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「・・・・・・『邪魔、しないで』・・・・・・か。」 サンジは閉められた扉の前で、フウッと息を吐いた。 サンジが彼女と出会ったのは3日前の11月8日、この島に着いて直ぐ、偶然の出来事だった。 初日の市場視察も無事済んで、さてナンパでもと街中へ戻った時だった。 出会い頭にサンジの胸に飛び込んできたのは、着物姿の若い女の子だった。 何とか無事抱き止めて、顔を覗こうにもしがみつかれて身動きが取れない。 そうしていると、女の子が飛び出てきた路地から出てきたのは想像通り、見るからに柄の悪そうなチンピラ共。 ざっと、12、3人ってとこか。 「・・・・・・た、たすけてっ・・・・・助けてくださいっ!!」 漸く女の子が顔を上げて、サンジに懇願する。 黒髪でストレートのロングヘア、サンジに負けず劣らずの白い肌、可愛らしいというよりは美しいと評される容貌、薄桃色の振 袖姿。 全てサンジのメロリン魂を刺激する要素で満載だった。 「お嬢さん。あなたに出会えた幸運に眩暈がしそうです。後で、お茶でもご一緒にいかがですか?」 目の前で凄む男共には目もくれず、サンジはハートのおめめで女の子の手を握り、話し掛ける。 「おい、眩暈なら、俺達がお見舞いしてやるぜ。その子、さっさとこっち寄越せ。痛い目みねぇうちにな。」 「・・・・・・全く、てめぇらのせいでいい気分が台無しだ。あ、お嬢さん、下がってて。直ぐ片付けちゃうから。後でお茶でもご一 緒に、ね。」 サンジはそう言って、女の子を自分の背に廻して、男たちと対峙する。 男達は、サンジの優男そうな外見に惑わされているのか、少しも怯む様子はない。 (こんな時、クソ剣士なら殺気一つでOKなんだが。・・・・・・ちっ、オレの美貌で殺気も半減か?) サンジがくだらないことを考えているうちに、相手が突っ込んできた。 軽く脚を振り上げて、顔面にその強靭なキックをお見舞いしてやる。 ゴキッと音がしたのは、さては鼻っ柱でも圧し折ったか。 血を噴出して倒れる仲間に、自分たちの推測が間違っていたことに気付いたのか、相手に躊躇が生まれた。 そこをサンジが突っ込まないわけがない。 「レディに手ぇ出すヤツぁ、オレが許さねぇっ!!!」 手を地面について、その場に居るヤツらの背中や太ももに蹴りを食らわせてやる。 サンジが立ち上がった時には、相手方で立っている者は1人もいなかった。 手をパンパンと払いながら振り向くと、先ほどの女の子が律儀にもその場に立ってペコリとお辞儀をする。 「あ、あの・・・・・・ありがとう、ございました。私・・・・・・私、マナです。」 震えながらお礼を言う女の子に、サンジの頬が緩む。 「オレぁ、サンジ。マナちゃん、大丈夫だったかい?もしよかったら、オレの船来ない?街中じゃ不安だろうし、オレらの船なら 多分襲ってこねぇから。」 サンジが誘うと、少し戸惑いながらもコクンと頷く。 「では、どうぞ。レディ。」 サンジが腕を差し出すと、女の子がその腕に手を絡める。 船に向かって歩き出す2人を、後ろで見ていた剣士が居たことにサンジは気付かなかった。 キッチンに彼女を招き入れ紅茶とパンケーキを差し出すと、にっこり笑ってありがとうと言うマナ。 可愛いなぁとメロリンしていると、甲板にダンッと飛び降りる音がする。 そして、ガツガツと大きな音を立てて歩くブーツの靴音。 (あ、・・・・・・忘れてた。) サンジがふと思い出して扉を見ると同時に、バンッと開いたそこに顔をひょっこり出したのはGM号で唯一刀を扱う剣士ゾロ。 マナがあらっと言う顔をしているのを完全に無視して、ゾロはサンジに出て来いと親指を立ててクイクイッと外を示す。 