オレの帰る場所




ゾロと喧嘩した。
上陸前夜だったから、それからもう3日、口もきいてなきゃ顔も合わせてねぇ。
そりゃ、そうだ。
アイツが寝入ってる間に船降りてきちまったし。
こんなにアイツと面合わせねぇのは、デキてからは初めてか。
そもそも、喧嘩の原因だっていつものありふれた事で。
ナミさんに対するオレの態度がどうとかなんとか。
でも、大抵はアイツが翌日にはいつもの態度で接してくるから、自然と仲直りしてんだが。
フウッとため息をつく。
この島のログが溜まるのは、4日。
あと1日。
1日目の夜は、まだ怒りが収まらなかった。
2日目の夜は、ベッドの隣が空いてるのに違和感を覚えた。
そして、今日。
「ヤベェなぁ………。」
顔が見たい、とか。
声が聞きたい、とか。


ゾロに、会いてぇ。


アイツは、もうオレに会いたくないのかな。
アイツにとってオレってなんなんだろ?
メシ作ってくれて、身の回りの面倒みてくれて、SEXの相手もしてくれて………。
あれ?
オレって、もしかして都合のいい男?


…………落ち込んできた。


折しも黄昏時で、人の心を淋しくさせるには絶好の雰囲気で。
たまたま目の前にある噴水の脇に座り込む。
煙草を取り出し、フィルターを噛み火を点けて、煙を吸い込む。
フウッと空に向けて吐き出すと、煙と空の赤さが目に染みる。


オレだけかよ、こんなに会いたいのは。
オレだけかよ、こんなに恋しいのは。


俯いて、足元にある石を蹴飛ばそうとした時、ふいにあるメロディーが耳に届く。
『夕陽のトランペット』
この島じゃ、午後6時になると全島放送で流れるらしい。
そうすると、そこかしこで母親が子供に家に帰るよう促す。
仕事を終えた男達が、妻や恋人のところへ帰って行く。
…………オレは、どこに帰ればいいのだろう。


その時だった。
急に曲が止まったかと思うと、雑音と悲鳴と罵声がごちゃ混ぜに聞こえてきた。
――――なんだ?
漸く静かになったと思ったら、大音量で耳に響く声。


「サンジっっっ!!!」


――――なっ?ゾロ?!
スピーカーから聞こえてくる低くドスの効いた声は、間違いなくマリモ頭のだ。


「てめぇ、オレ置いてきぼりにして、どこ行きやがった?」
――――んだとぉ?
「大体てめぇがナミに甘いのがいけねぇんだろが!」
――――まだ、んなこと言ってんのか!
「んな暇あったら、ちったぁオレんとこ来いってんだ!」
――――???
ちょっと様子が変わってきて、サンジの眉間の皺がとれ目を丸くする。
「オレだけかよ、てめぇの側に居てぇのは。」
――――ゾロ?
「オレだけかよ、てめぇを抱きしめてぇのは!」
――――ゾロ。
「オレだけかよ、てめぇが好きでしようがねぇのはっ!」
――――ゾロっ!
「とっとと戻ってきやがれ、アホコック!!!」


衝撃的な台詞に一瞬頭が真っ白になる。
次いで、襲ったのは紛れもない優越感。
――――オレ以上に切羽詰まってんだ、クソ緑。
「ちっ、しょーがねぇなぁ。」
と呟きながらも、顔がニヤけるのを抑えられない。
煙草の火を消してゆっくり歩き始めたつもりが、いつの間にか走ってたりして。
街の人に聞けば、さっきの全島放送は港の灯台でやってるとか。
息を切らして辿り着くと、仏頂面で腕を組んで突っ立っている剣豪を発見。
でも、よくよく見れば耳が赤かったり、目が優しかったり。
対するオレも、睨みつけてる割にゃ口元が綻んじゃったり。
素直じゃねぇよな、お互いによ。

もう、バレバレだっつーの。

「帰ったぜ、クソマリモ。」
「遅ぇんだよ、クソコック。」
そこで、2人してブッと吹き出した。
「「行くか。」」
肩を並べて船に向かう。
時折見つめ合い、笑い合い、肘で小突きあって。


互いに、帰る場所を取り戻したことに安堵しながら。




END


島中に放送されている電波で公然と愛を囁くゾロv




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