(オレって、世界一友達運の無い男かも・・・・・・。) ウソップは、イーストブルー高校の校門前で目の前に立つセーラー服姿の親友を見ながら大きな溜息を付いていた。 それもその筈。 幾ら、そのセーラーの袖から覗く腕が、スカートの裾から覗く脚が色白でスラッと細く綺麗でも。 幾ら、その容姿がその辺にいる10並の女の子顔負けの凄い美形でも。 幾ら、太陽の光に輝き人目を惹くサラサラの金髪でも。 空のようなな青い瞳でも、スレンダーな肢体でも、モデル並みの背の高さでも。 目の前で、人待ち顔で校門から中を覗いているのは・・・・・・男なのだから。 ウソップの友人サンジがいつものアホさ以上にその破天荒さぶりを発揮したのは、今から1ヶ月前。 そう、バラティエ高校での生活に慣れた夏休み明けの9月末だった。 姉妹校イーストブルー高校との恒例スポーツ大会で、バスケットの試合を大勝で終えたサンジが応援席に居たウソップを伴って、 |
武道場の横を通りかかった。 武道場では、剣道の試合の真っ最中。 大将戦まで縺れ込んだようで、豪い盛り上がりように2人が開いていた扉から覗き込んだときだった。 相手校大将が放つ殺気は凄まじく、自校の選手は怯えているようで。 「始めっ!!」の合図に一瞬の間の後、鋭い掛け声とパァンと鳴る竹刀の音。 全く見えないその技に、会場がシンと静まり返る。 「勝者、イーストブルー高校ロロノア・ゾロ!!」 審判の声に、わぁーっと歓声が響き渡る。 試合後の礼の後、待ち受ける仲間たちの中に戻るゾロと呼ばれた青年が面を取ると、キャーッと女の子達の歓声が上がった。 そんなゾロを食い入るように見つめるサンジに気付かなかったウソップは、 「さすが、ゾロだな。」 と言葉を漏らしたのがいけなかった。 サンジが物凄い勢いでウソップの方に顔を向け、襟首を掴み上げて喚いた。 「あれ、誰だ?ゾロ?ウソップ、知り合いかっ!!」 「お、おう。小学校の時の同級生だ。」 尻込みしながらもウソップが言えば、サンジの顔がパァッと輝く。 「てめぇのこと、ゾロってヤツも知ってんのか?」 「おう。一応今も連絡取り合ってる仲だからよ。」 ヨッシャーッとガッツポーズをする親友に、ウソップは漸く解放された首を擦りながら聞いた。 「ゾロがどうかしたのか?」 そう、聞いたのが間違いだった。 「おう。惚れた。紹介してくれ。」 たっぷり1分は固まったウソップが「は?」と言葉を返した時には、サンジはゾロの剣道着姿をホーッと見惚れていて聞いてなかった。 そこからのサンジの行動は早かった。 ウソップからゾロの小学校時代の情報(家とか電話番号とか)を聞き出すと、イーストブルー高校に通うサンジの友人コーザを呼び出した。 たまたま、コーザがゾロの今の友人であることもあって、現在のゾロの情報は瞬く間に集まった。 勿論、女の子絡みの。 今のところ、ゾロに付き合っている彼女は居ないらしい。 というか、目茶目茶モテるのに、全く振り向かないらしい。 イーストブルー高校一の美女に限らず、隣接校全ての所謂人気のある女の子連中は一度はゾロに告白して振られていると言うのだ。 告白したその場で、「悪ぃ。あんたに興味ねぇ。」とばっさり切り捨てるその光景をコーザは何度も目撃している。 一時はソッチ系かと噂もされ、それを真に受けた男が何人かゾロに言い寄ったが、それも以下同文。 目下の説では、物凄い面食いなのではと言うのが最有力らしい。 コーザの彼女ビビも、ウソップの彼女カヤもその辺歩けば10人中8,9人は振り向く美人だが、ゾロに言わせれば「いいんじゃねぇの。」程 度。 コーザにさえ好みの女のタイプは言わない、というかそういう話題にすらならないと言う。 そこで、うーんとサンジが悩んで悩んで悩みまくって出した結論。 それが冒頭の女装だった。 ウソップが、ゾロに話があると持ち掛けたのが昨日の夕方。 そして、今日の放課後、剣道部の練習が無い火曜日に校門前で待つと伝えた。 (なんで、オレが男同士の告白劇に付き合わなきゃならんのかね?) 何度目かの溜息を付いたとき、サンジがウソップを手招きする。 「あれだろっ、あれっ!!ウソップ、頼む!」 顔の前で両手を合わせて拝まれてもとウソップが落胆しつつ校門から中を覗けば、校舎から出てきたゾロが「おう。」と右手を上げる。 ウソップの後ろでサンジが 「打ち合わせとおりに頼むぞ。」 と言ってその場を後にする。 