忘れ物を届けに




「ふあああぁっ!」
ゾロが大欠伸をしながら目を開けると、いつもと違う船の揺れを感じて辺りを見回す。
船尾左側にある崖が、島に寄港したことを物語る。
ふと腹の上に目をやれば、石を重石に「船番」と書かれたメモが置いてあった。
「………ナミだな。」
ポリポリと頭を掻いて立ち上がりラウンジへと赴く。
扉を開けて水を飲もうとシンクに向かうが、テーブルに置いてあるメモに気付き、手に取る。
「冷蔵庫に入れておく。飲め。」
メモの重石は、いつもゾロに差し出されるレモン水のグラス。
――――毎度、アイツの気配りにゃ頭が下がる。
苦笑しながら、冷蔵庫からそれの入った瓶を取り出し、ラッパ飲みする。
――――アイツが居たら、蹴りの1つもとんでくるな。
その時、ふとテーブル端に置いてあるサングラスに気付いた。
昨夜の会話を思い出す。


「明日着く島は、夏島だってなぁ。」
サンジがふうっと煙草の煙を吐きながら、ポツンと呟いた。
「………あぁ。」
事後、2人マッパで毛布にくるまりながら、ゾロは仰向けにサンジはうつ伏せに格納庫の床に寝転がっていた。
「オレ、眩しいの苦手なんだよ。サングラス、探さねぇとな。」
ボソッとサンジが呟いた。


――――アイツ、忘れてったのか?
珍しいこともあるものだ。
大抵、サンジは準備万端で物事をこなしている。
買い出しも、日々の仕事も、SEXも。
忘れ物なんてしたの、見たことがない。
メモ作ったり、下準備したり、風呂で念入りに洗ったり。
――――昨日、ムリさせすぎたか………。
最後にゃ、「あ、………ゾ……ロ、も…………限界っ!!」とかって、イった後気失っちまったし。
――――しゃーねぇ、届けてやっか。
甲板からウソップが戻ってくるのが見えて、ゾロは船を飛び降りた。




「………で、なんでこんな時間なワケ?」
目の前のコックの顔が半分呆れ、半分笑っている。


サングラスが必要な時間帯には程遠い、日没1時間後ってところか。
確かに、午前10時頃には船を出たのだ。
ウソップに道も聞いたし、サンジが市場に行くことも分かっていた。
自分としては、市場に向かっていたのだが、気付いたら山中、とって返したら島の反対側の海、人に道聞いたら元のGM号。
ウソップに呆れられながら案内してもらって遂にサンジを見つけたのは、辺りを暗闇が覆っている今というワケで………。
船に戻ると走っていくウソップの背に礼を言い、ゾロはサングラスをサンジに渡して先程の台詞だ。


「お前、眩しくなかったか?」
ゾロが問うと、サンジは目を見開いてそれからフッと笑った。
そして、スーツの胸ポケットから黄色のサングラスを取り出す。
「そんなに日差しキツくなかったからよ、軽いのにしたってワケ。」
「なんだ、………ならいい、じゃあな。」
少しバツが悪くて、その場を立ち去ろうと踵を返したゾロの腕をサンジが掴んだ。
「あ?」
「わざわざ持って来てくれたんだろ?礼くらい受け取れよ。」
そう言うや否や、サンジは掴んだゾロの腕をグイッと引くと、ゾロの唇に自分のそれを合わせた。
「―――っ!サンジ、てめぇっ?!」
往来のド真ん中、いつもなら絶対しないことをサンジに仕掛けられて、ゾロは動転する。
「メシ作ってやるよ。船戻ろうぜ。」
満面の笑顔で手を差し伸べるサンジに、一瞬見惚れながらも
「………あぁ。」
と返して、ゾロはその手を取る。


ふっとあることに気付いてゾロは苦笑する。
じゃなきゃ、あんなあからさまにわざとらしく置いておかないだろう。
「遅くなって悪かったな。」
ゾロがサンジの手を握り締めて言えば、
「期待してねぇよ、万年迷子ゾロ。」
と、それでも嬉しそうにサンジは笑った。


――――忘れ物はサングラスじゃなくて、オレだったのかもな。



END


ゾロに迎えに来て欲しくて、態と忘れ物をするサンジv




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