暇つぶしにご用心




ほんっとに船の上って暇。
始めの内こそ、人間離れしたクルー達に度肝を抜かれたし、日々驚きの連続だったけど。


だって船長からして、ゴム人間のルフィ。
やることなすこと半端じゃない。

ゾロは世界一目指すだけあって、生命力が桁外れ。
全治2年の傷が寝て治るなんて化け物でしょ。

唯一まともなウソップだって、まともな会話できないし。
ていうか行動も作った物も冗談でしょ、あんたって感じ。

最近仲間入りしたサンジ君も、あの女好きは病気よね。
どっかで頭見てもらったらってマジで思うわ。


ま、そんな訳で、今じゃ、ホント慣れたもんよ。
ちょっとやそっとのことじゃ、びくともしなくなっちゃった。


で、見つけた暇つぶしの材料。
それが、これ。


「てめぇっ!今日こそカタ付けてやる、クソコック!!!」
「てめぇこそ覚悟しやがれ、マリモ野郎!!!絶対ぇ、オロしてやるっ!!」


よく毎日飽きないわよねぇ。
確かに、繰り出されるワザも日々進化してるし、吐き出される悪口もよくもまあ考えつくわって思う位新しくなってるけど。
だから、けしかけるの、止められないのよねぇ。


でも、いくら喧嘩早い彼らでも、そうそう毎日じゃない。
だから、穏やかでなーんにもないこんな昼下がりは、

ちょっかいだすに決まってんでしょ!

船首に置いてもらったデッキチェアから体を起こし、ラウンジに向かう。
ちょっかい出すのは、大抵サンジ君。
だってゾロは暇さえあれば寝てるか、鍛錬でしょ。
寝てるの起こしてまでするのも面倒くさいし、鍛錬中は人の話聞きゃしない。
サンジ君なら、私の話手を休めてでも聞いてくれるもんね。


「サンジくーん、何か飲み物もらえる?」
声を掛けながらラウンジに入れば、
「んナミさーん、ちょうど良かった。アイスピーチティーいれたとこだよ。どうぞ。」
ニッコリ笑って答えてくれる。
さぁ、何をネタにしようかしら?
イスに座って待っていると、ピーチティーと一緒にお手製クッキーを出してくれた。
至れり尽くせりね、サンジ君。
でも、私の暇つぶしにちょっと付き合ってね。


「あぁ、そうそう、サンジ君。」
「何?ナミさん。」
みんなの分を用意しているサンジ君に、ちょいちょいと手招きする。
サンジ君は、キッチンに一番近いイスに座る。
笑みを絶やさずに。
「昨日出た島で見た?」
「え?何をですか?」
少しタメを作って興味を持たせなくちゃね。
「女の子に抱き付かれてたのよ、ゾロ。」
「…………え?」
反応がいつもより遅いのは、気のせいかしら?
「普段、女には興味ないって感じなのにねぇ。ちょっと生意気じゃない?ラブコックとして許せる?サンジ君。」
「へ、へぇ。…………あいつもそりゃ男だから、当然ですよ、ナミさん。」
あれ?
ここは、「植物の分際でレディに手ぇ出しやがって。」とか言って怒るんじゃないの?
いつもなら、どんなくだらないことでも「あんの、クソマリモっ!」って飛び出してくのに。
何がダメだったのかしら?
「サンジ君?」
「え?あぁっと、これ、ルフィとウソップに渡してきます。席外してもいいかな、ナミさん。」
「え、えぇ。」
サンジ君はニッコリ笑ってラウンジを出て行ったけど、なんか引っかかる。
様子、見に行こっと。


サンジ君は、ちょうど甲板にいるルフィ達におやつのトレイを渡したとこだった。
戻ってくるかとラウンジの外、階段の反対側に身を隠すと、船尾へと歩いて行く。
くわえた煙草に火を点けながら。
船尾といえば、ゾロの昼寝場の定番。
やっぱり行くんじゃない。
仕方ないからルフィを呼んで、ミカン畑に上げてもらった。
物音少しでもたてたら、肉無しの条件で。
匍匐前進でそうっと覗き込むと、サンジ君がラウンジの壁にもたれて寝ているゾロの前に立ってるのが見えた。
でも、いつもみたいに蹴りを繰り出す寸前の雰囲気じゃないわ。
なんか、こう、物悲しそうな感じ…………って、なんで?
考えてたら、サンジ君の声が聞こえた。
「………てめぇだって男だもんなぁ。」
って。
んん?
「女のがいいよな、やっぱよ。」
???
どういう意味?
そしたらサンジ君しゃがみこんで、ゾロの顔の横に手をついて、こう言ったの。
「これで終わりにしてやるよ、クソ剣豪。」
んで、顔をゾロの寝顔に近付けて、首を少し傾けて…………。