サンジはマナにちょっと待っててねとウィンクして、ゾロの後を追いかけた。 「何だよ!レディに挨拶もなしで。てめぇは目も見えねぇのか?口も利けねぇのか?ああん?」 「・・・・・・・・・言いたいことはそれだけか?」 サンジが畳み掛けるように言うのを最後まで聞き届けてから、ゾロはドスの利いた低い声で脅すように口を開いた。 日頃のサンジなら、そんなゾロの態度に負けずに機関銃のように喚きまくる(もしくは蹴りを繰り出す)のだが、いかんせん今 回は分が悪い。 「てめぇが、用があるから戻って来いっつーから、港から離れねぇで待ってたんじゃねぇか。」 そう、その通りです。 サンジは心の中でごめんと謝りながらも素直に口に出せない。 そもそも、事の始めはサンジが言い出したのだ。 この島に着く少し前、サンジはゾロに「話がある。」と。 ナミに言い付けられた船番は、1日目サンジ、2日目ゾロ、3日目ウソップだったので、サンジはゾロに1日目船に残って欲し い旨を伝えたのだ。 珍しく殊勝に、喧嘩腰にならずにそりゃもう丁重に。 サンジがそんな態度に出たのに驚いたのか、ゾロは何度も瞬きを繰り返してサンジをジィーッと見つめて、狐に摘まれたよう な顔をしてコクンコクンと可愛らしく頷く有様だった。 それが、ゾロ以外人間が居て、しかも見ようによればサンジのナンパとも取れるこの状態。 ゾロが怒るのも無理はない。 サンジが言葉に窮していると、それをどう取ったのかゾロはサンジにクルッと背を向けると港側の柵に足を掛ける。 「わっ、ゾ、ゾロ、ちょっと待てって!!」 サンジはゾロのもう片方の足に形振り構わずしがみ付く。 ギョッとしてサンジを振り向き見下ろすゾロに、サンジはヘヘッと作り笑いを浮かべる。 「・・・・・・ちょっとあってよ。す、すぐ帰ると思うから。だから・・・・・・。」 「・・・・・・・・・わかった。」 渋々ながらも柵から足を下ろすゾロにホッとしながら、サンジはゾロもお茶に誘う。 眉間の皺がとれないながらも自分に続いてラウンジに向かってくれるゾロに、サンジはホッと安堵の息を付いた。 サンジはゾロが好きだった。 寝てる姿を見れば、自分を見て欲しくて蹴り起こしてしまう位。 無言で食事をされれば、話をして欲しくて突っ掛かってしまう位。 一心不乱に鍛錬していれば、相手にして欲しくて視界に無理やり入ってしまう位。 そりゃもう、必死な位、ゾロのことが好きで好きでたまらなかった。 なのに、肝心のゾロは最近口も聞かないし、目も合わせない。 話もしなければ、喧嘩にも乗ってこない。 唯一の接触は食事時くらいだが、最近は皆と同じ時間にラウンジにゾロが来るし、そうなれば必然ゾロは食べるのが早いか ら最初にラウンジを出て行ってしまう。 2人きりになるなんて、100%有り得ない状況なのだ。 だから、サンジは頼んでみた。 『話がしたい。』と。 せめて、3日後のゾロの誕生日、島を出航後のパーティーでは他の仲間と同じように接することが出来たら。 自分が今のように切羽詰ってなくて、穏やかな気持ちでゾロを見つめることが出来たら。 現在の関係よりは、少しはマシだと思えるから。 それこそ恥を忍んで、天邪鬼な自分を押さえ込んで、誠心誠意お願いしてみた。 例え自分を自分と同じように好きでなくてもいい。 そんなことは百も承知で、ゾロに迷惑なこともわかった上で、玉砕覚悟で告白しようと。 決意したのはいいものの・・・・・・。 (現実ってこんなもの?) サンジはゾロの部屋の前でしばらく呆然としていたものの、ふと思い立って歩き出した。 隣の自分の部屋の前を通り過ぎて階段を降りる。 壁越しに聞こえてくるであろう最中の音声などに耐えられるはずがないから。 