魔獣接近注意報発令




今、オレは危機的状況に立たされている。


事の発端は、昼食の後片付けも終わりおやつの準備にはまだ早い時間だった。
倉庫で食材の在庫チェック中に誤って小麦粉を頭から被ってしまい、仕方なく風呂に入ったのだが。
出てきたところで、ばったりゾロに出くわした。
勿論、服は上下完璧に着こなしていたし、髪もちゃんと乾かしてきた。
それなのに・・・・・・。
「・・・・・・・・・ぇ。」
「は?」
ゾロの言葉が聞き取れず、つい聞き返した。
「喰いてぇ。」
「は?」
今度は意味がわからない。
「さっき、メシ喰ったばっかだろうが。足りなかったか?」
いや、そんな筈は無い。
山盛りの親子丼を3杯もぺろりと平らげていたはずだ。
「違ぇ。」
やっぱり。
「んじゃ、なんだ?」
そこで、止めときゃよかった。
あとで、死ぬほど後悔することになるとも知らず、問い質したオレがアホだった。


「てめぇが喰いたい。」
「は?」


たっぷり3分間は沈黙が続いたと思う。


いま、なんつった?
喰いたいって、オレは食べもんじゃねぇし。
それって、純粋に食べるってことじゃねぇわなぁ・・・。


オレが我に返る前にゾロが動いた。
オレとゾロの間は、3メートル位か。
あと少しでゾロの手がオレを掴む前に、オレはなんとか正気を取り戻した。


それって、オレを堀りてぇってことかぁ?!!!


「ぎゃあああああああっ!!!!」


それこそ、身も蓋も無い叫び声を上げてオレは倉庫を飛び出した。
とにかく、逃げなければ。
貞操を、ってオレは男だからそうは言わねぇか、オレのバックバージンを守らなければ。
そこで目に付いたクルーに助けを求めた。



まずは、格納庫で新しい武器を作成していたウソップ。
オレの必死の形相見て、
「お、サンジ、どうした?」
心配してくれるなんて、てめぇはやっぱいいヤツだな。
オレに遅れて入ってきたゾロから見えないように、ウソップの陰に隠れた。
「・・・・・・ウソップ。」
ゾロの低い声が庫内に響く。
「ゾ、ゾゾゾ、ゾロ、な、なんだ?」
ウソップがビビりながらも、オレを庇おうと頑張ってくれたが・・・・・・。
「てめぇ、前に言ったよな。」
「あ、あああ、あれ、あれなのか?」
「おう。」
・・・・・・話が見えねぇ。
そしたら、ウソップがオレを振り返り気の毒そうに呟いた。
「悪ぃ、サンジ。オレ、前にゾロに助けてもらった時約束したんだ。だから、ココは諦めてくれ。」
そう言って、オレの身体をゾロに差し出しやがった。
「だあああああ、ウソップ、てめぇーーっ、覚えてやがれっ!!!」
受け取ろうとするゾロを、何とかかわして格納庫を出る。

次は、見張り台にいたチョッパー。
「どしたの?サンジ、顔青いよ?気分でも悪いの?」
チョッパー、てめぇだけが頼りだ。
「助けてくれ、チョッパー。麻酔薬でもなんでもいいから、あいつを・・・・・・。」
オレがそこまで言ったところで顔を出したゾロに、チョッパーの顔も青褪める。
「ど、ど、ど、どうしたの、ゾロ?」
「こないだ、てめぇに相談した件だ。」
・・・・・・また、話が見えねぇ。
そしたら、チョッパーが妙に納得したように頷いて、医者の顔になってオレに話しかけた。
「サンジ、これもゾロの治療の一環だから、我慢してやって。」
そう言って、ニッコリ微笑んでオレの手をゾロに渡そうとしやがった。
「うわああああ、チョッパー、てめぇ、トナカイの丸焼きにしてやるぅぅぅぅっ!!」
紙一重でゾロから逃げ、見張り台を飛び降りる。