やれやれと肩を竦め、振り向けばそこにゾロが居た。 「何の用だ?」 「あ、あぁ、悪ぃな、ゾロ。ちょっと野暮用でよ。そこの公園までちっと顔貸してくれ。」 「・・・・・・ふーん。ま、いいけどよ。」 ゾロの訝しげながらも了承を得て、ウソップはホッとしながらゾロと並んで近くの公園へ向かった。 サンジの計画はこうだ。 『女の子として自分をゾロに紹介する。 美貌にだけは自信がある。 幾らゾロが面食いでも、自分の容姿にゃノックアウトだ。 とりあえず、付き合って頃合を見て実は男だと言う。 そのころにはゾロは自分にベタ惚れだから男だろうと構いやしないだろう。』 幾らなんでもそりゃ無茶なんじゃねぇの? ウソップは内心突っ込みながらも協力することにした。 親友サンジのアホ振りには常日頃から困らされっぱなしだから。 偶には痛い目見るのもいいだろうと考えたのだ。 だが、しかし。 神はサンジに味方した。 「こいつ、オレの友人なんだけど、ゾロに惚れたんだってよ。」 ウソップがそう言うと、ゾロは一瞬鳩が豆鉄砲食らったように驚いたがすぐにニヤッと笑った。 そして言ったのだ。 「へぇ、いいぜ。付き合おう。名前なんてんだ?」 その週末、デートにこぎつけたサンジ。 当然男のカッコじゃやばいからと、お隣のお姉さんロビンちゃんに洋服を借りた。 淡い橙色にコスモス柄のノースリーブワンピースに、ベージュ色のジャケット。 靴は自分のベージュのローファーだ。 何度も玄関の鏡で確認し、可笑しくないか確かめたから大丈夫。 サンジは絶対ばれない自信があった。 ただ、隣で笑っている分には、だ。 映画を見て、昼食は自分が作ったお弁当を公園で食べ、ショッピングモールでウィンドウショッピング。 サンジはあまり声を出すと男とばれるから、なるべく話さないという普段から考えると有り得ない状況だったのだが。 それでも、ゾロが自分と手を繋いだり、さりげなく微笑みかけてくれたりしてくれるのが嬉しくてウキウキしていた。 そして、もう時刻も6時になり、そろそろと思っていた時。 ゾロが駅のホームでサンジの腰を抱き寄せた。 えっと思ってゾロを見ると、 「今日、親家にいねぇんだ。メシ、作ってくれねぇか?」 と言ってきた。 願っても無いことだが、家に誰も居ないと言うことは・・・・・・・・・そういうこと? 思わずエロい方に考えが及んで、少し躊躇するサンジにゾロが追い討ちをかける。 「てめぇに来て欲しいんだ。頼む。」 耳元で低く甘く響く声に、サンジの脚が震える。 やばいと本能は訴えていたが、ゾロの誘いを拒みきれるはずも無く。 サンジはコクコクと頷くことしかできなかった。 ゾロの家の近くで買い物を済ませ、そのまま家に上がり、夕食を作って二人で食べて。 テレビを見ながらお茶を飲むゾロを視界に入れて、サンジは汚れた食器を洗う。 幸せだなぁと思う反面、このままだとなだれ込んじまうかもと危惧することも忘れない。 片付け終わったら帰らなくちゃと、洗い物を終えて台拭きでテーブルを拭いているとゾロがサンジの方へ湯飲みを持って歩いてきた。 「なぁ、明日何か用あんのか?」 (きたーーーーーっ!!!) 内心焦りながらも、嘘を付く技術など緊張しすぎて発揮できないサンジ。 フルフルと首を横に振ると、ゾロがサンジの体を後ろから抱き締めてきた。 「初めてのデートでって思うかもしれねぇけど、てめぇ見てっと我慢できねぇ。・・・・・・いいか?抱いても・・・・・・。」 「・・・・・・え、っと・・・その・・・・・・っん?!」 答えに窮しているサンジの顎を自分のほうへ向けて、それを覗き込むようにキスをするゾロ。 抵抗しようにも、ゾロは後ろに居るので身を捩ることくらいしか出来ない。 それも、廻された腕でガッチリホールドされているためほとんど不可能で。 次第に深くなる口付けに、サンジの頭は何も考えられなくなっていく。 「?!!」 しかし、ゾロの前へ廻された手が胸の辺りに来たとき、サンジがハッと我に返った。 (やべぇっ!!!ばれちまう!!) その手を自分の両手で押さえ、なんとか首を振り、ゾロのキスから逃れる。 体は拘束されたままだが。 「あ、あの・・・・・・。」 「いいじゃねぇか。・・・・・・サンジ。」 「えっと・・・・・・・・・え?!!」 呼ばれた名前にギクッとしてゾロを見れば、ニヤニヤ笑いながらサンジを見るゾロ。 名前はサンジと教えていない。 女の子なのだからサンジはまずいと、ミキとか言ったはずだ。 