誰もいないロビーを抜け、表玄関のガラス戸を押し開ければ、外は秋特有の冷たく細い雨が空から落ちていた。 あの時、ラウンジへゾロを伴って入っていって、マナがゾロへ声を掛けたのだ。 「あなた、もしかしてコウシロウ先生のお弟子さん?」 「あぁ?・・・・・・てめぇ、誰だ?」 ゾロが不機嫌さ全開で話し掛けても臆することなくマナは言った。 昔イーストブルーに行った事があり、世話になったのだと。 マナ曰く、マナの父親は熱心な刀の蒐集家で、4つの海を股に掛け走り回っているそうで。 今、ゾロが手にしている和道一文字をたいそう気に入って譲って欲しいと頼んだが断られたのだと。 どうしても欲しくてもう一度行った時には既にゾロに譲り渡した後だったらしい。 師匠の話にゾロが食いつかぬはずはなく、ゾロとマナで話が弾み、終には 「コイツんち、送りがてら行ってくる。夜には戻る。」 と2人仲良く出て行った。 サンジはにっこり笑って見送るしか手は無く、しゅんと落ち込みながらおやつの後片付けをしたのだ。 そして、ゾロが帰ってくれば、マナはまだ一緒に居た。 「ゾロさんともう少し話がしたくて。」 女の子にそう言われれば、うんと頷くことしかできないサンジ。 夕食後、お酒とマナ用のお茶を用意して見張台へ行く。 結構遅くまで話していたらしく、サンジが気付いたときにはラウンジの電気は消えていた。 翌日もマナは帰らず、見張りを代わるといったサンジに、 「ゾロさんとお話してるから、起きていられるわ。」 とゾロと一緒に見張台へと登るマナ。 起きて、朝食を作り3人で食べて、ウソップと交代して、街へ出て宿を取ればマナも付いてきて。 サンジの部屋のユニットバスがなんらかの故障で使えず、ゾロの部屋へ行けば「駄目だ」とゾロは断ったくせに。 直ぐ後ろに居たマナが自分の部屋のもだと言うと、マナには「仕方ねぇな。」と部屋へ招き入れたゾロ。 その時小声で言われた、サンジに向かってサンジにしか聞こえないほどのマナの台詞。 『邪魔、しないで。』 どっちがだ、とサンジは思ったが口に出来る筈も無く。 『ごめんね』とニッコリ笑って。 ログが溜まるのに後丸1日無い。 明日の昼には、島を出るとナミが言っていた。 もう、時間はないのに・・・・・・ゾロの誕生日まで。 なんでこんなことになったのかわからなくなって、サンジはため息をついた。 そして、構わずホテルの軒先から身を雨の下へ踊らせる。 頬に当たる雨の冷たさが、知らないうちに溢れていた涙の熱さを瞬時に奪い取る。 この冷たい雨が、自分の身体だけじゃ無く涙だけじゃなく、この気持ちも凍えさせてくれればいいのに。 凍らせて、粉々に砕いて拾い上げられない程、バラバラにしてくれたらいいのに。 もう元の形に戻すことなど出来ないように。 玉砕覚悟で告げようとした自分の気持ちは、目指したゾロという壁が突然横からかっさらわれて宙ぶらりんのまま。 自分の存在は、突然現れた商売女でもない女の子よりも劣るのか? 仲間という概念は、気に入らない男を寄せ付けてはくれないのか? サンジは、ただただ雨の中、自分の気持ちを洗い流してもらうかのように立ち尽くした。 どのくらい経ってか、サンジはふと視線を感じてホテルの扉のほうを向く。 そこにはしかめっ面した剣士が立っていた。 「・・・・・・何やってんだ?」 「てめぇこそ、レディほっぽって何してんだ?さっさと戻れ。」 サンジのその返事を聞いて、ムッとしたのかゾロはバシャバシャと音を立ててサンジに近づくと、腕を掴んで中に引っ張ってい く。 サンジは、ゾロのその行動が理解出来なくて唯なされるがままホテルの中へと入っていった。 