゃ朝飯前だけどよ。色替えの時に編み物しちゃいけない病にかかったから大変だったんだぜ〜!それをお前を思っ て必死に克服して打ち勝って仕上げた品だ!右横にはお前のイメージ三本刀を刺繍したんだけど、それが難しくてよ!悪戦苦闘し たぜ!何してんだ。早く中を見てくれよ」 ウソップが早口にプレゼントについて熱く語り始める。 それに、ゾロが即答した。 「腹巻だろ」 「ゾロっ、なんで見る前に分かるんだ!すげぇ」 って分かるだろうよ。 ほぼ言ってたじゃねぇか。 銀色の包装紙を開けば蛍光ピンクを基調に紫とオレンジ、黄色と青、緑、ラメ入りの黒をアグレッシブかつパッシブに織り込んだ腹 巻が出てきた。 製作段階よりかなりアレな上に、胴の短いゾロには丈の長い品だ。 件の雑誌のもらって嬉しくないランキングにはノミネートすらされないファンキーさはいっそ清々しい。 「ちょうど欲しかったんだ。助かる」 それも礼を言って受け取ったゾロ。実はかなりいい奴だ。 でも、アレを身に付けられたら、身だしなみには人一倍気を遣う俺としては複雑な心境かもしれない。 次にプレゼントを渡したのはチョッパーだ。 リボンで結わえただけの、例の足ツボ表と先の丸い棒を、えへえへと笑いながらゾロに差し出している。 ゾロの表情に一瞬疑問符が浮かんだが、チョッパーが説明をすれば、「すげぇな」と驚いてみせた後、やはり嬉しそうに礼を言って 受け取っていた。 ただ、一瞬の疑問符に焦ったチョッパーが俺との出し物をバラしたから、ナミさんとロビンちゃんのプレゼントを見る前に披露する羽 目になった。 手品のつもりだったが、やる気満々のチョッパーをを満足させる為に急遽練習したグラスハープだ。音感には自信あるから、グラス に張った水の量でドからドまでの8音を再現。グラスの淵を撫でて音を出し、ハッピーバースデーの曲をチョッパーと2人で演奏する。 これも、ショースターに教えてもらった余興の技だ。 チョッパーは漫才よりも満足気だし、蝶ネクタイの意味は隠せる。 自分的に上手い方法だと思った。 最後の一音が綺麗に決まると、ゾロは嬉しそうに手を叩いてくれた。 俺としては、この余興はプレゼントのオマケみたいなものだったけど、喜んでもらえたらそれはそれで嬉しい。 思わず照れ隠しにファの水を飲み干す。 「すげぇだろ、ゾロ! サンジは、手品もできるって言ってたぞ!」 「そうか、凄ぇな」 チョッパーの報告に、答えるゾロの言葉に、ミの水も飲み干す。 その時。 「私と、ロビンからは――――」 ナミさんが唐突に、俺の背を突き飛ばした。 前のめりに倒れかけた俺の身体を、5本のロビンちゃんの手が支える。 ありがとう、ロビンちゃん。 そう言う前に、俺の身体は、宙を舞っていた。 何が起きてるのか分からない。 分かったのは、ゾロの膝の上に放り投げられた時に、ここに運ばれたんだという事だけだ。 彼女達の意図する所も、何がどうしたらこうなって、これから何が起こるのかってあたりも理解できていなかった。 胡坐をかいたゾロの膝の上に対面で座らされた俺は、アホみたいに目と口を開いて唖然とする。 それは、ゾロも同じだったようで、突然膝の上にドスンと落とされた俺を、片眉を上げてキョトンと見ていたが。 「美味しく食べて!」 っていう、ナミさんの言葉と。 「ゆっくり味わって」 っていうロビンちゃんの言葉と。 俺の前髪に結わえられたままのリボンを見て、悟ったようにゾロは笑った。 「あぁ、ずっと食いたかったんだ。ありがてぇ」 そう言ったゾロの笑顔は。 他のどのプレゼントを受け取った時よりも、いい顔をしていた。 ん? あら? お? おぉ!? 俺、料理「オマエ」をゾロにプレゼントする前に、ゾロにプレゼントされてないか!? 犬歯を見せて笑うゾロが、ナミさんの巻いたリボンをスルリと外す。 「あ、……なぁ、ゾロ」 結び目が硬かったのか、格闘するゾロに声をかけるが、適当な鼻歌なんかで誤魔化された。 