今度は、ラウンジでコーヒー片手に寛ぐロビンちゃん。
レディに助けを求めるなんて情けないにも程が在るけど、背に腹は変えられない。
「あら、コックさん、コーヒー頂いてるわ。」
「あぁ、そんなのんびりしてるロビンちゃんも素敵だぁーーー。」
オレがロビンちゃんにメロリンしてる間に、ゾロがラウンジに入ってくる。
「あら、剣士さんまで・・・・・・。あ、そういうこと。」
「まぁ、そういうことだ。」
・・・・・・また、また話が読めねぇ。
そしたら、ロビンちゃんがオレに魅惑的な笑顔を向けて言った。
「コックさん、気付かないのも罪というものよ。それに、貴方自信もね。」
そう言って立ち上がり、オレの頬をするりと撫でてラウンジを出て行っちまった。
「ロ、ロビンちゅわあああん、オレをおいていかないでぇーーーっ!!」
またしても、なんとかオレの行く手を遮ろうとするゾロをかわして、ラウンジを出る。

こうなったらと、女部屋で仕事中のナミさんのところへ。
トントンとそれでも一応気を使ってノックすると、ナミさんがハッチを開けてくれた。
「なんだ、サンジくん、どうしたの?お茶持ってきてくれたわけ・・・・・・じゃないみたいね。」
オレの手元に何も無いことを確認して、ナミさんが訝しげな顔でオレを見た。
そして、その時オレの背後に立ったゾロを見て、はぁんと納得した声を上げた。
「ゾロ、・・・・・・怖がらしてどうすんのよ。」
「オレにはそのつもりは無ぇ。」
「とにかくおやつは諦めるけど、夕飯はルフィが煩いからなんとかしてね。」
「・・・・・・努力する。」
・・・・・・さっぱり、話が読めねぇ。
ナミさんはそこで視線をゾロからオレに移して、ニコッと笑った。
「サンジくん、ま、そういうことだから。」
そう言いながら、オレの身体をクイッと押してハッチを閉じちまった。
「そんな冷たいナミさんも素敵だぁーーーっ!!」
なんて、言ってる場合じゃない。
抱き締めようとするゾロの腹を蹴って、女部屋の前から走る。

最後は、やっぱりコイツしかいねぇ。
船首でメリーさんに跨るルフィの元へ走り寄った。
「お、サンジ、おやつかぁ?」
「ち、ちげーよ。た、た、た、助けてくれーーーーっ!!」
恥も外聞も無く、船長に助けを求める。
もう、息も切れてギリギリ立っているだけのオレに、ルフィが首を傾げる。
「敵か?」
「そ、そうじゃねぇ・・・・・・。」
そこで、漸く来たゾロと目が合ったルフィはすとんとメリーさんから降りる。
「サンジ、ゾロの事か?」
ゾロから目を離さずに、ルフィはオレに聞いてきた。
「お、おう。なんとかしてくれっ!」
オレが懇願すると、ルフィはゾロを睨み付けた。
「ゾロ。」
「ルフィ。」
互いに一歩も譲らず、睨み合いが続く。
「いくら、てめぇでもこれだけは譲れねぇ。」
「・・・・・・ゾロ。」
「おう。」
「サンジはオレが選んだコックだ。幸せに出来んのか?」
・・・・・・え?なんですと?
「当たり前だ。ぜってー、後悔させねぇ。」
「うしっ。・・・・・・・・・サンジ。」
「はい?」
もう、間の抜けた返事しかできねぇ。
「ていう訳だ。幸せんなれ。」
ルフィはそう言ってニカッと笑うと、オレに腕をグルグル巻き付けてゾロに渡しやがった。
今度は流石に逃げられなかった。
「てんめぇーーー、覚えてやがれ、クソゴムっ!しばらく、肉抜きだかんなああああああっ!!!」
オレは叫び声を上げながら、ゾロに抱き抱えられ格納庫へ連れて行かれたのだった。



ま、それからはご想像の通り、オレはゾロに身体中余すところ無く頂かれてしまったわけで。
しかも、当然オレが下で、突っ込まれちまったわけで。
んでもって、またこれがビックリしたことに滅茶苦茶気持ち良かった訳で。
付け加えると、ゾロがオレに「好きだ。」なんて言ってくれちまったわけで。
で、なんというか、それが結構嬉しかったことに気付いたわけで。


おやつは勿論無し、夕飯は軽くスパゲッティになっちまって、ルフィはゾロにブーブー文句言ってた。
でも、他のクルーはオレの顔見て微笑んでたって事は後になって知った。
オレが、足腰辛そうにしながらもいい顔してたらしい。


魔獣はその後も接近してくるが、注意報発令はしない。
接近されるオレの方が待ち望んでたりするからだ。
そして、今はクルー達の間に『ホモカップル接近注意報』が発令されているらしい。




END


ゾロに襲われ掛けて、クルーに助けを求めるサンジv




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