ゾロは無言でサンジをゾロの部屋の前へ連れて行くと、ドアを開けようとする。 それを見て、ハッとしたサンジは思わずゾロの手を振り払った。 しかし、すぐにゾロがサンジの反対側の腕を捕まえる。 「てめぇっ、何考えてやがる?レディがてめぇ待ってんだろ?オレのことなんかほっとけよ!!」 「馬鹿言え!!そんな形じゃすぐ風邪ひくぞ。風呂入れ!!」 「さっき、てめぇがダメだっつったじゃねぇか!それにマナちゃん、居んだろ!!冗談じゃねぇ!オレにだって、デリカシーっても んがあんだよ!!」 サンジがそう叫んだとき、中から扉が開いてマナが顔を出した。 「サンジさん。」 その顔が寂しそうな顔だったので、サンジは思わず笑って見せた。 「ごめんね、マナちゃん。こいつトウヘンボクでさ。オレすぐよそ行くから。おらっ、離せって!!」 「いいの!!サンジさんっ!ごめんなさいっ!!」 「・・・・・・へ?」 なぜ、マナが謝るのかさっぱりわからずゾロを見れば、ゾロはサンジから目を逸らして頭をポリポリ掻いている。 「とにかく入って。お話はシャワーの後で、ね?」 マナがサンジの手を取り、中へ招き入れる。 サンジの後にゾロが続き、部屋のドアがパタンと閉じた。 サンジがゾロの部屋のバスローブを借りてバスルームから出て行くと、マナはベッドサイドのソファに座り、ゾロは窓を向いて ベッドに腰掛けていた。 「えっと・・・・・・ごめんね、マナちゃん。こんな格好で・・・・・・その、服びしょ濡れでさ。」 言うことも見つからず、サンジが話しかけるとマナが立ち上がってペコッと頭を下げた。 「ごめんなさい、ごめんなさい、サンジさん。」 「え?ええっ??!だ、駄目だよ、マナちゃん。よくわかんないけど頭上げて。ね?」 サンジが俯いたマナの肩に優しく手を載せて促すと、マナがおずおずとサンジを見上げる。 少し目を潤ませて。 それからのマナの話によると、マナには彼が居るらしい。 らしいというのも、マナの彼、レイモンドは筋金の女好きらしくナンパは日常茶飯事。 暇さえあれば、他の女の子に声を掛け、お茶だ、デートだとマナが父親の手伝いで忙しいのをいいことにやりたい放題らし い。 先日襲ってきた男達も、レイモンドが声を掛けたいいとこのお嬢さんの仕業とか。 お茶に一回誘ったきりで声を掛けられなくなった彼女が怒り心頭だそうで。 あんなことは一度や二度ではないと言う。 その事でマナが怒れば、彼は言うのだ。 「僕には君だけだよ、マナ。」と。 確かに、最初唯の女たらしと全く意に介さなかったマナに対し、彼はこれでもかと攻勢を掛けて来たというのだ。 ナンパ相手には二度目はないし、一度断られたら「つれないなー。」などと言ってそれ以来声を掛けないらしいのだ が・・・・・・。 どの女の子にも優しいレイモンドを見ていると、どうにも居ても立っても居られなくなるのは恋する乙女としては仕方の無いこと で。 そこで、偶々救ってくれたサンジがレイモンドと変わらない女好きに見えたので、試してみようと。 唯のナンパ相手にどんな態度を取るのかと。 他の人に興味のある女の子に優しく出来るのかと。 「ごめんなさい、サンジさん。」 「・・・・・・え、いや、その、オレ・・・・・そんなに女好きに見えた?」 「・・・・・・・・・声の掛け方・・・とか。」 マナの返事を聞いてはぁ〜っとため息をつく。 どっと脱力したサンジにマナが慌てて宥めるように話し始める。 「あ、あの、サンジさん。でも、でも、ゾロさんが言ってました。」 「おいっ!」 ゾロがマナの台詞を遮るように声を掛けたが、マナは構わずサンジに言う。 「サンジさんのそれは、病気って言うよりは趣味だって。私が甘いものを見ると食べてみたくなったり、ゾロさんが酒を見ると試 飲してみたくなったりするのと同じで、女の子見ると声掛けたくなるんだって。