名を名乗ってから今の今まで、ゾロは名前を呼ばなかったが。 「てめぇ、ウソップの友達のサンジだろ。知ってんぜ。」 「!!てめぇ・・・・・・知ってて、なんで?」 そこで、ゾロがサンジの拘束を解いてドカッと床に座り込む。 サンジもゾロの前に腰を下ろした。 相手の出方を待とうというのか、どちらも口を開かない。 そうして暫く経った後、サンジが堪らなくなって声を出した。 「・・・・・・なんで?」 「・・・・・・てめぇの遊びに乗ってやろうと思ってよ。」 「遊び、だと?!」 「遊んでんだろ。オレの気持ち知ってて。」 「???てめぇの気持ち?」 苦々しげに話すゾロに、サンジが首を傾げる。 それを見てゾロも、おかしいと感じたのかパチパチと瞬きする。 「・・・・・・遊ぶも何も、オレはてめぇに惚れてんだ。・・・・・・男だけどよ。」 サンジがそう言うと、ゾロは目を見開いて口をポカンと開けた。 そして、暫く放心していたが 「いや、実はオレもてめぇに惚れてんだ。」 と返してきた。 「は?」 今度はサンジが呆ける番だった。 ゾロ曰く、先日のスポーツ大会で試合前に体育館横を通ったとき、たまたまやっていたサンジたちのバスケの試合。 シュートを決めたサンジの、輝くような笑顔にもうそりゃ胸をぶち抜かれたような衝撃が走ったと言う。 その場ではいやまさかと思い、気を取り直して試合に臨んだものの。 試合直前に普段ならしない余所見なんぞしたら、目に飛び込んできた金髪。 ここで勝たにゃ男が廃るといつも以上に頑張った結果が、あの一瞬の試合だったと言うのだ。 「え、えーと・・・・・・じゃあ、じゃあって・・・・・・マジ?」 「おう。」 「・・・・・・・・・んじゃ、スる?」 「・・・・・・いや、シねぇ。」 ゾロが首を振り、サンジが何でと聞くとゾロはサンジを上から下まで見て言った。 「女の格好してるから欲情してんだと思われたくねぇ。」 「・・・・・・ゾロ。」 「明日、2時。いつもの格好してここに来い。もし、てめぇが来たら抱くぞ。・・・・・・遊びなら来んじゃねぇ、いいな。」 「うしっ、てめぇもな。オレに興味なくてヤッパ無理って思うんなら、家に居んじゃねぇぞ。」 決闘前の様な張り詰めた空気に違和感を覚えながらも互いにコクコクと頷き、結論は翌日に持ち越された。 (オレって、世界一友達運の無い男かも・・・・・・。) ウソップは、バラティエ高校の教室で目の前に座る親友を見ながら大きな溜息を付いていた。 それもその筈。 幾ら、へらへら笑うその顔がいつになく晴れやかでも。 幾ら、いつも分けてくれない弁当を突付いて文句言われなくても。 幾ら、話している内容が自分の旧知の友人のことでも。 嬉しそうでも、楽しそうでも、あーもうどうでも。 目の前で、どうだとひけらかすように話されている内容は・・・・・・男同士のあの時の話なのだから。 「でよ、ゾロがオレん中入ってきたときよ、ま、初めてだったからちっと痛かったんだけど。あいつがさ、凄いギュッと抱き締めてくれて |
オレの耳元で囁くんだ。『・・・・・・堪んねぇ・・・・・・。』ってよ。くぁ〜っ、クるっ!クるだろ、おい!もうオレその場で昇天しそうになって
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さぁ・・・・・・」 朝から暇さえあればと、何度この話を聞かされたろう。 サンジが登校して来た時、3階から飛び降りてもピンピンしていた足腰がちょっと覚束無さそうだったのを指摘したのが間違いだった。 「それがよ〜っvv」 語尾にハートマーク付きで語られた内容が、昨日の日曜日のゾロとの情事で。 親友と友人がデキちゃったショックにウソップの方こそ昇天しそうになりながらも、聞かないとぶっ飛ばされ(蹴っ飛ばされ)そうな勢いに |
相槌だけは返しておく。 そんな自分の気弱さにちょっぴり情けなさを覚えつつ、ウソップはまたサンジにばれないように溜息を一つ。 これからの自分の高校生活を憂えながらも、ウソップの昼休憩は拷問の中過ぎていくのであった。 |
END |
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ゾロの気を惹くために女装するサンジv
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