えぇっ?これって、キス?キスよねぇっ?!!

表向き静かに、でも内面はハリケーン並にパニックになった私に、更に追い討ちがかかった。
離れようとしたサンジ君の腕をゾロがグッと掴んで言ったの。
「何が終わりだ?」
「………てめぇ、起きてたのか。」
「女のがいいってな、どういう意味だ?」
「………そうなんだろ?」
「なんでそうなる?」
「……………。」
そこで、ゾロが溜め息ついて、サンジ君の体を抱きしめたのよ。
んで、髪なんか梳いちゃったりして。
あんた、キャラ変わってるわよ。
「てめぇはいい加減、オレを信用しやがれ。」
「………………。」
「オレにはてめぇしかいねぇよ。」
「………だって、てめぇ女に抱き付かれてたって。」
「あぁ?」
「前の島で。」
ゾロは、サンジ君抱きしめながら少し考えたみたい。
「女?」
「あぁ。」
「……………お、あれか。3歳のガキか。」
「は?」
「出会い頭にオレとぶつかったガキ起こしてやったら、お礼のハグだとよ。マセたガキだよな。」
「……………。」
サンジ君、声も出ないみたい。
「妬いて勝手に判断する前に、きちっと聞け。それとな。」
そこでゾロがサンジ君の頭をガシッと掴んで…………。

ディープキス、まさかゾロとサンジ君のが見られるとはねぇ。

もうサンジ君の顔、とろけてるわね、あれは。
「てめぇに惚れ抜いてんだ、オレぁ。他には視線どころか意識も向かねぇよ。」
「…………ゾロ。」
「サンジ、愛してんぜ。」
「クソッ、…………オレもだよ。」
あー、顔ゾロの肩に乗せてスリスリしてるし。
ゾロは腰撫でてるし。
その手、ハッキリ言ってヤラシイわよ、マジで。
いや、もー流石に解って顔を引っ込めようとしたその時、
ゾロが視線をこっちに向けて、

あろうことか、ニッと不適に笑ったのよ!!!

「ナミ、解ったならコイツにくだらんちょっかい出すんじゃねぇぞ。」
しかも釘まで指すなんて、あんた誰に喧嘩売ってんの?
あ、サンジ君こっち見て固まってるし。
「そうだぞ、ナミ。」
えっ、ルフィ?
いつの間に後ろに居たのよ?
ていうか、なんで知ってんの?
「ま、知らなかったのも無理ねぇよ。サンジ、ナミには必死に隠してたからよ。」
なによ、ウソップまで。

私1人知らなかったッてこと?!!

ようやく我に返ったサンジ君は真っ赤になってゾロと喧嘩の真っ最中。
「てめぇ、ナミさんいたの知ってたのかよっ!!」
「気付かないてめぇが悪ぃんだろが!!」
「ナミさんにバレちまったのは、てめぇのせいだぁ、んのエロマリモ。」
「エロいのはてめぇだろ、アホコック。」
どう見ても、これって痴話喧嘩よねぇ。
私今まで、バカップルの交流時間作ってただけなの?
……………くやしーーーーっ!!!!!


こうなったら、暇つぶしの手段変えるわ。
ホモカップルの生態研究に決定!!
ルフィ、ウソップ、あんた達も私1人ハバにしたお詫びに協力しなさい!!
それからゾロ、覚えてらっしゃい!
絶対、サンジ君のお色気写真撮って、高額で売りつけてやる!!!!


フッフッフと笑うナミの笑顔を見て、ルフィとウソップが「魔女だ………。」と青褪めたとか。



END


ナミが見てるのを知っててサンジにキスするゾロv




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