それに、相手が嫌がる素振りを見せれば無理に 誘ったりしないって。本気の相手には態度が違うって。心根はホント優しいやつだからって。」 「・・・・・・・へ?ゾロが?」 マナの言葉に驚いてゾロを見れば、ゾロはサンジを見ないように天井を睨み付けている。 サンジはゾロが自分を結構見ていてくれることに嬉しくなって、思わず笑いそうになった。 いかんいかんと顔を引き締めて、マナに微笑みかける。 「う〜ん、まぁ、女の子は皆可愛いし、素敵な存在だよ、オレにとってどの子もさ。だから、つい声掛けたり、話が弾んだりする と嬉しいんだけどね。でも、好きなヤツ相手だと違うんだよ。」 サンジはマナに一生懸命話す。 マナが彼の気持ちを信じられるように。 「好きなヤツにはさ、そんな軽く声掛けらんない。いっつもドキドキして、自分を振り向いて欲しくて、言葉なんか見つからなく て。だから、つい喧嘩吹っ掛けたり、心にも無いこといっちゃったり。でも、マナちゃんの彼はさ、マナちゃんだけって言えるん だよね。幸せだなってオレ思うよ。マナちゃん以外には一生懸命にならないってんなら、それが証拠じゃない。ね?そんなに 不安ならさ、聞いてみなよ。自分だけ?って。絶対大丈夫だよ。もし、オレなら本気のヤツにはホント態度変わるから。」 にっこり笑ってサンジが言うと、マナがコクンと頷く。 そして、サンジの頬にチュッとキスをすると、感謝と謝罪の言葉を口にして部屋を出て行った。 サンジがキスされた頬に手をあててボーっと閉まった扉を見ていると、急に視界にゾロの下肢が入ってきた。 顔を上げてゾロを見ると、ゾロがサンジからわずかに視線を外しながら、手を差し出してきた。 「てめぇの部屋の鍵寄越せ。」 「・・・は?」 「んなカッコで外出れねぇだろ。オレがてめぇの部屋行くから寄越せ。」 「・・・・・・・・・。」 嫌われてんのかと思えば、気を使ってくるゾロにサンジは戸惑いを隠せない。 でも、折角訪れた絶好の機会だ。 これを逃したら次は無いと、サンジは覚悟を決める。 「なぁ、ゾロ。話があんだ。聞いてくれるか?」 「・・・・・・・・・すぐ、済ませろ。」 ゾロは仏頂面でそう言うと、サンジが座るベッドサイドの反対側へ回り、背中合わせに座る。 目を合わせないのはサンジにとってもありがたい。 サンジは、思い切って言った。 「オレは、ゾロ、てめぇが好きだ。」 「・・・・・・ふうん。」 気の無い返事に、サンジは自嘲気味に笑う。 気色悪がるわけでもなく、拒絶するわけでもなく、ましてや受け入れるわけでもなく、ただ聞いてるってだけで。 しょうがねぇなと思い、サンジがサイドボードに無造作に掛けられていた上着から鍵を取りゾロを振り向こうとしたその時だっ た。 グイッと腕を引かれ、ベッドに引き倒され、ゾロに上から見下ろされる。 その顔は、必死の一言を物語っていて。 「・・・・・・・・・ゾロ?」 「なんつった、今?!!」 「・・・・・・なに、って・・・・・・。」 「もっかい、言ってくれ!」 肩を強く掴まれて、真剣な目でジッと見つめられて、しかももう一回告白なんぞ本当はこっ恥ずかしいのと心臓がバクバクして るのとで大混乱のサンジだったが。 「え、えっと・・・・・・オレ、ゾロが好きだ。」 ちょっと小さい声でサンジが言うと、ゾロが更に顔を寄せてきて 「そりゃ、キスしてぇとか、SEXしてぇとかって好きか?」 などど、聞いてくる。 「お、おう。・・・・・・ってか、この体制で聞くか?お前・・・・・・。」 もう今にも唇が触れ合いそうな、そんな状況で確認も何もあったもんじゃない。 