「なぁって、ちょ、ちょっと待てよ」 これを受け取られちゃ、困るんだよ。 だって、俺のプレゼントは、料理「オマエ」なんだてば! 本気で、あの芸のない酒がプレゼントになっちまう! ナミさんのリボンが、サラっと音をたてて外れ、前髪がパサリと落ちてきた。 「あのな、ゾロっ、これは彼女達が――――」 「私たちがな〜に? サンジ君」 「あ――、あ、いや……」 そうこうしている間に、ロビンちゃんのリボンも解かれた。 あ―…… 料理「オマエ」がああああああああ…… 下準備ばっちりなのに。 下拵えだけして、料理もする人間は同じだけどさ。 これって、中華の下拵えした材料で、和食作られるようなもんじゃね? なんか、先に出し抜かれた様な気分で、ガックリと項垂れた。 その項垂れてる俺の旋毛に、口付けて、ゾロが言う。 「このリボンも、俺が解いていいんだろ?」 トン、とゾロの指先が突いたのは、俺の結んだリボン。 蝶ネクタイだった。 「へ?」 視線を向けた先には、右側の口角を上げて笑う、ゾロがいた。 少しテレたような、明るい笑顔がカッコいい。 あぁ、もう。 だから、その顔は反則だ――――って、まだ、言って無かったか。 恋のツボにミラクルヒットだ、このヤロウ!!!! 「あぁ、もうっ! 煮るなり焼くなり、好きにしていい!」 火照る頬を感じながら、ゾロの肩を掴んで言えば。 熱い頬に、ゾロの厚い手が添えられた。 「じゃぁ、遠慮なくイタダキマス」 重ねられた唇は、少しかさついていて。 唇を這う舌は、燃えるように熱かった。 この舌で、俺を焼いて食い尽くしてくれていいのに。 ドキドキ逸る心臓の拍動は、まるで、ゾロへの恋心のバロメーターみたいだ。 速度計でもついていようものなら、メーターぶっちぎるだろう。 好きだ。 堪らないほど好きだ! どうしようもないほど、大好きだ!! 「あぁ、どうしよう……すっげ、好き」 「そうか」 俺もだ、一緒だな。 そう言って、頭を撫でる手の優しさが好き。 誰も欲しがらない様な物でも、自分のために作ってくれた物は、ちゃんと受け取って礼を言えるゾロが好き。 それは、たとえ泥だらけのオニギリでも、緑星人な似顔絵でも、ファンキーな腹巻でも、足ツボ表でも変わらない。 この厚く、熱い手が人を斬るだけじゃなくて、人の思いやりを感じ取れる手だって俺は、知っている。 たとえ、世界中の男がドンびく「自分プレゼント」だとしても、ゾロは大丈夫だろう。 ほんの少し深くなった口付けを、目を閉ざして受け入れる。 で。 すっかり忘れてた。 今の状況を。 「「「ここで、始めんな!!!!」」」 むぅ…… いい流れだったのに…… まぁ、今はな。 しょうがないか。 だから、ゾロと2人額を寄せ合って、「今夜」の約束を交わす。 この恋は、まだ始まったばかり。 焦る必要はない。 下準備が済んだだけの、料理「オマエ」は、無事ゾロに受け渡された。 後は、調理されるのを待つだけ。 海の超一流コックで、ラブコックの俺は知っている。 そう。 そうして調理された料理の名を正しくは―――― 愛という。 終 |
またしても、「薇々庵」響さんとこから頂いちゃいましたv もう、読んだ瞬間、「きゃ〜っ!!サンジ可愛い、サンジ可愛い!」と連発して叫びたい心境。 そうよね、折角自分でさり気におリボンしてあげようと思ったのに、更に上からおリボンされて自分以外からのプレゼントにされちゃ |
堪らんよね、サンジ! でも、それをちゃんと解ってるゾロに萌え〜vv |
豪いぞ、ゾロ!それでこそ男だ!! |
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響さん、悶える様なラブラブSSをありがとうございました。
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