目を逸らすことも出来ずゾロを見つめるサンジに、ゾロは一瞬目を丸くして破顔一笑した。 そして、サンジの身体を起こし向かい合うように座りなおすと、サンジの背中に手を廻しギュッと抱き締めてきた。 「マジかよ?ってか、いつからだよ?あぁ、クソッ!なんつー時間の無駄遣いしてたんだ、勿体ねぇ。」 「・・・・・・・っと、おい。どーいうことだよ、説明しろ。」 サンジがゾロのその行動に戸惑いながら聞くと、ゾロはサンジの身体を少し離しサンジの額に軽くキスしてから答えた。 話をしなかったのは、自分の気持ちをぶちまけてしまいそうだったからで。 避けてたのは、押し倒しそうになる自分を抑えられなくなっていたからで。 風呂に入れさせなかったのは、風呂上りのサンジなんぞ見たら無理やりにでも犯してしまいそうだったからで。 唖然とゾロを見つめるサンジに、ゾロがサンジに向けたことの無い極上の笑顔で言う。 「もう、我慢しねぇでいいんだろ?てめぇもオレのこと好きなんだよな?」 「・・・・・・我慢つーか・・・・・・んじゃ、なんかあるだろ?」 「あ?」 「ほれ、なんかオレに言うこと、あるだろ?」 ゾロは眉間に皺を寄せて、う〜んと唸りながら首を傾げる。 先程のゾロの言葉を考えれば、別になだれ込んでも構わないのだけれども。 やっぱり、ここは一つ、決定的な一言が欲しいわけで。 だからサンジはもう一度、ほれと返事を促してみる。 「・・・・・・・・抱きてぇ。」 「お前・・・・・・・・・そういう即物的なことじゃなくて・・・・・・。」 「てめぇ見てっと、堪らなくなる。」 「・・・・・・そりゃ、その・・・・・・じゃなくて。・・・じゃ、なんでそう思うんだよ?」 サンジの言葉にゾロがあん?とまた首を傾げ、おっ!と思い付いたようにポンと手を打った。 そして、サンジの肩を掴み顔を覗きこんで口を開く。 サンジは固まりつつもその言葉を待つ。 「オレは、てめぇをこの先もずっとオレの傍に置いておきてぇ。」 「っ?!!!」 好きだとか、愛してるとか、そんなのすっ飛ばしていきなりプロポーズめいた事を言われてサンジは思いっきり硬直した。 それから、グッタリと脱力してゾロの首に手を廻して抱きつく。 「んで、抱いていいのか?」 そんなことを聞いてくるゾロが、もう堪らなく愛しくなってサンジは肩口で 「おう。好きにしやがれ。」 と返した。 押し倒されて、激しい口付けの後首筋に軽く噛み付かれながら、サンジは壁に掛けられた時計を見る。 そして、バスローブ姿の自分の胸元に唇を寄せる緑の頭を撫でながら言った。 「誕生日おめでとよ、クソダーリン。」 誰にも邪魔されずに漸く迎えた、ゾロの誕生日。 一番最初に祝いの言葉を掛けることができたサンジが幸せなのか、思わぬサンジと言うプレゼントを貰えたゾロが幸せなの か。 それは、どちらにも判断できないほど濃密で満ち足りた時間で。 その後。 出航直前まで抱き合ってた2人が、買出しを忘れてナミにどやされ、慌てて市場に向かったり。 戻った二人を乗せてGM号が港を出る時、彼氏を連れて見送りに来たマナの晴れやかな顔を見てほっとしたり。 その彼氏が結構ゾロに似てて、サンジが大笑いする傍らでゾロが仏頂面してみたり。 夕食でゾロの誕生パーティーをした後、寝入るクルーを横目に格納庫に2人しけ込んでみたり。 そんなこんなで過ぎていくそれぞれの時間の中で。 誰も邪魔しないで・・・・・・これから紡いでいく『2人の時間』を。 END |
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雨の中、ゾロを想って泣くサンジv
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